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グーグルは情報の信頼性向上に貢献するのか

1月12日(土)15時40分配信 東洋経済オンライン

検索の巨人、グーグルは正しいニュースの発信に貢献することができるのでしょうか(写真:tomch/iStock)
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検索の巨人、グーグルは正しいニュースの発信に貢献することができるのでしょうか(写真:tomch/iStock)
 大手検索サービス・グーグル社の多岐にわたる事業のなかでも、ニュース関連事業に属する「Google News Lab」は、フェイクニュースの排除など、ネット上のあらゆる情報の「信頼性」を担保する取り組みとして、注目に値する。

■フェイクニュース対策にグーグルが乗り出す理由

 グーグルには「Google News Lab」という取り組みがある。グーグルのニュースサービスといえば、各社からのニュースをキュレーションする「Google News」が思い浮かぶが、Google News Labはそれとも関連性が深い。だが、「プラットフォーマーとニュース」という言葉から想像するものと、Google News Labの実情は違う。
 Google News Labとは何か?  なぜグーグルはそうした組織をつくり、活動をせねばならないのか?  そこには、検索の巨人であるグーグルと「フェイクニュース」の間にある、とても難しい関係がある。

 Google News Labは、グーグル社内にある「グーグル ニュース・イニシアティブ」という組織に属し、今日のジャーナリズムをめぐるさまざまな課題に取り組むチームだ。同チームはその名のとおり、Google Newsについてさまざまな改善活動を行うための部門である。
 Google News Labという名前を聞くと、キュレーションメディアであったGoogle Newsが姿を変え、グーグル自身でニュースの制作や報道に乗り出す……というイメージを持つかもしれない。だが、この活動はそういうものではない。

 では何なのか?  ひと言でいえば「ニュースの質を高め、品質を担保するための手助けをする活動」である。

 グーグルは今も昔も、自分自身が報道などを行うメディアになろうという意思を持ってはいない。あくまで仲立ちを行う企業であり、仲立ちをする際に生じるネットトラフィックと、そこに付随する広告費から収益を得る企業だ。
 一方で、グーグルが収益を最大化し続けるうえで、現在はいろいろな問題が出始めている。なかでも大きな課題なのが、フェイクニュースへの対策だ。フェイクニュースは、SNSとひも付き、ネットのトラフィックの最大化を目的にしている。有り体に言えば、ページビューが上がるほど収益は上がる。本来、グーグルはそうした存在と表裏一体である。フェイクニュースは、グーグルという巨大な情報のパイプを通して世の中に供給され、グーグルの検索ランキングの上位を独占することで、その収益が最大化される。
 しかし、そうやって生まれた収益は、長期的視点に立てば、グーグルにとってありがたいものではない。フェイクニュースが増えれば増えるほど、「検索やキュレーションの窓口」としての信頼度が落ちていくからだ。

 現状、グーグルに代わる「検索やキュレーションの窓口」があるわけではない。しかし、人々の間でのネットの信頼性が落ちると、ネットの成長とともに大きくなってきたグーグルの成長にも影響が出る。

 グーグルは「ネットを良いものとして維持したい」という善意も持っているし、同時に「ネットを良いものにすることで、ネットの利用量増大を維持したい」とも考えている。メディアの自浄作用が、善意と打算の両面から行われているように、グーグルもまた、フェイクニュースへの対策を、善意と打算の両方から行っている。
 対策の1つは、検索エンジン自体の改善である。SEO(サーチエンジンへの最適化)の影響を下げ、本来の情報よりもフェイクニュースが検索上位に来る状況を打破するという改善は、今も継続して行われている。一方で、ニュースの質を上げるための基盤整備に一役買おうというのが、Google News Labであり、グーグル ニュース・イニシアティブの目的だ。

■複数のプロジェクトで「報道の信頼性」を担保

 こうしたことは、昨日今日に始まったことではない。実際、Google News Labは2015年にスタートした試みで、グーグルは以前より報道の品質向上プロジェクトを複数行っている。それらをまとめ、窓口をわかりやすくしたのがGoogle News Labと言えばいいだろう。
 最大の目的の1つが、「グーグルをニュースソースとして使うための窓口を提供すること」だ。

 ネット上での人々の活動、特に検索を切り口にした動きは、グーグルに蓄積されている。それを取り出し可視化するのが「グーグルトレンド」のようなツールだが、うまく使うことで、メディア側は人々の動きを可視化し、ニュースとしての視点を提供できる。そうした記事はすでに多いが、Google News Labでは、グーグル トレンドのデータ活用を推進し、グーグル トレンドを活用したメディアによるレポートの紹介を行っている。そうすることで、ジャーナリスト側に「こういうふうに活用できる」という事例を与えているわけだ。
 次に、「新しいテクノロジー活用の紹介」がある。VRなどの技術を報道活動に使う組織とコラボレーションを行い、その情報を提供している。

 こうした点は、テクノロジー企業であるグーグルが取り組むものとしては、非常にわかりやすい例かと思う。だが、Google News Labの取り組みのなかではごく一部にすぎない。むしろ、他の取り組みのほうが中核になっている。

 Google News Labが力を入れているのは、すでに説明したような「フェイクニュースへの対策」だ。具体的には、信頼性の高い情報を提供するための監視団体や信頼性向上に取り組む団体への支援である。
 たとえば「CrossCheck」というプロジェクトは、Google News Labとハーバード大学のフェイクニュース対策プロジェクトである「First Draft」とのコラボレーションによるもので、選挙の際にソーシャルメディア上に出回る誤報への対応を目的としたものだ。

 同様に、地域メディアの活性化にも力を入れている。地域メディアは対象人口が少なくなるがゆえに広告が集まりにくい傾向にあるが、人々の生活には重要だ。アメリカでグーグルが提供している「Bulletin」というサービスでは、非常に狭い地域に密着したニュースに特化したポータルを提供し、そこにニュースを供給する人々を支援している。
 同様に、人材育成にも力を入れている。良いニュースを作るには、良いジャーナリストが必要だ。報道機関での育成に頼るだけでなく、独立系ジャーナリストのトレーニングを支援する活動や、マイノリティーのサポートを中心とした報道機関の育成支援などを中心に活動している。報道機関やジャーナリスト向けにトレーニング支援の窓口を用意しており、そこに連絡することで、より強い関係を構築できるようにもなっている。

 残念ながら、日本での活動はあまり目立っていない。日本語のページも用意されてはいるが、具体的に日本向けの支援策が発表されている状況にはない。とはいえ、アメリカ以外の国での活動も行われており、将来的に日本に広がる可能性は高い。
■最大の成果「ファクトチェック・ラベル」は空振り? 

 一方、Google News Labから生まれた成果が理想的に機能しているのかというと、そうとも言えない。前述のような活動は、本質的ではあるがいかにも地味だ。「初めて知った」という人も多いのではないだろうか。

 これらとは別に、テクノロジー面での施策も含め、大きな成果として展開したものもある。それがアメリカで2016年10月にスタートし、2017年4月には日本も対象国となった「ファクトチェック・ラベル」だ。これは、グーグルの検索対象およびGoogle Newsに表示される記事について、世界の100を超える機関による検証を行い、結果として「正しい」と思われるものに「ファクトチェック」というラベルが表示されるという仕組みである。
 グーグルの検索エンジンの仕様に盛り込まれており、ニュースメディア、情報サイトの管理者がこのラベルを信頼性向上のために活用することができるよう、技術的な整備も行われている。ファクトチェック・ラベルのための検証機関ネットワークは、Google News Labの成果の1つと言っていい。

 だが、現在のネットをみても、ファクトチェック・ラベルはほとんど機能していない。その存在を意識したことがある人はほとんどいないはずだ。特に日本では、運用からすでに1年半が経過しているものの、実際に目にすることはまずない。一生懸命探しても出てこないほどだ。
 なぜなのか?  それは、仕組みとしては存在するものの、まずチェックされるニュースが「Google Newsのガイドラインに準拠している」必要があるということだ。それを意識してサイト構築を行っているのは、かなり規模の大きなニュースサイトが中心。だが、SNSでシェアされるフェイクニュースの多くはそうしたことを意識していない。だからこそ、グーグルがかけた「ファクトチェックの網」にはかからず、普通に情報が流通してしまう。
 もっと強制的に、あらゆるサイトをチェック対象にすることも不可能ではないだろう。だが、そうすることで「チェックが利きすぎる」ことになり、逆に正しいニュースが届かなくなる可能性もある。また、フェイクニュースを運営するようなところは悪知恵も働かせるので、こうした網のくぐり抜け方の情報を共有し、結局機能しない……という可能性は高い。残念ながら現状、Google News Labの最大の成果は「空振り」に終わっていると判断できる。
 しかし、である。

 グーグルがフェイクニュース対策に力を入れていること、信頼できるニュース制作の支援に力を入れていることは報道機関側も存分に利用すべきだ、と筆者は考えている。

 前述のファクトチェック・ラベルも、「それがない」ことに価値を置くのではなく、「ラベルがある」ことに価値を置くよう、消費者側に周知していくというやり方のほうがいいはずだ。自ら「フェイクニュースではない」と主張するために、前向きにラベルを活用していくのだ。
■ 「経路での担保」を考えて報道を作る

 また、地域ニュース支援やグーグルトレンド活用支援などは、報道機関だけでなく、むしろ独立系のジャーナリストにはありがたい存在になる。前者は自らの仕事を売り込む場・露出する場を増やすことにつながるし、後者は情報ソースの多様化につながる。

 報道機関とグーグルの関係は、トムとジェリーのようなものだ。ネットによって顧客への玄関口を奪われ、大きな商売敵であるのは事実だ。大きなメディアの関係者であるほど、Google Newsにいい感情を抱いていないだろう。だが好むと好まざるとにかかわらず、人々はSNSとネットを窓口としてニュースに接している。
 そのなかの大手であるグーグルが、報道の信頼性強化に協力してくれるというのであれば、その価値はうまく活かしていくべきだ。報道機関が報道を伝える唯一の経路であった時代ならともかく、今は経路が複数ある。経路の協力なしに信頼性の担保はありえない。

 だからこそ、「経路でいかに信頼性を担保するのか」「人々に信頼性が担保されたニュースをどう届けるか」ということを考える必要がある。Google News Labの活動はそういうことなのだろう、と筆者は理解している。別にGoogle News Labは、そうした活動のための唯一の機関でもないし、現状大きな成功を収めているわけではない。だが、彼らの考え方を分析し、採り入れ、時には協力する態勢を作ることは必要なのではないだろうか。
西田 宗千佳 :フリージャーナリスト

最終更新:1月12日(土)15時40分

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