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「短編アニメ映画」の公開が相次ぐ本当の理由

8月19日(日)13時40分配信 東洋経済オンライン

8月24日から劇場公開される『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』。米林宏昌、百瀬義行、山下明彦らスタジオジブリの作品に参加した一流のクリエーターたちが手がける短編集だ ©2018 STUDIO PONOC
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8月24日から劇場公開される『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』。米林宏昌、百瀬義行、山下明彦らスタジオジブリの作品に参加した一流のクリエーターたちが手がける短編集だ ©2018 STUDIO PONOC
 猛暑が続く日本の夏だが、「短編アニメ」にとっても”熱い夏”になっている。

 新海誠監督『君の名は。』の制作で知られるコミックス・ウェーブ・フィルム(以下CWF)と、米林宏昌監督『メアリと魔女の花』を制作したスタジオポノック――。近年のアニメーション業界で注目を集めるふたつの実力派アニメーションスタジオが、同時期に短編アニメを公開することになった。その背景にあるものは何なのか、両スタジオの関係者たちに聞いた。
■新海誠作品を支えたスタッフが短編に挑戦

 CWFが手がける短編オムニバス集『詩季織々』(現在公開中)は、中国のアニメ業界をリードするブランドHaolinersとのコラボレーション作品。1本あたり20分前後のアニメーション作品3本から構成され、全体で74分の作品となった。

 Haolinersの代表も務めるリ・ハオリンが総監督を務め、実写映画出身でアニメ初挑戦となるイシャオシン、そしてCGチーフとして新海誠作品を支え続けてきた竹内良貴らが参加。監督全員が30代前半という日中の若き才能が結集している。
 同作の総監督を務めるリ・ハオリン率いるHaolinersは、中国の人気WEBコミックをアニメ化した「銀の墓守り」などで知られるアニメーションブランド。10年ほど前に、新海誠監督の『秒速5センチメートル』を観て、衝撃を受けたリ監督は、『言の葉の庭』の公開に合わせて訪中していたCWF代表取締役の川口典孝氏に、コンタクトをとり、ラブコールを送ったことが最初の出会いだった。

 「『君の名は。』の大ヒットから、制作依頼をいろんな会社からたくさんいただくようになりましたが、リ監督はその前からラブコールを送ってくれていた」と、CWFの堀雄太プロデューサーは語る。
 そして、「最初の依頼の際は弊社の制作ラインが空いていなかったこともあってお断りしましたが、彼とはその後もいい関係を続けていたんです。だから『君の名は。』の完成後はどうしようかとなったときに、リ監督が送り続けてくれていたラブコールに応えることにしたのです」と明かす。

 これまでの新海誠作品を支えたCWFの美術、CG、撮影スタッフが携わるという条件で制作された作品は、リ監督による、新海誠作品への愛情が随所に表れたものとなった。
 同社の稻垣康隆プロデューサーも「あくまでビジネスとして、この作品を成立させようとするのではなく、リ監督の情熱がすべてだった。もちろんHaolinersもアニメの制作会社なので、自分でアニメを制作することができる。でも背景美術をはじめ、うちのスタッフと一緒に作りたいという彼の熱意が原動力となったことは間違いない」という。

 当初の企画では劇場上映は想定せず、「1話10分ほどの短編を12本制作し、ネットで配信したい」というのがHaoliners側の提案だった。しかし、12本の短編を同時に作るのは物理的に難しく、短い上映時間では、ちゃんとストーリーを見せていくCWFの得意のスタンスにはならないという問題点が挙がった。
 そこで両社で打ち合わせを重ねる中で、数人の監督たちによるオムニバス短編を作ろうという形になった。さらに、東京テアトル配給による特別上映も決まった。それと同時に、日本、中国以外の全世界では、動画配信サービスNetflixでも配信がスタートしている。

■疲弊するアニメ業界に作る場を提供

 稻垣プロデューサーは「今、アニメ業界は疲弊している。そんな中で、短編を作ることで、アニメーターに作る場を提供できるということが魅力的だった」と振り返る。
 短編アニメを作るメリットとして、普通のテレビシリーズをやるよりも安く済むという点が挙げられる。

 「一般的に、1クールのテレビアニメ制作費は2億以上、劇場公開作品だと2~3億と言われています。でも、短編アニメの場合はもっとコンパクトな予算や制作規模で作ることができ、それ故に新しい監督をデビューさせやすい。それに弊社が制作費を出せば、作家性を担保できます。作ったら終わりではなく、その後の展開も含めて考え、作家さんにもきちんと還元するというところまで見据えています」(堀プロデューサー)
 一般的に日本のアニメ制作において動画・仕上げを海外に発注するのは珍しいことではないが、日本人スタッフの人材育成という面では、「成長する機会を奪ってしまっているのでは」ということは以前から指摘されてきた。

 稻垣プロデューサーも、中国のスタッフのクオリティが上がっていると実感すると同時に、国内の動画アニメーター育成の必要性を感じている。

 「今回、動画も基本的にはうちの日本人のスタッフで作っている。やはりアニメーションの基本は、画面に映る動画なので、そういった人材を育てないといけない。今回の短編は、衣食住行がテーマ。アニメーションは日常を描くことが難しいとされているので、食べ物あり、洋服ありといった作品は、若手のアニメーターにとってもいい勉強となる」(稻垣プロデューサー)
 そして「たとえば汁ビーフンのゆげを絵で表現するというのはなかなか難しかったが、彼らもいろいろと試行錯誤して表現できるようになった」と、その成長を実感していた。画面から匂い立つような料理のシーンは本作の大きな見どころのひとつだ。

■宮崎駿監督の言葉が短編づくりの契機に

 一方、スタジオジブリの作品づくりの志を継承し、誕生したスタジオポノックも「ポノック短編劇場」というタイトルのもとに短編映画に取り組んでおり、8月24日から劇場公開される。
 『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』というタイトルで公開されるこの作品は、『メアリと魔女の花』の米林宏昌監督が自身初となるオリジナルストーリーで挑む大冒険ファンタジー『カニーニとカニーノ』。母と少年の命のドラマ『サムライエッグ』。見えない男の孤独な闘いをスリル満載のアクションで魅せる『透明人間』の3本からなる。

 この作品が生まれた経緯は、スタジオポノックの西村義明プロデューサーのもとに、配信会社の知人から『メアリと魔女の花』のスピンオフアニメを作らないかという提案があったというところまでさかのぼる。
 だが一線級のスタッフが参加して完成させた『メアリと魔女の花』と同じクオリティで、スピンオフ作品を作ることは難しいという結論となり、その話は立ち消えとなった。

 しかしそのとき、同社の西村プロデューサーは、スタジオジブリでの宮崎駿監督との会話を思い出したという。

 「米林宏昌監督の『思い出のマーニー』が終わった後に、宮崎さんが『長編を作った後は空っぽになってしまうものだ。続けて長編を作るのではなく、ジブリ美術館用に短編アニメーションを作ってみたらどうか』と提案してくれた。でも結果としてそのときは、米林さんはそれを断り、長編(『メアリと魔女の花』)を作るという決断をしたわけですが、その宮崎監督の考えを覚えていたんです」(西村プロデューサー)
 先述した『詩季織々』同様、こちらの短編作品も、元々は配信で流す作品として考えていたという。

 「30分を4分割すると、7分半。YouTubeなどの視聴時間は5分から10分くらいがちょうどいいと言われていたから、それでいこうと思った」と語る西村プロデューサーが、「この人の短編を見たい」として声をかけたのが、巨匠、高畑勲監督の右腕として活躍した鬼才・百瀬義行と、宮崎駿監督作品の中心を担った天才アニメーター・山下明彦。そしてもうひとり、高畑勲監督にも声をかけていたのだという。
 「高畑さんとはジブリの制作部門が解散した後も会っていて、短編アニメーションの企画についても話をしていたんです。そのときに高畑さんがずっとやりたがっていた(が、実現はできなかった悲願の企画)『平家物語』の一部を7分だけ切り取っても作品として成立しますよねとお話しした。すると高畑さんの目が輝いて『できますよ。やりましょう』と言っていたんです」(西村プロデューサー)

 新しい内容と表現を追求するために短編映画を作りたい、という思いは「やはり高畑勲、宮崎駿、両監督の近くにいたというのは大きいですよね」という西村プロデューサー。
 結果として高畑監督の急逝により、参加は幻となってしまったが、プロジェクトは米林、百瀬、山下の3監督による競作として進められた。

 実際、スタジオジブリの作品は短編アニメがベースになっているものが少なくない。『崖の上のポニョ』は、その前に作られた3~4のジブリ美術館の短編作品が集積したものだといい、『風立ちぬ』で効果音を人の声でやるということがあったが、それもジブリ美術館の短編アニメーションで試していたことだったという。
 新しいことにチャレンジするということ、それと同時に作品のクオリティはしっかりと担保すること。本作の制作には、その両軸に主眼が置かれた。「“運がいいことに”とあえて言いますが、僕たちが一緒にやるクリエーターたちは、テレビだろうが配信だろうが、どの媒体でも劇場クオリティで作る。つまり言い方を変えると、劇場クオリティでしか作れない。この3作品は予想以上にお金がかかりました」と、西村プロデューサー。

■チャレンジできる場を自分たちで持たないと
 もともとは配信でと考えていたという短編集だが、東宝配給による全国公開が決定した。上映時間は3本立てで54分、入場料は一般1400円を予定している。

 「短編アニメーションの『岸辺のふたり』が新宿武蔵野館で1年ほど上映していたことがあったので、この短編作品たちもそういう形で、1館でもいいので上映してもらえたらなといいなと思っていたんです。でも東宝さんにお話をしたら、100~150スクリーン規模でやろうということになって、驚きました」(西村プロデューサー)
 東宝配給で短編映画を上映するのは、萩本欽一制作総指揮で1993年、1994年に公開された実写の短編オムニバス集『欽ちゃんのシネマジャック』という例があるものの、それでも異例のスタイルであることは間違いない。

 CWFとスタジオポノック――。両社が短編アニメーション映画に向かったきっかけは違っているが、「物が売れない時代は、どの業種も数字を維持するために保守的になっていく。しかしそんな時代だからこそ、チャレンジできる場を自分たちで持たないと新たな場所には踏み込めない」と西村プロデューサーが語る通り、アニメ業界を底上げし、未来につなげたいという思いは両社に共通している。
 (文中一部敬称略)
壬生 智裕 :映画ライター

最終更新:8月19日(日)13時40分

東洋経済オンライン

 

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