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メルセデスの「つながる機能」にみる、トヨタとの根本的な違い

1月13日(日)6時00分配信 ダイヤモンド・オンライン

撮影:中尾真二
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撮影:中尾真二
 メルセデスベンツがAクラスに搭載した「MBUX」。対話型のAIエージェントだ。車両の捜査やカーナビ、コネクテッド機能などを音声によって設定することができる。Amazon Echoのようなスマートスピーカーの車載版で、AI本体はクラウド上にあり、単なる音声認識から進化した「エージェント」に近い機能を実現している。

 今回は、MBUXをレビューするとともに、そこから見えてきたダイムラーグループの次世代車両や、トヨタとの比較から伺えるMaaS(Mobility as a Service)市場へのアプローチについてまとめる。

● 自然言語処理の片鱗を見せるMBUX

 まずは、MBUXの特徴から確認していく。MBUXが画期的なのは、「車両の操作」も音声で可能にしたことだ。カーナビ設定以外、ラジオ等AVシステムの操作、エアコンやシートヒーター、照明なども「ハイ、メルセデス」で操作可能だ。画面や操作パネルに注視しないで済む分、安全ともいえる。誤認識などの問題はあるが、他社の車載エージェントも含めて、音声操作が可能な範囲は段階的に広がる途上にあり、新しいMBUXの音声操作の対応範囲は当然広い。
 とはいえ、走行に関わる機能の音声操作には対応していない。窓の開閉(ルーフシェードの開閉は可能)、ヘッドライトの点灯、ハイ・ローの切り替え、ドライブモードの切り替え(スポーツモード、エコモードの設定)、メーターパネルの表示設定、ヘッドアップディスプレイの操作、アダプティブクルーズコントロールの設定などはできない。メルセデスのポリシーや安全性の問題だろう。

● 自然な会話に近いMBUXの音声認識

 こうした運転にかかわる操作をAIエージェントでもできるようにするには、音声認識から自然言語処理までの技術を高める必要がある。MBUXのエージェントに採用されている音声認識AIは、ニュアンスコミュニケーションズという会社が開発している。同社は、音声合成、音声認識のハード・ソフトを古くから手掛けており、現在、自然言語処理エージェントの開発を進めている。その片鱗は、MBUXでも見られる。ナビ設定などを行っているとき、「どうしますか?」と聞かれることがある。その前の命令や指示の意味を保持しており、続く動作を別々に指示できるようになっている。

 また、MBUXは、エージェントがしゃべっているときでも命令や指示をすることが可能だ。現状、多くのAIエージェントは、起動ワードで呼び出したあと「ご用件をお話ください」という返事が終了しないと発話できない。MBUXは、いきなり「ラジオをつけて」などと命令でき、よりユーザー主導の音声入力が可能になっている。
● 音声以外の操作方法も充実

 MBUXに限らず、AIエージェント自体がまだ完全ではないという現実的な問題もあるが、ユーザーインターフェイス(UI)を音声に絞るということはしない。Aクラスには、メーターパネルやインフォテインメント機器のUIとして、センターコンソールのタッチパッド、タッチディスプレイ、ステアリングスポークのスイッチとタッチセンサーが使える。

 MBUXに近い機能は、トヨタのT-Connectも実現している。新型クラウンとカローラスポーツに搭載されたT-Connectのエージェントでも、ナビ設定などに「駐車場のあるファミレス」といった会話式の命令が可能だ。

 T-ConnectとMBUXの大きな違いは、車両の制御がAIエージェントによって可能かどうかだろう。先述のようにMBUXはエアコンなど一部の車両制御にまで踏み込んで操作可能になっている。

● ダイムラーの戦略は「CASE」の追求

 メルセデス(ダイムラー)とトヨタの次世代車両に対する戦略には、明らかな違いがある。

 もともと「CASE」という言葉はダイムラーが使い始めた用語だ。ダイムラーの基本理念である安全性能とその技術から端を発したCASE(Connected、Autonomous、Share、Electoric)は、シートベルト、エアバッグに始まり、自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)、ステアリングアシストなどのADAS機能の延長として考えられている。

 対するトヨタは、メーカーからモビリティカンパニーになると宣言しているように、モビリティ革命ありきの戦略といえる。トヨタはMaaSプレーヤーの台頭に並々ならぬ危機感を持ち、車両とサービスを含めたMaaSプラットフォーマーを目指しているのは周知のとおりだ。
 ダイムラーも、今回レビューしたMBUX、乗り合いバンのViaとの提携、Car2goの買収などモビリティ市場への投資、事業展開を進めており、トヨタと比較されることも少なくない。しかし、ダイムラーは、BMWとライドシェア事業統合の合意を発表している。この発想は、MaaSプラットフォームの覇者を狙うなら考えにくい戦略だ。

 フォルクスワーゲン対策としての、ダイムラーとBMWの「同盟」という見立ても間違ってはいないだろうが、目的を達成した場合、ダイムラーとBMWの主導権争いのリスクは高い。もし、その分野でのトップを目指すなら、同業者で規模も近い者同士の同盟はあまり良い選択肢とはいえない。

● 戦略の違いは日独製造業の事情による

 ダイムラーにとって、主たる事業ドメインはあくまで、「自動車の製造」である。モビリティ革命への対応は、CASEという新しい付加価値を持った車両で対応する。CASEはMaaSを構成する要素のひとつで、ダイムラーは、CASE車両により新しい顧客(サービス事業者や自治体)やニーズに対応しようとしている。ダイムラーは、コネクテッドカーやシェアリングビジネスにおいて、サービスプロバイダーになると明言しているが、プラットフォーマーになるとは言っていない。

 ダイムラーとトヨタの戦略の違いは、ドイツと日本の経済状況の違いともいえる。「失われた20年」を経て、制度疲労を見せる日本の製造業と、Industry4.0に活路を見出しているドイツとの違いだ。私見ではあるが、メーカーとしての限界を感じ、モビリティサービス企業への転身を図るトヨタに対し、ダイムラーは、軸足を自動車製造に置いたまま、モビリティ革命に対応できると確信しているようにも見える。

 MaaSプラットフォーマ―を本気で目指すトヨタはモビリティ界のGoogleを志向するのに対して、自動車製造というコア事業を変えず、CASE車両の進化で、モビリティ革命に対応するダイムラーは、MacやiPhoneというハードウェアで成功したAppleを目指していると言って良いだろう。

 (ITジャーナリスト・ライター 中尾真二)
中尾真二

最終更新:1月13日(日)6時00分

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