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青森・八戸の朝市が圧倒的に支持される理由

11月9日(金)5時40分配信 東洋経済オンライン

青森県八戸市で行われている超巨大朝市「館鼻岸壁朝市」の人気の秘密とは?(写真:協同組合湊日曜朝市会)
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青森県八戸市で行われている超巨大朝市「館鼻岸壁朝市」の人気の秘密とは?(写真:協同組合湊日曜朝市会)
 観光庁が発表する、旅行・観光消費動向調査(2017年)によれば、訪日外国人旅行者数(インバウンド)は2869万人を突破し、前年比約19%プラスと今なお右肩上がりで上昇を続けている。一方、日本人国内延べ旅行者数は6億4720万人と一見高い数字に見えるものの、前年比にしてわずか1%プラスという数字が示すように、国内需要における観光は芳しくない状況が続いている。

 そんななか、年々、日本人の延べ宿泊者数を増加させている場所が青森県八戸市だ。2012年69万人泊、2017年77万人泊という数字が示すように、ここ5年で宿泊者数は約12%増。さらに特筆に値するのが、宿泊客の約8割が八戸市近隣に再度宿泊した経験を持つというリピーター率の高さだ。
 なぜ、それほどまでに八戸市に宿泊したくなるのか?  

■1日平均売り上げ6000万円の超巨大朝市

 その大きな一翼を担っているのが、八戸港にて毎週日曜(3月中旬~12月まで)、夜明けとともに――夏場は朝3時頃から開催され、朝9時には撤収してしまう「館鼻岸壁(たてはながんぺき)朝市」だ。

 同朝市は、全長約800メートルという広大な敷地に八戸市周辺から、300を超える店舗が軒を連ねる日本最大級の朝市としてにぎわいをみせている。農産物、海産物といった朝市ならではの生産品だけではなく、ラーメン、ピザ、淹れたてコーヒー、小籠包、パン、魚の炭火焼き、ビーフシチュー、かき氷、そしてなぜかミシンといった具合に、「ないものがない」と言っていいほどあらゆるものがそろう。
 その光景は、あたかもアジアのナイトマーケットや、イスラム世界のバザールを彷彿とさせ、日曜のみの開催にもかかわらず平均2~3万人の集客数を誇り、1日平均売り上げ6000万円あまりを計上するほどにぎわっている。

 「我々は県や市など行政に頼らずに、地元の農業者、漁業者といった生産者や小売関係者と連携して自主運営しています。民間主導だからこそ、枠にとらわれないことができる」

そう語るのは、協同組合湊日曜朝市会
理事長・上村隆雄さん。通常、朝市は市と朝市組合が連携を取りながら運営・管理をすることが一般的だが、同朝市は行政に頼ることなく、独自に開催をしているというから驚きだ。

■青森県を動かした上村さんの情熱

 もともと、館鼻岸壁朝市は、同じ八戸市内の湊町山手通り沿いに展開していた湊日曜朝市を前身とする。同じく自主管理型の朝市だったが、数千人が歩道に押し寄せるため、市から危険と判断され、移転先を探すことになる。
 「自主管理、運営ですから市はあまり協力的ではなかった。候補地を探していると、県有地である八戸港に行きついた。当時、このスペースはゴミが転がっているような状況でしたが、湊日曜朝市に参加していた民間事業者だけで片付けることを決めたうえで、県にお願いした。平日は漁港として機能しているため、日曜の早朝限定の使用、かつ衛生面や安全面はしっかり守ります。ですから、どうしても民間だけでやらせてほしいと。そこだけは譲れなかった」(上村さん)
 一念岩をも通す――。上村さんの熱意が通じ、県は日曜早朝限定の使用を合意。2004年、館鼻岸壁朝市として生まれ変わった。「われわれは何年も朝市をやってきたので、朝市がもたらす波及効果もわかっていた」と上村さんが強調するように、八戸市は今現在も9つの朝市が開催されるほど朝市を中心に街が回っている。

 興味深いことに、同市は江戸時代から市が盛んに開かれ、近代へと移り変わるとともに漁港の町として変貌するのだが、漁師に合わせる形で朝市をはじめとした早朝文化が作られた背景を持つ。総務省統計局調査では、青森は47都道府県で最も起床時間が早い県として発表され、ブックセンターは9時にオープン、銭湯にいたっては市内にある銭湯組合加盟店37のうち半数以上が早朝5時、6時に開店するという早朝大国なのだ。
 「八戸は朝が面白い」と上村さんは笑い、「朝早くから起きているのは民間人。だったら、朝の魅力を知っている民間人が、朝市の環境を作ることが望ましい」と続ける。八戸の歴史は、夜ではなく朝に作られてきたというわけである。

 高齢者だけではなく、今や幅広い年齢層が館鼻岸壁朝市を訪れる。カップルと思しき男女が、魚の炭火焼きを片手に早朝デートをする姿も当たり前の風景だ。2013年の八戸短期大学研究では、宿泊をはじめとした観光関連の年間収入額は2.5億円。「はちのへエリア観光マーケティング調査」が行ったアンケート結果では、八戸市近隣の訪問に対して全体の80%を超える観光客が、「とても満足」または「満足」と回答している。
 館鼻岸壁朝市が、収益エンジンとしてだけではなく、集客エンジンとしても機能し、観光客を八戸周辺各地へと回遊させる装置になっているのだ。当然、夜になると八戸市中心街の横丁も活況となる。朝市という特殊な時間帯の観光スポットということもあり、観光客と宿泊者数を伸ばし続けている要となっている。

 その一方で、観光客の増加や近隣から訪れる訪問者が増加することで、駐車場の確保や、トイレをはじめとした衛生面の懸念も生じている。自主管理ゆえに、広大な駐車場管理、仮設トイレ、場内のごみ整理、場内放送などは協同組合でまかなわなければならない。
 だが、これだけの観光コンテンツと化した同朝市を行政も放っておくわけではない。「移転のときに協力的ではなかったから、今さら歩み寄られてもなぁ」と上村さんは苦笑するが、多目的トイレを有する最新トイレ施設を整備するなど支援の姿勢を見せている。結果を出せば追認せざるをえないのだ。

■後を絶たない出店希望者たち

 また、敷地面積に限りがあるため、「これ以上の出店は不可能」と上村さんが話す一方で、八戸市周辺の名物を凝縮した見本市でもあり、多大な観光客を呼ぶ同朝市に出店したいという希望者は後を絶たない。
 「誰かが退かない限りは出店できませんが、もし空きが生じた場合は、合議制で判断しています。申し込んだ順番は関係なく、朝市や地域への理解を考慮して決めます。人気店は1日で100万円を稼ぐこともあります。そのため地域貢献や地域活性などと称していたにもかかわらず、営利目的だけで朝市を利用する人もいる。これだけ大きくなると、不純な動機を抱いて出店を希望する人も増えてきますから、慎重にならざるをえない」(上村さん)
 店舗1区画(横3m×縦6m)を1万1千円で出店するという破格の条件である館鼻岸壁朝市は、確かに集客次第で大きな利益を生む。出店料収入は光熱費を含めた運営管理費用に充てられている。行政主導では考えられない環境だ。

 「この朝市のにぎわいや仕組みを学ぼうと、各地の行政等の方が視察に訪れるのですが、特殊なケースすぎると苦笑いするほどです」と、観光客の誘客促進を行う公益社団法人「八戸観光コンベンション協会」の宗前勝さんが語るように、館鼻岸壁朝市を、他地域でも行えるモデルケースとするのは難題だろう。それでも、「“市民が作って、市民が育てる”という発想がなければ地域活性化のエンジンは生まれづらいと思います」と宗前さんは話す。
 「八戸の朝市は、戦後、引揚者などへの支援事業として開設された市場です。魚を売り、それを町の人たちが買うことで支える……そういったルーツも含んでいます。市民同士が支え合う気持ちは、今現在も変わりません」(宗前さん)

 それを表すエピソードがある。

■「市民が育てた文化」が観光客を惹きつける

 2011年3月11日、東日本大震災が発生し、八戸港も津波に飲み込まれる事態に陥った。その2日後、本来であれば1月、2月の厳冬期を経て、2011年最初の館鼻岸壁朝市が開かれる予定だった。しかし、朝市は中止、再開したのは4カ月後の7月中旬だった。
 「その日は過去最高とも思える来場者数を記録しました。黒山の人だかりで、ほとんど歩けない状態です。でも、皆さん本当に楽しそうだった。『同じ場所で開催をするなんて』とお叱りを受けるかもしれませんが、朝市、なかでも館鼻岸壁朝市は、八戸市民にとってハレの日なんです。7カ月間待ちに待った高揚する気持ちと、八戸の復興を盛り上げようという気持ちが重なった、今までに見たことのないようなハレの日でした」(宗前さん)
 観光コンテンツは、確かにあの手この手を駆使して、外部から観光客を呼び寄せることが望ましい。しかし、館鼻岸壁朝市を訪れると、つくられた観光とは違い、本来の観光の姿が浮かび上がってくる。そこに観光客が魅せられ、人が人を呼ぶ。

 「どの地域にも市民発の文化やコンテンツがあると思います。それをどれだけ市民が育てていくことができるかですよね。八戸には朝市文化があった。それを市民が一緒に育てていくことで、多くの観光客の目に留まるようになった。そういうものに今一度着目することが、新しい観光の萌芽になると思います」(宗前さん)
【出典】
日本人国内延べ旅行者数​:宿泊旅行統計調査(平成28年・年間値(確定値))と宿泊旅行統計調査(平成29年・年間値(速報値))に基づき、四捨五入を行い数字を作成。
八戸市の宿泊者数:公益社団法人 八戸観光コンベンション協会調べに基づき、四捨五入を行い上記数字を作成。
我妻 弘崇 :フリーライター

最終更新:11月9日(金)5時40分

東洋経済オンライン

 

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