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「空室地獄」の横浜でも満室を維持する大家たち《楽待新聞》

12月7日(金)11時00分配信 不動産投資の楽待

(写真© Goryu-Fotolia)
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相続増税に伴う節税需要やマイナス金利による融資拡大などを背景に、賃貸住宅市場は供給過剰が進み、全国的に空室率が上昇傾向にある。中でもここ数年、多くの投資家が「新築ラッシュで『空室地獄』と化している」と口をそろえるのが横浜だ。

狭いエリア内に新築・築浅の物件が立ち並び、空室の長期化に伴って価格競争が激化。撤退を決めるオーナーも増えている。しかし、そんな「冷え切ったマーケット」の中でも、独自の取り組みによって厳しい状況を打破し、満室経営を実現しているオーナーたちがいる。

■熾烈な競争

「実はAD300出すオーナーが増えているので、営業マンがそっちの物件の方に無理矢理入居をねじ込んでいるようです」

神奈川と愛知の2県で8棟63室を所有し、年間賃料収入4000万円を超す投資家の脇太さんは今年初め、管理会社の担当者からそう報告を受けた。2013年10月に新築した横浜の1棟アパートで、昨年8月から11月にかけて6室中3室の空室が発生し、年が明けても1室も埋まらない。自分の物件より立地や賃料などの条件が悪い物件で入居が決まっていく状況に疑問を感じ、その理由を尋ねたのだ。

ADとは、契約時に客付け業者が受け取る広告宣伝費のこと。当然、営業マンはADの多い物件の契約に力を入れる。脇さんはこの時、AD100(賃料1カ月分)で募集をかけていたが、そのエリアではAD300(賃料3カ月分)まで引き上げるオーナーが急増していた。「感覚的には周辺の物件の3割程度がAD300という状態でした」。そういった物件から優先的に入居が決まっていくのは自然の流れだった。

年が明けてからAD300の空室物件が減ったこともあり、ADは上げずフリーレント1カ月をつけて募集した。賃料に関しては管理会社に最大5000円までの値下げ幅を持たせていたため、最終的に6万円から5万8000円まで下がったが、ADはそのままで3月半ばに満室までこぎつけることができた。

■同スペックの物件が乱立する

なぜAD300が横行するほど競争が激しさを増しているのか。脇さんは「このエリアでは2015年以降、1~3月の繁忙期に各年7、8棟ずつ新築アパートが増えているような状況。それまでは2、3棟ずつのペースだったので、この3年でマーケットが急激に変化しています」と語る。ほとんどが脇さんの物件と同じ16平米ほどのロフト付きワンルームで、新築時の賃料は6万~6万3000円程度だという。

「このエリアでも25平米のロフトなし物件なら、競合優位性があるのでADを上げなくても勝てるんです。ただ、そういう物件は収益効率が悪いので建設が増えていかない。狭いエリアで同じようなスペックの狭小物件が次々に建っていけば、差別化できる部分は賃料設定と客付けしかなくなる。それで価格競争になっているのが現実です」

■オーナーとしてできること

横浜という厳しいエリアでも満室を維持し、現在は所有する8棟63室で空室ゼロの脇さん。今回の入居付けも、ただフリーレント1カ月をつけただけで成功したわけではない。その裏にはオーナーとしての明確なビジョンと、徹底した目標意識がある。

客付けを依頼する際は、はじめに「3カ月以内」という期限を伝える。その上で「今週の土日に内見2組」などと短期的な目標を設定し、週に1度連絡を入れて進捗をチェック。達成できていない場合はプロセスを確認し、「なぜ無理だったのか」「どうすれば達成できるのか」を明確に答えさせ、「いつまでにどう行動するか」を具体化させていく。

「行動量を増やしてもらうには、こちらのビジョンをしっかり伝えること。結果が出ない原因をとことん追求し、解決策を一緒に考えなければなりません」。もちろん、このような厳しいアプローチは管理会社との信頼関係があってこそ。「オーナーが具体的な目標を示していないのに、結果が出ないことを指摘するのはただの文句。最初に目標をすり合わせた上で、解決策を探りながら進めていくことが建設的なコミュニケーションにつながっていきます」

脇さんは「逆に言えば、オーナーがそこまでマネジメントしなければ他に負けてしまうのが今の横浜」と語る。「名古屋の物件は競合優位性が高いということもありますが、空室は何もしないうちに1カ月ぐらいで埋まり、賃料を1000円程度アップしても問題ない。横浜は他のエリアと全く状況が違うんです」

■土地ありきでアパートが乱立

国土交通省の調査によると、昨年の貸家着工戸数は前年比10.5%増の41万9000戸で、5年連続の増加となった。2015年の税制改正で相続税の課税対象者が増え、マイナス金利の影響もあって地主や富裕層向けのアパートローンが拡大。建設過剰で需給バランスが歪む中、空室率の高まりは年々激しさを増している。

不動産調査会社タス(東京・中央区)が独自に算出している指標「空室率TVI」によると、神奈川県のアパート空室率は2015年4月以降、23カ月連続で上昇。今年3月現在、統計開始以来最高となる38.5ポイントに達している。

同社主任研究員の藤井和之氏は「ここ数年は賃貸経営に適した立地なのかどうかという観点が度外視され、まず土地ありきで人口減少地域にアパートが乱立している状態」と指摘。「条件が同じ場合の賃料はマンション系の方が10%ほど高く、年間1%ぐらい下落していく。そうなると新築のアパートが築10年前後のマンションと賃料面で競合関係になり、立地も含めて競り負けているという実態があります」

アパート・マンションを合わせた間取り別の空室率TVIを見ると、ワンルームが22ポイントに達している一方、1Kは18ポイント、2LDKは8ポイントと、部屋数が少ないほど高い水準を示している。面積別の数字でも20平米未満の空室率は2015年ごろから10ポイント近く急上昇し、今年1月時点で27ポイントにも上る。脇さんの指摘通り、同じようなスペックの狭小ワンルームマンションが乱立し、空室率を押し上げている現状が透けて見える。

■地獄の入り口

初めて購入した物件で空室に悩まされながら、独自の手法と地道な努力で満室経営を実現したオーナーもいる。

現在、横浜のほか埼玉、京都などで3棟16室を運営する投資家「大家ヒロ」さんが不動産投資への参入を決断したのは2014年5月。勤務先の外資系企業に近い横浜市内に絞り、週末などを使って計100軒ほどの物件をチェックした。選んだのは駅徒歩8分の新築アパートで、全室20平米以上の1K9室。価格は8000万円、利回りは9%弱で、属性の高さから融資はすんなり通った。「決め手は戸数の多さです。ローンや諸費用を含めて収支をシミュレーションすると、最低8室は必要と考えました」

賃料は6万円台前半で募集。完成が予定をオーバーして2015年の5月にずれ込み、繁忙期を逃したため1年間は埋まらないことを覚悟していたが、予想に反して申し込みが続き、6月までに5室が埋まった。しかし、そこからが地獄の始まりだった。

7月以降、管理会社からの連絡が全く来なくなった。自分から何度も電話し、募集の方法などについて提案したが、効果が出ない。担当者は「とにかく賃料を下げるしかありません。結局は金です」と冷たく言い放った。「管理会社はとりあえず最初だけ頑張って、その後は知らない、というスタンス。最初の客付けは『ご祝儀』だということに気づいたんです」

■驚愕のメールが届いた

その後も電話を続けていると、ある日、管理会社から驚くべきメールが送られてきた。マンションも含め近隣の物件のマイソクが13枚添付されていた。「敷金・礼金ゼロ」「インターネット無料」「フリーレント1カ月」などの文字に赤い丸印。「AD300」の文字も強調されていた。どれも新築・築浅で、賃料設定は所有物件と同程度。設備なども含め好条件の物件が並んでいたが、いずれも空室ばかりだった。

「要するに、『この辺りではあなたの物件より条件も良くて努力もして、AD300にまで上げている物件が埋まらないんだから、空室なのは当たり前』ということを伝えてきたわけです」。管理会社の担当マネジャーは「この○○区は最悪ですよ」と漏らした。統計データを調べてみると、実際にここが横浜市内で最も空室率が高い区だという事実に気づいた。

■行動で現状を打破する

空室が埋まらないまま秋を迎えた。「どうすれば自分の物件を積極的に勧めてもらえるのか」と考えを巡らせていた時、同じ管理会社であるにも関わらず、連絡をしてくる相手が毎回違うことに気づいた。それぞれの店舗の、しかも別々の担当者が営業成績を競い合っているという事実に突破口を見出した。

3店舗9人の担当者に「カギを持ってきてほしい」「資料を用意した」などと理由を付けて1人ずつ呼び出し、仕事が終わった後の時間を利用して対面で話す機会を作った。実際に動いている営業担当者でなければリアルな情報を得られないと思ったからだ。

「現場はどういう状態なのか」「最近の入居者のニーズは」「どういった物件が埋まっているのか」―。マイソクの表記方法や家具付き物件の優位性など、深夜まで話し合いを重ねた。知りたかったのは周辺の状況以上に「どうすれば自分の物件に客付けをしてくれるのか」。報酬体系や仕事に対するモチベーションを探った。

■熱意を伝えるために

「ノルマが『月90万円』だと言うので驚きました。賃料6万円、稼働20日と仮定すると、4日に3件のペースじゃないと達成できないということですから」。その過酷なノルマを達成した先にあるのは、わずか2万円のボーナス。「それでもそのために頑張っている。そういうリアルなんだ、と実感したんです」

9人は偶然にも全員が女性だった。何とか自分の熱意を伝える策を考えたが、単純にカップラーメンなどをあげても意味がない。1人1人に、どういった生活をしていて、どんな趣味があって、何が好きなのか、時間をかけてヒアリングした。晩酌好きの女性には、好きな銘柄のビールを6缶パックで贈った。疲れ目に効くホットアイマスクや美容に良いとされるシアバター、かわいらしいプリザーブドフラワーなど、好みに応じたプレゼントを考える日々。「気持ちを込めたプレゼントを贈った人たちは、何年経っても覚えてくれていますよ」

この地道な戦略が功を奏し、11月までに9室中7室を埋めることに成功した。しかし、どうしても残り2室が埋まらなかった。この2室に入居が付き、満室になったのは年が明けて1月末のこと。ピンチを逆手に取った「ある作戦」が実った結果だった。

■相次ぐ管理会社のトラブル

この物件では、長期間にわたって管理会社のトラブルが相次いでいた。まず、6月に入居した社会人の男性は、わずか1カ月で「賃料が払えない」と言い出した。7月に退去したが、早期解約違約金6万円が回収できない。父親に連絡を取ろうとしたが、管理会社は「契約書に書いてある名前はあくまでも緊急連絡先で、連帯保証人ではないので無理です」という。仕方ないので自ら父親に電話したが、なしのつぶてだった。電話口の奥ではパチンコの音が聞こえていた。

「このままでは踏み倒される」。管理会社の担当者に毎晩1時間以上電話し、他の管理会社への切り替えも検討していると伝えた。「職場まで行って待ち伏せなどができないか」と粘り強く要望し、ようやく回収することができた。「結局、管理会社は大家のことを何とも思っていない。自分から何度も何度も働きかけなければ動かないんです」

その後、11月の退去者もタバコのヤニなどで原状回復が必要になったが、クロスの張り替え代など約20万円を踏み倒された。このほかにも名前の間違いや計算ミスなど、管理会社側の不手際は収まらなかった。

■ピンチはチャンス

そこで11月から翌年1月にかけて、相次ぐトラブルについて管理会社の上層部と協議を重ねた。「責任のある立場の役員に対し、トラブルが収束しないという緊迫感を訴えていったんです」。その結果、なんと1月中旬からの2週間で立て続けに2室が埋まり、あっという間に満室になった。

「おそらく上層部から営業部隊に指示がいったんでしょう。あれだけ苦労していたのは何だったのか、と思いました。結局、厳しいエリアでも入居希望は来ていて、決まるかどうかは担当者のさじ加減なのだと理解しました」

ピンチを逆に利用することで満室を実現した形だ。「もしトラブルがなければ、いまだに空室が埋まらずジリ貧だったかもしれません。この厳しい大家界で、トラブルは逆転のチャンス。管理会社に対してただ文句を言ったり、泣き寝入りしたりするだけでは状況は好転しない。トラブルが起きれば逆に喜ぶぐらいの考え方が必要なのかもしれません」

■体感空室率は数字以上

今でも、横浜の中でこのエリアは特に厳しい状況だと感じているという。「大手賃貸サイトで最寄り駅を入力し、『新築3年以内』で検索すると500件以上ヒットしますから」。自ら周辺を歩いて各物件の部屋のポストやドアホンのランプなどで入居状況をチェックし、マクロ的な情報と合わせておおよその空室率を判断しているが、「このエリアの体感的な空室率は『5割強』ぐらいだと思います」と語る。

賃料相場も年々低下し、2年前にアパートで6万数千円のレンジだったのが、今ではシングルタイプのマンションでも5万円台まで落ち込んでいるという。「たまに訪れると、どこかしらに新しい物件が建っていて、募集ののぼりがいつまでもはためいている。100メートル以内に3棟並ぶような状況が普通です」

周辺では客付けに苦労しているオーナーが多く、好条件・好立地でありながら撤退を決める人も増えている。「ただ、新築の供給が過剰なエリアでも、管理会社へのアプローチ次第で入居率を高めることはできる。それは経験から得た教訓です」

■オーナーに求められる資質

横浜でも全てのエリアが空室地獄というわけではない。横浜市中区で2009年にワンルーム6部屋の新築木造アパートを購入した「警備員大家」さんは「8年間で入れ替わりは6人ですが、ほぼ1カ月以内には埋まっています」と語る。合計賃料も新築時から1000円アップし、利回りは9.7%。「中区は新築を建てる土地がないという面もありますが、人の集まる場所ならニーズは存在するということだと思います」

不動産コンサルタントの長嶋修氏は「不動産は一にも二にも三にも『立地』。どれだけ立派な物件でも、ニーズのない場所に建てば入居はつかない」と強調する。「いま新築で空室が埋まらない物件は、駅から離れているなど立地的な問題を抱えているケースが多い。これから人口減少が進んでいく中で、立地が良くて入居に困らない物件と、努力しても埋まらない物件の差はどんどん広がっていく可能性があります」

入居者を奪い合う競争が激しさを増す中で、管理会社にただ客付けを依頼するだけで満室を実現することは難しい。賃料設定や客付けのマネジメント、周辺の状況把握など、オーナーとしての行動によって結果は大きく左右される。厳しいエリアでも成功しているオーナーに共通しているのは行動力と粘り強さ。一朝一夕で成果が出るわけではなく、地道な努力の積み重ねが「満室経営」への道を切り拓く。
不動産投資の楽待 編集部

最終更新:12月7日(金)11時00分

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株式会社ファーストロジック

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