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新人もベテランも「メモ」を取るべき科学的根拠

4月23日(火)5時40分配信 東洋経済オンライン

記憶に関するミスを減らす近道はメモを取ることです。メモの効能を知れば、仕事の効率がさらに上がります(写真:Yagi-Studio/iStock)
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記憶に関するミスを減らす近道はメモを取ることです。メモの効能を知れば、仕事の効率がさらに上がります(写真:Yagi-Studio/iStock)
「メモを取れ」――。今も昔も、新人の頃には誰しもがこう言われます。しかし、「メモなんかしなくても覚えているから大丈夫」「めんどくさい」「意味がない」と思っている人も多いのではないでしょうか?  本稿では、記憶術・勉強法の専門家である宇都出雅巳さんの新著『図解 仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』の内容を抜粋・再構成して、そんな疑問にお答えします。

■1日経つと7割忘れてしまう

 メモの効能の前に、まずは人間の記憶についてお話ししたいと思います。
 例えば、仕事におけるミスといえば、「上司の指示を忘れる」「書類をどこに置いたか忘れる」「人の名前を忘れる」といった、記憶に関するものが真っ先に思いつきますよね。「しっかり覚えた!」「忘れないだろう」と思っても、いつの間にか忘れてしまう。私たちの脳は、予想以上に頼りないのです。

 図は記憶に関する研究の草分けともいえる「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれるものです。

 グラフの縦軸は「節約率」と呼ばれ、最初に完全に記憶する手間(時間・回数)に比べて、どれだけ再び完全に記憶するまでの手間が節約できたかを表す指標です。いわば、記憶の保持率、逆に考えれば忘却率ともいえます。
 ここで注目してもらいたいのは、覚えた直後の急速な忘却カーブです。「完全に記憶した」と思っても、20分後にはすでに42%を忘れ、1時間後には56%、1日後には74%を忘れるという結果になっています。

 この実験は、「意味をなさないアルファベットの組み合わせ」を実験材料に行われたので、われわれが日ごろ接する意味のある情報や知識であればもう少し曲線は緩やかになるでしょう。しかし、人が「覚えた!」と思った直後に、その多くを急速に忘れてしまうという脳の性質は変わりません。
 この実験結果を見て「こんなに早く忘れるの?」と驚いている人は、これまで自分の記憶に期待しすぎていた可能性があります。「覚えた!」と思っても、人の脳はこれだけ急速に物事を忘れていくということを、“忘れないよう”に、しっかり頭にたたき込んでおきましょう。

■忘れる原因は「ワーキングメモリ」にある

 「ワーキングメモリ」という脳の機能をご存じでしょうか?  実は、これが記憶に関するミスの主犯格です。

 ワーキングメモリは「脳のメモ帳」にたとえられ、「作動記憶」「作業記憶」などと訳されます。情報を長期間にわたって貯蔵する「長期記憶」とは異なり、何かの目的のために「一時的に」貯蔵される領域であることが特徴です。
 コンピューターで言えば、「長期記憶」に当たるものがHDD(ハードディスク)で、ワーキングメモリがRAM(メモリー)です。HDDはデータを長期保存する場所ですが、RAMはソフトやアプリが稼働するにあたってデータを一時的に蓄えたりする「作業領域」です。

 例えば、今この瞬間もあなたのワーキングメモリが働いているからこそ、この文章が読めるのです。文章を読んで理解するためには、直前の文章の内容を記憶しておくことが必要です。もし、読んだそばから本の内容を忘れてしまったらどうなるでしょう?  引き返して読むこともできますが、引き返してばかりいたらいつまでたっても前に進むことはできません。
 また、会話であればさらに大変です。言葉は話すそばから消えていきますから。相手が発した言葉をワーキングメモリに記憶しているからこそ、言葉をつなぎながら理解することができるのです。

 では、これだけ便利な記憶が、なぜメモリーミスを起こすのでしょうか。それはワーキングメモリの容量がとても小さいからです。

 ここで、ワーキングメモリとその容量の小ささを実感してもらうために簡単なテストをしましょう。まずは次の文章を読んでみてください。
「上司の木下課長に呼ばれ、高橋工業宛に会社案内のPDFを送ってほしいと依頼されました。自分のデスクに戻ると、見積もりを待ちわびていた渡辺金属から新着メールの通知。見積もりの結果次第では、いまいち営業担当者が信用できない城島産業と仕事をしないといけません。期待と不安でメールを開き、添付されていたファイルを開こうと思った瞬間に電話が入りました。佐藤通信から上田先輩宛てでした。電話をつなぎ終えるとスマホのライン通知。学生時代の悪友、広瀬から飲みの誘いでした」
■ワーキングメモリは「注意」によって成り立つ

 さて、会社案内はどこに送らないといけなかったか、思い出せますか?  あなたは今、「頭の中がパンパンになった」感覚があると思います。それがまさにワーキングメモリがいっぱいの状態です。会社名や人名でワーキングメモリが埋まってしまったのです。

 ワーキングメモリが貯蔵できる事象は、せいぜい7つ前後(7±2)と言われていますから、これは当然です。また、最近の研究ではもっと少なく、4±1という説もあるほどです。
 もう少し詳しく説明すると、新しい情報を記憶するにはそれに「注意」を向ける必要があります。

 この場合、「注意」とはいわば、情報をつかむことができる「腕」であり、ワーキングメモリでの「記憶」とは、「情報がその腕につかまれている状態」だと表現することができます。

 そして、この腕は7本ないし4本前後しかないわけです。図のように、注意の腕でつかんでいるときは「確かに覚えている」と感じても、新しい情報をつかむために元の情報を放してしまえば、あっさりと忘れてしまうのです。
 記憶に関するミスをなくす第一歩は、「今はしっかり覚えている感覚があるけど、この腕を放したら忘れてしまうんだよな」と、ワーキングメモリの特性を認識することです。

 また、「ワーキングメモリの負荷を減らす」ことも大きなポイントになります。その方法はいくつかあるのですが、原始的で、最もわかりやすい例がメモなのです。

■メモを取らない人は仕事が非効率

 メモを取る習慣がない人からすれば、メモを書く手間を省いて仕事を少しでも効率化している気になっているかもしれません。しかし、メモに書かずに頭で「覚えておかなきゃ」と思うこと自体がワーキングメモリのムダ遣いであり、仕事の非効率化の要因になっているのです。
 ワーキングメモリは短期的に記憶を保存するだけではなく、脳の作業台でもあるのです。覚えておかないといけない量が増えるほど、作業台が狭くなり(=注意を消費し)、複雑な情報の処理ができなくなります。

 その点、メモに書き残せば、即座にワーキングメモリを解放できますので、仕事の精度やスピードも自然と上がるのです。

 先輩社員が新人に対して「メモをとれ」と口うるさく言うのは、今までの新人たちの姿や、自分の若い頃の実体験から、どうせすぐに忘れることが目に見えているからです。
 とくに新人の頃は新たに覚えないといけないことが膨大にあります。

 ぜひメモを活用して効率的に仕事を覚えていってください。ベテランの方も、これを機にメモの効能を再確認し、仕事のミスを減らしていってください。
宇都出 雅巳 :トレスペクト教育研究所代表・学習コンサルタント

最終更新:4月23日(火)5時40分

東洋経済オンライン

 

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