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副業・兼業に立ちはだかる「壁」とは何か

4月22日(月)5時50分配信 東洋経済オンライン

人手不足が深刻になり、政府は成長戦略の一環として副業や兼業を促す取り組みを検討している(撮影:梅谷秀司)
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人手不足が深刻になり、政府は成長戦略の一環として副業や兼業を促す取り組みを検討している(撮影:梅谷秀司)
 人手不足が深刻化する中、副業や兼業を促す取り組みが検討されている。今年6月に取りまとめ予定の成長戦略に、副業や兼業の促進策が盛り込まれる方向で議論が進んでいる。

 経済産業省の産業構造審議会「2050経済社会構造部会」が4月15日に開催され、労働市場の構造変化の現状と課題について議論された。その中で、副業・兼業の推進が俎上に載った。総務省の就業構造基本調査によると、副業とは主な仕事以外に就いている仕事を指す。
 同部会では、副業がある人のうち9割が本業に支障がないと回答し、2割が本業のモチベーションや集中力が高まったとの調査結果や、副業経験者は副業経験がない従業者に比べて、思考・分析タスクが36%高いとの分析結果が示された。

■実際に副業を持つ人は横ばい傾向

 他方、同調査によると、副業を希望する人は2002年の331万人から2017年には424万人に増加しているが、実際に副業がある人は2002年の255万人から2017年に268万人へと横ばい傾向となっている。「過重労働になり本業に支障をきたす」「労働時間の管理・把握が困難になる」「人材の流出につながる懸念がある」ことなどを理由に、企業が従業員の副業・兼業を認めないケースがまだ多い。
 4月16日に首相官邸で開催された「中途採用・経験者採用協議会」では、出席した中小企業、ベンチャー企業の経営者から、大企業における兼業解禁をさらに進めるべきとの意見も出された。会議で安倍晋三首相は「人生100年時代を迎え、兼業を進めていきたいと考えており、次回の未来投資会議の場でも議論を行い、この夏の成長戦略の決定において、検討の方向性を示したい」と表明した。

 企業側の兼業禁止規定については、すでに規制緩和されている。厚生労働省は2018年1月にモデル就業規則を改定し、労働者が守るべき「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業についての規定を新設した。以前に定めた就業規定のままの企業は兼業禁止が残ったままになっているが、厚労省がモデルとして示す就業規定には兼業禁止規定は存在しない。今後の焦点は、副業を希望する従業員にどこまで副業を認めるかだ。副業を希望しない従業員にまで副業を促すという話ではない。
 そこで問われるのは、副業を希望する従業員の労働時間と健康の管理である。あいにく、わが国では副業がまれだったため、従業員個人の労働時間や所得を全体的に管理する仕組みが社会的に用意されていないのが現状だ。従業員が主たる仕事として働く企業は、従たる仕事での労働時間や所得の情報まで把握する仕組みにはなっていない。すると、副業する従業員は、自分で労働時間を管理しなければならない。健康管理も自己責任となる。
 しかし、副業といえども本業があることを理由におろそかにはできない。副業で無理すると、過労になったり、健康を害したりすることも起こりうる。

 そうした懸念を払拭することも、副業・兼業のさらなる推進のためには必要だ。労働時間の管理を、本人だけの責任にしてしまうと、過労を心配する人は副業をすることに躊躇してしまう。労働時間の管理をうまく自分でできる人だけが、副業をするということになりかねない。

■所得税の負担は働き方にかかわらず同じ
 副業での過労を心配し、本業だけで年収400万円の人と、労働時間をうまく管理して副業を持つ年収400万円(本業で300万円、副業で100万円)の人で、税と社会保険料の負担はどのように違うのか。

 所得税や住民税はマイナンバーで名寄せされるため、1つの企業でも複数の企業でも、合計した年収が同じなら同じ税負担となる。

 一方、医療、介護、年金などの社会保険料は、副業をしない人は本業での給料に比例して保険料が徴収される。副業をする人は、副業のやり方次第では副業の勤め先で社会保険料を払う義務が生じない。上記の副業による収入が100万円の人は、所得などの加入要件を満たさないと、社会保険料は払わなくてよいことになる。
 つまり、副業を持つものの、本業の300万円に対してだけ社会保険料を負担する人は、本業だけで400万円の所得を得る人が支払う社会保険料よりも負担が少なくなる。

 このように、税制では所得を合算して公平に課税されるのに対して、社会保険料では働き方によって負担額が変わることがある。

 もちろん、現行制度でも、副業の勤め先で社会保険料の支払い義務が生じれば、所得を合算して社会保険料を払うことになっている。しかし、社会保険料の支払い義務は個々の勤め先ごとに判断することになっており、働き方や勤め先によって社会保険料の負担が異なることが起こる。
■複雑な社会保険料支払いの仕組み

 副業の勤め先で社会保険料の支払い義務が生じる場合、現行制度では、副業の勤め先で手続きするのではなく、本業の勤め先に副業の収入を自ら届け出る形で所得を合算して社会保険料を払うことになっている。実に手間のかかる仕組みである。

 それと比べて、所得税の手続きは今でも簡単だ。所得税は、複数の勤め先から給料をもらうと確定申告が必要だが、本業の勤め先に副業の収入を報告する必要はない。それぞれの勤め先から所得をいくら得たか、マイナンバー付きで税務署に届け出ている。確定申告では、パソコンやスマホから国税電子申告・納税システム(e-Tax:イータックス)にアクセスし、稼いだ所得の合計額などを入力すれば手続きは完了する。税務署に行く必要はない。
 副業・兼業を推進するにしても、税制と社会保険料の対応や届け出の違いがあるから、そうした手間をなくすことも求められる。そして、副業が認められたときの労働時間の管理を、本人任せにするのではなく、税制や社会保障制度の枠組みを活用しながら、より簡単にできるようにする仕組みづくりも必要であろう。
土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授

最終更新:4月22日(月)5時50分

東洋経済オンライン

 

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