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副業にも「嫁ブロック」夫の自由とはどこまでか

5月18日(土)5時20分配信 東洋経済オンライン

家族からは、生活を優先してほしいと副業を認めてもらえない。夫は家族のために「やりたいこと」を我慢するべきなのだろうか(写真:Taka/PIXTA)  
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家族からは、生活を優先してほしいと副業を認めてもらえない。夫は家族のために「やりたいこと」を我慢するべきなのだろうか(写真:Taka/PIXTA)  
女性の育児や仕事など、女性の問題ばかりが取り上げられるこのご時世。しかし、男だって「男ならでは」の問題を抱えて生きづらさを感じています。男が悩むのは“女々しい”!?  そんなことはありません。男性学研究の精鋭、田中俊之先生がお答えします。
※田中先生へのご相談はこちらの投稿フォームへ

■今回の相談
転職して都会から少し郊外に移住しました。今後、副業も始めたいと思っています。でも、副業は家計に大きな影響を与える問題なので、さまざまな抵抗を受けます。男だというだけで、自由な働き方をするのが許されません。
妻や子どもだけではなく、妻の両親からも、家庭を持った以上は家族の生活を優先して考えるべきだと言われます。とにかく給料が減るのは許さないと強く主張されるので、自分の希望が間違っているような気がしてしまいます。
そこで相談したのですが、男が自分の「やりたいこと」をするのに、家族からのバックアップを期待してはいけないのでしょうか。ぜひおうかがいしたいです。

■家族には理解されにくい副業

 まずは落ち着いてください。
 東京では都市部にあるオフィスの近くに住もうとすると、コストが高く、その割に広さを含めて環境としてはあまり恵まれていません。だから、結婚したり、子どもができたりすると手狭になって、郊外へと引っ越すことになります。

 その際に直面する問題の1つは、長時間におよぶ満員電車での通勤です。都市では満員電車が「普通」になってしまっていますが、どう考えても「異常」な混雑です。

 この問題について、社会学者の加藤秀俊先生は、1976年に出版された『空間の社会学』の中で、18世紀における奴隷船と都市の満員電車の密度が同程度であると指摘し、次のように述べています。
サラリーマン生活が30年つづくということは、結局のところ、日本の平均的サラリーマンは合計15000時間ほどを奴隷船なみの高密度空間ですごしている勘定になる。かりに奴隷船の航海が10週間を要したとしても、それは時間数になおして1700時間ほどであるから、日本のサラリーマンは、その生涯をつうじて奴隷船に10回乗っているのだ、とかんがえてもよい。
 1980年あたりまでは、官民問わずおおむね55歳ぐらいに退職するケースがほとんどでしたので、電車に乗る期間が30年と想定されているわけです。しかし、今日では65歳ぐらいまで働く人も少なくなく、そうすると40年を超えてきます。
 さらに言えば、「生涯100年時代」というキャッチフレーズにのって、働けるかぎりは働こうとする声も大きくなっています。都市部にある会社で働き、郊外に住む人々にとって「奴隷船乗り放題時代」の到来と言えるでしょう。

 社会学者の重要な仕事の1つに、気の利いた皮肉を言うことがあります。社会で自明視されている〈現実〉に、多様な側面があることを見せるためです。

 この場合であれば、満員電車の「異常さ」に気づいてもらうことが目的であり、決して日々まじめに働く人々をコケにしたいわけではありません。残念ながら、こうした気の利いた皮肉に対して、「バカにしているのか!」と反射的に怒ったり、否定したり人が少なくないのが現状です。
 満員電車が「異常」であることを認められれば、次は、混雑解消に向けた議論を始められます。しかし、今の「普通」に固執し、「異常」という指摘を受け入れられなければ、満員電車はいつまでも「奴隷船並み」の密度で運行され続けるわけです。

 相談者さんの話に戻すと、東京一極集中による満員電車の問題は、郊外に暮らし、そこに仕事もあれば個人レベルでは解決できます。きっと生活にも余裕がでてくるはずです。その点で相談者さんはとても恵まれています。
 本業の勤務時間、もしくは残業を減らして副業をすれば、収入自体が減る可能性があり、 それで家族は心配されているのかと想像しますが、単に本業の収入の面だけではなく、従来の「普通」の男性の働き方とは大きく異なることも、不安の理由としてあることでしょう。

 日本は「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業を前提として回る社会です。キャリアの継続に際して、女性が結婚、妊娠、そして出産と次々に「壁」にぶつかるのに対して、男性は定年退職するまで働き続けるのが「普通」です。
 1973年までの高度成長期は、サラリーマンと主婦の組み合わせが主流でしたが、1991年までの安定成長期は、男性だけの稼ぎでは食べていけなくなり、パートをする女性が増えました。そして、バブル崩壊以降から今日に至るまでの低成長期には、男性の給料がさらに低くなったので、結婚後もフルタイムで働く女性が多くなっています。

■働き方にとらわれず自分の希望を伝えて話し合うべき

 どの時代でも共通して既婚の男性に期待されているのは、定年までの間は絶対に働き続けることです。共働きは増えていますが、男女間ではフルタイムでさえ10:7程度の賃金格差があるので、経済的な大黒柱が途中で仕事を投げ出してしまえば、現代でも家族全体が生活できなくなってしまいます。職業の領域における女性差別が、男性の生き方をも大きく制限していることがわかります。
 住まいの問題と同様に、性別役割分業を前提とした社会が変わらなくても、奥様に家族の生活を支えられる水準の安定した収入があれば、個々の家庭レベルでは男性に課せられた「普通」の働き方にとらわれる必要はなく、相談者さんが副業にチャレンジすることも可能です。

 もしそうであれば、家族や奥様のご両親に反対されても、しっかり自分の希望を伝えて、話し合うべきです。ただし、大黒柱を交代できるだけの経済力が奥様にない場合、女性差別という社会問題の結果なわけですから、それを責めるのは酷だと言えます。お互いに歩み寄りが必要です。
 日本の企業が男性に求めてきたのは、1日8時間、週40時間は「最低限」で、それ以上が「普通」という働き方です。「最低限」に抵触してしまうため、有休さえ取りづらい雰囲気があります。

 男性の育児休業取得率は過去最高となった2017年度でも5.14%にすぎないことからもわかるように、どのような理由であっても、長期間にわたって職場を離れることはできません。だから、副業も認められにくいわけです。

 以前、社会学者の宮台真司先生がハロプロ関係のアイドルと舞台のイベントをやった際に、壇上から「地方公務員の方は手を挙げて」というと会場の半分以上が挙手したそうです。すべての地方公務員に当てはまるわけではありませんが、傾向として9時5時で働いて、土日は確実に休めるから趣味に没頭できると宮台先生は解説しています。
 今、副業を検討されているということは、転職された会社では副業自体は可能なわけですから、1日8時間、週40時間が「最低限」ということはないはずです。アイドルを応援する地方公務員の方々のように、まずは業務以外の時間を使って副業をしてみてはいかがでしょうか。

■「やりたいこと」を実現させるには

 基本的に、どの仕事でも時間を増やせば成果は上がりますし、時間が減ればその分だけ成果は落ちます。そのため、「やりたいこと」をするという相談者さんの目的からすると、副業により多くの時間を割きたい気持ちは十分に理解できます。でも、安定した一定の収入を確保することで、家族は安心できるはずです。
 今後、副業の割合を増やしたいのであれば、制限があるからといって諦めてしまうのではなく、とにかく相談者さんが自分の「やりたいこと」を継続することです。それと同時に、どのような家族を作っていきたいかを視野に入れておいてください。

 相談者さんが仕事にも副業にも真剣に打ち込んでいる姿を見ていれば、家族が持っている「普通」の男性のイメージも変わってきます。

 男が1つの会社で定年まで働くことだけが〈現実〉ではないと理解できるようになれば、そこに自分たちなりの家族スタイルを作る余地が生まれてくるはずです。このときに、相談者さんなりのビジョンがなければ、副業への挑戦は自分が「やりたいこと」を優先して、家族を不安にさせるだけのわがままな行動になってしまいます。
田中 俊之 :大正大学心理社会学部准教授

最終更新:5月18日(土)5時20分

東洋経済オンライン

 

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