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日銀の最重要課題は「不透明性」の払拭

4月26日(金)15時40分配信 ダイヤモンド・オンライン

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● 「追加緩和」を明言せず 金融政策決定会合で見えたこと

 日本銀行は、4月24-25日の金融政策決定会合で、政策金利に関するフォワードガイダンス(見通し)を、従来の「当分の間」というあいまいな表現から、「当分の間、少なくとも2020年春ごろまで」と時期を明確化し、「現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」とした。また金融機関が日銀から与信を受ける際に差し入れる担保について、これまでA格付け以上だった基準を下げ、BBB格までと条件を緩和している。

 しかし、日銀はこれらの措置を「追加緩和」と位置付けていないようだ。会合後に行われた記者会見の中で黒田東彦総裁は、「追加緩和か?」という記者からの質問に対し、はっきりと是非を答えず、「今回の措置は現行の金融緩和の継続、明確化」と、事前に準備された回答を読み上げた。

 今回発表された内容は、厳密には追加的な緩和に当たると考えられるが、市場への効果も薄く、日銀は形だけの追加緩和を発表しているという批判を避けたかったのだろう。以下では、今回発表された政策決定文と総裁記者会見の中で得られた知見を述べたのち、当面の金融政策を考える上での注目点、また中期的な金融政策の課題について整理する。

 フォワードガイダンスが、「2020年の春まで」と明確化されたことの意義は薄い。日銀は今回発表した展望レポートの中で、2021年度の物価上昇率見通しを初めて発表したが、前年比1.6%と物価目標の2%を下回っている。

 また、日銀政策委員会委員それぞれの見通しに対する上振れリスク(△)、下振れリスク(▼)評価を示したドットチャートを見ても、9人の委員のうち5名が下振れリスクがあると表明し、上振れリスクがあるとした委員はゼロだった。1.6%の見通しが上振れて2%に達する可能性はわずかと、日銀自身が考えていることになる。

 このような状況下で2020年の春まで利上げはないというガイダンスは、自明なことを言っているだけと受け止められるだろう。今回のフォワードガイダンスの明確化に強いて意義を見出すとすれば、「当分の間」が少なくとも1年程度を意味すると総裁が記者会見で示唆したことだ。将来、利上げの可能性が浮上したとき、「当分の間」は少なくとも1年と理解することができるからだ。
● 物価目標達成の困難さがより明確に 黒田総裁が浮かべた「苦笑い」の意味

 記者会見では、黒田総裁の任期中に2%目標を達成できるかについて、記者から質問があった。黒田総裁は「任期と関連付けて考えるべきものではない」とした上で、「達成されるものと信じている」と述べたが、「信じている」と発言したときには苦笑いを浮かべており、「信じている」という発言が本心ではないことを記者に示してしまっている。

 確かに、金融政策は黒田総裁の任期とは関係なく決定されるべきものだが、記者会見を見ていると、黒田総裁自身から物価目標2%達成への決意は感じられなかった。

 日銀は今回の声明文にて、「景気は拡大基調」「物価上昇率は高まっていく」という従来からの認識を変えていない。今後の注目点は、この景況感を変えざるを得ない実体経済の変調や、金融市場の不安定化が進行するかどうかだ。

● 当面の注目は1-3月期GDP マイナス転落なら日銀はどう動く?

 4月18日に自民党の荻生田幹事長代行が、消費税増税延期の判断材料として言及したことで6月の日銀短観の重要性が高まったが、これは7月1日まで発表されない。目先の注目は、5月20日に発表される2019年1-3月期の実質GDP成長率がマイナスに転落するかどうかだろう。月次指標では、連休明けの5月8日に日銀が発表する3月の消費活動指数が注目される。日銀は、「外需が弱い一方で内需は堅調」と認識しているようだが、内需の根幹である消費に変調が見られた場合、その景況感に大きく影響するだろう。

 仮に日銀が景況感を大きく下方修正する場合、日銀はどのような政策対応をできるだろうか。景況感の悪化が株価の大幅下落を伴った場合、株、ETF、J-REITの買い入れ増額が自然な対応手段だろう。

 より難しいのは政策金利だ。現在の枠組みでマイナス金利を深堀りすると、金融機関が日銀に保有する当座預金残高へのマイナス金利の適用が拡大してしまう。また長期金利目標が引き下げられると、ただでさえ収益性の低い地域金融機関がさらに圧迫される。このため、政策金利を通じた金融緩和は、日銀自身がマイナス金利での資金供給に踏み込めるかが鍵となる。
 日銀は現在、成長基盤強化を支援する資金供給として、0%で資金供給を行っている。日銀貸出をマイナス金利で実施することには法的な制約もあり得るが、レポなどの手段を使えば打開できる。

● 日銀にとっての最重要課題は 金融政策の「不透明感」払拭

 より長めの視点では、日本の金融政策の課題は、黒田執行部の下で進行した金融政策の不透明化の払拭だろう。異次元緩和開始後、日銀はマネタリーベースの拡大コミットメントや政策金利のフォワードガイダンスなど、一見、金融政策の透明性を高める政策を打ち出している。

 しかし皮肉なことに、こうした政策群を通じ、日銀の金融政策は大幅に不透明化した。よい例はマネタリーベースの拡大コミットメントだ。現在も政策決定会合の声明文では、物価上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続することになっている。マネタリーベースを拡大する主な手段である長期国債買い入れについても、年間増加額80兆円をめどと明示されている。

 しかし長期国債の保有残高は、2017年入り以降、一貫して増加幅が縮小しており、直近の2019年4月20日時点では前年比31兆円の増加に過ぎず、マネタリーベースもそれに歩調を合わせて増加幅を縮めている。これを「ステルス・テーパリング」と市場は認識しているが、日銀はこのテーパリングについて認めず、何の方針も示していない。

 物価目標についても、黒田日銀総裁は就任直後、物価期待の重要性を掲げ、物価目標達成への強い決意を強調していたが、4月25日の記者会見でも明らかになったように、日銀は物価目標の達成が困難で、金融政策のみでは達成し得ないことをほぼ公然と認めつつある。

 現在の金融政策は、政策当局が本当は何を考え、どのような政策見通しを持っているかが甚だ不透明な状態と言える。この問題の打開は残念ながら黒田総裁下では困難だと考えられるが、日本経済が新たな危機に直面する前に早期に解決すべき問題だと、筆者は考えている。

 (Japan Macro Advisors株式会社 チーフエコノミスト 大久保琢史)
大久保琢史

最終更新:4月26日(金)15時40分

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