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萩生田氏「消費増税延期もありうる」発言の波紋

4月19日(金)17時00分配信 東洋経済オンライン

2017年10月22日の衆院選開票で、当選確実となった自身の名前に花をつける萩生田光一幹事長代行(右)と安倍晋三首相(写真:時事通信)
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2017年10月22日の衆院選開票で、当選確実となった自身の名前に花をつける萩生田光一幹事長代行(右)と安倍晋三首相(写真:時事通信)
 とうとうというかやはりと言うべきか、安倍晋三首相の側近が今年10月からの消費税率引き上げの延期に言及した。しかも、その場合には衆院解散・総選挙を断行するとの見方も示し、10連休突入を前に「5月の解散風」が永田町に吹き始めた。

 政界では、今国会での会期末解散による衆参同日選論が取り沙汰されており、消費税10%先送りは「首相が伝家の宝刀を抜く大義名分になる」(自民幹部)と受け止められている。与党内には「参院選に向けて、党内の引き締めを図るため」(閣僚経験者)との指摘がある一方、「首相は同日選断行で国政選7連勝を狙う気だ」(自民若手)との声も出て、疑心暗鬼が広がっている。
■菅官房長官は「リーマン級ない限り引き上げ」

 発言の主は首相側近の1人、萩生田光一幹事長代行。同氏は18日のDHCテレビのインターネット番組に出演し、10月の消費税率10%への引き上げについて、「6月の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)の数字をよく見て『この先危ないぞ』と見えてきたら、崖に向かい皆を連れていくわけにいかない。違う展開はある」と増税延期の可能性を指摘。そのうえで「増税をやめるなら国民の信を問うことになる」と、その場合は安倍首相が解散に踏み切るとの見方を示した。
 2012年の再登板時から消費増税に慎重だった安倍首相は、2014年11月には増税延期を理由に衆院解散を断行して圧勝。前回参院選直前の2016年6月には再度増税延期に踏み切り、同年7月の参院選で勝利を収めている。それゆえ、与野党は今回の萩生田氏の発言を「首相の意向を踏まえた観測気球」(立憲民主党幹部)と受け止めた。

 菅義偉官房長官は18日の記者会見で「リーマン・ショック級の出来事が起こらない限り、(消費税率を)10月に10%に引き上げる予定だ。政府の方針にまったく変わりはない」とこれまで通りの見解を表明。
 併せて「国会で首相や私が責任をもって答えており、それがすべてだ」と萩生田氏の発言は個人的なものと強調し、景気判断についても「内需を中心とした成長が続いており、緩やかに回復しているという基調は変わっていない」と説明した。そして、麻生太郎副総理兼財務相は19日に「安定財源の確保が必要だ」と引き上げ延期を否定した。

 また、経済界では日本商工会議所の三村明夫会頭が18日の会見で、萩生田氏の発言について「信じられない」と厳しく批判した。三村氏ら日商幹部は同日午前に麻生財務相と会談し、消費税引き上げに伴う軽減税率への対応などで協力を求められていた。三村氏は「中福祉小負担から中福祉中負担に変えるのが消費税の意味合いだ。足元の若干の景気の振れで(引き上げを)諦めるのは理解できない。(首相は)必ず上げると思っている」と苦々しげに語った。
 その一方で、消費税引き上げに反対する野党側は敏感に反応し、衆参同日選への警戒感も広がった。立憲民主党の福山哲郎幹事長はツイッターに投稿し、「増税延期は私たちがかねてから主張しており、当然だ」としたうえで、衆院解散については「堂々と受けて立つ用意がある。野党で協力して、安倍晋三政権を倒す絶好の機会を得たと考えている」と戦う姿勢をアピールした。さらに、19日には「政府の経済政策に関する予算委員会をただちに開くべきだ」と要求した。
 国民民主党の玉木雄一郎代表もツイッターで「消費税増税先送りを口実にした衆参同日選の可能性が高まったといえる。政権はバラバラな野党の現状を見透かしている」として、持論の野党総結集促進を訴えた。共産党の志位和夫委員長は記者団に「重大な発言だ。われわれは今の経済情勢では増税できないと言い続けてきた。増税に突っ込むなら安倍政権もろとも吹き飛ばす決意だ」と厳しい表情で語った。

 野党側はそろって「アベノミクスが失敗だったことを認めたもの」(又市征治・社民党党首)などと批判したが、連合の神津里季生会長は「将来世代にすでに過大な負担を先送りしている。そんなことを繰り返すべきではない」と増税延期には反対の立場を明確にした。
 連合も含め、国政選挙に向けた野党共闘の態勢づくりは遅々として進んでいない。立憲民主と国民民主の感情的対立が原因だけに、「野党がバラバラの現状をみれば、首相が野党せん滅を狙って解散してもおかしくない」(立憲民主党幹部)との声も相次いでいる。

■同日選断行には短期会期延長が必要

 そこで注目されるのが今後の政治日程との絡みだ。萩生田氏は衆参同日選については「日程的に難しい」と述べた。確かに、今国会の会期末は6月26日で、その直後の28、29日に大阪で20カ国・地域(G20)首脳会議が開催される。「もし、会期末に解散して同日選となれば、日本で初めてのG20を『政治空白』の中で主催することになり、国際儀礼に反する」(首相経験者)との指摘が多い。
 さらに、萩生田氏が挙げた「6月の日銀短観」の公表は7月1日とみられており、短観を踏まえて増税延期と解散断行となれば、「1週間程度の会期延長が必要」(自民国対)となるからだ。

 ただ、首相サイドは当初、G20直後に首相とロシアのプーチン大統領による首脳会談で懸案の北方領土問題と日ロ平和条約締結への基本合意にこぎ着け、それを大義名分とした衆院解散・衆参同日選を狙っていたとされる。このため、「日ロ合意は遠のいたとしても、G20や日ロ首脳会談の国会報告を理由とした会期延長はありうる」(自民国対)との見方も出ている。
 政府が国会会期を7月3日まで1週間延長すれば、日銀短観を踏まえた解散断行による衆参同日選の投開票日を7月28日(日曜日)に設定することが可能になる。

 もちろん、首相にとって衆参同日選断行は「のるかそるかの大ばくちになる」(首相経験者)のは間違いない。「参院選単独なら政権への中間評価だが、同日選なら政権選択選挙になる」(細田派幹部)からだ。過去2回の同日選と同様、衆参で自民が勝てば「安倍4選による超長期政権も現実味を帯びる」(同)が、負ければ首相退陣の危機に陥りかねない。
 21日に終わる統一地方選は「全般的に自民堅調で野党は弱い」(自民選対)のが実態だ。しかし、21日投開票の衆院大阪12区、同沖縄3区の補欠選挙は「大阪は維新、沖縄はオール沖縄が優勢」(自民幹部)とされ、第2次安倍政権では例のない自民の「ダブル敗北」の可能性が強まっている。加えて、桜田義孝五輪担当相や塚田一郎国土交通副大臣の失言による辞任も政権への打撃となっている。

■会期末にらみ与野党入り乱れた神経戦に
 安倍首相らは、統一選後の天皇陛下退位・新天皇即位という歴史的皇室行事やそれに伴う「令和」への改元を滞りなく進められれば、「お祭りムードで内閣の不祥事は国民の意識から消え、内閣支持率も下がらない」(官邸筋)と余裕を見せる。

 その一方、与党内には「安倍政権のおごりとゆるみが止まらなければ、選挙は厳しくなる」(自民選対)との不安もあり、「あからさまに1強維持を狙った同日選となれば、国民の反安倍感情が拡大しかねない」(自民長老)との厳しい見方もある。
 増税延期についても与党内の財政再建派は「そんなことをしたら、首相は嘘つきの烙印を押され、政界は大混乱に陥る」(自民税調幹部)と指摘。財務省幹部も「今回増税できなければ、日本の未来はない」と顔をしかめる。首相の盟友を自認する麻生財務相や岸田文雄政調会長も増税延期に反対する立場を明確にしており、安倍首相が延期に踏み切れば政権を支える自民実力者も敵に回しかねない。

 自民党内には「首相側近を気取って勝手なことを言うのはけしからん」(3役経験者)との声もあり、萩生田氏も18日夜には「首相から指示を受けて発言したわけではない。(首相らに)迷惑をかけて申し訳ない」と肩をすくめたとされ、19日も終日、釈明に追われた。ただ、これまでの同氏の言動からみても「首相の意向を忖度しての観測気球」(岸田派幹部)との臆測は消えず、首相らが否定したとしても、会期末に向けて与野党入り乱れての神経戦が続くのは間違いなさそうだ。
泉 宏 :政治ジャーナリスト

最終更新:4月19日(金)17時00分

東洋経済オンライン

 

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