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国が画策、運賃「値上げ」で駅ホームドアを設置

2月12日(火)5時30分配信 東洋経済オンライン

東京メトロ東西線の駅でのホームドア設置作業の様子(撮影:大澤誠)
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東京メトロ東西線の駅でのホームドア設置作業の様子(撮影:大澤誠)
 昨日の夜、駅に降り立ったときにはホームドアが設置されていなかったのに、今朝になったら設置されていた。こんな経験をした人が少しずつ増えているだろう。

 国土交通省は2020年度までにホームドア設置駅数を約800駅とする目標を掲げている。2018年3月末時点で725駅に設置済みであり、さらに2020年度までに183駅に設置計画があるという。つまり2020年度時点で900を超える駅にホームドアが設置されるわけだ。この数字だけ見ると、ホームドア設置計画は極めて順調に見える。
 「転落事故の約半数を占める、1日の利用者が10万人以上の駅を優先的に整備する」と、国交省は方針を決めている。ところが、JR新宿駅やJR渋谷駅を見てわかるとおり、利用者が多いにもかかわらずホームドアが設置されていない駅も目立つ。

■設置を阻む「費用の壁」

 利用者が10万人以上いる275駅のうち、2018年3月末時点でホームドアが整備されているのは105駅にすぎない。未整備駅が6割を占めていることになる。
 設置されていない170駅については2020年度までに57駅で整備予定があるというが、それを合わせてもようやく過半数。2021年度以降の計画も含めると、新型ホームドアの導入や駅改良に合わせて101駅で整備され、ようやく263駅に設置されるという。ホームドアを本当に必要とする駅への設置については、なかなか思うようには進まないというのが実情だ。

 ホームドア設置を阻む理由の1つが費用の壁だ。機器の費用、設置に伴う人件費だけでなく、駅ホームを改良したり、ドア位置を統一した新型車両を導入したりするといった費用がかかる場合もある。
 駅のバリアフリー化に際しては国や自治体が3分の1ずつ補助を行うことになっているが、国も自治体も財政事情は厳しく、現実には鉄道事業者の負担割合が3割を超える事例も少なくないようだ。

 ホームドアを設置したからといって、鉄道事業者の収入が増えるわけではない。そのため、鉄道事業者が消極的になっているという見方も国交省内にはある。

 そんな矢先、設置駅数を増やすために、費用を利用者に負担させてはどうか――。国交省内の検討会でこんな意見が飛び出した。
 2017年7月から鉄道事業者や学識関係者などを交えて「都市鉄道における利用者ニーズの高度化等に対応した施設整備促進に関する検討会」が行われている。16回にわたって行われた検討会の結果として、2018年9月に出された報告書には「利用者の利便性、安全性及び快適性向上に著しく寄与すると認められるものを、『更なるバリアフリー化』と位置づけ、これに係る料金制度を導入する」ことが提案された。

 バリアフリー設備費用は輸送の対価ではないため、その費用は運賃とは切り分けて考える必要がある。そのため、新線建設に係る加算運賃制度のように、バリアフリーに使われることが明確になるような制度を検討しているという。
 ただ、運賃に含めるのではないにしても、利用者の金銭的な負担が増えるのであれば、実質的な運賃の値上げにほかならない。

■アンケートでは「賛成」優位

 この提案を利用者はどう受け止めているのか。同報告書では複数の消費者団体にも意見を求め、「財源の確保が課題であることは理解できるため、(中略)利用者負担を求めることは、更なるバリアフリー化を推進するための選択肢の一つになるのではないか」というコメントを得ている。
 さらに、国交省が鉄道利用者を対象に行ったアンケート調査の結果も掲載されている。同アンケートでは、整備費用のすべてを利用者が負担することについて、非高齢者(20~64歳)で「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人の割合は52%、「反対」「どちらかといえば反対」と回答した人の割合は18%だった。

 また、整備費用の一部を利用者が負担することについて、非高齢者で「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人の割合は58%、「反対」「どちらかといえば反対」と回答した人の割合は13%だった。アンケート結果を見る限り、利用者の多くが整備費用の負担に賛成の意思表示をしている。
 また、整備費用のすべてを利用者が負担することに対して「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人に「1乗車あたり10円の上乗せは妥当か」聞いたところ、非高齢者の74%、高齢者の80%が妥当と回答している。

 ただ、具体的に料金を徴収するとなると、駅ごとに負担するのか、路線ごとに負担するのかといった制度設計に加え、IC乗車券のシステム改修といった課題が出てくる。国交省の担当者は「現在は報告書で指摘された課題を解決すべく、具体化に向けて検討を進めている段階」と説明する。制度がスタートする時期は未定としながらも、「値上げ」に向けて着々と準備が進んでいる。
 では、もしホームドア整備費用を利用者に負担させる仕組みが導入されたら、鉄道各社はそのような料金制度を導入するのだろうか。首都圏の主要な鉄道会社に確認したところ、多くの会社は「制度が決まっていない以上、検討もしていない」と明言を避けるが、中には個人的な意見と前置きしながらも「せっかくそのような制度が導入されたら、前向きに考えたい」という会社もあった。

 また、別の鉄道会社からは、「個々の利用者から直接徴収するのではなく、通勤定期券の割引率を引き下げる形で資金を捻出する方法はどうか」というアイデアを紹介する発言があった。通勤定期券代は企業が負担しているケースが多いことを踏まえた発言だ。確かに利用者の懐が直接痛むことはないが、企業の負担増が従業員にはね返らないとも限らない。
■収益力が高ければ自力でできる

 東急電鉄は国の新たな制度を待つことなく自力でホームドア設置を進めており、2019年度中に東横線、田園都市線、大井町線の全駅にホームドアを設置する。東京メトロも全路線全駅へのホームドア導入計画を策定済みだ。このように自力でホームドアの設置を進めている会社がある中で、もし新制度を活用する会社が出てくるとしたら、それはホームドアをを自力で設置する余裕がなく経営が厳しいと認めるようなものだ。
 上場会社を見渡すと、JR東日本、JR西日本、JR東海、相鉄ホールディングス、京急電鉄、京王電鉄、京成電鉄、近鉄グループホールディングス、阪急阪神ホールディングス、京阪ホールディングス、名古屋鉄道、そして東急など、2017年3月期または2018年3月期に最高純益を達成した鉄道会社の名前が続々と出てくる。

 その稼ぎの余剰分を配当として株主に還元する余裕があるなら、ホームドアを自力で整備するほうが、はるかに社会的責任を果たしていることになる。
大坂 直樹 :東洋経済 記者

最終更新:2月12日(火)8時04分

東洋経済オンライン

 

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