ここから本文です

裁判を起こしたオーナー、全面勝訴でも費用回収できず《楽待新聞》

2月17日(日)15時00分配信 不動産投資の楽待

(写真:不動産投資の楽待)
拡大写真
(写真:不動産投資の楽待)
家賃滞納や賃料増額…賃貸経営を行うオーナーにとって、こうした問題をめぐって入居者とやり取りする可能性は高い。なんのわだかまりもなく解決すれば問題はないが、揉めた結果、訴訟に至らざるを得ない場合もある。

それぞれの事情から、提訴に踏み切った経験のある2人のオーナーに、その体験を取材した。利益を取るためには、どのような対応をすることが重要なのだろうか。

■2万円の賃料増額を請求

現役銀行員であり、不動産投資家でもある藤哲明さんが、これまでに経験した訴訟の詳細を明かしてくれた。 1件目は2014年、東京23区内に所有する区分マンションで賃料増額を求めた訴訟だ。この物件ではサブリース契約をしており、入居者の賃料は7万2000円、保証賃料は6万7000円だったという。

「しかし、山手線の駅から近く、築年数も10年ほどの物件です。周辺の相場は9万円から9万5000円ほど。マーケットに比べてだいぶ安い賃料だったんです」

もともとサブリース契約のため、相場と同程度の賃料が得られるわけではない。しかし、それでも賃料が安すぎると藤さんは賃料増額を請求することを決意。最終的に減額されることを想定して、入居者の賃料の9万5000円(保証賃料9万円)への増額を求めた。万が一入居者が増額に応じない場合には、立ち退き要請も念頭に入れたという。

まず藤さんが行ったことは、賃料増額について入居者に通知したこと。ここで入居者が要求をそのまま飲めば何の問題もなかったが、そうはいかなかった。入居者が増額に応じなかったため、裁判所に調停の申し立てを行うこととなった。賃料増額については、原則として訴訟の前に調停を行わなければならないと法律で定められている。この調停においても解決に至らず、とうとう簡易裁判所に訴訟を提起することに。

しかし、実際訴訟に入った段階で、入居者に変化が訪れた。

「私も入居者の方も弁護士を立てていなかったので、調停も訴訟も平日昼間に裁判所に行かなくてはなりません。それが月1回くらいのペースなので、特にサラリーマンなどには本当に負担なんです。こうした事情から、入居者も早々に決着をつけたいと思ったんでしょう。判決を得る前に、和解できました」

最終的には、入居者が立ち退くことで合意できたという。そのためには立ち退き費用の支払いや、1カ月分の家賃免除など10万円以上の一時的な支出はあったというが、新賃料で新たな入居者を入れることができれば、すぐに回収できる範囲だった。藤さんは「現在は、保証賃料8万3000円で入居者を入れることができています。1万6000円のアップですね。十分だと思います」と話す。実際、7カ月ほどで回収できたという。

■手間だけがかかって…時には悔しい思いも

訴訟を経験して、平日の昼間に裁判所へ行くなど、時間的な負担があったと話す藤さん。では、金銭的な負担はどの程度だったのだろうか。

「私は弁護士には頼まず、すべて自分で行いました。なので、かかった費用は印紙代や郵便物を送る際の切手代、計2万円程度です。しかし、これは自分が銀行員で、契約書の作成などに慣れていたからできたことかもしれません。通常なら弁護士に依頼するケースが多いでしょうから、数十万円程度かかってしまいます」

費用は安くとも自らの手間をかけたり、あるいは数十万円のコストを支払ったりして、1~2万円の賃料増額を求めるのは割に合わないと考えるオーナーも多いだろう。その上、さまざまな負担をしたとしても、必ず裁判に勝てるとは限らない。

実は、藤さんはもう1件、賃料増額訴訟を経験している。2016年に提訴したこの案件では、1審判決で敗訴してしまったという。

「同じように、サブリース契約の区分マンションでの話です。もともと入居者の賃料が6万5000円の物件でしたが、入居者の入れ替えでその賃料を7万4000円に増額させたんです。しかし、保証賃料は6万1000円と従前のまま。やっぱり、そもそもマーケットの賃料よりも安い額でしたし、それなら保証賃料も上げてほしいと請求しました」

サブリース契約を結ぶ管理会社を相手取ったこちらの案件でも、調停を経て訴訟へと至る。しかし、会社側は弁護士を立ててきたため、藤さんはプロを相手に戦うことになったという。

「1~2カ月に1度というペースで証拠書面を作成して、提出して、出廷して…ということを何度も繰り返しました。本当に手間がかかります。しかも相手はプロで、それと対峙するというのはなかなか辛かったです」

この訴訟で一番ストレスに感じたことについて、「主張を記載した書面は期限までに提出すればいいんですが、相手の弁護士も訴訟には慣れていますから、向こうが書面を出してくるのがいつも期限の直前なんです。だから、こちらがそれに対する準備をする時間がない。すぐに読み込んで、さらに裁判所に持って行って…というのが面倒でした」と藤さん。

このように多大な苦労と手間をかけたにもかかわらず、簡裁の判決は「原告の請求を棄却する」。つまり、賃料増額を裁判所として認めないということだった。

その後、藤さんは控訴。そして提訴から1年以上経過して、控訴審で管理会社と和解することとなった。これについては、「結局、保証賃料を6万4000円とすることで合意しました。3000円の増額です。まったく上がらないよりは、多少でも上がったほうがいいかな、と。1審で負けていますから、高望みはできませんでした」と藤さんは語る。

本来なら、もっと増額を目指したい気持ちは強かった。「難しいですね。手間だけがかかって終わってしまいました」と悔しさをにじませる。

■勝つためにそろえるべき証拠

藤さんは「日本は借り手保護の意識が強く、賃料増額は難しい」と指摘する。だが、そのような中でも、できる限りの証拠書面をそろえることが重要だ。そうでなければ、多少の賃料増額も叶わない可能性がある。藤さんの2件目のケースでも判決では賃料増額を認められなかったが、訴訟の中で、裁判官は「主張はわかる」と理解する姿勢を示したそう。それは、藤さんが多くの証拠を準備してきたことが理由の1つだ。

「裁判官は法律のプロですが、不動産に関しては素人です。その裁判官に向けて、いかにわかりやすく説明できるか、ということが重要です」と述べる藤さんは、どのような証拠書面を準備したのだろうか。

「賃料増額訴訟で何より重要になるのは、やっぱりマーケットの賃料です。成約事例や募集事例を集めました。なじみの不動産業者に依頼できれば教えてもらったり、もしくは『この周辺で部屋を借りたいんです』と言って聞き出したり」

さらに、地価上昇や周辺地域の大規模開発計画、賃料上昇の予測に関するレポートなど、さまざまな資料を集めたという藤さん。「少しでも有利になると思われるものはすべて提出しました」と話す。こうした資料集め、作成はもちろん多大な手間がかかる。しかし、この手間を惜しんでは賃料増額は困難なままだ。

■契約してるのに滞納家賃を支払わない保証会社

藤さんが経験した訴訟はこれだけではない。もう1つ、2012年に起こした家賃滞納訴訟の経験を教えてくれた。区分マンションの入居者が滞納していた家賃を、家賃保証会社が支払ってくれないというひどい事例だ。

「この物件は50平米と広い部屋で、家賃は14万5000円でした。契約の際には家賃の保証委託契約を条件としたのですが、入居者は以前から使っていた保証会社を使いたいというので、その保証会社を特に調べずにOKしました。これは私の失敗でした」

入居後、3カ月程度は問題なく入金があったそうだが、その後徐々に入居者が滞納するように。その上、保証会社も家賃の代行支払いを渋るようになってきたという。

「調べてみると、その保証会社は社員わずか数人の零細企業で、日々の運営資金にも追われているような状況でした。支払い能力がなかったんです」

家賃を滞納した入居者は退去させた藤さんだが、その際に入居者と連絡がつかなくなったため、保証会社に滞納賃料と原状回復費の総額約50万円の支払いを求めた。だが、支払い能力のない保証会社はこれを取り合わず、藤さんは訴訟を提起する羽目に。求めた金額が50万円だったため、迅速に解決が図れる可能性が高い少額訴訟を行った。契約もしっかり交わしており、負けることはない裁判だ。

「判決では、一部の原状回復費が貸主負担になりましたが、35万円を取り戻すことができました」

しかし、この経験から「保証会社をしっかり見るようにするようになりました」と藤さん。保証会社によっては、保証賃料に上限があったり、原状回復費は保証しなかったりという契約内容になっている場合もあるので、しっかり契約内容を読み込むことが大切だ。さらに、「支払い能力のある大きな会社を選ぶに越したことはないと思います」と話す。藤さんはまず「その会社が大手企業か?」を確認し、その後保証内容に問題がないかどうかをチェックするという。

■全面勝訴…なのに苦労の連続

「訴訟は、もう二度と自分自身も経験したくないですし、他の大家さんの身にも起きてほしくないと思っています」

2度の裁判を経験した、「お宝トミー」さんはこう語る。2件とも家賃を滞納し、夜逃げした入居者に対して滞納賃料や原状回復費を請求した裁判だという。

「1件目は、10年くらい住んでいた入居者だったんですが、不景気のあおりを受けたのか家賃が滞納気味になり、とうとう夜逃げしてしまいました。管理会社から何度も通知をしてもらっていたのですが、連絡が取れず…内容証明も数回送っていましたが、なしのつぶてでした。安否確認ということで警察立ち合いのもと家に入ると、扉を開けてすぐの壁に鍵が貼りつけられおり、そして昨日まで生活していたそのままの形で、持ち物などが残されていました」

その後も入居者本人の行方はわからず、連絡もとれないまま。お宝トミーさんは保証人になっていた入居者の兄に内容証明の送付などを試みたが、こちらは居場所はわかるものの何度連絡しても返答がなかった。そのため、保証人を相手取り訴訟に踏み切ることに。求めたのは滞納されていた家賃約27万円だ。弁護士には依頼せず、自身で訴状などを準備した。裁判所で書記官に書き方を聞きながら、書面を作成したという。

「設定された第一回目の口頭弁論期日、保証人は裁判所に来ませんでした。答弁書の提出もなかったので、被告は原告の主張を認めたということになり、私の全面勝訴です」

無事に支払い命令が出たが、ここで問題は解決しなかった。保証人が支払いに応じないのだ。同氏は、「判決後、弁護士に依頼して、弁護士権限を使って銀行口座の情報開示の請求などを行いましたが、口座にはほとんど残高がなかったり、開示を拒否する銀行もあったり…大変でした」と、苦労の連続だったと振り返る。

その後、とうとう保証人に弁護士とともに会いに行き、約5年間、月5000円ずつの支払いを約束させたというAさん。だが、結局最終的には全額回収ができなかったという。

「月5000円も滞るようになり、私が電話すると、『私ももう自己破産します』と言われたんです」

保証人は「最後に5万円ならかき集められます。これでもう帳消しにしていただけませんか」とお宝トミーさんに伝えたという。自己破産されてしまえば、5万円どころか1円の回収も望めない。「支払いの残りも10万円ほどだったし、正直に伝えてもらいましたし、それで手を打ちました。最終的には円満な和解です」と語った。

■回収できないと分かった上で踏み切った訴訟

2件目の裁判も夜逃げした入居者に対するもの。「滞納額は大した額ではなかったんですが、中がめちゃくちゃだったんです。なぜか部屋中を黒く塗りつぶされていて…原状回復費の見積が80万円になりました」

そのため、80万円の原状回復費を請求する訴訟を提起したお宝トミーさん。だが、本人にも保証人にも連絡がとれず、「お金は回収できないと思っていたので、勉強のために裁判をしようと思いました」と夜逃げした入居者本人を相手取り、提訴したと語る。

「こちらも、弁護士には頼まず、自分自身で裁判を行いました。念のため弁護士に依頼するといくらかかるのか聞いたんですが、約40万円とのことでした。もともと回収できないことを前提にしていたので、それでその額の弁護士費用を払うのは費用倒れになってしまうと思ったので、依頼することはやめました」

1件目と同様に被告からの反論がなかったため、判決はお宝トミーさんの全面勝訴。しかし、やはり入居者と接触できず、最終的に原状回復費を回収することはできなかった。

「日本の司法制度は、大家さんにとって不利ですよね。自己破産したり、連絡がつかなかったり、お金がなかったりする人からお金はとれない。だから、もう訴訟はできればやりたくないし、やるものではないと思っています」

2度の経験から、お宝トミーさんは現在、物件に入れる入居者を厳しく見ていると話す。「単身者なら、よっぽど公務員などしっかりした担保がない限り、保証会社と契約してもらっています」という。きちんとした保証会社との契約で、家賃滞納のリスクを限りなく低くすることが可能だ。

トラブルが起きる前にリスクヘッジをとることの重要性を実感しているお宝トミーさん。「訴訟を経験したことで、今の賃貸経営に生かすことができているので、ある意味感謝かもしれません」

■回収率の悪さ、かかる手間を踏まえて

誰しも裁判を起こしたくはないだろう。そのために、第一に信頼のおける保証会社との契約など、リスクヘッジをきちんととることが大切になる。

それでも万が一訴訟を起こさざるを得ない場合もある。費用を考えて本人訴訟をする際は手間暇を惜しまず、少しでも有利と思われる証拠を収集することが大切だ。一方、手間をかけないためにプロに依頼する時であっても、きちんと弁護士と連携をとり、オーナー自身が提供できる証拠などはきちんと開示していきたい。だが、プロに頼んだからといって、必ず勝てるとは限らず、勝てたとしても全額回収ができるとも限らない。

訴訟を経験したオーナーたちが指摘するように、その回収率の悪さやかかる手間を十二分に考えた上で提訴することが重要だ。
不動産投資の楽待 編集部

最終更新:2月17日(日)15時00分

不動産投資の楽待

 

情報提供元(外部サイト)

不動産投資の楽待

不動産投資の楽待

株式会社ファーストロジック

最新記事を毎日更新

実際に不動産投資を行っている投資家の
「失敗談」や「成功談」をはじめ、
不動産投資をするなら必ず抑えておきたい
ノウハウを記事にして毎日配信!

【あわせて読みたい】

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

Yahoo!ファイナンスの特集

平均年収ランキング

ヘッドライン