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小田急複々線化1年、狙い通りの成果はあったか

3月25日(月)15時00分配信 東洋経済オンライン

朝ラッシュの上りダイヤでは緩行線を走る千代田線直通の通勤準急を急行線運転の新宿行き快速急行が軽快に追い抜いていく(狛江―和泉多摩川間、撮影:山下大祐)
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朝ラッシュの上りダイヤでは緩行線を走る千代田線直通の通勤準急を急行線運転の新宿行き快速急行が軽快に追い抜いていく(狛江―和泉多摩川間、撮影:山下大祐)
鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2019年5月号「好評? 不評? 小田急複々線化一周年」を再構成した記事を掲載します。

 小田急電鉄が半世紀をかけて進めてきた、社内では「夢」とさえ言われた複々線化事業が計画の全区間で達成されたのは2017年度末。そもそも、営団地下鉄(現・東京メトロ)千代田線の全通とあわせて代々木上原―東北沢間わずか1駅0.7kmが完成したのは1978年3月だったが、その後は数々の難題から年月を要し、1997年6月に喜多見―和泉多摩川間2.4km、2004年11月に世田谷代田―喜多見間6.4kmが完成した。そして最大の難関として残されていた、下北沢駅界隈を含む東北沢―世田谷代田間1.6kmの地下区間が完成し、2018年3月17日のダイヤ改正でダイヤを抜本的に改めたのである。
 この刷新を、小田急電鉄は2016年の春から前面にアピールし、数々の改善によって改正3年後には50億円プラスアルファの増収を目指すとの収支計画も披露されている。

 その2018年3月改正から1年、利用者は恩恵を感じているのか、小田急電鉄は狙いどおりの成果を得ているのか、様子を確かめた。

■快速急行の混雑は変わらず、通勤急行に誘導

 1990年ごろまで200%超と示されていた最混雑区間(世田谷代田―下北沢)ピーク1時間の平均混雑率は列車編成の増強を行ってきた結果、1990年代半ば以降は190%程度に下げることができた。しかしそこが限界で、それ以上の引き下げは複々線化を待つ以外になかった。そして、その達成によりピーク1時間の本数を改正前の27本から36本へと増やした。
 小田急線は通勤圏が奥深いため、長距離の速達輸送を重視すると列車密度は急行線ばかりが高まってしまうので、通勤準急を一部区間で緩行線を走行させ、急行線との間を渡り歩く工夫に満ちた複々線の使い分けとしている。具体的には向ヶ丘遊園―成城学園前間は緩行線走行で快速急行を先行させ、成城学園前―経堂間は急行線を走行して各停を抜く。そして、経堂から代々木上原まで再び緩行線を走り、そこでまた快速急行に道を譲るなど、緻密なダイヤ構成による増発である。これらにより、平均混雑率を20位圏外に脱出する150%程度に下げることを、新ダイヤ筆頭のポイントに掲げていた。
 また、所要時間の短縮では、通勤客の遠近分離を図るため、朝間の急行を停車駅のより少ない快速急行に格上げして大幅に増やした。小田原線系統が10分間隔、江ノ島線からも10分間隔で、もはや新宿には急行は現れない。そのため新たに登戸を停車駅に加えて通勤準急や各駅停車に接続することで、以前の急行停車駅への利便を確保した。この快速急行化により町田―新宿間は最大12分短縮され、最短所要時間は37分となった。登戸―新宿間18分という所要時間は日中と大差ない。JR横浜線沿線で町田と同等のエリアから山手線までを結ぶ京王相模原線(橋本)や東急田園都市線(長津田)との比較で最も速い、劇的な短縮である。多摩線からは以前の千代田線直通の急行に代えて新宿行き通勤急行を新設し、小田急多摩センター始発も設定した。こちらは小田急多摩センター―新宿間を最大14分短縮し、所要40分とした。
 では、その結果は――。快速急行の速達性が高まったため利用が集中し、途中駅(通過駅)で混雑が増すことはなくなったものの、以前の急行に比べて混雑率の低下が実感されることもなかった。確かに準急系統や各駅停車を含めた平均混雑率では151%に下がったとされるが、遠距離通勤客がそれらにシフトすることはなく、逆に不満のタネとなってしまったようだ。

■快速急行の混雑緩和対策

 ただし、複線時代はまったく余裕のない稠密ダイヤのため平日朝ピーク1時間(下北沢着8時前後の1時間)の遅延の平均時分が2分4秒だったところ、回復性が高まって48秒に減少しており、ノロノロ運転の解消、速達性向上とともに定時率も大幅に向上している。
 このため小田急では、多摩線からの通勤急行がほぼ同様の速達性を有する(向ヶ丘遊園・成城学園前停車。登戸通過)列車であるとアピールし、誘導を図った。結果、当初はアンバランスだった快速急行と通勤急行の混雑率はほぼ均衡し、快速急行の混雑はやや緩和された。それでも快速急行の最混雑時をざっくり観察すると、座席は埋まり、ドア間の通路も8人×3列ぐらいの人でびっしり、ドア付近の空間はより密集している状況だ。

 現在は引き続き、向ヶ丘遊園以西が各駅停車である通勤準急や、向ヶ丘遊園始発の各停の利用を呼びかけている。通勤準急利用の場合、千代田線直通のため新宿へは代々木上原での乗り換えが伴うが着席できる可能性もあり、接続する快速急行の代々木上原―新宿間も千代田線へ向かう乗客が乗り換えた後なので激しい混雑は回避され、所要時間は数分しか違わない。果たして効果が出るかどうかは「朝の5分」や乗り換えの煩わしさを利用者がどう判断するか、ということにかかってくる。
 複々線化の達成が利用動向にどのような影響をもたらしているか、小田急電鉄は、2018~2020年度中期経営計画の進捗状況の一資料として昨年11月に発表している。そこに示された2018年度第2四半期まで(4~9月)の利用人員の対前年比は通勤定期が+1.6%、定期外が+0.8%だったが、事前の計画値をそれぞれ+3.7%、+0.8%と示しているので、見込みに達していない。第3四半期まで経過した現在(4~12月の数値)は+1.9%と+1.8%となっているので、徐々に伸びてはいるが、まだまだ道半ばである。
 こうした数値となった要因を明らかにするため、エリア別にどのような動きが生じたかも中期経営計画の状況報告に示されている。増減率で大きな効果が表れたのは江ノ島線。都心3駅(新宿・代々木上原・下北沢)への利用人員は通勤定期+7.4%、定期外+6.4%となった。これは朝の快速急行(江ノ島線内は急行)が5本増えて10分間隔になったこと、早朝5時台から新宿直通の便が確保されたこと、帰宅時にも新宿から直通の快速急行・急行が11本も増えたことなどが要因のようだ。ピーク時の所要時間は9~10分短縮された。
■田園都市線の影響は? 

 田園都市線の終点中央林間駅は、小田急江ノ島線との接続駅である。ここから都心へ、東急田園都市線利用と比較すると、小田急で新宿までは47分、田園都市線渋谷までは長津田乗り継ぎで54分。小田急は乗り換えなしだが、まず座れない。それに対して田園都市線は長津田で始発準急を1本待てば座れる。これらの優劣が天秤にかけられる。実際に東急利用から小田急にシフトした人がどれだけいたかは調査されていないが、小田急中央林間駅の乗降人員は減少した。ということは、乗り換えずに通り過ぎる人が増えた証しとみられる。
 次に多摩線から都心3駅へは、通勤定期+6.9%、定期外+0.7%の人員増。朝は通勤急行を10分間隔で設定、その約半数を多摩ニュータウン中心駅の小田急多摩センター始発とした。これは競合する京王相模原線から乗り換えた場合でも、ほぼ確実に座れるアドバンテージを意味する。

 また、千代田線直通としていた多摩線の急行系列車を新宿発着に改めた。町田・本厚木方面の本線系統の利便を最優先しなければならないため、以前は多摩線列車を新宿に入れづらかった。それが複々線となって容量が増えたため新宿に入れることが可能になった。それにより多摩ニュータウンではメインの路線となっている京王電鉄に対しても差を縮めることができる、と踏んだのであろう。それが通勤定期+6.9%の数字となったと受け取れる。
 これに対してライバルである京王電鉄は、小田急の複々線化ダイヤ改正の同日、建設費償還のために設定していた相模原線の加算運賃を廃止し、運賃値下げを行った。京王は新宿―笹塚間以外複線のためラッシュ時は所要時間の延びが大きく、小田急の複々線化により差が一層開いてしまった。そこで運賃面での有利さを打ち出し、利用者逸走の予防線を張ったのである。これに先立ち、夜の帰宅の足として京王ライナーを新設し、さらに1年後の本年2月ダイヤ改正では朝の上りライナーを追加、準特急を充実させるなど、競合下での攻防は大いに注目を浴びる。
 もう1カ所、複々線化の効果が大きく表れている地区がある。複々線のおひざ元の世田谷代田―登戸間であり、通勤定期+4.2%、定期外+4.6%の数値を出している。複々線化時のダイヤ改正においてこの区間の最大のポイントは、線増の機能を存分に活かして、多摩線系統から消えた千代田線直通列車の本数を上回る数で千代田線直通列車が設定されたこと。もともと千代田線直通の需要は世田谷・狛江エリアで発生するボリュームが大きいというデータに基づき、日中以後、成城学園前や向ヶ丘遊園発着の準急という新たな形で設定された。
 また、準急は緩行線運転とされたことで、新たに千歳船橋・祖師ヶ谷大蔵・狛江を停車駅に加えている。朝晩には各駅停車の千代田線直通列車も初めて設定された。これにより千代田線直通列車が大幅増、世田谷・狛江地区の3駅はさらに準急停車で列車頻度が大幅にアップした。定期外の伸びは、日中の準急の貢献が大きいとみられている。

 なお、朝の上りは通勤準急(千歳船橋・祖師ヶ谷大蔵・狛江は通過)と各停、夕夜間の下りは準急と各停のほか急行も千代田線直通に加わっている。
■町田界隈がいま一つ

 利用が伸びて複々線効果が表れたとみられる上記の各エリアに対して、向ヶ丘遊園―町田間の中距離エリアは通勤定期+2.3%、定期外+0.7%、相模大野以西の小田原線は同+1.0%、+0.6%と伸び幅が小さい。

 これらの区間は、幹でありながら複線のままなので、線路容量は増えていない。また、幹ゆえに元から充実した輸送が行われており、江ノ島線や多摩線のように都心直通列車が大きく変化したわけでもない。容量いっぱいの列車が走っているため、相模大野や町田始発の着席可能な列車を挟み込む余地もない。したがって列車体系の変化があまり大きくなければ、当然ながら利用にも変化が少ない、ということだろうか。
 小田急電鉄としては、町田や新百合ヶ丘のバスターミナルに集積してくる利用がもっと増えると踏んでいたので、引き続き、これまでは小田急の沿線外とされていたエリアで需要を掘り起こすためのPRを続けてゆく。

 なお、複線区間の列車本数に変化がなかったわけではない。上り新百合ヶ丘―向ヶ丘遊園間は各方面からの列車が集中する複線区間の中でも最も高密度運転の区間となったが、昨年の複々線化ダイヤでここもピーク1時間に3本増発され、1時間あたり27本から30本となった。この稠密な運転は、以下のような施策をもって実施されている。
 複々線化達成以前のダイヤでは、朝ラッシュ時のこの区間は各停と準急の計14本が各駅に停車する列車であり、残る13本が急行以上の通過列車だった。それを各停と準急の合計を12本に抑えることで余白の時間を生み出し、さらに新百合ヶ丘と向ヶ丘遊園の両駅は上りホーム1面2線を左右交互発着とすることで追い込み時分を短縮し、それにより快速急行などの通過列車を5本増の18本とした。

 また、通過列車が通常の運転方法で走行すると先行の停車列車に追いついて徐行や停止を繰り返し、後続の列車にも遅延が波及しやすいうえ、列車が詰まると踏切の遮断時間が大幅に増えてしまう。そのため、通過列車に時速45kmの速度制限をかける抑速制御を実施することで、列車間隔を保ちながら運転することとされた。あえて時速45km走行をするのは百合ヶ丘―生田の2駅間で、生田―向ヶ丘遊園間は各駅停車が緩行線側に入るとすぐに急行線の進路が開通するため、抑速の速度も時速70kmに引き上げられる。
■通勤ロマンスカーも増発

 複々線化の達成は特急ロマンスカーの充実にもつなげられた。

 複線区間が残り線路容量が限界だった当時は新宿着7時30分台から9時15分ごろまで約1時間40分の間、上り特急を運転できなかった。これがほかの一般列車を圧迫せずに運転可能な時間帯が拡大し、新宿行きと千代田線直通を合わせて4本増発している。特急の設定がない時間帯は約1時間に縮小している。これにより朝の通勤特急は7本から11本となった。この際の改正では、発展が著しく小田急自らでも開発を進めている海老名を特急停車駅に加え、小田原線系統の朝の上り特急の全列車を停めている。
 特急ロマンスカーの存在は、競合する他路線との差別化を図るうえで大きなアドバンテージであり、有料着席列車が拡大する中でも快適性は群を抜く。朝間4本の増発により座席数は約5割増しとなったが、それがほぼすべて、特急利用人員の増加に結び付いている。

 昨年3月の複々線化達成により以上のように大きく変化した。それから1年を経過した本年3月16日のダイヤ改正では、以下の変更が行われる。複々線は完成形に達したため基本部分に変化の余地は少ないが、前回改正時には進行中だった工事が完成することで修正が加えられた。
 まずは新宿方面複線区間の代々木八幡駅で駅改良工事が完成するのを受けて、新宿発着の各駅停車の10両運転が開始される。同駅は前後を踏切に挟まれていたため、ホーム長が8両分しかなかった。ホーム延伸のため一方の踏切を移設し、従来の相対式ホームに代えて島式ホームを設置、駅舎も橋上化する改良を行っていた。留置線の有効長や車両増備計画の関係もあり、今改正で10両編成になるのは上下計20本前後にとどまるが、今後はそれらの課題を解決しつつ10両化を進めてゆく。
 また、この一部各停10両化に関連して、車両運用の関係から1本のみ8両編成で運転されていた通勤急行が10両となり、9本すべてが10両編成となる。これにより当該列車や前後の快速急行の混雑がわずかだが緩和される予定。

 一方、小田原市に隣接する神奈川県開成町に所在する開成駅もホームが10両対応に延伸され(新松田―小田原間の途中駅は従来6両対応)、急行列車停車駅に昇格する。新松田―小田原間は2018年3月改正で日中の各停の運転本数が毎時4本から3本に削減されたが、開成はニュータウンとして成長が著しく、小田急線上り方向だけでなく小田原で JRに乗り換えて横浜・東京方面に向かう下り方向の需要も高い。このため、平日上下計126本、土休日同108本もの停車回数増が図られる。日中は1時間当たり3本から6本への倍増となる。現在の急行系列車は快速急行が主体になっているが、これについては新松田以南を急行に種別変更することで、開成停車とする。
■イレギュラーな列車は少なめに

 このほか、経堂を通過している平日夕方以降の下り急行について22時以降は停車とする。

 急行の経堂通過は、通勤時間帯のラッシュ主方向について近距離列車と中長距離列車の利用の分離を図るため実施されてきたが、千代田線直通列車が増えて利用が分散したことから、イレギュラーな列車はなるべく少なくする方向性で実施するもの。やはり複々線の効果だろう。世の中全般に帰宅時間が早まってきたこともある。22時以降の特急も時刻を一部変更する。
 土休日の特急については需要に応じて一部列車の運転区間を変更するほか、小田原20時台の上り特急では、小田原停車の新幹線「ひかり」からの接続を考慮して、神奈川県西部の利便を高める停車駅の変更を行う。

 ほかに上下二層構造の下北沢駅では、これまで始発から 6時と深夜の0時10分から終電まで急行を緩行線運転として使用ホームを限定していたが、これを改めて地下2階の急行線ホーム発着に統一する。なお、同駅では地下化により撤去された地上線の跡地で新駅舎の建設工事が進められているが、3月16日改正時から新しい改札口が設けられ、従来は狭隘(きょうあい)な通路でつながり共通改札だった京王電鉄井の頭線と改札が分離される。井の頭線の改札口は改札外の通路を挟んで向き合う。京王を含めた全体の完成は2021年。
 また、東京メトロが行ってきた千代田線北綾瀬駅改良により、綾瀬―北綾瀬間への10両編成列車直通運転が可能になるため、小田急線列車の一部も北綾瀬発着となる。
鉄道ジャーナル編集部

最終更新:3月25日(月)15時00分

東洋経済オンライン

 

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