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イギリス「EU離脱」はなぜこうももめているのか

3月27日(水)6時50分配信 東洋経済オンライン

ブレグジットはなぜこうももめているのだろうか(写真:Toby Melville/Reuters)
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ブレグジットはなぜこうももめているのだろうか(写真:Toby Melville/Reuters)
イギリスの欧州連合(EU)離脱が先行きの見えない状況に陥っている。国民投票でEU離脱派が勝利してから3年弱。なぜ今になっても、離脱をめぐる混乱は収まらないのか。『マンガみたいにすらすら読める経済史入門』の著者で、代々木ゼミナール講師の蔭山克秀氏が解説する。

 イギリスでEU残留の是非を問う国民投票が実施され、「残留派48.1%/離脱派51.9%」の超僅差で、離脱派が勝利したのは、2016年6月。思えばイギリスは、最初から欧州統合の「濃すぎる地域主義」を嫌っていたふしがある。統合初期にはEEC(欧州経済共同体)よりもEFTA(欧州自由貿易連合。自由貿易だけの結びつき)を選び、EC時代にはシェンゲン協定(パスポートなく域内を自由に移動できる協定)に入らず、現在のEUでも、ユーロを導入せずポンドを使い続けている。
 一方、同じアングロサクソンのアメリカとは「特別な関係」(ウィンストン・チャーチルの言)を強調し、親密さをアピールする。だから欧州統合は「ドイツとフランスが中心。イギリスは消極的」が、つねに基本スタンスだった。

 そのイギリスのEU離脱劇が、今回の「ブレグジット(Brexit)」だ。ではイギリスは、ここにいったい何を求めたのか? 

■最初の離脱案は相当「上から目線」だった

 EUとの離脱交渉でいちばん最初に求めた内容から、その辺を探ってみよう。正式に離脱通知を提出した2017年3月29日、イギリスは、要約すると以下のような内容の申し出をした。
 「われわれは単一市場からは抜けますが、イギリス―EU間でFTA(自由貿易協定)を結べば、互いの利益は従来どおり確保されると思います。だからこれからも“深く特別な関係”でいましょう。もしこの申し出が無理なら、今後は残念ながら、テロ対策や安全保障での協力もできなくなると思います」

 これは相当「上から目線」だ。EUから抜けることで、細かい法規制や分担金、移民・難民の受け入れといった“負債”からは解放されるくせに、メリットだけはFTAで従来どおり得られる。完全に「おいしいとこ取り」だ。しかも末尾には、軽い脅しまで入っている。EU首脳陣は当然怒り、ここから離脱交渉は難航する。
 しかしメイ首相は、幾多の困難を乗り越え、2018年、何とかEUとの間で離脱協定の合意にまでこぎつけた。そこにはイギリスとEUが今後も「良好な関係」を続けるために必要な条件が書かれていた。

離脱協定の主な内容(2018.11合意)
・離脱清算金390億ポンド(約5兆7000億円)
・在EUイギリス市民と在英EU市民への影響(ブレグジット後も居住や社会保障の権利を保持する)
・「北アイルランド―アイルランド」国境に、物理的な管理体制をなくす方法
・イギリスとEUで通商協定を結び、企業が調整するための移行期間の設定
 ここで最大のネックになっているのが、アイルランドとの通商問題、いわゆる「バックストップ」案だ。これはイギリスとEUの通商協定がうまくまとまらなかった場合でも、アイルランドと北アイルランド間の厳格な国境審査を復活させずに済む、いわゆる「安全策」だ。

■離脱協定はすでに2度否決されている

 イギリスは「北アイルランドをイギリス領にしている」せいで、北アイルランドに過激なテロ組織「アイルランド共和軍(IRA)」を生み出した(現在もその分派は活動停止を宣言していない)。厳格な国境審査の復活は、間違いなくテロリストを刺激する。そこで必要になるのが、バックストップだ。
 バックストップ発動中、イギリスは「暫定的にEUとの関税同盟に残る」ことになるため、従来どおり厳格な国境審査も関税もない状態が続く。ただしイギリスだけに有利にならないよう、その間イギリスは、他国とのFTAやTPPなどの通商協定は結べない。

 さらにいったん発動したら、EUとの協議なしに終了させることはできない。離脱強硬派はこれを嫌がっている。EUが認めない限り、バックストップから抜けられなくなるからだ。
 この問題が最大のネックとなって、イギリス議会はもめにもめている。2019年1月には、EUと合意に達したこの離脱協定を、下院は歴史的大差で否決(202対432票)した(保守党議員の約4割が造反)。その直後、メイ内閣への不信任案が出されるも、こちらは否決。しかし3月、再度EUとの合意に達した離脱協定修正案が、またまた大差で否決された。

 EUのスタンスは「協定を受け入れるか、ブレグジットを中止するか」だ。対してイギリスの与党・保守党は、現在「離脱派」と「離脱強硬派」に二分して、収拾がつかない。このままでは最悪「合意なき離脱」もありうるのが現状だ。
 ではここで、仮にすべての交渉がうまくいき、ブレグジットが成功した場合、どのようなメリット・デメリットがあるのか、考えてみよう。

■金融マーケットの中心ではなくなるリスク

 ■ポンド安が発生する

 イギリスがEUから離脱すると、イギリスの信用が低下し、ポンドの価値が下がる。その結果「イギリスのモノが安くなる」から、輸出競争力は伸び、観光収入も増える。

 ただし19世紀と違って、今のイギリスは「輸入偏重国」だ。国際収支はここ30年以上、つねに赤字。そんな中でポンド安が進めば「他国のモノが高くなる」から、これはイギリスにとって厳しい。とくにイギリスは、EU諸国からの食料品の輸入が多いだけに、これは国民の生活を圧迫しそうだ。
 ■欧州との貿易に関税がかかるようになる

 これはあくまで「仮の仮の話」だ。つまりイギリスがEUとのFTAも結べず、バックストップも発動しなかったらという話だ。

 EU加盟国間で貿易する際のメリットは、「域内関税ゼロ」だ。これがあれば、EU諸国への輸出は進み、国際収支は改善する。しかしそれがなくなると、どのEU加盟国もイギリス製品に対し、普通に関税をかけてくる。これではせっかくのポンド安の恩恵が台なしになる。
 ■金融マーケットの中心国でなくなる

 ロンドンの「シティ」は、世界の金融の中心街だ。しかしイギリスがEUを抜けると、海外の金融機関は今後「シティに支店を置いても、EU諸国と規制なく金融取引することができなくなる」ため、シティの価値は大幅に低下する。海外の金融機関離れが起こってしまえば、イギリスにとって大ダメージだ。

 ■難民・移民が減る

 EU加盟国でなくなった以上、難民・移民の分担受け入れ義務からは解放される。そうすると国としての福祉負担が減り、税金や保険料も安くできる。
 ただし難民・移民が減れば「労働者も減る」ことになるため、イギリスの労働力と税収が減ってしまう。これは、ヨーロッパ全体で少子高齢化が進んでいる現状を考えると痛手だ。

 まあでも、福祉負担が減ることこそが彼らの望んだことだから、これは「離脱してよかった」ことになるだろう。

■「俺も抜ける!」という雪崩現象の可能性も

 ■イギリスが国際社会で孤立する

 これは今後もEUが正常運転を続けたら、当然考えられる事態だ。離脱したことでかつての仲間はよそよそしくなるだろうし、そのうえアメリカでトランプ政権が崩壊でもしたら、誰も味方してくれなくなるかも。
 しかし現在、その可能性は薄そうだ。なぜなら今、ヨーロッパ全体で、ポピュリズムと極右の嵐が巻き起こっているからだ。むしろ、イギリスに続く国が次々と現れ、EUが崩壊することの方が心配だ。

 ■思いのほかうまくいく

 たぶんEU諸国が最も恐れているシナリオがこれだ。つまり、ポンド安がうまく作用し、難民・移民問題などが解消され、マイナス面が予想されたほど起こらないと、「俺も抜ける!」という雪崩現象が起こる可能性がある。
 2019年現在、EU諸国では反移民の極右政党やポピュリズム政党が、すさまじい勢いで躍進中だ。イタリア・ハンガリーではポピュリズム政権が誕生し、ドイツも最大野党がポピュリズム政党、フランスでもルペン党首率いる最大野党「国民戦線(FN)」が「フレグジット」(フランスのEU離脱)を掲げている。

 ポピュリズムの世界的な流れは、独仏が手塩にかけて育ててきたEUの今後を、不透明なものにしている。
蔭山 克秀 :代々木ゼミナール講師

最終更新:3月27日(水)12時22分

東洋経済オンライン

 

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