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「ネガティブな数字」には妙な説得力がある理由

5月16日(木)6時10分配信 東洋経済オンライン

人は自分が得するより、損することに対して過剰に反応するようです。それを用いた数字的な会話術とは?(写真:kou/PIXTA)
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人は自分が得するより、損することに対して過剰に反応するようです。それを用いた数字的な会話術とは?(写真:kou/PIXTA)
「会話の中に数字を効果的に用いることで、伝わり方は大きく違ってくる」。そう主張するのは、新刊『数字で話せ』を著した経営コンサルタントの斎藤広達氏。しかも、伝える際にある工夫をすることで、さらに効果は倍増するという。

■人は「1%の危険」でも強く反応してしまう

 「この手術の死亡率は1%です」

 「この手術は99%の確率で命に別状ありません」

 あなたが患者だったら、どちらの手術を受けたいでしょうか。おそらく、誰もが後者を選ぶでしょう。ただ、おわかりのとおり、どちらも言っていることは同じで、別の表現をしているにすぎません。にもかかわらず、印象はこれだけ違ってくるのです。
 これは、経済学や心理学で「プロスペクト理論」と呼ばれるものです。人は、自分が得をすることより、損をすることに過剰に反応する、というもの。つまり、1万円もらえることよりも、1万円を失うことのほうが、心理的に大きなインパクトを与えるのです。これはおそらく、重大なリスクをなるべく回避することで生存してきた、人類の本能的な知恵なのでしょう。

 このプロスペクト理論を図にすると、次のようになります。

 利得とポジティブな反応のほうは規則的な曲線を描いていますが、損失とネガティブな反応のほうは、損失側に入ってすぐのところでグラフが急下降しています。いわば「プロスペクトの崖」です。
 これが何を意味するかと言えば、ほんの少しの損でもネガティブな反応が強く起こる、ということ。「1万円得する」よりも「1万円損する」のほうが、反応が強くなるというのは、まさにそのためです。

 このプロスペクト理論を応用すると、伝え方はどのように変わってくるでしょうか。例えば、あなたの会社がこのような宣伝トークで製品を売っているとします。

 「この製品を導入すると、年間100万円コストが浮くことになります」。これが悪いわけではありませんが、プロスペクト理論を用いれば、このような表現になります。「この製品を導入しないと、年間100万円ずつ無駄なコストを払い続けることになります」。いかがでしょうか。後者のほうが「何か行動を起こさねば」という思いを喚起させられたのではないでしょうか。
■「確率」より「整数」のほうが伝わる

 いくら数字に強くても、その「伝え方」を誤ってしまえば数字で話す力は半減してしまいます。そこで、ここからはこうした伝え方のコツを紹介したいと思うのですが、1つ、最初に申し上げておきたいことがあります。

 それは、この手法を「悪用」しないでほしい、ということです。

 実際、世の中には数字を悪用する事例に事欠きません。典型的なのは迷惑メール。身に覚えのないサイトから「会員登録が完了したので、30万円をお支払い下さい。さもなくば解約金10万円を今すぐお支払い下さい」などというメールが突然届く。これなどはまさに「損をしたくない」という思いを巧みに突いた、プロスペクト理論の悪用です。
 数字で伝えることは大事ですが、「数字で人をだます」ようなことは決してしてはならない。それだけは、ぜひ覚えておいてください。

 さて、確率、つまり「%」は、人間にとってあまり理解しやすいものではありません。人は「整数」のほうがすっと頭に入ってくるのです。具体的には、「30%」よりも「10回に3回」といった表現のほうが理解しやすい、ということです。より「自分事」として伝わるのです。さらに言えば、同じ30%を言い換える際にも、「100回に30回」「50回に15回」「10回に3回」などと、いろいろな伝え方が考えられます。
 どの伝え方をすればいいのか、相手の気持ちになって選ぶ必要が出てきます。もし、あなたが営業部長で、訪問数を増やすことの重要性を部下に伝える場合、「100回訪問すれば、30回は次のステップに進める」と言うよりも、「10回訪問すれば、3回は次のステップに進める」のほうが、より手触り感のある数字で伝わりやすそうです。また、前者の伝え方をすると、「100回も訪問するのか」と、数の大きさに気分が萎えてしまうという問題もありそうです。
 一方、ウェブマーケティングで数十万人の顧客へのリーチを図る際には、「クリック率は10回に1回ほどを想定しています」より「50万人へリーチし5万回のクリックを想定しています」と伝えたほうが、ボリューム感がリアルに伝わるでしょう。

■会話の最後に「プラスワン」の情報を足す

より「手触り感のある数字」に置き換えたほうが伝わるというのは、「@変換」――すなわち、すべてを「1個当たり」「1人当たり」に換算することです(詳しくは、「数字が如実に語るゾゾとメルカリ『本当の実力』」を参照)こうした数字を活用する際の1つのコツがあります。それは、「会話の最後に、プラスワンの情報としてつけ加えること」。とくに営業のクロージングの際などに効果を発揮します。
 例えば、「年間1000万円のコスト削減効果のある製品」のクロージングの際、@変換を使い「社員1人当たり20万円のコストが浮くわけですね」と瞬時に計算して伝える。すると、担当者の中で具体的なイメージが浮かび、最後の一押しになる可能性があります。あるいは、他社事例を用いるのも手。「B社さんでは5000万円のコストダウンに成功しました」と伝えることも有効でしょう。

 相手に対してどんな表現が響くのかは、その人の持つ問題意識によって変わります。例えば離職率の上昇に悩んでいる人事担当者なら「社員満足につながる数字」が響くでしょうし、シェア拡大を目指す事業責任者なら「売り上げや露出がいかに高まるか」という数字に敏感になっているでしょう。
 商談の中で相手の問題意識を探り出し、それに合った数字を用意して、ぶつける。それが相手を説得する「最後の一押し」になるはずです。
斎藤 広達 :経営コンサルタント

最終更新:5月16日(木)6時10分

東洋経済オンライン

 

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