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市民と行政がともに汗をかかない自治体は崩壊する

1月13日(日)6時00分配信 ダイヤモンド・オンライン

奈良県生駒市役所
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奈良県生駒市役所
● 市民を「お客様」にする自治体に未来はない

 先日、私は生駒市での体験に基づき、「10年で激変する!『公務員の未来』予想図」(学陽書房)という本を出版しました。

 その中で一番伝えたかったことの1つが、「市民を『お客様』にしてしまう自治体に未来はない」ということです。

 すでに現在進行形で、市民ニーズや行政課題が一気に多様化・専門化している一方で、自治体の予算は厳しさを増し、職員数は減少の一途をたどっています。他方、このようなニーズや課題に対応できる事業者、専門家、NPO、市民なども確実に増えています。

 したがって、これからの自治体は、「市民を単なるお客様扱いせず、まちづくりに汗をかいてもらう」「事業者をパートナーとして積極的にまちづくりに力を借りる」ことを意識して行動することが不可欠なのです。
 私は、このように、市民を単なる「お客様」にせず、市民や事業者とともに汗をかきながらまちづくりを進めることができている街を「自治体3.0」と呼び、地方創生時代の自治体が目指す理想的な方向性と位置づけています。

● 自治体1.0はいわゆる「お役所仕事」をしている自治体

 では、どうしてこのようなまちづくりが不可欠なのでしょうか。自治体1.0や自治体2.0との違いに触れながら、その理由や意義を説明します。

 まず、自治体1.0とは、人口減少や少子高齢化をはじめとする社会の大きな課題や財政危機等に直面してもなお「もうしばらくは何とかなる」「仕方ない」という自治体で、地方創生を形にしようという気概からはほど遠く、接遇にすら問題を抱える自治体です。メディアが「お役所仕事」として自治体を語るときのイメージがこの1.0の自治体です。

 これに対し、自治体2.0とは、自治体1.0に対する市民やメディアからの批判が集まる中、「改革派」といわれる首長が登場し、民間企業のスピード感やコスト意識を持って、財政再建・行政改革などに取り組む自治体です。首長のトップダウンの下、「市民はお客様」という意識での接遇改善を進め、スピード感を持って市民ニーズに応え、一定の成果を出している点は評価されるべきことです。

● 自治体2.0は民間企業のスピードと コスト感を持って取り組むが課題も

 改革派首長に率いられた自治体2.0には多くの課題も顕在化しています。

 第1に、職員数が減り、予算が厳しさを増す中で、多様化・専門化する市民ニーズのすべてに対応することは不可能だからです。「市民はお客様」「行政は市民のニーズに全力で応えます」という発想自体が、現時点ですでに立ち行かなくなっていることは明白であり、無責任とすら言えます。
 第2に、自治体2.0では、改革派首長のトップダウンが強く、首長や行政が何とかしてくれるという「お上に頼る」市民意識を助長してしまうことが最大の問題です。まちづくりは自分たちでやった方が楽しい、より良い街にできる、ということに市民が気づく機会を行政が奪ってしまうことになりかねません。

 さらに言えば、首長のトップダウンが強いと、職員の意識改革や自主的な行動が育ちにくいことも課題となります。トップの指示に応えることで精いっぱいの職員が増え、首長が変われば元の木阿弥と言うことにもなりかねません。

● 自治体3.0は「自主自律」がベース

 このような自治体2.0の限界を突破するために必要なのが「自治体3.0」です。

 私がこの考え方に至った経緯には、昨今の激動する社会変化が大きく関係しています。

 前述のように、多くの自治体では、財政的にもマンパワー的にも、自分たちだけで、専門的で多様化する市民ニーズに対応することは不可能になっており、市民や事業者、専門家の力や知見を借りることが不可避となっています。

 一方で、街に飛び出し、いろんな市民や事業者と話したり、活動の現場を見れば見るほど実感するのですが、リタイア層・主婦層の地域デビューや学生等による地域活動への関心の高まり、実学志向、事業者によるCSVなど、まちづくりの担い手は従来と比較にならないほど広さも厚みも増しています。

 このような背景を踏まえれば、自治体が今後採るべき戦略として、行政しかできない課題には自治体2.0のスピード感を持って取り組みつつ、それ以外の課題には「みんなの課題はみんなで解決」を基本として、市民などにも積極的に汗をかいていただき、行政に足りない専門性なども補完いただきながら、「市民力=地域愛+まちづくりへの行動力」を最大限生かしたまちづくりを進めていくことは極めて自然な流れです。
● 市民に動いてもらったほうが満足度が高くなる

 さらに言えば、単に「まちづくりに市民や事業者の力が必要」と言うだけではなく、市民に汗をかいてもらってまちづくりを進めた方が、「市民の要望に応え続けるよりも市民満足度や定住希望率が高くなる」と私は考えています。

 例えば、各種の子育て補助金を支給する自治体を選んだ市民は、それよりも多くの補助金を支給する自治体があればそちらに移ってしまう可能性があります。しかし、子育て支援の取り組みが官民連携して進められ、特に自分も参加して子育てサークルを運営したような市民は、よほどのことがない限りその地域を動くことはありません。街に対する愛着がわき、活躍している自分を誇りに感じ、なにより日々の生活が楽しいからです。

 生駒市に関して言えば、音楽に造詣の深い市民が多く、音楽コンサートを毎年開催してきました。それだけでも市民には評価していただいていたのですが、市民からは「クラシックだけでなくジャズも聞きたい」「子ども連れで聞けるコンサートはできないか」などの多様なリクエストがありました。そこで生駒市では、コンサートそのものを市民にプロデュースしてもらう「市民みんなで創る音楽祭」をスタートしたのです。その結果、クラシックに加え、ジャズや和太鼓、民族音楽など多様なジャンルに広がり、厳粛に聴くコンサートから、子どもたちが泣いたり走り回ってもOKのコンサートまで、内容が多彩になりました。観客数も大きく増加し、観客の満足度も高まったほか、企画した市民や参加した市内在住の音楽家などが、まちづくりに協力してくださることも増えてきました。
● 市民がまちづくりに参加する機会や方法の多様化

 市民がまちづくりに参加する方法もどんどん多様化しています。

 従来からある自治会活動やPTAなど地域別の活動に加え、子育て・福祉・教育・環境・生涯学習、産業振興などあらゆる分野ごとに、イベントやセミナーなどが一気に増えてきました。

 また、個々の分野における活動にとどまらず、行政を補完してまちづくり人材をつなげたり、イベントに参加した人を企画者・実行側につなぎこむような「ハブ」「人材発掘・育成」機能を果たす団体・個人も出てきました。市内のまちづくりの取り組みを内外に発信する「広報」活動を展開する市民もいます。

 さらには、活動ではなく、寄付などの形で市や市民の取り組みを応援する人や、それを活用して活動を一歩先に進める団体も増えています。

 生駒市では、地域別の活動に分野別の活動をつなぎこんだり、活動や寄付以外に市民がまちづくりに貢献できる方法(データの提供など)の検討を進めています。

● 市民に汗をかいてもらうためには行政の「覚悟」が不可欠

 このような「市民に汗をかいてもらう」まちづくりを行政が口にするには、ある種の「覚悟」が必要です。市民に負担を求める以上は、行政でしかできない仕事は他の自治体に負けないスピード感と高い質で実施することが必要だからです。そうしないと、市民に「税金払っているのにどうして市民が汗をかかないといけないのか」という不満が募ります。行政が市政に真摯に取り組み、その頑張りを市民にしっかり発信・周知することにより、「自分たちでできることは自分たちでやろう」と言う気持ちを市民に持っていただく努力も必要です。
 同時に、市民が汗をかいてまちづくりをしてくれている現場に市長をはじめとする行政職員が顔を出して感謝しつつ、それに負けないように、行政職員ももう一歩先の取り組みを具体化し、さらに市民の信頼を勝ち取る。このような市民と行政のまちづくりに汗をかきあう好循環、信頼関係を深め合う動きが自然と起こっている地域だけが、地方創生時代に生き残ることができるのです。

● 自治体3.0時代に必要な公務員像とは

 行政職員も自治体3.0に対応できるよう進化を遂げなければなりません。

 市民などに汗をかいてもらうべき業務を見極め、その担い手を発掘し、対話やワークショップなどを活用して信頼関係を築き、取り組みを具体化していく力が求められます。

 これからの行政職員、特に市町村職員は、まさに「まちの営業マン」とならなければいけないのであり、市役所にこもってばかりでまちに飛び出さない行政職員は将来仕事がなくなります。生駒市は、仕事以外でも、職員がどんどん地域に飛び出すこと、場合によっては報酬を得ることも積極的に推奨していますが、職員が市民として地域活動をすることが、仕事においても市民との信頼関係構築や、まちづくりの具体的なアイディアなどの面で大きくプラスになると考えているからです。

 市民を単なる「お客様」にする自治体ではなく、場合によっては市民にも汗をかいてもらい、ともにまちづくりを楽しめる自治体、そういう信頼関係を市民としっかり創り上げていける自治体こそが、地方創生を具体化することができるのです。
小紫雅史

最終更新:1月13日(日)6時00分

ダイヤモンド・オンライン

 

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