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エルドアンとトランプ、その確執の背景と行く先

8月17日(金)15時40分配信 HARBOR BUSINESS Online

このときのように握手する日が再び来るか? Official White House Photo(Public Domain)
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このときのように握手する日が再び来るか? Official White House Photo(Public Domain)
 トルコリラの大暴落を招くなど、トランプ大統領とトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領の確執がますます悪化している。

 ただ、この確執は突然発生したのではなく、これまでトルコと米国の間でさまざまな背景が以前から存在していたという事情があってのことである。また、両者とも周囲の助言に耳を貸すことは少なく独断的な決定を下す傾向にある。それも今回の確執に加算しているようだ。

◆エルドアンのNATO離れ

 イスタンブールの前市長だったエルドアンが2002年に公正発展党(AKP)を率いて首相として政権に就いた時のトルコは、まだ国際舞台に登場してはいなかった。

 トルコは、1952年から北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているとはいえ、1960年から1997年まで4度の軍事クーデターを起こした軍事政権の根強い国であった。かつて繁栄したオスマン帝国の血を引くとはいえ、トルコは国際舞台に登場できるだけの余裕も影響力もなかったからだ。

 NATOに加盟できたのも、共産主義のロシアと国境を接し、地政学的に重要な黒海に面した国ということで米国や英国から関心がもたれたことが理由だった。トルコ以外の黒海に面した国々は、旧ソ連の影響下にあったワルシャワ条約機構に加盟している国々だったからである。また、トルコはワルシャワ条約機構加盟国にとって黒海の戦略的な重要性を無効にできるボスボラス海峡とダーダネルス海峡を自国の領土にもっていた。この二つの海峡をトルコが封鎖すれば、黒海の戦略的な重要性は後退するからである。

 共産圏に対峙する為に、トルコが持っているこれらの地政学的な特異性からNATOはトルコを加盟国に加える必要性を感じたというわけである。また、トルコにとっても、NATO加盟はヨーロッパ圏に加わることのできる良い機会だと判断していた。

 しかし、現在のトルコはシリア紛争においてNATOの意向に反した行動を取っている。

 ミサイルシステムもNATOの敵であるロシアのS-400の購入を決めている。更に、S-500をロシアと共同でトルコで生産することを提案もしている。

 NATOの防衛システムと互換性の無いS-400そのものの配備はNATOにとって二次問題とされている。NATOが一番懸念しているのは、その配備の為にロシアがトルコで構築するレーダー網が問題になると見ているのである。(参照:「HispanTV」、「HispanTV」)

 米国はトルコのS-400の購入に対して、報復として第5世代戦闘機F-35のトルコへの引き渡しを中断することを5月の議会で決めている。100機の購入が予定され、2022年までに30機の納品が計画されているたが、現在まで引き渡されたのは僅か1機だけである。米国は今後はその引き渡しを一切中断するという姿勢なのである。

 米国のこの姿勢に対して、トルコはF-35を納品しないのであれば、ロシアのそれに対抗できるSu-57を購入することをNATO本部に仄めかしている。(参照:「GalaxiaMilitar」)

 トルコがNATOに対し更に不満として抱いているのは、2015年にロシア戦闘機を撃墜した時に、同じNATOの加盟国がトルコに味方することを積極的に示さなかったことだ。更に、翌年のクーデター未遂にはエルドアンの政治姿勢に不満をもっていた米国が関与しているように思われたが、当時のオバマ政権は曖昧な姿勢を保ったばかりであった。この二つの出来事からエルドアンはNATOそして米国に強い不審の念を戴くようになっていたのである。そして、逆にクーデター未遂を事前に知らせてくれたロシアと良好な関係を築くようになっていくのである。

◆クルド人独立を煽る勢力を米国が支援

 トルコが国際舞台に登場するようになるのは、米国とフランスが主導してシリアとイラクの2か国を分割して、スンニ派国家とクルド人国家を築くというプランにトルコを参加させたのが切っ掛けとなった。

 トルコにして見れば、国内に人口比で2割に相当するクルド人がいて、彼らは独立心が旺盛で、トルコの統一を乱すことをエルドアンは恐れていた。彼らを新しく建国するクルド人国家に移住させればトルコの統一もより確かなものになると考えていたのである。当時の欧米でこのような構想が出来たのも、その時期はソ連が崩壊した後で、ロシアがソ連のように国際的影響力を取り戻すまでの過渡期にあったからで、それを欧米は利用したというわけである。

 これが起点となって、その後のトルコは中東で一言を持つようになり、シリアに侵入し米国が支援しているクルド人部隊とも衝突するようにもなっている。そして、米国が味方しているクルド労働者党(PKK)がトルコ国内のクルド人の独立を煽るのを防ぐ為に彼らの拠点を積極的に攻撃している。

◆ギュレン師を巡る米国との確執

 更にもう一点留意する必要があるのは米国に自主亡命したフェトフッラー・ギュレン師の存在である。

 エルドアンが党首を務める公正発展党(AKP)が創設された当初、世俗主義を唱えるギュレンがAKPへの支持者を集めるのに協力していた。しかし、イスラム教条主義を本来信奉するエルドアンと対立するようになり、ギューレンは自らの身の安全を守るため米国に亡命。米国が彼を容易に受け入れたのは彼がCIAの協力者だったからである。

 ギュレンを信奉する者はトルコ国内に多くいる。イスラムの教えに固執せず、普遍性を説く彼の思想は法曹界、企業界、警察官、報道メディアなどに多くの支持者がいるとされている。

 エルドアンは2016年に起きたクーデター未遂の首謀者がギューレンだと見て、彼の身柄のトルコへの引き渡しを米国にこれまで再三再四要求して来たが受け入れられないままになっている。そこで、トルコは20年在住している米国人宣教師ブランソンを諜報活動をしていたとして拘束。既に2年が経過しているが今も釈放されない状態が続いている。トルコはブランソンの釈放と交換でギューレンのトルコへの送還を要求したのである。

 トランプ大統領はこの問題に対して、強硬策に出た。まず、8月1日にブランソンの収監に直接関係しているトルコの法相と内相に対して制裁を科して米国にある彼らの資産を凍結。更に、トルコに圧力を掛けるべく、輸入関税率をアルミ20%、鉄鋼50%に引き上げたのである。(参照:「El Confidencial」)

◆そしてトルコ通貨危機へ突入

 既に景気が低迷しているトルコは、トランプのこの決定を受けてトルコの通貨リラは大幅に下落するに至った。年始から見ると対ドル40%の下落となっている。(参照:「La Vanguardia」)

 トルコの通貨危機の始まりである。エルドアンは国民に向けて、ドルを売ってリラを買い戻すように説得に努めている。しかし、トルコ人の間ではこれまでもリラへの信頼は薄く、ドルを保有する傾向にある。エルドアンは「彼らはドルを持っていても、我々にはアラーの神がついていることを忘れてはならない」と言って、国民にドル売りを説いているが、独裁色が強くなっているエルドアンの前に、彼への支持派と反対派で国内は完全に二分している。支持派が大多数を占めていた以前のようなことはなくなっているのだ。それでも、強圧的なトランプの姿勢を前に、トルコ国民はエルドアンの訴えに従ってドルや金を売ってリラに交換していると『El País』のイスタンブール駐在記者が報じている。

 この通貨危機が始まって、これまで低く抑えられていた金利も8%から18%に挙げた。インフレは15%だ。高いインフレにも拘らず5年間金利を低く抑えていたのは建設業界の資金操作を容易にするためと、観光業の促進と消費をそそるためであった。それを独断的にエルドアンが指示して来たのである。その影響で経済の安定に必要な外貨は国外に流出して行った。更に、通貨の下落を抑えるべくこれまで60億ドル(6600億円)を投入している。(参照:「El Pais」)

 国のGDPに占める負債は50%であるが、民間部門の負債は72%である。これから勇断ある対策が必要であるが、トルコの財政のカギを握っているのはエルドアンの娘婿アルバイラク財務相である。彼がエルドアンの耳が痛くなるほどの苦言をしてまでトルコ経済の立ち直りに必要な政策を打てるかという疑問もある。

 仮に今後、更にリラの下落が続くようになればIMFの支援も仰がねばならなくなるかもしれない。皮肉にも、IMFの最大出資国はトランプの米国である。(参照:「El Confidencial」)

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
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最終更新:8月17日(金)15時40分

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