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「自然に曲がる」を追求 新型Mazda3 マニアックに試乗解説

1月30日(水)7時00分配信 THE PAGE

 昨秋のロサンゼルスモータショーで世界初公開され、流麗な魂動デザインやスカイアクティブ(SKYACTIV)Xエンジンで注目を集めた新型Mazda3(国内名アクセラ)。アメリカで先行して発売され、日本でも年内の登場が噂されている。このマツダの新世代車に、モータージャーナリストの池田直渡氏が米カリフォルニアでひと足先に試乗した。どんな乗り味で、何が進化したのか。「クルマが曲がる」メカニズムについてタイヤの変形に着目し、池田氏が少しマニアックに解説する。

過渡特性にこだわったMazda3

[画像]カリフォルニアで行われた試乗会でわかったMazda3の走りを支える技術
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[画像]カリフォルニアで行われた試乗会でわかったMazda3の走りを支える技術
 ウェスト・ハリウッドのホテルに戻ってクルマを降りる時、ちょっと途方に暮れた。Mazda3はとても良い。結論はそういうことで決まった。ただそれ以上にどこがどう良いかを書くのは至難の技だ。

 まず、これと言って穴がない。もちろんゼロではないが「ここさえ良ければ」的に書ける部分がない。強いて言えばパワートレインにもう少し存在感があっても良いかとは思うが、日本マーケットで主役になるであろうディーゼルと「SKYACTIV-X」は今回の試乗メニューにない。要するにエンジンのメインディッシュはまだ出てきていないのだ。前菜だけのタイミングでそこにダメ出ししても仕方ない。

 あるいは、特に感心させられたブレーキの何がどう良いのかを説明するためには、これまでのブレーキがどうダメかを書かなくてはいけない。毎日カップラーメンを食って良しとしている人には、人間の体を作る栄養素の基本から説明しないと分からないのと同じで、今知っている「普通」が、本当は普通じゃないことから説明しなくてはいけない。

 そういう基礎講座みたいなものを、ブレーキだけじゃなくて一つひとつクルマの全部についてやらなくてはならない。月曜日掲載の記事「新型『Mazda3』に先行試乗 さらに進化した『理想の座らせ方』」でそれをやった結果、シートとボディとブレーキだけで正味4900文字になった。毎度長い長いと言われる筆者の記事基準でもゆうにいつもの2割増だ。

 さて、どうしたものか? まあ悩んでも1文字も埋まらないので手を動かすことにする。まずはクルマの簡単な紹介からだ。目の前に並んでいるのは北米仕様のセダンと欧州仕様のハッチバックの2台で、セダンには北米専用となるSKYACTIV-G 2.5が6段ATと組み合わされる。タイヤはオールシーズン。対するハッチバックはと言えば、こちらは欧州モデル。SKYACTIV-G 2.0にベルト駆動式のマイルドハイブリッドを追加し、これを6段MTで走らせる。タイヤは普通のサマータイヤだ。

 クルマの出来が良いと冒頭に書いたが、それはフィールとして何がどのように良いのか? それは「クルマが曲がる」という一連の挙動の過渡特性を一つひとつ検分して、連続性を作り出したからだ。と書いても、ほとんどの人には分からないだろう。なので、これからタイヤの仕組みの講義を始めたい。どうやっても簡単には書けないので面倒な人は「過渡特性にこだわったのがMazda3なんだよ」という理解で勘弁して欲しい。

クルマが曲がるときタイヤはどうなっているか

 さて、面倒な話が好きな人のために以下を書く。クルマが曲がるという現象はそもそもどういうことなのか? ちょっとそれを時間軸に沿って書いてみたい。ひとまず加減速の話は外す。外さないと大変なことになるので、これから書く部分については、しかるべき加減速が常識的に伴っているものと考えていただきたい。

 直進からハンドルが切られた時、当たり前のことだが前輪の向きが変わる。時間軸を短く取って行くと、最初に起こるのはトレッド面(地面との接地面)のねじれだ。捻られたタイヤはタイヤ自身が捻られる力と路面から横向きに押される力の合成力でトレッド面が変形する。消しゴムを使っている時をイメージしてもらえば良い。
[画像]まずはタイヤから。マツダは第2世代SKYACTIVアーキテクチャーの開発に祭して、タイヤの見直しを徹底して行った
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[画像]まずはタイヤから。マツダは第2世代SKYACTIVアーキテクチャーの開発に祭して、タイヤの見直しを徹底して行った
 一見円筒に見えるタイヤだが、実は空気の入った風船なので、トレッドの中央はショルダー部より出っ張っている。だから静止状態のタイヤは、接地点中央が一番強く路面に押し付けられ、中央から離れるほど接地圧が低くなる。接地面は四角形ではなく角丸の四角形になる。丸ではなく四角になっているのはラジアルタイヤの外周、トレッド面の下に仕組まれたベルトのタガによって、中央が膨らむことを押さえ込まれているからだ。中央を膨らませようとする空気の力とベルトの拘束力の拮抗によって、角丸の四角になっているわけだ。

 これが捻りと横力で変形させられるとどうなるか? 例えば左にハンドルを切った時、接地点中心は、タイヤの変形によって曲がる方向と同じ左、かつ後方へ移動する。トレッドが変形して接地圧分布が変わり、接地面の形状は角丸の三角形になる。非常に大雑把に言うとこの中心点のズレがテコになってハンドルの手応えを生む。元の中心点が支点で、移動した接地中心が力点、ステアリング系のメカニズムを経てハンドルが作用点だ。サスペンション系のオフセットも重要だがタイヤだけに着目するとそうなっているのだ。

 同時にタイヤの中心線とタイヤの進行方向にズレが生じる。これを「スリップアングル」と言う。トレッドの部分部分を見れば接地圧の高いエリア、つまり接地中心付近はグリップが高く、そこから離れて行くほど滑りが生じる。ゴムは部位毎に変形が生じるから微細に見れば場所によって滑り率が変わるのだ。

 転動するタイヤにスリップアングルが付くと、タイヤに対する横向きの力、サイドフォースが発生する。ちなみにこのスリップアングルに対してどの程度の比率でサイドフォースが発生するかを「コーナリングパワー」という。要するにグラフの傾き角度だ。

 厳密に見ると、タイヤ自体に対して真横であることと、クルマ自体に真横であることは異なる。横向きの力にはサイドフォースとコーナリングフォースと言う言葉があるが、タイヤ基準がサイドフォース、車体基準がコーナリングフォースとなる。

エコタイヤでは自然に曲がるクルマは作れない

[画像]全体に卵型のシェイプを取るのはそれがボディ剛性確保に有利だから
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[画像]全体に卵型のシェイプを取るのはそれがボディ剛性確保に有利だから
 さて、(1)タイヤが捻られる、(2)トレッドが変形して接地中心が移動する、(3)スリップアングルが付く、(4)スリップアングルによってサイドフォースが発生する――まで説明した。タイヤが横方向の力を出し始めたのだ。

 これによってクルマは自転運動を始める。俗に言う“ヨーが立ち上がった状態” (クルマを真上から見てその軸を中心に回転し始めた)だ。クルマにヨーがつくとクルマの重心が外側前輪方面へ移動する。この移動量を規制するのがサスペンションスプリングで、移動速度を規制するのがダンパーだ。まずここまでを見よう。

 タイヤのトレッド剛性の高さとタイヤ全体のケース剛性がトレッド面の変形を決めるので、まずそれを最適にすること。今回のMazda3で言えば、セダンは雪や泥濘路を想定したオールシーズンタイヤのために、トレッド面に配置されたブロック剛性が低い。これがハンドル操作に対しての反応をわずかに混濁させている。対してサマータイヤを履くハッチバックはオールシーズンタイヤに対して、ブロックの剛性が高いので、スッキリして俊敏な動きをするのだ。

 と書くと、「そうかタイヤが変形するのはダメなんだ」と考える早とちりの人がいるかもしれないが、そうではない。ここまでのタイヤのメカニズムを振り返ってもらえば分かるように、適切な変形こそが曲がる力を生み出す。ところが、ゴムは変形すると発熱する。それは別の角度から見れば、エネルギーの消費だ。燃費が悪くなる。だから最近のエコタイヤはこの内部熱損失(ヒステリシスロス)を嫌って、それを減らす競争に血道を上げている。

 マツダは、それでは自然に曲がるクルマが作れないと考え、タイヤメーカー4社に専用タイヤの開発を依頼した。採用されたのはトーヨータイヤで、今回の第2世代SKYACTIVアーキテクチャーにとって非常に重要なパーツになっている。おそらくはアフターマケットでタイヤを違う銘柄に履き替えると、ここのバランスが狂ってしまうと思う。

専用タイヤの開発をメーカーに依頼

 さて次に、クルマの重心が移動する間に起きることだ。左にハンドルを切ると右前輪に荷重が移動し、左後輪から荷重が抜ける。右前の沈み込み量と速さをそれぞれスプリングとダンパーで規制したが、それだけでは十分ではない。左後ろが伸びる量と速さも重要だ。もちろん、これを規制するのもスプリングとダンパーだ。右前と左後ろのバランスによって、どのくらいの移動量と速度で荷重が移動するかが決まる。当然、それはタイヤの性能とバランスさせなくてはならない。

 マツダは「第6世代」の時から、この斜め(ダイアゴナル)ロールに着目し、連続的かつ適切なロール量を見極めようとしてきた。エコタイヤ全盛の今、アシのセッティングだけではどうにもならないことを見極めたマツダは、タイヤ開発を依頼したのである。
[画像]動きの連続性を維持するために最も必要なのはシャシーの剛性
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[画像]動きの連続性を維持するために最も必要なのはシャシーの剛性
 ただし、フロントタイヤはもちろん、ダイアゴナルロールをきれいにコントロールするためには、シャシーの剛性向上が必須である。特に斜め方向を結ぶ構造材を強くしなくてはならない。だからマツダは縦横の環状構造を増やして、力の伝達が混濁しないシャシーを作ったのだ。

 さて、ヨーが立ち上がって、クルマの進行方向が変わると、今度はクルマの中心軸と実際の進行方向にズレが生じる。これによって、転舵軸を持たす、舵角の付けられない後輪にもスリップアングルが付き始める。先のお約束を思い出してもらえば分かるが、このタイミングで初めてリヤタイヤもサイドフォースを発生させ、遠心力に対抗する求心力を出し始める。
[画像]スタイリッシュなリヤビューだが、開口面積を我慢してでもリヤの剛性向上を優先させている
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[画像]スタイリッシュなリヤビューだが、開口面積を我慢してでもリヤの剛性向上を優先させている
 問題はリヤタイヤの支持剛性である。上の理屈では車両の中心線とリヤタイヤの中心線は一致することになっているが、現実にはタイヤはサスペンションを介して車両に取り付けられているので、微細に見ればズレが生じる。これを可能な限り小さくしてやらないと理屈通りに作動しない。

 マツダはH型構造を持つトーションビームアクスル(TBA)を導入することで、これを解決することにした。現行モデルのアクセラにはマルチリンク式のリヤサスペンションが採用されている。これは多くのリンクアームを使って、スリップアングルによる横力やロールの力でタイヤの向きをコントロールしようとする仕組みだ。横から押されたらタイヤのつま先が内股になって、スリップアングルが付きサイドフォースを発生させたり、ストローク時に接地面と路面の接触角度(キャンバー角)をコントロールしたりする。

 ところが、これは横力が入る限りどんな場面でもサイドフォースを発生するし、ストロークすればキャンバーが必ず変わる。それはある種の自動装置であって、人間が操作に関与していない。それは人間中心ではないのではないかとマツダは考えた。
[画像]パテントを申請中と言う新型のリヤサスペンション
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[画像]パテントを申請中と言う新型のリヤサスペンション
 そこで、TBAの欠点を潰すことを考えた。TBAの構造はこんな感じだ。人間のバタ足のように動く2本のアームがある。クルマ側が股関節、タイヤ側が足首方向。こういうアームをトレーリングアームと言う。このトレーリングアームの根元に近い部分に捻りばねを仕込んでバタ足の動きを拘束してスタビライザーの代わりにするのと同時に、脚が開いたり閉じたりする方向の剛性の低さを補う。H字の両サイドの縦棒が脚で左右をつなぐ横棒が捻りばねだ。

 スラビライザー効果については乗り心地の悪化を嫌ってあまり強めたくないので、捻りの剛性は上げたくないが、横方向のつっかい棒としての剛性は上げたい。そこでマツダはメガホンを2つ繋いだ様な形状の捻りばねを考え出した。中央が細く両サイドで太い。前回の記事でも書いたように、これによってタイヤの支持剛性は78%も向上したと言う。現在パテント申請中とのことだ。

 もう一点、TBAには弱点があって、股関節部分でボディと接続されるリヤサスペンションアームは、路面からの入力がそこにかなり集中する。だからゴムブッシュの容量を大きく取らないと振動で大変なことになる。しかしここのゴム容量を大きくとれば、いくらアームの変形を防いでも、アームそのものが動いてしまい、タイヤの支持剛性がガタ落ちする。マツダはデミオの年次改良の中で、その最適点を見つけたらしい。振動を遮断しながら支持剛性を維持できるようになった。筆者はクルマに乗ってその効果は確認したが、実は何をどうやってそれができるようになったかは、まだ納得行く説明を受けていない。次の機会にぜひ確認したいと思っている。

●まとめると

 さて、全体を振り返ろう。まずはタイヤの設計を見直して適切な変形を織り込み、フロントの回頭を素直にした。クルマにヨーがついて後輪がサイドフォースを発生するまでの混濁をボディの強化などで防ぎ、またリヤタイヤの支持剛性を新開発のTBAで向上させた。それらの全ての段階を連続した動きに仕立てるために、場面場面を切り出した性能評価を止めて、一連の動きの過渡的変化を注視するようになった。そういう開発方向の大転換で、Mazda3はこれまでの日本車の水準を凌駕するシャシーに仕上がった。次の本気はSKYACTIV-Xで見せてもらいたいと筆者は思っている。

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■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:1月31日(木)10時04分

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