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在タイの元J2選手が語る「タイ・リーグ」での選手生活

11月9日(金)15時40分配信 HARBOR BUSINESS Online

現役時代の伊藤琢矢氏(後列左から3人目)(伊藤氏提供写真)
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現役時代の伊藤琢矢氏(後列左から3人目)(伊藤氏提供写真)
 前回、タイで活躍する日本人を悩ます問題の一つに「契約の問題」があることを説明した。

 そして、外国であるタイで活躍するためには、日本人選手にはもうひとつの問題が出てくる。ビザと労働許可証だ。昨今のタイはこのふたつの許可証の発給に厳しくなっているのである。

 日本人は空路で入国すれば30日間はビザなしでタイに滞在できる。それ以上滞在したい場合は、観光ビザを取得する必要がある。これで最大90日間滞在可能だが、申請の際に在職証明書を要求されることがある。90日も休める企業が日本では少ないので、普通に考えて観光ビザを申請する人にその要求は大きな矛盾であり、タイ政府がビザ発給に厳しい姿勢を示していることが伺える。

 選手としてタイに滞在する場合は就労ビザを申請するが、書類はチームが用意したものに不備がなければ取得は難しくない。しかし、この書類を出してくれないこともある。事務員はタイ人だからビザのことがわからないことは仕方がない。我々日本人も日本のビザのことを知らない人の方が多数であることを考えれば当然ではある。しかし、選手にとっては死活問題だ。

◆プレーするためにオーバーステイを余儀なくされる

 数年前に地方のチームでプレーしたC氏はチームからビザの書類はもらえないままだった。

「オーバーステイを2回することになりました。どれだけ頼んでも埒が明かなかったので、代理人(契約交渉などを代行してくれる業者)と相談して、結局は自分でビザと労働許可証を取得しました」

 これは過去にタイでプレーした人の多くが経験していることだ。先にも述べたようにタイ人自身は自国のビザの厳しさを知らないので、面倒だからと書類を出してくれない。さらに、試合日程の関係で、滞在期間制限をリセットするために一度国外に出るなら試合や練習、会議に影響がない日程にしてくれと簡単に言う。

 オーバーステイというのは滞在超過している状態で、タイの場合、悪質でなければ(つまり数日程度なら)軽微な罰金で済む。ただ、これはあくまでも国境での話で、もし市中の警察にみつかってしまった場合は不法滞在者扱いで、それこそ犯罪者となってしまう。

 一方ではチーム側にも言い分はあるようだ。外国人選手は多くが1年契約でサインするが、実際にはシーズンが行われる2月から10月までが契約期間になる。もちろん活躍できなければばっさりと途中で追い出される。いずれにしても、この契約期間の半分(前期)をチーム側は試用期間と見ているのだ。だから、わざわざビザの手配をするのは面倒だし、後期には出してあげてもいいよ、というスタンスなのである。ところが、後期も出さないチームも少なくない。

◆元J2選手の元にも舞い込む相談

 かつて選手として活躍し、その後バンコクの不動産会社「ディアライフ」にて営業担当をしている伊藤琢矢氏も選手のビザについてこう語った。

「なぜか知らないですが、ビザに関係する相談を毎年、何人かの現役選手から受けます。確かに自分もビザについては苦労しました。しかし、解決策はいまだにわかりません」

 伊藤氏曰く、アジア・チャンピオンズリーグを目指しているチームはサッカー協会やFIFAの審査があるため、比較的きちんとしている印象だという。伊藤氏がプレーを始めたのは2011年からの数年間で、日本人選手がタイのリーグに注目し始める黎明期でもある。このころは先の支払いやビザの問題は日常茶飯事だった。

 ここ数年は幾分マシになってはいる。ほかのタイのサッカー事情に詳しい人からも「タイ・リーグ運営側がクラブライセンス発行条件を厳しくしているので、かなりよくなった」という証言を筆者は得ている。

 伊藤氏は相談を受けたら、自身が今置かれている現状を話し、「以前はこんなことがあって(自身は)もっと苦労した。今はまだマシだから、もうちょっとがんばってみな」と伝えているという。

◆元選手が語る「タイ・リーグ」での選手生活

 伊藤琢矢氏は賃貸住宅の仲介会社に勤めながら、同社が運営するサッカースクールのアドバイザーも行う。同スクールは2018年から「セレッソ大阪サッカースクール」のバンコク校となった。選手としての現役は退いたものの、サッカーとは今も関わり続けている。月に数回は指導者としても活動し、子どもたちに夢を託す。

 そんなタイのサッカー業界だが、日本人選手には希望を持てない世界なのだろうか。伊藤氏にJリーグとの違いを訊いた。

「タイのビッグクラブはスタジアムや練習環境が整備されていて、Jクラブと遜色はありません。しかし、そのようなクラブは未だ数チームしかないという印象です。地方へ行けば行くほどスタジアムは老朽化していて、芝生も雑草のような環境、照明も暗いところが多いかな」

 東南アジア特有のいい加減さにも選手として厳しい環境だったそうだ。しかし、気の持ち方次第で徐々に自身に変化をもたらせたとも伊藤氏は回顧する。

「試合スケジュールに合わせてサプリメントやプロテインを摂取したり、身体をメンテナンスしたりしていました。でも試合当日にいきなり試合開始時間が変更になったり、遠征に行ったのに試合が延期になったりしましたね。いい加減なタイの環境に触れて、当初はつらかったこともありますが、そこまで頭デッカチにならなくていいのかな、と切り替えると、いい意味で余裕を持てるようになりました」

 一部の選手はタイでプレーしたあとに引退してタイを去って行くこともある。伊藤氏は家族とともに移住してきたことと、タイのサッカー業界に魅力を感じ、今もスクールでタイ・サッカーに関わっている。そんな伊藤氏にタイのリーグのよさも話してもらった。

「地方クラブの方がバンコクのクラブより熱狂的なサポーターがいて、毎試合スタジアムを最高の環境にしてくれます。練習環境はともかく『ここでプレーしたい』と選手が思える場がタイには多くあると思います」

 タイ・リーグで契約を得た外国人選手は、日本のプロスポーツの世界でも耳にする「外国人助っ人」という存在になる。伊藤氏は「自分が必要とされているということを強く感じてプレーできます」という。しかも、タイ人サポーターの外国人選手への後押しは日本のものより強く大きく感じられるのだという。

 タイでキャリアを積んだ日本人選手が凱旋してJリーグでも大活躍というケースは現状、まだない。伊藤氏は「そんな前例を覆す選手が出てきてくれると在タイの元サッカー選手としては嬉しいことですよね」と締めくくった。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>

たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)
ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:11月9日(金)15時40分

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