ここから本文です

フィンテックと少子化時代に銀行はどう変わるのか ── 浪川攻氏に聞く

8月21日(火)13時31分配信 THE PAGE

近年、銀行業界が社会的関心の的となったのは、バブル崩壊に伴う金融再編時、そしてリーマンショックによる金融不況時ではなかろうか? 今日、銀行業界は表面的には平穏を保っているように見える。しかし、日本の銀行に変革の嵐が吹き始めているという。『銀行員はどう生きるか』(講談社現代新書)の著者で経済ジャーナリストの浪川攻氏に銀行業界を取り巻く現状について聞いた。

事務スペースのない店舗が主流になる

「初めて銀行の顧客が銀行でないところに行ってしまうリスクが出てきた」と話す浪川攻氏
拡大写真
「初めて銀行の顧客が銀行でないところに行ってしまうリスクが出てきた」と話す浪川攻氏
──銀行ってたくさんありますけど、正直、何が違うのかと言われると名前が違うことくらいしかわからないですね(笑)

浪川攻氏 僕らのような大衆に対する銀行のサービスというのは結局、どこも同じですからね。それほど差はないですよ。それが富裕層、金持ちになると違ってくるわけです。サービスの厚みがね。一般庶民にとっては結局、銀行を選ぶ時の動機というと近くにあるとか、そういうことになっちゃうわけですね。だけど、これからは近くにあると思っていた店舗がなくなっちゃう可能性があるし、今や振り込みなどは家にいてもできちゃう。そういう状況になってくるので、銀行を選ぶ動機が、「家の近くにあるから」ということにならなくなるかもしれませんね。これからは感じがいい、わかりやすい、使いやすい、使い勝手がいいというようなことで競争が始まる。その勝負のカギを握るのがフィンテックです。

──本の中では、新しいタイプの銀行店舗を紹介されていますね。

浪川氏 三井住友銀行が従来とはまったく違う店舗を出しはじめました。スタッフは少人数で、事務スペースがなくて完結する店舗で、アメリカの店舗に追随したものです。メガバンクの中で店舗改革は三井住友が圧倒的にリードしています。三井住友の店舗は全国に420くらいあるのですが、来年度いっぱいですべて新しいタイプの店舗に変えるようです。3つのメガバンクの中で店舗改革についてはものすごく差が出ている。それはどうしてかというと、三井住友は早くから経営層がアメリカやヨーロッパの状況を把握して、その決断を早くしたからです。

──銀行の店舗というと、カウンター越しに女性が応対する固定化されたイメージがあるので、事務スペースがないというのはかなり斬新です。

浪川氏 伝統的な銀行店舗というと、30、40人のスタッフがいて、半分以上はカウンターの後ろの方で事務作業をしていました。それをカウンターでキーボードを打てばデータが事務センターにいき、事務センターで全部処理をするやり方にインフラを変えたので、支店の事務がいらなくなっちゃった。今は過渡期で、支店にいた事務の人をセンターに移動させてセンターで働くということをやっているわけですけど、だんだんセンターもIT化してくるので、どんどん人はいらなくなってきます。

トランザクションレンディングの脅威

──三井住友だけでなく銀行の店舗は今後、大きく変わっていくことになるのでしょうか?

浪川氏 ここ数年、アメリカでもヨーロッパでも大きな銀行が出している店舗は、まったく今までとはタイプが違うものです。スタッフは数人だけ。これまでの銀行のように事務の人が一生懸命、処理をしている光景なんてまったくない。椅子もない。そういう店舗ばかりです。三菱UFJも戦略化して準備を整えていますので、ここ1~2年で物凄く変わるんじゃないでしょうか。

──先ほどフィンテックの話しがありましたが、フィンテックやITテクノロジーと銀行との関係はどのようなものなのでしょうか?

浪川氏 フィンテックという言葉は曖昧ではあるのだけれど、銀行側にとってのフィンテック、デジタル技術の導入やデジタル技術の進歩というのは、二つ意味があって、一つは敵が増えるということ。ITやベンチャーがデジタル技術を使ったよりよいサービスをすごく安い金額でやってくる。銀行にとってこれまでなかった敵を相手にしなければならないということがあります。もう一方で銀行はITによってコストを削減することができるんですね。だからフィンテックというアメは銀行にとっては辛くもあり、甘くもあるアメなんですね。

──現実に今、日本の銀行がフィンテックやITに関し脅威に感じているとすれば、それは例えばどのようなことですか?

浪川氏 個人取引の分野では見えにくいところがありますが、中小企業取引で言うと、例えば楽天は仮想空間にモールをもっています。モールの加盟店が仕入れをするのに、仕入れ代金を貸すとか、そういうことかできるわけですよ。そうなってくると、既存の銀行が、楽天のモールに加盟している店舗にですね、うちで借りてくださいと言っても、なかなか入り込めない。そういうことがすでに起きていて、これはとても銀行にとって脅威です。トランザクションレンディングというのですけれど、IT企業はモールに入っている加盟店で何が売れているのかわかっているわけですよね。そうすると店舗の資金繰りも把握できてる。店舗の経営状況も把握しているわけです。圧倒的に貸せるか貸せないかの融資審査のデータが揃っちゃってる。だけど銀行は店舗の経営がどうなのかすべて調べなければならない。圧倒的に初めから勝負に差がついてしまっているわけです。

グーグルやアリババが日本で金融ビジネスを始めたら……

──トランザクションレンディングは、取引データにもとづく融資という言い方がされているようですね。

浪川氏 GMOペイメントゲートウェイは、もともと決済代行会社で、スマホでやるようなクレジットの決済を裏で引き受けていた会社でした。新たなシステム、サービスをどんどん生み出して、メガバンク間で提携合戦が繰り広げられ、三井住友が提携しました。提携して合弁会社を作ったのです。マネーフォワードやLINEもどんどん金融に入ってきていて、LINEは野村と提携しましたね。マネーフォワードはお財布携帯をやっていて、預金口座は銀行がもっているのでほとんどの地銀と提携しているのではないでしょうか。

──金融業界とIT業界が「合従連衡」していくような感じでしょうか?

浪川氏 銀行をはねかえしてしまう物凄いやつ(IT企業)は今のところ日本にはないけど、例えばグーグルが日本で本格的に金融ビジネスを始めるとか、中国のアリババが日本に上陸してやるというようなことがもし起きたら、日本の銀行と提携して穏やかにやっていくということは考えにくいでしょう。

──従来から言われている少子化に加え、ITによる技術革新の波が日本の銀行を襲いつつある状況のようですが、今後、金融再編が起こるとお考えですか?

浪川氏 メガバンクと地方銀行では事情が違うと思います。大手銀行クラスでは単純な合併は起きないと思います。事業を譲渡するとかそういうことは起きるかもしれないけれど、合併のようなことは起きないと思います。しかし、地銀は別です。地銀はこれから合併が起きると思います。1つの県に2つ以上の地方銀行があるわけですが、2つあってやっていけるのかという問題がこれから本当にシリアスになっていくと思います。もっと人口が減るわけですし、それが合併なのか、人口減少とか経済規模の縮小に合わせて規模を小さくさせるのか道はいくつかあると思いますが、いずれなんらかの選択をしなければならないでしょう。

地方銀行は給与水準の見直しを迫られる?

浪川攻著『銀行員はどう生きるか』(講談社現代新書)
拡大写真
浪川攻著『銀行員はどう生きるか』(講談社現代新書)
──地方銀行について言えば、今、スルガ銀行が大きな問題になっているわけですが、金融庁は地方銀行に対してどのような姿勢なのでしょうか?

浪川氏 ここ数年、金融庁は地銀に、今のビジネスモデル、経営戦略は限界だと。環境変化の中で、持続性がある、10年もちこたえられるような新たな経営戦略を構築すべきじゃないかという玉を投げてきました。だから一部では合併なども起きています。ただし、合併だけが選択肢ではなくて、規模を小さくするということもありますね。県内経済の規模が縮小するのに、県内経済で商売をしている銀行の規模が変わらないことはあり得ないわけです。銀行業界って、ほかの銀行と比べて年収が高い。果たして業務や収益力と比べて給与水準は見合っているのかどうか。給与水準を引き下げなければならないということもこれから出てくると思いますよ。

──「安定で銀行を選ぶ時代は終わろうとしている」と本の最後を結んでいますね。

浪川氏 多くの地方銀行が県内トップクラスの給与水準なのですが、これからそういうことが成り立つのか、ここ1年の間に大きなテーマになってくると思います。しかし、給与水準を低くすると、優秀な人材が確保できないという問題も出てきますね。銀行は変わりたくても、なかなか変われないくらいデカいわけです。大きな船が急に曲がれないのと同じようにデカくて変えられないわけです。地銀は小さいとはいえ、一つの県の経済規模からしたらすごくデカい。なかなか県の状況に合わせて変わることができないということが一つと、フィンテックのプレーヤーなどが出現してくる5年くらい前まで、顧客は銀行からは逃げなかった。他行に移ることはあっても銀行業界から客が去ることはなかった。ところが新しい人たちがきた、つまりフィンテックプレーヤーは銀行ではないですから。初めて銀行の顧客が銀行でないとこに行ってしまうリスクが出てきたわけです。これは日本の銀行業界にとって過去にはなかったことです。

──銀行はあるのが当たり前と思われていましたが、ある意味、銀行も普通の企業に変わっていくということでしょうか?

浪川氏 これまでは多少、サービスのレベルが低くてもお客さんがいなくなることはない、ということだったのだと思うんです。でも、初めてお客さんがいなくなるリスクに直面して、今、バタバタと慌てている、そういうことだと思います。
----------
【浪川攻】なみかわ・おさむ。1955年、東京都生まれ。上智大学卒業。1987年、株式会社きんざいに入社、「週刊金融財政事情」編集部デスクを務める。同社退社後、月刊誌「Voice」編集・記者、東洋経済新報契約記者を経て、フリーの経済ジャーナリストとして活動。著書に「金融自壊―歴史は繰り返すのか」(東洋経済新報社)など。今年4月には講談社現代新書より「銀行員はどう生きるか」を出版。

最終更新:10月1日(月)14時50分

THE PAGE

 

【あわせて読みたい】

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

ヘッドライン