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中国の経常黒字が消える日、世界はドル高を許容できなくなる

4月26日(金)7時00分配信 ダイヤモンド・オンライン

中国が暦年ベースで経常収支赤字に陥った場合、人民元ショックは再来するのか? Photo: Reuters/AFLO
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中国が暦年ベースで経常収支赤字に陥った場合、人民元ショックは再来するのか? Photo: Reuters/AFLO
 さほど話題になっていないが4月8日に公表された国際通貨基金(IMF)の春季世界経済見通しによれば、中国の経常収支が2022年には暦年ベースで赤字に転落し、その額も66億ドルになると予想されている。

 金融危機発生から10年あまりで世界最大の黒字が丸ごと消失するという変化の大きさには驚きを覚える(グラフ参照)。同じ期間に一貫して高水準を維持し、今や世界最大の経常収支黒字国としての地位を確立したドイツとは対照的である。

 トランプ米政権は通商政策上、相変わらず中国を目の敵にしているが、これは貿易収支黒字(正確には対米黒字)の大きさを捉えたものだ。巨大な経常収支黒字の減少は不均衡の是正の進展、言い方を変えれば中国が内需主導型経済へ移行している証左として前向きな評価を与えられるかもしれない。

 だが、金融危機後の外需減退を受けて中国政府が国内投資を中心とする大規模な内需刺激策を実施し、結果として過剰債務(不良債権)が積み上がったという評価もある。

 理論上、対外経済部門の収支尻が大きく変化する背景には、対内経済部門の収支尻が大きく変化したという事実もあることは忘れてはならない。
● 拡大する旅行収支赤字と低下する貯蓄率 貿易黒字が持ち直せば助かるが…

 中国の経常収支黒字が減少し始めたのは2016年後半以降だ。具体的には貿易収支黒字が頭打ちになる一方、サービス収支赤字が着実に増えてきたという構図がある(グラフ参照)。

 こうした流れの中、昨年(2018年)は1~3月期の経常収支赤字が341億ドルと2001年4~6月期以来の赤字を記録したことが話題となった。2011年以降、サービス収支赤字がじわじわ増えている一方、例年1~3月期は春節の影響で貿易収支黒字が縮小するため、ついに前者が後者を超える規模に至った。

 しかし、こうした動きが常態化し、暦年ベースでも経常収支赤字に転落するという予想はまだ大きなものではない。それどころか「中国の経常収支黒字が激減している」という事実すらいまだ共通認識として薄いものではないだろうか。それだけに今回のIMF予測で暦年赤字が示されたことに驚く向きもあるかもしれない。

 サービス収支は輸送収支・旅行収支・その他サービス収支の3つから成る。周知の通り、中国のサービス収支赤字は旅行者が滞在先で取得した財貨・サービスの取引を反映する旅行収支の赤字に起因している。裕福になった中国人が頻繁に海外旅行に出かけるようになり、旅行先で旺盛な消費行動を取るようになった、いわゆる「爆買い」の結果である。

 散発的に報じられている通り、チャイナショック(2015年8月)を経て外貨流出に神経をとがらせるようになったこと、人民元の騰勢がかつてほどではなくなったこと、そもそも欲しいものがもうなくなったことなど、さまざまな要因を背景として「爆買い」自体は近年衰えが指摘されているが、依然としてサービス収支赤字の存在が経常収支の全体感を規定するほどの規模になっているのは事実である。

 国内税制の影響を踏まえれば、輸入するのではなく海外旅行先で直接購入した方が安価で済むという財が多く存在することがその一因と言われてきた(もっとも、こうした転売目的の輸入も中国では規制されつつある)。
 また、より構造的かつ長期的な視座に立ち、貯蓄・投資(IS)バランスから中国の経常収支黒字の縮小を解釈することも可能だ。

 理論上、経常収支はISバランス(貯蓄-投資)の結果であるため、貯蓄を食いつぶしやすい少子高齢化という人口動態の最中にある国では経常収支が赤字化に向かうことが想定される。過去10年あまりに関して中国の貯蓄率および投資率の推移を見ると、リーマンショック後に投資率が急騰する一方、貯蓄率は徐々に低下し、その結果として経常収支黒字が急に縮小してきたという経緯がある。

 これは危機対応として大型投資が実行されたものの、その後に続く有効な需要に乏しかった事実を示している。過剰な投資によって過剰な供給能力(設備や雇用)を生んでしまったという言い方でもいい。最新のIMF予想に従えば、今後、投資率は低下に向かうが、人口動態に応じた貯蓄率がより早いペースで低下することで経常収支黒字も圧縮されることになる。

 こうした現状に加え米中貿易戦争の影響も乗ってくることになる。周知の通り、トランプ政権が展開する保護主義政策は、はっきりと企業心理を通じて世界の経済活動に影響を与え始めている。世界全体で生産も貿易も企業心理も悪化している状況下、中国の輸出だけが再加速し、貿易収支黒字が再拡大に向かうという想定には無理があろう。

 すでに中国は交渉の中で大豆やトウモロコシ、小麦を含む米国の農産品について輸入拡大を約束している。真っ当に考えれば貿易収支は黒字の増加よりも減少の方がありそうな状況だろう。サービス収支赤字が横ばいという前提に立てば、貿易収支黒字の縮小はそのまま断続的な経常収支赤字に直結する懸念となる。

● 自己実現的に元相場下落を招く恐れも 次のチャイナショックは本当に杞憂か

 中国政府が最も警戒する事態は、2015年8月以降に経験したような制御不能な資本流出と、それに伴う(人民元相場を含めた)国内資産価格の大幅な下落である。

 その意味で経常収支と同時に、金融収支(証券投資+直接投資+その他投資)の状況にも注意を払う必要がある。人民元相場の安定(暴落回避)という観点からは、経常収支と金融収支(および誤差脱漏)の合計としての資本フローが一方的な流出に転じないように配慮しながら政策を運営することが求められるからである。
 この点、近年の中国では海外への資本流出を取り締まる一方、国内への資本流入を促すような施策が展開されている。具体策については本欄で子細に扱うことはしないが、例えば前者については個人ないし機関投資家に対する投資規制が実施される一方、後者については中国本土上場の人民元建て株式(A株)の主要ベンチマーク(MSCI)への組み入れを通じて株式市場への海外投資家参入を促す施策などがある。

 なお、対内投資については株式市場に関するものだけではなく、特定産業(自動車や金融業など)への外国資本に対する出資比率上限の引き上げなどを通じて直接投資を呼び込む努力も行われている。

 だが、上で見てきたような状況を背景に経常収支の黒字が失われ、断続的に赤字に陥るような事態となれば、資本フローの仕上がりはその分、純流出に傾きやすくなる。ここで主従関係としては金融収支における資本フローが「主」、人民元相場の動きが「従」であると考えるのが普通だ。

 しかし、人民元相場については政策当局の管理(意図)が残る分、現状の水準と市場の思惑との間に齟齬があった場合、人民元相場が「主」、資本フローの動きが「従」となりやすい面もある。つまり、人民元相場が「何らかの理由」で軟調地合いとなった場合、これを見て金融収支が流出超となる事態も考えられる。

 チャイナショック時は、その「何らかの理由」が基準値計算方法の変更だった。現在では米中貿易戦争を巡る懸念が「何らかの理由」に相当し、人民元相場を押し下げる場面も見られている。経常収支の赤字が散発するとなれば、それ自体が人民元安を正当化する真っ当な理由になるため、自己実現的に人民元相場が下落する恐れが出てくる。それが2015年8月ほどの震度に至るかどうかはさておき、金融市場にとっては大きなリスクイベントである。

 元売りを誘発する「何らかの理由」は他にもいろいろあるだろう。その中でも米連邦準備理事会(FRB)が再び強気姿勢を取り戻し、利上げ路線に復帰するという展開は要注意だ。

 2015年8月のチャイナショックの根底には「ドル高についていけなくなった人民元」という構図があった。ドル相場見通しを展望する際、どうしても当該国である米国の経済・金融情勢に目が奪われがちだが、中国の経常収支やこれに付随する通貨政策の実情を踏まえると、継続的なドル高を予想するのはやはり無理があるというのが筆者の基本認識だ。

 中国の経常収支赤字が「資本流出で人民元安」という懸念を呼び込みやすい実情を踏まえると、ドル高はその懸念を増幅させてしまう可能性があるだろう。その意味で、われわれは「中国の経常収支がドル高を容認しない」という世界に立っていると考えることもできよう。

 *本稿は、ダイヤモンド・オンラインの特設サイト「政策・マーケットラボ」に掲載されたものです。唐鎌大輔氏の個人的見解であり、同氏の所属機関とは無関係です。
唐鎌大輔

最終更新:4月26日(金)11時25分

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