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アメリカは為替でも中国に特別の敵意を示す

10月20日(土)4時20分配信 東洋経済オンライン

為替に関して、トランプ大統領同様に強気の発言をするアメリカのスティーブン・ムニューシン財務長官(写真:REUTERS/Johannes P. Christo)
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為替に関して、トランプ大統領同様に強気の発言をするアメリカのスティーブン・ムニューシン財務長官(写真:REUTERS/Johannes P. Christo)
 10月17日、アメリカ財務省から半期に1度となる「為替政策報告書」が公表された。今回も為替操作国に認定された国はなかったが、中国を筆頭に日本、韓国、インド、ドイツ、スイスといった、従前と変わらない6カ国が監視リストに指定された。リスト掲載国への具体的な制裁は伴わないが、今後6カ月かけて再び審査する対象ということになる。その中で日本やドイツ(ユーロ圏)は通商交渉に挑まねばならない。

 2016年4月に掲載が始まった監視リストは中国・日本・韓国・ドイツの4カ国がオリジナルメンバーとして名を連ねており、実際、この4カ国はドナルド・トランプ政権の批判の矛先として常連である。改めて監視リスト入りの基準を確認しておくと、①対米貿易黒字が年間200億ドル以上ある、②経常黒字がGDP(国内総生産)比で3%以上ある、③一方的かつ継続的な外貨買い為替介入を12カ月間でGDP比2%以上行った――のうち、2つを満たすと「監視リスト」、3つを満たすと「為替操作国」として認定されることになる。
■元安相場は腹に据えかねたアメリカ

 なお、これまで中国は条件を、①しか満たしていないが「米国の貿易赤字において巨大かつ不相応なシェアを占めている」ということを理由に監視リストに掲載されてきた。トランプ政権の通貨・通商政策の評価軸があくまで「対米貿易黒字の大きさ」であることを裏づける動きだったが、今回の報告書の構成は、こうした中国への照準がよりはっきりしたものになっている。

 というのも、前回の報告書までは「Executive Summary」(大要)の中の『Treasury Assessments of Major Trading Partners』(主要な貿易相手国への評価)のとの小見出しにおいて、中国や日本、ドイツなどへ監視リスト掲載国への意見が表明されていた。しかし、今回は「Executive Summary」の中で『Treasury Conclusions Related to China』(中国に関する結論)と『Treasury Conclusions Related to Other Major Trading Partners』が別立てに設けられており、監視リスト掲載国の中でも中国の取り扱いだけは特別となっている。
 直前までトランプ大統領が中国の為替操作国認定を要求していたという報道があり、それゆえに報告書の公表が遅れたという推測まで出ているほどなので、こうした報告書の構成変化に違和感はない。監視リストは為替操作国認定の一歩手前とされるが、リスト掲載国の中でも中国が抜きん出たことを示したと考えられる。

 具体的に『Treasury Conclusions Related to China』には何が記述されていたのか。
 前回までは「米国の貿易赤字において巨大かつ不相応なシェアを占めている」ことが中国向けの記述として見られた(だが、それとて中国を名指ししていたわけではなかった)。この記述は今回の報告書でも残っている。

 これに加えて今回は、「為替政策の慣行に厳密な監視をすべく、中国は引き続きリストへの掲載が正当化される」、「財務省としては人民元の下落を懸念しており、今後6カ月、中国人民銀行との協議を含め再審査していく」と記述されている。その後、3900億ドル(今年6月までの1年間)にのぼる貿易黒字への批判が続くが、やはり今年6月以降の人民元の下落について相当腹に据えかねる部分があるのだろう。
 元安は中国のファンダメンタルズを反映しているだけという言い分もあろうが、ちょうどトランプ政権が通商法301条を根拠に知的財産権侵害を理由とする追加関税を発表した6月半ばから人民元が急落しているという状況証拠があるため、通貨政策の恣意性を完全に否定するのも難しい。おおむね7~9月には元安に応じてドル高が進んでいたようにも見えるので、元安が米中貿易戦争のカードとして使われたとの思いをアメリカ財務省が抱いても不思議ではない。
■「円が割安」との認識も継続している

 なお、これまで懸案とされてきた円についての「実質実効為替相場(REER)は20年平均に照らして25%近く安い」との記述は今回見られない。ユーロに対して「20年平均に関して言えば、実質実効ベースで1%安く、対ドルで4%安い」との記述があることを思えば、より大きな下方乖離が放置されたままの円に対する記述が削られていることには違和感を覚える。

 だが、米国が円に対する割安認識を変えたという話にはなるまい。というのも、報告書冒頭の「Foreign Exchange Markets」の項においてはIMF(国際通貨基金)分析を引用してドルが実質実効ベースで過大評価となっていることが指摘されており、「米国の主要貿易相手国のREERは既存の不均衡(pre-existing misalignments)を調整する方向にはおおむね動いていない」と明記されている(なお、類似の記述は前回4月の報告書にもあった)。
 「既存の不均衡」という意味で円が大幅な割安通貨であることは論を待たず、これは過去1年間でまったく変わっていない。8月時点で円のREERは過去20年平均対比で約20%割安である。

 ちなみに「Foreign Exchange Markets」の項ではユーロ相場に関し、対トルコリラや対東欧通貨に対する大幅上昇によって、実効ベースでの通貨上昇が進んでいるとの事実も認められている。この点は過去に筆者も議論してきたものであり、ECB政策理事会の関心事項にもなっている。実際、ユーロドル相場の軟調な印象とは裏腹に、2018年に入ってからユーロ相場は名目・実質共に実効ベースで上昇が続いている。
 とはいえ、対ドルでユーロ安が進み世界最大の経常黒字を稼いでいる以上、トランプ政権のスコープからユーロ圏やドイツが外れることはない。実際、国・地域別の記述に目をやれば、ユーロ圏やドイツに対してはかなり率直さが見られた。報告書では域内の成長率にばらつきがあることが指摘された上で、これにより一部の強国(代表はドイツ)にとってユーロが過小評価になっていると指摘されている。

 なお、為替政策報告書では所々、IMFの『External Sector Report』の分析が引用されているが、ドイツに関しては「IMFの推計によればドイツの対外ポジションはファンダメンタルズから示唆されるよりも大分強く、REERも10~20%割安とされている』との指摘がある。
■ユーロ圏にあるかぎり無敵のドイツ

 2018年版の『External Sector Report』(対外不均衡報告書)ではドイツの適正な経常黒字をGDP比5.0%程度と示しているが、実際は8.0%もあり、総合評価(Overall Assessment)は対外不均衡が「Substantially Stronger」(実質的に強くなっている)とされている。このドイツの動きに引きずられる格好で、ユーロ圏全体も経常黒字が増加していることから、総合評価が「Broadly Consistent」(おおむね一貫している)から「Moderately Stronger」(そこそこ強くなっている)へと引き上げられている。これはIMFとしては初の判断であることも為替政策報告書では指摘されている。
 しかし、周知の通り、ドイツの強さはユーロ圏の構造的な欠陥による部分も多分にあるため、すべてがドイツの責に帰するわけでもない。この点は報告書でも「ドイツが自身の金融政策を執行しているわけでもなく、(外需だけではなく)国内の力強い雇用回復が実現していることも認識しているが……」という一文にも現れている。「そうであっても世界第4の経済大国としてグローバルインバランスの解消に寄与する責任がある」というのが報告書の論調だが、やや苦しさはぬぐえない。
 絶好調の国内経済と不作為の通貨安というのは批判する側からすれば死角がまったくない。通貨安はあくまでECB(欧州中央銀行)の判断の結果であり、当のドイツも引き締めを望んでいるのだから批判される筋合いはない。これまでのドイツは内需不足が指摘され、これが批判のネタに使われてきたものの、今や国内資産市場はバブルの様相であり、少なくとも雇用市場に改善の余地はほとんどない。

 こうした状況では、米国がドイツにできる要求事項は、域内の所得移転を円滑にすべくユーロ圏共同債ないしユーロ圏財務省を設立せよ、という恒例かつ遠大な結論に帰着するしかない。今回の報告書は明らかにドイツに対して「攻めあぐねている」という印象がぬぐえず、ユーロ圏にあるかぎり、ドイツの無敵性が崩れることはないという印象が一段と強まった。
 ※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
唐鎌 大輔 :みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

最終更新:10月20日(土)4時20分

東洋経済オンライン

 

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