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家電見本市で「クルマ」がかなり目立ったワケ

1月13日(日)5時30分配信 東洋経済オンライン

ラスベガスでのコンシューマー・エレクトロニクス・ショー、ウェイモのブースの様子(筆者撮影)
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ラスベガスでのコンシューマー・エレクトロニクス・ショー、ウェイモのブースの様子(筆者撮影)
 「昨年12月にウェイモが自動運転タクシー商業化をスタートさせ、GM(ゼネラルモーターズ)、フォード、ダイムラー(及びボッシュ)の3社が本年スタートを計画しています」

 CES2019のメディアデイ(1月7日)における最初のセッション、「CES2019本年の注目すべきトレンド」での自動運転実用化についてのCES幹部の発言である。

■中国ではすでに自動運転車が運行開始

 毎年1月初めにアメリカ・ラスベガスで開催されるCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。「世界最大の家電見本市」というのが一般的な認識だったが、2010年代に入ってから、自動車の姿が目立つようになってきた。
 セッションでの発言はアメリカマーケットでの自動運転商業化の状況を表現したものであるが、それ以外のマーケットにも目を向けると違った景色が見えてくる。

 実際に広大なラスベガスコンベンションセンターを回って見て最も脅威に思ったのは、中国のインターネット検索エンジン大手、バイドゥ(百度)が「自動運転バスをすでに中国21カ所において運行させている」「すでに2018年7月4日より世界初のレベル4自動運転バスの量産化に入っている」と同社ブースにおいて発表していたことである。
 自動運転のレベルについては、現在はアメリカのモビリティ専門家による非営利団体SAE(ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ)が制定したレベル0~5の6段階が多く使われる。レベル0が完全手動、レベル5が全域完全自動で、その間に4つの段階がある。

レベル0:運転者がすべての運転タスクを実施
レベル1:システムが前後・左右いずれかの車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施
レベル2:システムが前後・左右の両方の制御に係る運転タスクのサブタスクを実施
レベル3:システムがすべての運転タスクを実施(※限界領域内)、作動継続が困難な場合の運転者は、システムの介入要求等に対して、適切に応答することが期待される
レベル4:システムがすべての運転タスクを実施(※限界領域内)、作動継続が困難な場合、利用者が応答することは期待されない
レベル5:システムがすべての運転タスクを実施(※限界領域内ではない)、作動継続が困難な場合、利用者が応答することは期待されない

※ここでの「領域」は必ずしも地理的な領域に限らず、環境、交通状況、速度、時間的な条件なども含む
(出所)官民ITS構想・ロードマップ2017
 バスは路線も事前に特定されているため従来から自動運転が実用化しやすいセグメントとされてきた。バイドゥは昨年のCESで自動運転プラットフォーム構想であるアポロ計画の詳細を展示し、昨年度中の自動運転バス実用化計画も発表していたが、それを有言実行して余りある成果を実際に上げたのだ。

 ウェイモがかなり限定的な運用にとどまっているのに対し、中国全土で21カ所というバイドゥの展開は、自動運転実用化という観点からは、中国勢の方が先行していると言っていい状況だろう。
 展示場での状況や各社の発表内容を分析してみると、自動運転車の実用化における日本・アメリカ・中国の状況は、「コンセプトカー段階の日本メーカー」「商業化を昨年末から始めたアメリカテクノロジー企業」「社会実装を昨年から始めた中国テクノロジー企業」と表現できるのではないかと感じた。

 ウェイモやバイドゥの動きを、「小さな一歩」と見るか、「大きな一歩」と見るかは大きく見方が分かれるところであろう。もっとも、それぞれの企業が実際の商業化という環境の中で高速でPDCAを回し、高速で改善を重ねているであろうことは認識しておくべきなのだ。
■異業種のメーカーもコンセプトカーを採用

 本年のCESでの自動運転車についての大きな特徴の1つは、自動車メーカーに加えて、メガサプライヤーや家電メーカーもコンセプトカーを展示する企業が増えてきたことだろう。

 コンチネンタルが発表した「ラストワンマイルを犬型ロボットが配達する自動運転車」(自動運転車とともに犬型ロボットを展示)をはじめとして、日本勢でもデンソーやアイシンなどがコンセプトカーを発表していた。
 家電メーカーについては、昨年もコンセプトカーを展示し今年はそれをさらに進化させてきたパナソニック、本年から次世代自動車のコンセプトカーを発表したサムソンなどが注目を集めていた。

 ほとんどの企業が、次世代型の自動運転車をキュービック型で車中には運転席のないものとしてデザインしており、さらにはEV(電気自動車)を前提としていることからも、自動車というよりは、もはや「IoT(モノのインターネット)機器」と言ったほうがいいようなシンプルな構造だ。
 テスラがEV車の量産化に苦しんでいるのは、EV車といえども、その他のハードが「従来の自動車」の延長にあるからであり、今回のCESで主流となったような「IoT機器」としての自動車に移行できるなら、その量産化の苦しみからは解放される可能性もある。自動車メーカーに加えて、メガサプライヤーや家電メーカーまでもが自動運転車に取り組んでいるのには根拠があるのだ。

■自動運転車は「IoT機器」として確立するか

 昨年、筆者は多くの自動車メーカーやメガサプライヤーに対して戦略レクチャーやワークショップを提供したが、トップメーカーであるほど、「自動車は近未来にIoT機器のようなものになり、異業種からの参入が相次ぐ」といった強い危機感を持っていると感じた。そして、この危機感はこの1年間で大きく高まり、各社とも水面下でさまざまな準備を着々と進めている。
 もっとも、「IoT機器」としての次世代自動車の競争上のポイントは、もはやテクノロジーではなく、いかに社会実装できるかに移行していることがより明白になってきている。もちろん社会実装のためには実証実験が必要だ。

 近未来型の自動運転車は、構造的な人手不足や地方での過疎化といった社会的問題を解決する手段にもなりうるものだ。

 一方で、本年のグローバル経済に最も大きな影響を与えるであろう米中新冷戦は、「貿易戦争×安全保障×テクノロジー覇権」をめぐる戦いというのが本質ではないかと観察される。その中でも次世代自動車をめぐる戦いは重要部分を構成。次世代自動車で国内の社会的問題を解決し、分断されつつあるグローバルな国際関係にも貢献できるかが大きなカギを握る。
 現時点では、「コンセプトカー段階の日本メーカー」が、強烈な危機感と壮大な使命感で向こう1年間でさらにどのような進化を遂げることができるかが注目される。アメリカや中国との戦いではなく、自社の企業DNAをスタートアップ企業のようにスピーディーなものに変革できるかという社内での戦いを制することが、まずは求められていると言えよう。

 本来、自動運転車の究極的な目的は、地域の有力な交通手段となり、提供する側も収益化・量産化を実現することにある。ここにより近い位置にあるのが自動車メーカーではなかったバイドゥであることに目を向ける必要があるだろう。同社がブースにおいて量産化の映像を誇らしげに提示していたのには大きな意味があるのだ。自動運転タクシーよりは、まずは自動運転バス。成果を見せつけられると、バイドゥが極めて戦略的であったと見えるのは筆者だけではあるまい。
田中 道昭 :立教大学ビジネススクール教授

最終更新:1月13日(日)5時30分

東洋経済オンライン

 

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