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日本がマレーシアに「洋菓子のW杯」で負けた理由

3月20日(水)14時30分配信 東洋経済オンライン

パティスリー、洋菓子の世界にもW杯がある。2019年大会で日本は2位。優勝は、まさかのマレーシアだった( ©Julien Bouvier Studio)
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パティスリー、洋菓子の世界にもW杯がある。2019年大会で日本は2位。優勝は、まさかのマレーシアだった( ©Julien Bouvier Studio)
 洋菓子の国際大会として世界中から注目される「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」(フランス語で「パティスリーのワールドカップ」)。1989年に始まった「洋菓子のW杯」とも呼ばれるイベントで、2年に一度、フランス・リヨンで開催される。

 2019年は21カ国が参加。1月27、28日の2日間に分けて行われた。パティシエ3人がチームとなり、10時間以内に、6つの課題作品(氷彫刻・チョコレート細工・あめ細工・チョコレートケーキ・アイスケーキ・皿盛りデザート)を作る。
 味・ビジュアル・オリジナリティーなどが審査され、得点を競った。会場は、世界最大級(来場者数20万人以上)の外食産業向け展示会「SIRHA(シラ)国際外食産業見本市」内の特設ステージだ。

■日本はいつも優勝候補

 実は日本はいつも「優勝候補」だ。アジアナンバーワンの上位常連国で、1991年と2007年に優勝、準優勝は7回。日本人パティシエのパフォーマンスは世界のパティシエをうならせている。

 近年の日本は、3大会連続で準優勝だった。2019年は、強豪・フランスチームが参加しない、とあって(大会ルールで前年度の優勝国は出場しない)「今年こそは優勝か」と関係者の期待を集めたが、結果は準優勝。では優勝した国はどこだったのか。それが、マレーシアだった。
 「世界中のパティシエが、優勝を夢見る大会です。私の最大の目標もクープ・デュ・モンドでの優勝でした」。そう話すのは、2007年大会で20カ国を破り、優勝を勝ち取った日本チームのメンバー・市川幸雄さん(帝国ホテル 東京)だ。当時、日本チームの優勝は、世界のメディアに報じられ、ホテルのチョコレートが1カ月以上すぐに品切れるほどの反響だった。

 今年の大会で日本チームはアメリカ、イタリア、ベルギーら11カ国とともに初日に出場、安定したチーム力と技術を見せつけたが、迎えた翌日、いきなり頭角を表したのがマレーシアだった。
 「圧倒的な手数の多さで、仕事に妥協がない。(日本は)やられるかもしれない、と思った」。マレーシアの作品を見た松島義典さん(2003年の日本代表メンバー)は会場でそう感じたという。結果は、優勝がマレーシア、日本は僅差で準優勝、3位はイタリア、だった。

■「なぜマレーシア?」

 それにしてもなぜマレーシアだったのか?  これまで1度も入賞したことがないのに、いきなり優勝である。

 大会関係者はこう話す。「執念の勝利でしょう。マレーシアは8年前から優勝だけに的を絞っていました。フランスからコーチを招き、徹底的に技を吸収し続けた」。2013年から3大会、日本を準優勝に導いた団長(監督役)寺井則彦さんも勢いを見抜き、「マレーシアに気をつけろ」と次期メンバーにアドバイスしていたという。
 マレーシアの代表メンバーは、ウエイローン・タンさん、オットー・テイさん(アカデミー・オブ・ペストリーアーツ)、ミンアイ・ロイさん(ドブラ・アジア)。3人は同じ製菓学校の現役・または元講師で、2013年から過去4回、または3回、と何度も大会に出場し続けている。

 一方、日本の代表メンバーは、西山未来さん(スタジオ・シュゼット)、伊藤文明さん(パティスリー メゾンドゥース)、小熊亮平さん(グルメ和光)で、全員が企業所属のパティシエ、または洋菓子店のオーナーで、3人とも世界大会は初出場だ。
 同じ選手が毎年出場してはいけない、というルールはない。マレーシアには、国際大会レベルのパティシエが少ないこともあり、同じメンバーを繰り返し出場させてきたが、日本はパティシエの母数が多いため、毎回予選を行い、メンバーを一新する。日本では、広くパティシエにチャンスを与える「登竜門」と考えられてもいるのだ。

 今年は初めて日本代表に、個人店のオーナーパティシエが選ばれた。「家族と店のスタッフの生活基盤を絶対に守った上で、やりきる覚悟でした。営業後の朝4時まで練習した時期もあります」(伊藤文明さん)
 マレーシアに目を向けると「パティスリーを世界レベルに」という目標が見えてくる。

 2025年に先進国入りを目指すマレーシアは、観光産業に力を入れ、2020年には外国人観光客を3000万人と見込む(2018年から16%増)。2018年にはフォーシーズンズ、バンヤンツリーなどのホテルが続々とオープンし、高級ホテルも出そろった。

 「マレーシアでは、ベーカリーやスイーツ、和食やフレンチもそうですが、グローバルに通用する食のクオリティが年々向上しているのです」(マレーシア政府観光局)
 グルメな外国人観光客を喜ばせるために「美味」は欠かせない。マレーシアでは、ハイレベルな菓子職人が求められている。世界大会で優勝したパティシエが在籍するペストリースクールには、学生が集まる。

 また、W杯優勝は国の誇りになる。実際にこの「世界一」を、国内の主要メディアがトップニュースとして報じ、代表メンバーはテレビ番組にも引っ張りだこ。海外からのオファーも入っているという。

■日本チームも「本気」

 日本は21カ国の中で2位。十分すぎるほどすばらしい快挙である。しかし日本のトップパティシエたちは、ここで満足してはいない。
 「ペストリー界でアジアナンバーワンを守り続けて来た日本が、30年たって初めて負けた。これがいちばん悔しい」(松島義典さん)。「日本は技術力で100点をとれている。ただし日本への期待は高く、優勝には見たこともないような斬新さが求められる」(2007~2011年日本チーム団長・柳 正司さん)。

 日本は今年、初めて代表メンバーの選出を1年前倒しにした。準備を1年早めることで、選手の意識を高め、練習時間を増やす考えだ。
 代表メンバー3人は、厳しい国内予選を勝ち抜いた、日本一の精鋭である。「高い技術に加え、チームで同じ目的を達成できる協調性・精神力が求められます」(2019年日本チーム団長・五十嵐宏さん)。国内予選は3月20~21日に行われる。

 日本人は1980年代からフランス菓子を探求し、世界に挑んできた。「いま同じようなパワーをマレーシアはじめアジアの国々に感じるのです」(1989年の初代代表メンバー 望月完次郎さん・帝国ホテル 東京)。
 マレーシアが優勝。日本が準優勝。フランス発のこの大会で、アジア2カ国が表彰台に上がるのは史上初だ。「もう1回、勝ちにいくしかない。今はトレーニングプランをどうするかしか考えていません」。引き続きチームを率いる予定の、五十嵐宏さんは力強い。2年後を見据えて、日本も、本気だ。世界のパティシエたちのチャレンジは、もう始まっている。
市川 歩美 :ショコラコーディネーター

最終更新:3月20日(水)14時49分

東洋経済オンライン

 

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