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日本を圧倒する「フィンテック大国」中国の実像

4月25日(木)16時00分配信 東洋経済オンライン

中国・杭州にあるアリババパークは、中国における近未来の都市デザインの象徴となりうるか? 写真はアリババ本社(筆者撮影)  
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中国・杭州にあるアリババパークは、中国における近未来の都市デザインの象徴となりうるか? 写真はアリババ本社(筆者撮影)  
ITと金融を融合した「フィンテック」。その最先端を走る国はどこかといえば、意外にも中国の名前が挙がります。「中国が今や世界最先端のフィンテック大国」――。『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』の著者、田中道昭氏はこう分析しています。今年3月に中国最大のEC小売企業アリババ本拠地、杭州を訪れた田中氏が同書に収めたレポートの一部を再編集してお届けします。

 アリババは中国政府から「AI×スマートシティー」事業推進を受託しています。杭州にあるアリババパーク周辺は、アリババ本社、アリババ初のリアルで最先端の商業施設、アリババ初の近未来型AIホテル、アリババ社員の住居などから構成されており、キャッシュレスを前提としたスマートシティーの様相を呈しています。
 世界最先端のフィンテック大国、中国の現在を具体的に見ていきましょう。

■アリババ初の近未来型AIホテル

 2019年3月8日金曜日、中国・杭州にあるアリババの本拠地、アリババパークの一角にあるアリババ初の近未来型AIホテル、「FlyZoo Hotel」にチェックインしました。

 2018年12 月にオープンしたこのホテル。チェックインには顔認証の専用アプリを使用します。普通のホテルのように人が応対するためのレセプションやチェックインカウンターなどは一切ありません。チェックインからキャッシュレスを前提とした自動化、無人化のホテルとなっているのです。
 顔認証を前提としたチェックインが済んでエレベーターホールに向かい、エレベーターに乗り込みます。ここからすでに顔認証を前提とした世界が待ち構えています。エレベーターに乗り込み、自分の部屋がある階に行くにも顔認証が必要。顔認証が済んでいない人はNGです。

 さらに驚いたのは、部屋への出入りにも顔認証。ルームキーやルームカードなど物理的な鍵は一切なく、ここでも顔認証を前提とした自動化、無人化の世界が広がっています。フィットネスクラブへの出入りも顔認証となっていました。
 部屋に入ってからはアリババの音声アシスタントであるアリOSが大活躍します。カーテンの開閉、音楽、部屋の明かり調整、部屋の空調などが「ただ話しかけるだけ」で操作できます。さらにはロボットコンシェルジュがルームサービスやアメニティーの配達などをしていました。バーではロボットバーテンダーが顧客から注文を受けたカクテルを手早く次々に作っていました。

 また、先述したように、アリババパーク周辺にはアリババ社員の住居もあり、その屋上にはクリーンエネルギーを発電するための太陽光パネルがありました。
 私は、アリババパーク自体がリアルなプラットフォームやエコシステムを形成し、中国における近未来の都市デザインの象徴となっていく可能性をそこに感じ取りました。それはアリババパークが「中国のシリコンバレー」を目指す杭州の中でも中核を担う未来科技城を抱えて、1000社以上のスタートアップやアクセラレーターが集まる一大集積地となっていることも大きな要因です。

■アリババ初の商業施設「親橙里」

 アリババ本社とホテルの中間に位置しているのが、2018年4月にオープンしたアリババ初の商業施設「親橙里」です。
 キャッシュレス決済、自動化・無人化サービス展開、アリババのECショップのリアル店舗展開、テクノロジーを活用した店舗展開などを目の当たりにしました。地下1階には最新鋭のニューリテールスーパー「フーマー」が陣取り、キャッシュレスでのリテール体験を提供しています。

 施設内には、無人カラオケルーム、無人休憩およびミーティングスペースレンタル、キャッシュレス前提の多数の自動販売機も設置されています。最上階の映画館はキャッシュレスおよびチケットレスでの自動ゲート入場式です。
 アリババのECショップのリアル店舗においては、ホテルの客室内でも使われていたアリババの音声認識AIアシスタントを搭載した、「ただ話しかけるだけ」で稼働するさまざまなIoT家電が実際に販売されていました。

 商業施設内のアパレルショップにおいては、画像認識で顧客のアバターが作成され、そのアバターを使ってさまざまなコーディネートが提案される端末「バーチャルフィッティングシステム」もありました。その端末から、アリペイを使って気に入った商品を購入することも可能です。
 店舗からは、売れ筋商品の情報がアリババの動画サイトを通じてライブストリーミング配信されていました。商品をさまざまな方法で消費者に紹介するとともに、さまざまな方法で購入することが可能になっているのです。

 また今回の滞在では、アリババも出資するディディのライドシェアを移動手段として活用しました。これらのサービスを体験してみると、スマホでのキャッシュレス社会をいち早く実現したアリババの「前人未踏の領域を開拓している」という強い自負心、さらには「スマホすら不要とするIoT決済や顔認証決済に本格的にシフトしていこう」とする気概も感じました。
 今回の中国出張では、中国政府の次世代AI発展計画を担っているアイフライテック社の副総裁と北京でミーティングを持ち、同社のAI事業について説明を受けました。音声認識AIにおいて中国トップ企業の同社は、アリババ、テンセント、バイドゥなどの音声認識技術を担っています。

 ミーティング前の説明に使われていた映像ボードには、リアルタイムで中国全土から同社に集積されているビッグデータの件数が表示されており、その数はなんと1日で「47億件」を超えていました。本当に脅威に思いました。
 アイフライテック社は中国の銀行のデジタル化やAI化にも大きく貢献しています。中国の銀行には、店舗フロアが無人化された近未来型店舗が増えてきています。そこでは、タッチパネルと音声認識AIアシスタントによる操作だけでさまざまな銀行取引が可能になっています。中国ではすでに地下鉄のチケット購入にも「ただ話しかけるだけ」の音声認識AIアシスタントが使われています。

■キャッシュレスの先にある世界

 2018年は、楽天ペイやLINEペイ、またソフトバンク・ヤフー連合によるペイペイなど、モバイルによる現金を使わない決済サービスが注目され、「キャッシュレス元年」とも言われました。ですが、キャッシュレスという潮流にも「この先」があるのです。そして、以上で記述したアリババパークの現在の様子が、それを端的に表しています。
 アリババは、アリペイというキャッシュレスの手段とともにリアル店舗でも経済圏を拡大しています。支払いの部分がキャッシュレスであることが、ほかのサービスが拡大するうえで大きな武器になっているのです。それは、キャッシュレスがリアル店舗のデジタル化の入り口にもなっているからです。今後もアリババは、中国から、広義の中華圏、さらにはアジア諸国へと金融と小売事業を拡大させていくことが予想されます。

 キャッシュレス化には3つの重要な潮流があります。
①キャッシュレス化
②無人化・自動化
③シェアリング化・サービス化
 キャッシュレス化によって無人化・自動化が促進されています。また、キャッシュレス化によりシェアリング化・サービス化も促進されています。そもそもキャッシュレスを前提としない限りは、無人化・自動化は困難。そして自転車シェアリングや自動車シェアリングも、スマホでのキャッシュレス決済を大きな原動力として発展してきたのです。

 私は、キャッシュレス化によって実現する社会の自動化やサービスおよびシェアリング化がより重要であると思っています。
 都心部においては渋滞や混雑の緩和、そして過疎地においては構造的な人手不足への対応となるのが、キャッシュレス化×自動化×サービスおよびシェアリング化なのです。だからこそ、私たちは中国の進化から目を背けるのではなく、きちんとそこに目を向け、対峙していくことが重要なのです。

 もちろん日本においては、アリババパークで見たようなすべてを顔認証で済ませるような世界を望むべきなのかは大いに意見が分かれることでしょう。私自身も、「もう一度、このAIホテルに泊まりたいか」と聞かれたら、やはり普通にスタッフが応対してくれるホテルを望みます。
 中国の監視社会についても大いに疑問に思っています。それでも、日本でもキャッシュレスが大きな話題となっているなかで、「キャッシュレスの先にあるもの」を見据えた展開、そして日本独自の価値観でそれを進めていくことが求められているのです。
田中 道昭 :立教大学ビジネススクール教授

最終更新:4月25日(木)16時00分

東洋経済オンライン

 

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