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「日本の刑事司法制度」のここがおかしい!

4月25日(木)17時10分配信 東洋経済オンライン

会計評論家の細野祐二氏(右)と野村證券の元高崎支店長、横尾宣政氏(左)が自身の体験も踏まえ、日本の刑事司法のあり方について縦横に論じた(撮影:梅谷秀司)
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会計評論家の細野祐二氏(右)と野村證券の元高崎支店長、横尾宣政氏(左)が自身の体験も踏まえ、日本の刑事司法のあり方について縦横に論じた(撮影:梅谷秀司)
何度も逮捕・勾留され続ける日産のカルロス・ゴーン元会長の例を引くまでもなく、日本の刑事司法のあり方に国内外から厳しい目が注がれている。
長期拘留や自白偏重など、日本の刑事司法の問題の根源には何があるのか。オリンパス巨額粉飾事件とキャッツ株価操縦事件でそれぞれ逮捕・起訴された野村證券の元高崎支店長、横尾宣政氏と会計評論家の細野祐二氏が対談した。
横尾氏は2011年に発覚したオリンパス事件で、2012年に逮捕・起訴され、史上最長、966日間勾留され続けた。法廷では一貫して無罪を主張したが、2019年1月、最高裁で上告が棄却され、懲役4年の実刑判決が確定した。ただ、4月24日現在未収監で、再審請求に向け準備中だ。
細野氏は元公認会計士で2004年3月、キャッツ株価操縦事件に絡み、有価証券報告書虚偽記載罪で逮捕・起訴。一貫して容疑を否認し無罪を主張するも2010年、最高裁で上告棄却となり、懲役2年(執行猶予4年)の有罪が確定している。
対談のノーカット全文版は週刊東洋経済プラスでご覧ください。

■「横尾氏無罪」に100%の自信あり

 ――細野さんは4月25日に「横尾宣政さんの再審無罪を支援する会」を結成しました。なぜですか。
 細野 横尾さんは無実だからだ。私は『粉飾決算VS会計基準』(2017年刊)において横尾さんの無罪を主張したが、今回、事件記録一式を拝見して、横尾さんの無罪をさらに確信するに至った。横尾さんは完全に無実であり、そのことに私は100%の自信がある。横尾さんは966日も拘留された。それ自体信じられないことだが、長期勾留はいかに有罪の証拠がなかったかの裏返しだ。

 しかし、横尾さんのやってきたことは、あまりにも稚拙でみていられなかった。メディア対応を含めて、やらなければいけないことをやらずに、やってもしょうがないことを一生懸命やっている。言ってもしょうがないことをべらべらと話し、言うべきことを言っていない。そんなふうに思ってみていたところ、再審請求すると聞いた。
 私が犯罪会計学を深める一環として、オリンパス事件の資料はすでに読み込んでいた。これは何とか横尾さんの力になりたいと思った。戦後、再審無罪となった事件は21件あるが、すべて物証型の一般刑事犯であり、経済事件は1件もない。経済事件は物証がないために再審は理論的に不可能と痛感する一方で、誰かが最初に井戸を掘らなければならない。それを横尾さんがおやりになると言っている。ならば、横尾さんの再審無罪を支援しなければならないと思った。
■部下は横尾さんを売らなかった

 細野 横尾さんがオリンパス事件の細部に分け入って無実を主張しても、理解するには金融の専門知識が必要であり、世間は聞く耳を持たないだろう。横尾さんが世間にまず訴えるべきは966日間も拘留されたという事実。逃亡や証拠隠滅の恐れがないのに保釈申請が却下されたということだ。

 次に世間に訴えるべきことは、横尾さんが設立したグローバル・カンパニーの部下のうち、羽田拓・元取締役は966日間、小野裕史・元取締役は831日間拘留された一方で、主犯であるオリンパスの菊川剛元会長、山田秀雄元常勤監査役、森久志元副社長はわずか40日しか拘留されていないことだ。どう考えても常識としておかしくないだろうか。
 羽田氏も小野氏も自白調書に署名すれば、菊川氏のように拘置所からすぐに出ることができた。部下が上司を売る、あるいは同僚や上司が部下を売るというのは勾留中の被疑者の間でよくあることだ。しかし、羽田氏も小野氏もそうしなかった。検事はおそらく羽田氏や小野氏にこう言っただろう。「特捜事件は99.9%勝てない(=無罪にならない)。早く罪を認めて、執行猶予をつけてもらって再出発しろ」と。しかし、そうはしなかった。
 羽田氏や小野氏はなぜ自白調書に署名しなかったのだろうか。966日間や831日間も拘留されては、社会的には死んだも同然だ。死んでもいいと思っていたか、横尾さんの言っていることが本当かのどちらかだが、私はその両方だと思う。横尾さんには部下に、「この人のためであれば死んでも構わない」と思わせる何事かがある。人は誰でもいつかは死ぬが、保釈や執行猶予の誘惑に負けて嘘の自白をすれば、自分が死ぬときに必ず後悔する。「自分の言っていることが真実だから、部下の羽田氏や小野氏は自らの人生を棒に振ってでも自白調書に署名しなかったのだ」と横尾さんは言うべきだ。横尾さんが言えないのであれば、私が言う。
 そもそも横尾さんは、優秀な証券マンだったかもしれないが、会計士ではないのだから、会計基準をよく知らなかった。だから、オリンパス事件のような会計基準を複雑に回避する粉飾を指導できるわけがない。横尾さんはそのことを世間に向かって言うべきだ。

 横尾 特捜部に逮捕されて、「この資料はお前が作ったな」とか自分がまったく知らないことを聞かれる。初めて見るものばかりだったが、抵抗のしようがなかった。オリンパス幹部の供述調書を見せられて、ようやくオリンパスが何をやっていたかが見えてきた。検察や裁判官の言っている個々のことはすべてつぶせる(=論破できる)ものばかりだ。
 細野 裁判というのは事実認定を細かくやらざるをえないので、検察や裁判官が細かいのはしかたがない。大事なのは世論を味方につけることだ。無罪判決を受けている事件の多くは世論を味方につけている。

 裁判も結局は世論に動かされる。裁判官は、無罪だとはわかっていながら、特捜事件では、有罪を論証する検面調書(検察官面前調書)が大量に上がってくる。裁判官が無罪判決を書くためには大量の検面調書をすべて否定しなければならない。国民の声に支えられなければ、裁判官は無罪判決など書けるわけがない。(元厚生労働省事務次官の)村木厚子さんの無罪判決の背景には特捜検察に対する圧倒的な国民の怒りの声があった。
■戦時中の灯火管制が判決文に影響している

 ――横尾さんに限らず、裁判官の書く判決文ではどの証拠をどのように評価したのかが明らかにされません。

 細野 私の事件も横尾さんの事件も、判決理由だけを聞くと無罪かと思ったと言われたが、これはざらにあることだ。というのも、現行刑事訴訟法上、証拠理由を判決文に書かなくていいことになっているからだ。どの金の出入りに基づいて、などと具体的に書かなくてよいことになっている。「甲1号証により」と標目だけを書けばよい制度になっている。
 戦前はこんな制度はなかった。東条英機内閣になり、第2次世界大戦が激しくなると灯火管制(戦時中の照明使用の制限)がなされた。敵機が来襲すると電気を消さなくてはならず、真っ暗闇の中では判決文が書けない。そこでやむをえず証拠の標目だけでいいということになった。戦時刑事特別法の改正案ができて、証言をやっている暇がないということで、取り調べ調書だけでいいことにしようということになった。

 戦争が終わって平和な世の中になり、灯火管制も敵機来襲もなく、戦時刑事特別法は廃止されたが、現行の刑事訴訟法に、監禁密室で取られた検面調書を公開の法廷における証言より信用できる特信情況として証拠採用したり、判決理由は証拠の標目だけでいいという制度が残っている。
 横尾さんの判決も判決理由だけを読むと無罪。しかし、菊川氏らの調書のほうが正しいと言うことで有罪にされている。

 横尾 裁判長も本当は無罪であることがわかっているのだろう。拘留期間のうち懲役期間から減じられるのはせいぜい半分というのが通常だが、私の場合、966日中、800日も認められた。これは異例中の異例で、本当は無罪であることを裁判官が分かっている証しだ。刑務官も「あなたは無実だ。生活態度をみればわかる」と言う。
 ――起訴・不起訴を決める検察が捜査も行っているのは、先進国中では日本と韓国ぐらいですね。なぜ日本では検察が捜査をしているのでしょうか。

 細野 GHQの占領下において、旧日本軍や財閥の隠匿退蔵物資が国会の地下にあった。それを横流しして暴利を貪っているという実態があった。当初GHQは戦前の特高検察を軍国主義の温床として嫌い、検察官による事件捜査を認めなかった。隠匿退蔵物捜査は警察が行った。ところが警察で捜査したところ、日本の警察捜査は優秀で、隠匿退蔵物資の捜査対象はGHQ幹部にまで及ぼうとした。慌てたGHQは、隠匿退蔵物捜査から急遽警察を排斥し、検察の中に隠匿退蔵物の捜査機関を設けて戦前の公安検察の生き残りにその捜査をやらせた。結局、隠匿退蔵物事件ではGHQ幹部は誰も逮捕されていない。これが特捜部の始まりだった。それが今でも続いている。
■横尾氏は「令和の巌窟王」になる

 細野 昔も今も刑務官は刑事司法において重要な役割を果たしている。かつて昭和巌窟王事件(吉田巌窟王事件)があり、横尾さんの事件はこれが参考になる。

 1913年に路上で小売商を殺害したとして捕まった被疑者2人が「吉田石松に言われてやっただけだ」と供述。吉田石松氏はアリバイもあったのに被疑者2人の供述調書が証拠採用されて死刑を言い渡された(被疑者2人は従犯とみなされ無期懲役になった)。
 吉田石松氏は「俺は無実だ」と小菅監獄(現小菅拘置所)で暴れ、網走監獄(現網走刑務所)で暴れ、秋田監獄(現秋田刑務所)でも暴れる。秋田の所長が独自に調べ直し、「これはおかしい。吉田石松氏はやっていないのでは」と吉田石松氏に再審請求を薦める。

 旧・都新聞(みやこしんぶん。現・東京新聞)の司法記者が釈放されていた被疑者2人の居場所を突き止めて、殺人事件と吉田石松氏とは無関係であることを知る。都新聞の記者は2人からの詫び状を受け取った。それでも再審請求は棄却された。吉田石松氏は減刑となり、仮出所後に法務大臣に直訴を試みたりした。法務省職員に日本弁護士連合会の人権擁護部を紹介され、1963年に無罪判決が言い渡された。
 ――この都新聞の記者がアレクサンドル・デュマの小説「巌窟王(モンテ・クリスト伯)」になぞらえて吉田石松さんのことを「今様巌窟王」と称して書きました。

 細野 吉田石松氏同様、横尾さんもアリバイはあるし、菊川氏らの偽証は明らかだ。経済事件で再審が認められるのは皆無だし、再審で無罪を勝ち取ったことはないが、横尾さんはその第1号になるに違いない。
山田 雄一郎 :東洋経済 記者

最終更新:4月26日(金)12時36分

東洋経済オンライン

 

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