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急速充電規格で日中統一「日本がEVで世界を席巻する」は本当か

9月22日(土)19時40分配信 THE PAGE

[写真]電気自動車用の充電スタンド。この急速充電器の規格が2020年をめどに日中で統一される(Natsuki Sakai/アフロ)
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[写真]電気自動車用の充電スタンド。この急速充電器の規格が2020年をめどに日中で統一される(Natsuki Sakai/アフロ)
 先月、中国の北京市で中国電力企業連合会と、日本の「CHAdeMO(チャデモ)協議会」が、電気自動車(EV)の次世代充電技術開発提携について調印式を行った。

 EVの急速充電は、高出力の直流電流を扱う(扱いを間違うと危ない)ため、自動車と充電器を接続するプラグの形状や、充電システムを制御するプロトコル(ソフトウェア)の規格が定められている。今まで世界では、日本が提唱する「チャデモ」のほか、中国の「GB/T」、ヨーロッパを中心にした「コンボ」といった規格が乱立してきた。こうした急速充電器に関する規格を、2020年をめどに日中で規格を統一することが決まったというニュースである。

 現在の急速充電器の普及台数は、チャデモが約1万8000基(世界シェアは約7%)、GB/Tが約22万基(87%)、コンボが約7000基(3%)。つまり、日本と中国が連携すれば世界シェアの90%以上を抑えることになり、ほぼ世界統一が実現される。日本メーカー製のEVが、今や世界最大の市場ともいえる中国で売れまくり、世界を席巻する状況が整ったとする報道が見受けられた。はたして、本当にそうなのか。いくつかのポイントを整理してみたい。

現状のEVは新規格で充電できるのか?

 EVを急速充電するための国際規格である「チャデモ」は、2010年に設立された「チャデモ協議会」によってプロトコルや仕様が定められている。協議会に参加しているのは東京電力やトヨタ自動車、日産自動車、三菱自工などの国産自動車メーカーが中心だ。さらに、日本国内はもちろん、世界各国の充電器や電池メーカー、自治体なども会員として名を連ねている。

 日本国内に設置されているチャデモ規格による急速充電器の出力はおおむね20~50kW。中国の規格であるGB/Tも、最大出力は50kWとなっている。それが、今回調印された新規格では一気に900kW(18倍)程度まで高出力化して、短時間での急速充電実現を目指している。単純に計算すれば、50kWで30分かかっていた充電時間が、900kWであれば2分足らずに短縮されることになる。

 でも、現在発売されているEVに搭載されている電池のほとんどは、こんな高出力の充電には対応していない。また、プラグ形状も変わってしまうから、今のEVがそのまま新規格の急速充電器を使用することはできないのが実情だ。

 チャデモ協議会の関係者によると、新規格の急速充電器は「プラグのアダプターを活用して、『現状のチャデモ』と『新規格』、『現状のGB/T』と『新規格』という4通りの組み合わせに対応する方向で検討を進めている」という。

急速充電器がますます高額になるのでは?

 現状のチャデモ規格においても、高出力(50kW)の急速充電器を設置するためには「キュービクル」と呼ばれる高圧受電設備が必要で、充電器そのものも高額であることが課題とされてきた。まして900kWともなれば、新規格の急速充電器の設置費用やランニングコストはますます高騰してしまうだろう。

 この疑問について、前出のチャデモ協議会関係者からは「装置コスト、ランニングコストである電気代ともに高くなります。新規格の急速充電器は、現状のようにコンビニなどあちこちに設置されるものではなく、大出力のニーズがあり、コストに見合う場所に設置されることになると考えています」という回答だった。チャデモ協議会が配布する資料によると、現状50kWの急速充電器の設置費用がおおむね300万円程度であるのに対して、新規格の急速充電器は本体だけで1000万円を超えると想定されている。

 ニーズがあってコストに見合う場所として、高速道路のサービスエリアが挙げられる。今はまだEVの普及台数が少ないために、急速充電の待ち時間が社会問題とはなっていないが、今後、本格的に高速道路を走るEVの台数が増えてくれば、現状規格の急速充電器を増設するだけでは追いつかない事態が想定できる。

 急速充電がエンジン車の給油のように民間ビジネスとして広がることは考えにくい。例えば、1kWhの電気代が27円、30分で20kWh分の急速充電を行ったとして、原価として必要な電気代は540円。30分間の急速充電器の利用料を1000円上乗せしても、施設設置と維持するコストを考えると、現状のEV普及台数では急速充電そのものをビジネスとして維持していく利益を生み出すのは難しい。急速充電設備は、信号機やガードレールのような交通インフラとして整備されるべきものといえる。高速道路のサービスエリアにEVが溢れかえる未来を想像すると、より短時間で充電できる新規格の開発には一定の意義があるといえる。

本当に日本メーカーが世界を席巻できるのか?

 新聞などの報道では、中国と連携した統一規格によって、日本メーカーのEVが世界市場を席巻する足場が整ったといった論調も見受けられた。はたして、本当にそうなのだろうか。

 答えは、残念ながら「ノー」である。

 今まで、さまざまな世界のルールは欧米主導で決められることが多く、日本は繰り返し涙を飲んできた。中国や韓国からは日本の提案に反対されることが多かったことを考えると、今回、日中が統一規格開発で合意したことは評価できるだろう。

 でも、そもそも今回の日中連携は中国側から提案されたもの。もともと中国規格のGB/Tは日本のチャデモ規格をもとにして開発された経緯があり、中国としては日本の技術力とノウハウを活用するのが得策と判断したと考えられる。また「日本だけでなく、ドイツにも協力を呼びかけたが、色よい返事は得られなかったようです」(チャデモ協議会関係者)というのが現実だ。

 急速充電器の設置台数が日本の約1万7000基に比べ、中国は約22万基であるように、「世界シェア90%以上」の大半は中国のシェア(しかも日中二国だけの数字)であり、中国におけるEV普及の勢いは凄まじい。一方で、日本メーカーのEVへの姿勢はまだ中途半端なままである。

 高級車ではアメリカのテスラやドイツメーカーが先行しつつあり、中国メーカーが安価で魅力的な電気大衆車を開発してくれば、家電業界で日本の牙城が崩落したように、中国メーカーのEVが日本でも人気になることすら想像できる。

 自動車評論家で日本EVクラブ理事(副代表)の御堀直嗣氏も「日本市場では中国製自動車への偏見が根強いとしても、魅力的な中国製EVが出現すれば欧米では間違いなく売れる」と指摘する。現状を冷静に考慮するほどに、“世界征服”の足がかりをつかんだのは日本ではなく、中国だと考えるべきなのである。

そんなに高出力の急速充電が必要なのか?

[写真]現在市販の電気自動車でも一回の充電での後続距離は伸びている。写真は日産「リーフ」(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
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[写真]現在市販の電気自動車でも一回の充電での後続距離は伸びている。写真は日産「リーフ」(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
 同じく自動車評論家で、日本EVクラブ代表理事の舘内端氏は「10年後のための規格として評価はするが、実用として、これほど高出力の急速充電が必要かどうかは疑問」と指摘する。

 現状でも、新しく市場に投入されるEVの一回の充電による航続距離は伸びている。新型の日産「リーフ」はJC08モードで400キロ。フォルクスワーゲンの「e-GOLF」も301キロの航続距離があり、日常の使用シーンで急速充電はほとんど必要がない。

 実際、9月はじめに日本EVクラブなどが主催した『ジャパンEVラリー白馬2018』では、クラブスタッフが「e-GOLF」で移動したのだが、筆者が同行して長野県白馬村から東京まで(約280キロ)戻るときにも、中央自動車道の双葉サービスエリアで食事を兼ねて1回(15分程度)充電しただけで、余裕をもって走り切ることができた。

「EVには、例えば太陽光発電で作った電気を蓄えるなど、大容量蓄電池として社会に寄与する力があります。高出力の充電器を普及させるのであれば、スマートグリッド(次世代送電網)など新時代のエネルギー需給のシステムと組み合わせて、社会全体が進化していくのが望ましい」(舘内端氏)

 筆者自身、EVで161回の急速充電を繰り返し、日本一周の旅をした経験がある。その実感から言えるのは、EVはエンジン車の代替移動手段というだけでなく、EVならではのライフスタイルを実現する道具として価値があるということだ。自動車メーカーには、航続距離や短時間の充電ばかりにとらわれることなく、ライフスタイルや自動車の使い方まで提案してくれる、魅力的なEVの開発を望みたい。

 急速充電規格で世界標準を射止めたとしても、魅力的な日本メーカー製EVがないことには、日本経済にさほどのメリットはない。そもそも日本でEVがなかなか普及しない最大にして唯一の原因は、EVの車種(選択肢)が少ないことだと断言できる。

 「日中連携で世界統一規格実現へ」という貴重でホットなニュースを契機として、そろそろ、日本メーカーの本気を期待したい。

(寄本好則/三軒茶屋ファクトリー)

最終更新:10月2日(火)14時00分

THE PAGE

 

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