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「根拠なき数字目標」を掲げてしまう上司のなぜ

3月22日(金)5時50分配信 東洋経済オンライン

「場当たり的」な言動はなぜ生まれてしまうのでしょうか(写真: EKAKI/PIXTA)
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「場当たり的」な言動はなぜ生まれてしまうのでしょうか(写真: EKAKI/PIXTA)
会社や上司が「場当たり的」だ。そう感じたことがある会社員は少なくないのではないか。方針がコロコロ変わる。根拠不明な数値目標を挙げる。「社員の自主性」を口実に、下にすべてを丸投げする。なぜこんなことになるのか、『「場当たり的」が会社を潰す』から一部抜粋し再構成のうえお届けします。

■「場当たり的」言動の3パターン

 「何だかこの前と言っていること違わないか?」「この目標、ホントに達成できるの?」「この戦略で大丈夫?」――こんな疑問が頭に浮かび、「ウチの会社、『場当たり的』なのでは……」という不安を抱いた経験のある会社員は少なくないのではないでしょうか。新著はそういう方々に向けて、「場当たり的」の発生のメカニズム、背景と解決法を示そうと思い執筆しました。
 実のところ、日本にはそんなふうに社員に不安を抱かせてしまう会社が山ほどあります。私は、営業に関する研修で、数多くの企業に関わってきました。打ち合わせでは、役員や部長クラスの方に現状をお聞きします。

 そういう際にも、「場当たり的」な言動を目にする機会は驚くほど多いのです。そんな経験を重ねるうちに、「場当たり的」言動には3つのタイプがあることがわかってきました。「力学優先型場当たり的症候群」「忖度優先型場当たり的症候群」「自己優先型場当たり的症候群」です。
 どんなものか、順番に見ていきましょう。

 ある大手企業のA本部長。担当部署の今期の「戦略」として、「売上対前年度8%アップ」を掲げていたので、私は「この8%の根拠は何か」を尋ねました。

A本部長:根拠?  そんなものはありませんよ。強いて言うなら、前年が5%アップという目標を掲げていたにもかかわらず、3%ダウンに終わった。だからその分を挽回せねば、ということです。
私:なるほど。それでそのための戦術は何ですか。
A本部長:今、それを考えるように部下に指示を出しています。
 A本部長の話をまとめると、以下のようなことでした。戦術は部下に考えさせ、自分はとりまとめ役に徹する。昨年の不振の原因も部下に分析させているところだ。ただ、自分としては訪問数が不足していると思っているので、1日3件の訪問を評価に反映させると宣言したところだ――。

 話を聞いて、私は恐ろしさすら感じて、会話を打ち切りました。問題が多すぎます。まず、「8%アップ」は戦略ではなく、単なる目標数値です。しかも不振の原因を自らつかんでいません。
 もしかすると、不可避の原因があったかもしれないのです。それなのに「挽回する」という方針と、数値目標だけ決めて、方策は部下に丸投げ、自分は「取りまとめ役」と勝手に位置づけて、責任を部下に押し付けています。そのうえ、大した根拠もないままに、部下に新たにノルマを課しています。

 この人の言動には、独りよがりの考えや主張はあっても、組織を動かす筋道がありません。それを考えた形跡すらありません。

■責任を分散させようという悪知恵
 実は、こういう人の思考法の背景にあるのは「このままでは自分の評価が低下してしまう」という不安です。一方で、それを回避するためにはどうすべきか、という社内の力学には敏感です。自分が考える力がない分、部下に考えさせるという名目で責任を分散させようという知恵(悪知恵ですが)もあります。

 こういう人は、前年の業績が悪いと、あえて高い目標値を掲げがちです。これによって、自分は頑張っているのだ、とアピールできるからです。仮に達成できなければ、さらに別の高い目標を再設定して、同様の志向を持つ上司にアピールし、再挑戦の機会をもらうように動くのです。これが1つ目の「力学優先型場当たり的症候群」の言動です。
 2つ目の「忖度優先型場当たり的症候群」だったのは別の本部長、Bさんでした。

私:B本部長は、生産性向上という方針を掲げられていますが、どうやって実現するのですか。
B本部長:それは、時間が経てば、経営企画部などから全社的な施策が下りてきます。具体的な方策はそれからですね。
私:それからですか。ならなぜ第一に生産性向上を挙げておられるのですか。
B本部長:それは社長が出された全社方針です。
 B本部長は、社長の方針をいち早く掲げ実行しようとしている点では、上司のウケはいいのかもしれません。しかし、自身で戦略やそれに基づく戦術を考えている気配はまったく感じられませんでした。
 彼の話を要約すれば、大きな方針は社長からもらい、具体的な方策は他部署などからもらう。このまるっきり人任せな感じ、考えないで先に実行してしまうとりあえず感は困ったものです。

 こういう人は、社長の方針が変わったら、すぐに自分の主義主張まで変えるでしょう。経営企画から施策が出たら、いち早く採用するのでしょう。一見スピーディで物わかりがよさそうですが、その施策が自分の部署、ビジネスにどう影響するのか、本当に問題はないかといった検討をしません。要は社長の方針に従うのが最優先なので「忖度優先型」なのです。
■理論武装した「場当たり的」本部長

 3つ目の「自己優先型場当たり的症候群」のC本部長は、別の会社でお目にかかりました。この方の部署で第一に掲げられていた「戦略」は「原点回帰」。その意味を尋ねると、「そもそもわが社の創業理念は『顧客第一』です。他部署はそれを忘れてしまっている」とのこと。そして、他の部署の批判を始めました。

C本部長:彼らはターゲットごとの新商品開発とか、科学的手法の導入を声高に掲げていますが、顧客第一を忘れている。それではダメだと思うのです。
私:C本部長、言い返すようで申し訳ないのですが、顧客の要望を聞いても、今の実力で応えられなかったらどうするのですか。やはり科学的手法の導入なども必要ではないでしょうか。
C本部長:そうかもしれませんが、それだけではダメなのです。基本的なことができないのでは、すぐにダメになります。
私:なるほど、その基本的なことを実現するための具体的な戦術はなんでしょうか。
C本部長:それは部員が考えることです。私は基本的なものの考え方を言っているのです。
 とても押しが強い人でしたので、たぶん部下は彼に「顧客第一だ」と言われると、私のように反論はできず、ただそのとおりだと聞くしかないのだろうと思いました。
 
彼が恐ろしいのは、誰も反論できない一般論を持ち出して、ほかの本部や本部長を批判している点です。「顧客第一」といった主張は誰も否定できないもので、問題はそれをどう実現するかなのですが、その戦術は示していません。

 彼が否定した科学的手法こそが戦術なのかもしれませんが、「顧客第一」を掲げていないからダメなのだと抽象度を上げた一般論で否定します。一般論を大声で語り、具体論より上位に立ち、自分の主張のほうが正しいと思わせているのです。
 こういう人は、会社の方向性や部下の成長を真剣に考えていません。まず自分の立場が守られるか、立ち位置が侵されないかを優先して考えるタイプです。「力学優先型」に似ていますが、自分で築いた立ち位置を理論武装している点が特徴的です。

■誰でも「場当たり的」になることはある

 しかもこういう人の打ち出す戦術は、対処療法的になりがちです。結局、周囲は徒労感をおぼえ、大した結果も出せずに終わるのです。

 こうした「場当たり的」な言動をする人に共通するのは、会社の将来やマーケット、現場の状況を深く考えないままに、方針を出すという点です。戦術は戦略のもとに練られるべきものですが、そういうメカニズムも理解できていません。
 戦略も戦術も、きちんとしたデータや論理に基づいて、言語化されなければいけないのですが、往々にして「何となく」で数値目標が定められたり、一部の人の経験則をもとに戦術が練られたり、空疎なスローガンが唱えられたりします。

 そんな指示や命令に従わざるをえないのは、自分が「場当たり的」でない人にとって極めて耐えがたいことでしょう。こういう指示や命令は、本当に必要な改革を遅らせることになるので、会社にとっては極めて危険なのは言うまでもありません。
 ここでは部長クラスの例でお話をしましたが、実際にはもっと小さなレベルでも、はたまた国家レベルでも、「場当たり的」のわなにはまってしまう危険性はつねにあります。

 意外と、その会社や部署にどっぷりはまっていない人のほうが、「なんかヘンでは?」といち早く気づくこともあります。会社の方針や戦略にそんな違和感を抱いたときには、「場当たり的」ではないかどうかという視点でチェックなさることをお勧めします。
北澤 孝太郎 :レジェンダ・コーポレーション取締役

最終更新:3月22日(金)5時50分

東洋経済オンライン

 

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