ここから本文です

マツダ新型「Mazda3」に先行試乗 さらに進化した「理想の座らせ方」

1月28日(月)8時15分配信 THE PAGE

 昨秋のロサンゼルスモータショーで世界初公開され、流麗な魂動デザインやスカイアクティブ(SKYACTIV)Xエンジンで注目を集めた新型Mazda3。アメリカで先行して発売され、日本でも年内の登場が噂されている。このマツダの新世代車に、モータージャーナリストの池田直渡氏が米カリフォルニアでひと足先に試乗した。いったいどんなクルマで、何が進化したのか。池田氏がレポートする。

マツダ「第7世代」のトップバッター

[画像]北米カリフォルニアで行われたMazda3の試乗会。そこで明かされたマツダ第7世代の秘密を探った
拡大写真
[画像]北米カリフォルニアで行われたMazda3の試乗会。そこで明かされたマツダ第7世代の秘密を探った
 マツダは、昨年11月のLAモーターショーで新型Mazda3(国内名アクセラ)を発表した。

 Mazda3はいわゆるCセグメント、かつてのファミリアの後継車である。フォルクスワーゲン・ゴルフを中心にトヨタ・プリウスやカローラ、ホンダ・シビック、スバル・インプレッサと言った強豪ひしめく激戦区で戦うグローバルカーである。現在日本国内ではこのクラスのマーケットが大幅に縮小しているが、グローバルに見れば依然最量販クラスである。つまり失敗すれば経営を直撃するし、高評価となれば国際的にマツダの評価をランクアップさせる重要モデルである。

 しかも今回のMazda3はいつもと違う役目もある。2012年から始まったマツダの改革を第2ステップへ進める重要な尖兵だ。SKYACTIVの採用で話題となった「第6世代」に代わって、2020年代に向けたマツダのクルマ作りの思想および要素技術を世に問う「第7世代」モデルのトップバッターなのだ。

 今回マツダは北米モデルのセダンと欧州モデルの5ドア・ハッチバックの2つのモデルの先行試乗会をカリフォルニアで催行した。まずはマツダの第7世代とは何なのかをお知らせしよう。そして次回の続編ではMazda3の走りはどうだったのかについてレポートする。

人体研究が生んだ「第7世代」の技術

 第7世代とは何かについて理解してもらうために、ちょっと変なことを書く。もし今、人型の自動運転ロボットがあって、ハンドルやアクセルやブレーキをこれが操作するとしよう。あなたはこのロボットを自分のクルマに設置するとしたら、何に気をつけるだろうか?

 仮定として、システムはほぼ人間に準拠している。両目の位置に取り付けられたステレオカメラで路面状況を捉え、画像処理して状況を分析する。三半規管の位置に加速度センサーを備えて前後左右の加速度を計測して車両の運動を把握する。アクチュエーターは胴体から両腕の位置にアームが生えてステアリングを操作し、下肢の位置に脚の動きをエミュレートしたペダル操作用の足型アームという構成だ。
[画像]人間工学に基いて、人体機能を徹底的に生かすために作られた新型シート
拡大写真
[画像]人間工学に基いて、人体機能を徹底的に生かすために作られた新型シート
 何よりも最初に、あなたはこのロボットをシートに上手く固定しなくてはならない。ロボットが揺れて、カメラがグラグラと動けば、画像情報が正しく取得できない。当然加速度センサーのセンシングもエラーを起こす。ハンドルやペダルを操作するアクチュエーターも操作の反力でロボットの方が動いてしまっては、仮に演算が正しくとも結果を正確に操作と結び付けることができない。

 筆者なら、シートを外し、ボディの構造材から直接マウント用の高剛性ステー(支柱)を伸ばして、トラス構造で腰の位置を支える。両側から腰を支持し、さらに後方からも3本目のステーを伸ばして後ろからサポートする。人体で言う骨盤を3点支持する形だ。

 要するに画像センサーと加速度センサー、アクチュエーターの全てを物理座標的に車両に完全固定することを目標とするだろう。

 と、ここまで書いた所で勘の良い読者ならすでに予想されている通り、人間だって同じことなのだ。頭の位置と、両手両足の台座となる胴体を物理座標的に車両に固定しないと運転は上手くできない。

 多くのスポーツにおいて、目の位置を動かさないことが重視され、足腰の鍛錬が求められるのもまた同じことなのだ。ロボットと違って高性能な人間は、多少グラグラしようとも体幹の筋肉で補正を効かせてしまう。最近スマホで動画を撮る人がよく使っているジンバル(揺れなどを安定させる装置)のような仕組みが人体には備わっているからだ。

 何とかなると言う意味では何とかなるのだ。だがジンバルだって万能ではないように、人体もまた万能ではない。体がグラグラと動けば、代償として精度が落ちるし、補正動作で疲労する。だからスポーツエリートはそんなつまらないリソースを割かずに済むように、あるいはジンバル的動作にできるだけ頼らずに済むように、正しいフォームでセンサーとアクチュエーターの位置を常に同一に保つのである。

 つまり、性能が良くて運転が楽なクルマを作るためには、人をどう座らせるかに尽きるのだ。ところが先に述べた通り人体は優秀なので、多少ダメな座らせ方でも何とか辻褄を合わせてしまう。それに甘んじている限り、本当に良いクルマにはならない。マツダの第7世代とは、人の性能を最大限に引き出すためにクルマはどうあるべきかを徹底的に考え、実現方法を幾重にも丁寧に積み重ねたものだ。

“左にずれた”ペダルでドライバーは無理をしている

[画像]ドライバーに伝わるクルマの動きを混濁させないため剛性を高められたシートフレームとレール
拡大写真
[画像]ドライバーに伝わるクルマの動きを混濁させないため剛性を高められたシートフレームとレール
 それは第6世代と何が違うのか? マツダは常々「人間中心」を提唱してきた。第6世代登場時には、まずエンジンとトランスミッションの位置取りを人間中心に再検討し、エンジンに対してタイヤの位置を前に押し出した。FFの場合、エンジンとトランスミッションは一つの塊になっているので、エンジンの搭載位置が決まれば、車体に対するタイヤの位置が決まってしまう。

 するとどうなるか? 特にデミオやアクセラのようなコンパクトカーで、かつ右ハンドルの場合、「4つのタイヤ」と「人間」が厳しい陣地の奪い合いをする場所がある。

 リヤシートと後輪のホイールハウスもそうだが、最も厳しいのは右前輪とドライバーの右足だ。タイヤハウスの出っ張りによって左へ押し出されたペダルは、ドライバーが座って自然に脚を投げ出した位置より左へずれる。いわゆるオフセットだ。

 実際のクルマでどうなっているかと言えば、筋力を使って左に負荷を掛けた状態でブレーキペダルを踏むことになる。あるいはそれを最小にするためにシート自体を左に向けて斜めに取り付ける場合もある。しかしそれらは所詮誤魔化しであって、根本的な問題解決法ではない。マツダはパワートレインの設計時点でタイヤを前に押し出して小細工なしで自然な運転環境を実現した。
[画像]歩行時と同じ様に骨盤を立て、人体機能を最も阻害しない座らせ方を追究した
拡大写真
[画像]歩行時と同じ様に骨盤を立て、人体機能を最も阻害しない座らせ方を追究した
 第6世代でこれが完了したマツダは、人のより理想的な座らせ方にさらに踏み込んだ。第7世代では骨盤をしっかり立て、坐骨の下で重さをしっかり支える椅子の構造にし、さらに左右方向に安定させるために、広いスパンで大腿骨を支持して骨盤を安定させた。もちろん前後方向の支えも重要だ。骨盤の腰椎に近い部分を後方から支えて後方へ倒れ込むことを防ぐとともに、前への倒れこみを防止するために大腿骨の膝側下のサポートを可変にして、どんな体格の人でも骨盤を保持できるシートを作り上げた。Mazda3の進化は第6世代で基本を作り、その上に第7世代の技術が積み上がってできている。

あえてトーションビーム式に“ダウン”させた狙い

[画像]クルマのあらゆる向きについて剛性を上げるため、左右だけでなく前後方向にも環状構造を採用した
拡大写真
[画像]クルマのあらゆる向きについて剛性を上げるため、左右だけでなく前後方向にも環状構造を採用した
 骨盤を支える仕組みのシートに徹底留意した以上、そのシートを保持するシートフレームとシートレールやシャシーそのものの剛性も重要だ。土台の土台の土台……と遡って行かないと、人体を安定させることはできないからだ。マツダはそれを愚直にやった。

 シャシーは、横方向の環状構造に加えて縦方向の環状構造を確立して剛性を高め、同時に斜め、つまり対角線上の剛性にも留意した。
[画像]構造体を伝わる振動の回析や遅れを防ぎ、入力の遅れを30%短縮した
拡大写真
[画像]構造体を伝わる振動の回析や遅れを防ぎ、入力の遅れを30%短縮した
 さて、リヤサスペンションはどうか? すでに多くの方がご存知のように、新型Mazda3のリヤサスペンションはマルチリンクから、形式としては格下のトーションビームアクスル(TBA)に改められた。ネットではこれを嘆く声も聞くが、ここまでの話を読んで、マツダが単なるコストダウンでTBAを採用すると思うだろうか?

 もちろん、複雑な仕組みを取るマルチリンクはセッティングの可能性が多い。しかしリンクの接合部に必要悪的に仕込まれるゴムブッシュは、入力方向が変わるたびにぐにゃぐにゃと動く。これがタイヤジオメトリーの管理精度を落とすことは厳密に言えば防げない。リンクの数が増えれば増えるほど精度管理は難しくなる。

 あるいは、セッティング領域で意図して仕込む横力によるトーイン(タイヤのつま先を内股にする角度変化)の仕掛けも同じだ。クルマに自転運動を起こそうとするドライバーの操作に争って、リヤタイヤが踏ん張るシーンが起こりうる。トーイン変化のトリガーが単純な横方向の力だけである以上、今局面としてドライバーが後輪に踏ん張ってもらいたいのか、あまり踏ん張らずに自転運動を素直に受け入れて欲しいのか、を判別する機能は付いていない。「だから余計なことはさせない方が、人の運転に素直に追随する」とマツダは考えた。ならばトー変化とキャンバー(タイヤの倒れ角度)変化のコントロールを企図するマルチリンクは必要ない。
[画像]揺れの遅れを防げば、実はピーク値はそれほど気にならない。人間の感覚を基準に揺れの遅れを削減した
拡大写真
[画像]揺れの遅れを防げば、実はピーク値はそれほど気にならない。人間の感覚を基準に揺れの遅れを削減した
 横力入力時のトー変化は実質的には0(ゼロ)度にしつらえてある。そのためにはTBA全体の剛性が高く取られていなくてはならない。入力でリヤサスペンション全体が不規則に変形してしまっては、トーの管理ができないのだ。

 マツダは、H型のトーションビームの横棒にあたるねじりばねに新しいアイディアを注入した。現在パテントを申請中とのことだが、中央を細くして、両サイドに向かって太くなっていく新たな形状を採用。ちょうどメガホンを2つ繋げたような形をしたこのねじりばねは、圧縮方向では高い剛性で強く両輪の位置を支える。TBAは形状的に左右のトレーリングアーム(人間のバタ足の様に動くアーム)をこのねじりばねで連結するものなので、横からの入力にはねじりばねをつっかい棒として機能させて高い剛性を確保し、左右輪が別々にストロークする時だけ、ばねのたわみ分だけ左右を独立して動かしたい。新形状によってその性能を高めた。ちなみにこれによってリヤタイヤの支持剛性は78%も高めることに成功したという。

コペルニクス的転換を果たしたブレーキ

 ある意味、新型Mazda3で最も衝撃を受けたのはブレーキだった。筆者が長らく理想として提唱してきた踏力コントロール型ブレーキが採用されたのだ。

 これまでのブレーキは、ストローク量で効きをコントロールするものが多かった。これはアクセルと同じようにペダルの踏み込みストローク量で制動力をコントロールするものだ。さらに「よりよく効く」という演出のために、倍力装置(サーボアシスト)による大げさなブレーキの効きが作り出されているのだ。

 しかし、ブレーキの絶対性能を決めるのはサーボではない。ブレーキ本体の性能だ。つまりサーボによってブレーキが効くのは錯覚で、最悪の場合、ちょんと踏んだ時はギュッと減速するが、高い速度から本気で踏んでも大して効かないブレーキになるケースすらある。絶対的な制動性能の話を切り離したとしても、そんな無意味に過敏な仕立てのブレーキペダルは足を乗せる度に神経をすり減らすことになる。無駄な神経消耗だし、制御そのものの精度が落ちるという点でもダメだろう。

 だからMazda3のブレーキは、むやみに初期応答でブレーキの効きが強くならないように躾けられた。制動力がもっと必要ならペダルを踏む力を増やせば良い。初めて乗った瞬間は「ブレーキが効かない!」と思うかもしれないが、本質的には「効かないのではなく、効くほどに踏めていないドライバーのせい」である。

 ひとまず第7世代は、このような考え方でつくられたということはご理解いただけたと思う。いよいよ次回は乗ってどうだったかのインプレッションだ。お楽しみに。
---------------------------------------
■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:1月30日(水)10時20分

THE PAGE

 

【あわせて読みたい】

Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

ヘッドライン