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資産を次の世代へ、健康なうちの「家族信託」とは《楽待新聞》

2月10日(日)20時00分配信 不動産投資の楽待

(写真© ohayou!-Fotolia)
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空室、家賃滞納、ゴミ屋敷化、老朽化など、アパート、マンション経営にはリスクが付き物。だが、それらは不動産投資をするのであればリスクとして想定し得る問題といえる。

では、オーナーの健康問題はどうだろうか。自身が年齢を重ね、どこかで発症するかもしれない認知症、不慮の事故、突然の病。不動産には契約や権利の問題があり、オーナーの意思疎通が難しくなった場合、たとえ身内であっても契約行為はできない。

こうした事態に備え、健康なうちに将来どうしたいのかを家族に伝えておく方法が注目されている。それが「家族信託」だ。

■問題山積のアパートで、売るに売れない状況

ファイナンシャルプランナーで、家族信託やエンディングノート、遺言の活用など、スムーズに資産を家族に継承する活動を啓蒙している安田まゆみさんのもとには、マンションやアパート経営に関する相談が絶えない。

真中典子さん(仮名・53歳)が父親の吉田孝蔵さん(仮名・94歳・戸籍上は母親の藤江さんの再婚相手で養子縁組済み)のアパート経営を任せられたのは、昨年のことだった。管理を任せている不動産店から送られてくる書類をすぐになくすようになり、確定申告に手間取るようになったことがきっかけだった。孝蔵さんは、妻の藤江さん(仮名・86歳)の了承のもと、自身の管理能力が徐々に低下していることを自覚し、典子さんに「アパートを売ってほしい」と願い出た。

しかし、いざ売りに出す準備を始めてみれば、メンテナンスがされておらず、外壁がはがれて早急な修繕が必要になっていることがわかった。さらに、1年以上の家賃を滞納した若い女性が夜逃げをしたということも発覚。夜逃げした人の明け渡し訴訟には相当時間がかかる上、部屋のリフォームや入居付けなどをしなければ思うような価格で売却はできない。

問題を解決する間に孝蔵さんが認知症と診断されたら、家族が売却どころか管理することもできない。判断能力が衰える前から利用できる任意成年後見制度を利用するにしても、申請に時間がかかるばかりか、申請が通っても家庭裁判所の管轄下におかれるため、売却をしたくても家族の思い通りにいかないことが起こりうる。まして、判断能力が衰えてからでは法定後見制度を利用するしかなく、その場合家庭裁判所の判断次第では、家族ではなく司法書士や弁護士などの第三者が後見人として選任される可能性もある。

そうなってはお手上げということで、典子さんは、兄の吉田史彦さん(仮名・57歳)と連れ立って安田さんに相談したというわけだ。

■家族信託というソリューション

そこで、安田さんが紹介したのが「家族信託」である。

「孝蔵さんは、現在のところ判断能力がないという状態ではないので、売却の意向を確認しながら当事者として関わることができました。孝蔵さんがアパート経営を典子さんに任せる委託者かつ家賃などの収入を受け取る受益者に、典子さんが孝蔵さんに代わって経営をする受託者に、そして、典子さんが孝蔵さんの意思に反して適切な経営をしていないか監督する受託者監督人を兄の史彦さんが行うという家族信託を組成することができました。名義は受託者の名義になるので、委託者の判断能力がなくなってしまった後も、成年後見制度を利用せず信託財産の管理運用ができるようになりました」(安田さん)

認知症になってからでは成年後見制度を利用するしかないが、家庭裁判所の管轄下におかれるため、例えば資産を売却しないと介護施設に入居できないというような合理的な理由を除き、売却をしたくても家族の思い通りにいかないことがある。

家族信託を組成することで、現在物件が抱えている問題である明け渡しの訴訟に時間がかかって、その間に孝蔵さんが認知症になっても、典子さんの判断で修繕や売却ができるようになった。また、万が一売却前に孝蔵さんが亡くなっても、第二受益者を妻の藤江さんにしておくことで、相続登記の手続きをせずに、家賃収入は藤江さんの手元に入るようになったのだ。

■「元気なうちに財産を託す」という選択

そもそも、家族信託とはどのようなものなのだろうか。

信託と聞くと、投資信託をはじめ金融機関が不特定多数に対して営利目的に行う商事信託を思い浮かべることだろう。これは、国から許可を受けた事業者が預貯金などに限って信託するものだ。この商事信託に対して、国の許可がない一般人でも非営利目的で特定少数に対してのみ信託可能なのが民事信託。金融機関では信託できない持ち家、賃貸アパート、マンションをはじめとする、不動産など幅広い財産を信託財産とすることができる。

そして、家族のために家族同士で行われる民事信託のことを、便宜上、家族信託と呼んでいる。

家族信託は、委託者と受託者の2人が条件に合意し、契約を結んだ時点で組成されたことになる。公証役場で公正証書として認めてもらう必要もない。

最終的な不動産の信託登記や、決算など税務に関わる書類提出には専門的な知識が求められるものの、それらの書類作成は司法書士や弁護士、税理士の資格者でなくてもよい。

平成18年12月に信託法が改正され、高齢者の財産管理や遺産の承継にこの信託が利用しやすくなり、委託者が元気なうちから財産を託すことができるようになった。認知症対策だけでなく相続対策としても注目されている。

けがや脳の病気で意思が伝えられない状態や、寝たきりというリスクに対しても同様の効果を発揮する。オーナーである委託者が健常なうちに家族信託を組成しておけば、受託者がアパートやマンションの管理をし、家賃収入を委託者の意志通りに受益者に分配できる。今回のケースでは、孝蔵さんが委託者であり受益者だが、存命のうちに配偶者や子供たちを受益者にすることもでき、次の世代につなぐことも容易だ。

■経営者のリスクは働き盛りにも

安田さんは、高齢者ばかりでなく、むしろ働き盛りの人こそ、万一に備えて家族信託を組成して、手を打つべきだと語る。

「働き盛りの人は、万一に備え生命保険に加入することはあっても、経営しているアパートやマンションをこの先どうするかなど、家族に伝えることはまずありません。でも、若くしてお亡くなりになったり、命は取り留めても重い後遺症から寝たきりになったりして、この先どうしたらいいかという相談は多いのです」

保険でお金のことはカバーできても、アパートやマンション経営に関して、この先どうするかについての指針は、家族信託を組成しておくほうが後々スムーズだと安田さんはアドバイスする。

働き盛りの人が委託者として信託を組成したとしても、経営から手を引かなくてはならないというわけではない。現役でいる間は、委託者として常に受託者と相談して、アパートやマンションを管理運営すればよい。信託を組んで委託者となる=隠居生活者ということではないのだ。

だが、受託者が健常な委託者に相談せず、物件を売却したり、管理運営したりしてしまうことは起こり得ないのだろうか? 専門家が適切な家族信託を組成したとしても、確かに受託者が暴走しないとは限らない。そこで前出の典子さん・孝蔵さん親子の場合は、図のように「受託監督人」を据えた。受託者である典子さんが家族信託から逸脱しないようにチェックし、指導できる役割を持っており、受益者である孝蔵さんの利益は守られる。

さらに、全体を見渡し家族信託が問題なく運用されるようにコントロールする信託監督人に安田さんが就いた。

■家族信託の組成はプロに任せる

家族信託はどこでどのように組成できるのか。

前述したように、委託者と受託者の二者が契約を結んだ時点で家族信託は組成される。

だが、家族信託のガイド本やサイトには「公証役場に相談を」「弁護士や司法書士といった士業の専門家を頼りに」と書かれていることが多い。それは、契約を交わして家族信託が組成できても、不動産の登記、相続になれば、税務手続きなど、素人には面倒なことが多いからだ。しかし、その実、専門家は少ない。

安田さんによれば、家族信託は歴史が浅く十分に普及していないこともあって、知識がある人が少ないのだ。

「士業の先生に相談するときは、家族信託に詳しいかどうかサイトで確認して、そのうえで組成の実績のある先生に相談したほうがいい」と安田さんは忠告する。

実際、安田さんがクライアントから家族信託の組成の依頼を受けた場合は、その家族において起きうるリスクを視野に入れ、存命中の経営や税務相談から、委託者亡き後の身の回りの始末や財産の配分といった相続に関することまで、その分野の専門家を集めたチーム体制で問題解決に当たっている。

家族信託は、新しい法律で定められた制度で判例も少ないことから、多角的・多面的な視点で、組成することが求められるという。

■家族信託は遺言と同じ効果も発揮

家族信託の可能性は相続にも及ぶ。これは大切な注目点だ。

例えば何らかの障がいがあって財産管理ができない子どもがいて、親である自分たちの死後、ひとりで生活していけるのかという不安がある場合でも家族信託が役に立つのだ。このとき、夫婦が委託者となり、例えば信頼できる親戚を受託者に、子どもを受益者にした信託を組成することで、子どもの将来に対して遺言と同じ効果をあげることができる。また、世話になる受託者や施設に財産を贈ることも可能だ。

遺言状や、生前の権利移転をすればよいのでは、と思われるかもしれないが、生前に移転をするのであれば、贈与することになって税金はそれ相応になる。

また、仮に委託者や受託者が「信託財産に関係のない部分で多額の債務を負ってしまった場合でも、信託財産は差押えられない」という倒産隔離機能があり、受託者の将来に必要なお金を守るうえでも有効である。

現在では孫の教育資金を1500万円まで非課税で贈与できる制度利用した信託商品が人気を集めている。金融機関は相応の手数料を取って信託業務を行っているが、実はこれも家族信託で組成可能だ。このように、家族信託の自由度は大きいのである。

■費用はどの程度か

気になる費用だが、家族信託を組成するには、コンサルティング(スキーム設計)の報酬、公正証書作成の公証人手数料、信託を登記するための司法書士(弁護士)の報酬と実費がかかる。

「あくまでも目安で、財産内容によって異なりますが、管理財産が5000万円の場合で、スキーム設計から組成まで50万円ほどかかるとみたほうが良いかもしれません」(安田さん)

それ以外に、公証人手数料が数万円、信託の登記の報酬は約10~30万円、登録免許税は不動産の価格の0.4%(土地は0.3%)が必要だ。

家族信託はケースごとに、クライアントと何回も面談してスキームを設計していくため、家族信託の組成には費用がかってしまう。しかし、生前贈与における贈与税と比較してみると比較的安価だ。5000万円の土地を贈与登記した場合、不動産取得税と登録免許税は175万円(平成29年7月時点)だが、信託による移転登記は、登録免許税の15万円のみですむなど、長い目で見れば金額的なメリットもある。

最近、不動産関連のデベロッパーなども相続対策を含めた「家族信託セミナー」などを開催することも増えており、参加して基礎知識を学ぶのも一手ではある。しかし、家族信託という誘い文句から営利目的に行う「商事信託」を勧められる可能性もある。その場合は、「民事信託」の一つである家族信託組成の実費とは異なるので、注意が必要である。

■家族信託は何度でも組成し直せる

働き盛りのオーナーが、万一に備えるといっても、家族には縁起でもないと相手にされないということもあるかもしれない。想定外の事故、病気などで、意思が確認できない状態や判断ができない状態になる可能性は大いにある。

まったく手を打っていなかった場合は、法定後見制度の利用を余儀なくされ、後見人を申し立てることになる。後見人が着任するまでの数カ月は、賃借人が退去した場合には、新たな入居者と契約ができないし、修繕やリフォームのお金を動かすこともともできず、売買契約もできなくなる。

しかも、専門職の後見人が選任された場合、管理する財産が5000万円を超えれば、存命中は裁判所が決めた報酬(おおむね5~6万円、場合によってはそれ以上)を支払い続けなければならない。その上、空室対策のための修繕やリフォームのお金についても渋る後見人の話もよく耳にする。後見人の仕事はアパートやマンション経営ではない。あくまでも財産の管理だからだ。

一方、家族信託であれば、委託者が健常であれば、何度でも組成し直すことができるので対処が可能だ。高齢者だけでなく働き盛りであっても、自身が残してしまう家族のためにも、万が一の事態に備えた対策を行ってみてはいかがだろうか。
不動産投資の楽待 編集部

最終更新:2月10日(日)20時00分

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