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交通事故削減に「子供の描いた絵」が効くワケ

9月24日(月)9時20分配信 東洋経済オンライン

子どもの絵が描かれたトラック(写真:宮田運輸)
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子どもの絵が描かれたトラック(写真:宮田運輸)
 いまやクリックひとつで欲しいものが手に入る時代ですが、それを支える物流業界、特にその主役と言うべきトラック運送については、課題が山積しているといわれます。頻発する荷物の再配達、恒常化する荷待ち時間、送料無料サービスの普及など問題は多岐にわたります。そしてその解決に向け、現在、国・業界挙げて法制整備や新たな配送手段の開発など、さまざまな努力が続けられています。

 でもそうした大きな動きとは別に、現場でも問題解決の動きが出てきているのをご存じでしょうか。大阪の一運送業者が始めたささやかな運動が、いま全国に静かに広がっています。
 提唱者は、宮田運輸の宮田博文社長。会社は大阪府高槻市にあり、従業員255名、年商37億円(2017年3月期)の運送業者です。その運動名は「こどもミュージアムプロジェクト」といいます。ドライバーの子どもたちの絵をトラックのボディにラッピングし、安全運転に努めようという運動です。かわいらしい子どものスケッチが描かれたトラックが、高槻市から全国津々浦々に笑顔を届けています。

■子どもの絵を見ていると優しい気持ちになれる
 きっかけは2013年8月、宮田社長が社長に就任して1年後のことでした。自社のトラックがスクーターバイクと接触、死亡事故につながってしまったのです。

 宮田社長は、もともとトラックが大好きで、父親の背中を見てトラック運転士になりたい、と思っていました。18歳で入社、文字どおり寝る間を惜しんで働いたそうです。そして2012年4月に4代目社長に就任し、さあこれからというときの交通事故でした。宮田社長は、どうすればこんな悲しい事故をなくせるだろうか、と夜も眠れないほど悩みました。
 そんなある日、自社のトラックの運転席に子どもの絵が飾られているのを目にします。そのドライバーは、子どもの絵を見ていると優しい気持ちで運転できる、と教えてくれました。

 そこで、「運転席だけでなく、みんなに見られるトラックのボディに、子どもたちの絵をラッピングしてみてはどうだろうか」というアイデアが浮かびました。早速試してみると、試乗したドライバーは、自分の子どもの絵が描かれたトラックなので自然と丁寧な運転になった、と報告してくれました。ラッピングしたトラックを見た周囲の人たちの評判も上々でした。
 「見る人に優しい気持ちと笑顔を与え、一方で、絵を描いた子どもたちにも生きる力になっています」と宮田社長。社内に「こどもミュージアムプロジェクト」を立ち上げ、ドライバーの子どもや孫たちが描いた絵をトラックの後部ボディにラッピングする活動が開始されました。

 うわさを聞き付け、ほかの運送会社からもぜひこの活動に加わりたい、との要望が相次ぎました。そこで2017年4月から相談窓口として「国際CSV事業部」をスタートさせました。CSVとは運送会社には珍しい名称ですが、Creating Shared Value(共有価値の創造)の頭文字で、企業の利益と社会貢献を両立させようという試みです。子どもたちの絵で、世の中を優しく和ませようという活動を意味します。
 協賛企業は、現在、全国で72社。トラック、タンクローリー、商用車など251台がラッピングされて、全国の道路を快走しています。効果は絶大で、子どもの絵が描かれたトラックでは今まで1台も交通事故はないそうです。さらに、建築現場のシート、自販機、工場の壁などにも広がり、いろいろな場所から安全と優しさを発信しています。

■「こどもミュージアムプロジェクト協会」を設立

 プロジェクト発足時の思いを受け継いで、さまざまな運動も展開しています。
 会社スタッフが幼稚園、学校を訪問し、プロジェクトの趣旨を伝えて、お絵描きした作品をマグネットシールやキーホルダーに加工してプレゼントしています。

 また2017年末には宮田社長が中国北京、無錫の盛和塾でこの運動を発表し、大きな反響を呼びました。中国、韓国から見学に訪れる人も増えてきました。まずはアジアからこの運動が広がればいいな、と考えています。

 今年4月には、「こどもミュージアムプロジェクト協会」も設立しました。全国規模で同業者の参加を呼びかけていく予定です。このほか、プロジェクトのドキュメンタリー映画も製作中で、早ければ来年にも公開予定です。すべて、交通事故撲滅と優しい社会実現のための活動です。
 こうした活動を長く支えるもの、それは「人」だと宮田社長は言います。「私や弊社がいちばん大事にしているのは、『人』です。『人』と幸せを分かち合いたいと考えています」

 この考えのもとに開催される社内会議がユニークです。

 毎月1回日曜日、高槻を拠点に愛知から福岡まで、各事業所からの自主参加で開催されるのが「みらい会議」です。時間は、午前9時から午後4時ごろまで。全国から40~60人の人々が集まります。事前に予約すれば参加費無料、社外の人や主婦なども参加できるオープンな会議です。午前中は事業所ごとに業績数値を発表します。
 ただ一方通行の報告ではなく、自由に意見が飛び交う建設的な会議です。午後からは約1時間のヨガ教室があります。従業員たちは日頃の運転の疲れを、また自由参加の主婦たちは家事の疲れを癒す貴重な時間です。

■「幸せは、感じるものだ」

 その後、小さなコツの専門家・野澤卓央(のざわたくお)氏による“心の勉強会”があります。野澤氏は『仕事がうまくいく人の小さなコツ』(PHP研究所)などの著作や多数の企業向け講演などで活躍する実業家、著述家です。事業の失敗で1億円の借金を背負いそれを乗り越えた体験談や心に響いた先人の教えを熱心に講義してくれます。
 同社ホームページ掲載の「社長あいさつ」では、この野澤氏の教えに自らの事業経験を重ねた思いを、孔子の言葉に託して語っています。まだ50歳前の社長の言葉としては、なかなかに含蓄のある「あいさつ」です。その原文は、有名な次の一節です。

 「子曰わく、之れを知るものは之れを好むものに如かず。之れを好むものは之れを楽しむものに如かず」(『論語』雍也第六の二十)

 宮田社長は「之れ」を「幸せ」と読み替え、「幸せについていくら知っていても幸せを感じられなければ意味がありません。幸せをいくら持っていても幸せを感じられなければ意味がありません」と解釈しています。「幸せは、感じるものだ」ということです。
 「人と幸せを分かち合いたい」という宮田社長の熱い思いが伝わってくるメッセージだと思いました。そして「社長のあいさつ」の最後には、「運転士を育てること」の大切さも述べられています。わが国のライフラインを支える物流の主役である運転士を、もっと魅力のある職業に変えていくことが自らの使命だ、と結んでいます。

 「社員たちがイキイキと話し合い、みんなの会社という思いで真剣に仕事に向かってくれています」と感謝の念を述べる宮田社長。社内の自由な雰囲気が社員力と会社力を高め、こどもミュージアムプロジェクトの活動を全国に、そしてアジアに向けて発信し続けていくことでしょう。
竹原 信夫 :日本一明るい経済新聞 編集長

最終更新:9月24日(月)9時20分

東洋経済オンライン

 

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