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日米貿易摩擦が避けられないこれだけの理由

11月9日(金)5時10分配信 東洋経済オンライン

日米貿易摩擦へと発展するのも時間の問題だ(写真:Toru Hanai/ロイター)
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日米貿易摩擦へと発展するのも時間の問題だ(写真:Toru Hanai/ロイター)
 アメリカの中間選挙が11月6日に行われた。アメリカが中国からの輸入品に関税をかけると中国も関税で応戦する姿は、米中貿易摩擦というよりも米中貿易戦争という表現がしっくりくる。ある意味では「戦時下」の選挙という見方もできよう。

 米中貿易戦争には、安全保障上の問題などの政治的な理由もあるが、アメリカが貿易赤字国であるという要因が大きい。そして、国別に見ると、日本に対しては689億ドルの貿易赤字を計上している(2017年、貿易財の収支)。現在、一時的に日米貿易摩擦は回避されているが、じき自動車を中心に再燃するというのが筆者の見立てである。
■アメリカの赤字体質は改善の兆しなし

 そこで、今回は日米貿易摩擦の可能性について考えてみたい。まず、アメリカのマクロ経済の構造を確認すると、民間部門の貯蓄投資差額は黒字であるものの、政府部門が巨額の赤字なので、輸入超過になるという構造要因がある。長らく変わらない双子の赤字である。

 概念としては、国内での不足は海外からの輸入で補わなければならず、対全世界という視点でみれば、政府部門の巨額の赤字が改善されないかぎり、中国からの輸入が減っても、残りの世界からの輸入超過は続くことになる。
 トランプ減税が来年度も実行されるのかという不確定要素はあるが、インフラ投資については共和党・民主党ともに程度の差はあるものの前向きである。社会保障支出の増加は民主党が望むところであるし、トランプ大統領が貧困層の取り込みを企図する可能性も否定できない。政府部門の赤字は続くので、アメリカの輸入超過・貿易赤字体質が変わることはないだろう。

 貿易統計に目を向けて、アメリカセンサス局のデータを基に、2017年の貿易財の収支を確認すると、アメリカから見た赤字相手国1位は中国の3756億ドルであり、2位のメキシコ(710億ドル)、3位の日本(689億ドル)と続く。品目に目を向けると、輸入額としては、1位は乗用車の177.2億ドル、2位は石油等で133.2億ドル、3位は電話機(携帯電話を含む)112.3億ドルとなる。
 2013年から2017年までの5年間の傾向を見ると、2014年までは石油などが輸入額の首位であったが、アメリカ内でシェールオイルの利用が進んだことから、2015年以降は乗用車に首位を明け渡し、輸入額も横ばいとなっている。1位の乗用車と3位の電話機については増加傾向が続いており、アメリカの輸入額上位3カ国の中国、メキシコ、日本の主要輸出品目で増加している。

 2018年1月から9月までの累計でアメリカの乗用車輸入額のシェアを見ると、日本はNAFTA加盟国であるカナダやメキシコを上回り、トップシェアとなっている(乗用車輸入シェアは1位日本:23%、2位カナダ:22.3%、3位メキシコ:20%)。
 10~12月の輸入額次第では逆転がありうるものの、2017年との比較では、カナダが1位(24.6%)から2位(22.3%)へとシェアを落とす中で、日本は2位(22.5%)から1位(23%)へとシェアを伸ばしている。ほぼ横ばいという見方もできようが、このタイミングでは日本からの輸入が目立つ。

■日本からの自動車輸入は「目障りな存在」

 トランプ大統領にとって、日本からの自動車の輸入は目障りな存在であろう。カナダやメキシコからの乗用車の輸入に際しては、フォードなどのアメリカ企業の利益に結び付く点があるが、日本からの乗用車の輸入については、日本企業が独占することになる。
 加工・組立型の財では最終製品を製造・輸出した国での部品製造比率が少ない場合、部品の輸入を通じて資金が流出することになるため、実際の利益は輸出額に比べて大幅に減少することになる。

 一例として、アップルのスマートフォンを採り上げよう。新製品が発売されるたびに、機能もさることながら販売価格や原価も話題になる。原価についてはアップルから公表されてはいないが、技術系メディアなどが製品を分解するなどして、部品コストの積み上げと組み立て費用等から原価を推計している。
 テックインサイツによると、iPhone XS Max(256GBモデル)のアメリカ内での販売価格は1249ドル99セントであるが、その製造原価は453ドル。組み立てや検品にかかる費用はわずかに24.5ドルであり、その組み立てを担う鴻海精密工業(フォックス コン)の生産拠点は中国だが、本社は台湾にあるため、中国の最終的な受け取りはさらに少なくなる。

 中国からアップルのスマホを輸入することで、アメリカ企業であるアップルや部品を供給している日本やドイツ、韓国の企業にも利益がある。中国やカナダ、メキシコからすれば、スマホ部品や自動車部品の輸入を通じて利益が国外に流出しているため、アメリカへの輸出額、そしてトランプ大統領の評価は過大と感じる部分があるだろう。貿易統計は貿易財の特徴を考慮することで理解が深まることが多い。
■金融面でも日本は特殊な状況に

 自動車については、完成車だけではなく、これまで以上に自動車部品が貿易摩擦の議論の的になる可能性が高い。内燃機関車から電気自動車へのシフトが進んだ場合、自動車の組み立てが容易になり、工賃の低下が見込まれるため、原価構造がスマホに近づくことになる。自動車部品はアメリカの輸入額の第6位であり、輸入額は650億ドルにのぼる(2017年)。

 カナダやメキシコから日本車を輸入することは、間接的に、日本から自動車部品を輸入することにもつながっている。日本の自動車部品の輸出額シェアでは、アメリカ向け(24.6%)、中国向け(20.9%)で半数近くを占めるが、メキシコ向け(5.2%)やカナダ向け(4%)も無視できない規模である。
 自動車や自動車部品という財だけではなく、金融面でも日本は特殊な状況にある。

 貿易摩擦では為替レートが問題となることが多い。日本円は人民元などと並んでアメリカ財務省による為替監視リストの対象となっている。為替操作国と認定された場合、2国間協議により為替レートの切り上げが要求されるほか、関税による制裁が発動される可能性がある。

 金融政策は国内の物価を安定させることを目的に行われるため、通常であれば、為替操作には該当しないが、日本の場合は、為替介入を行わなくても、為替操作国と見なされうる状況にある。
 2012年12月に自民党が衆議院選挙で政権奪取を果たした際の選挙公約を振り返ると、「デフレ・円高対策」として、「明確な『物価目標(2%)』を設定、その達成に向け、日銀法の改正も視野に、政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行う」と明記されている。

 安倍政権発足後、2013年1月22日には、民主党政権と日本銀行の間で2012年10月30日に結ばれていた消費者物価の前年比上昇率1%の物価目標を、「2%」に引き上げたほか、黒田総裁の就任以降、異次元緩和による人為的な大規模金融緩和・低金利政策が続いている。
■いまの日本はデフレなのか

 為替レートは、短期的には内外金利差の影響を受けて金利が低いほど通貨安となり、長期的には購買力の影響を受けて物価が高いほど通貨安となる傾向がある。低金利も物価高も通貨安の要因であり、デフレ・円高対策を一括りにした項目の中では、現在の金融政策は為替政策と受け取られかねない。

 用語上の定義として、デフレとは「物価が持続的に下落する現象」であるため、現在、日本がデフレかどうかという点については、議論の余地がある。デフレではないということになれば、現在の異次元緩和の継続は、為替政策であると強弁されかねないリスクを抱えている。
 アメリカの貿易赤字は、そもそもの問題はアメリカ政府の巨額の財政赤字にある。だが、日本の自動車輸出は日本国内の自動車・部品メーカーに独占的に利益がもたらされている点でカナダやメキシコの自動車輸出とは事情が異なる。また、異次元緩和は、為替政策と見なされかねない状況にある。アメリカの政策金利引き上げは順調に行われており、内外金利差が拡大傾向にあることも円安に拍車をかける。

 現在、日米間の貿易協定の交渉中のため、日本の自動車輸出への関税や台数削減の議論は先送りになっているが、なお、予断を許さないと見るべきだろう。
鈴木 卓実 :たくみ総合研究所代表、エコノミスト

最終更新:11月9日(金)5時10分

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