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街から消える本屋 惜しまれつつ、青山ブックセンター六本木店が25日に閉店

6月23日(土)10時40分配信 THE PAGE

平成30年6月25日に閉店となる青山ブックセンター六本木店。六本木通りに面した、六本木のランドマークのひとつだった
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平成30年6月25日に閉店となる青山ブックセンター六本木店。六本木通りに面した、六本木のランドマークのひとつだった
 六本木ヒルズができるずっと前から、界隈のランドマークとして親しまれた青山ブックセンター六本木店。2018年6月25日、この老舗書店が38年の歴史に幕を閉じる。

 青山ブックセンター六本木店がこの地に開店したのは、1980年。広告代理店の株式会社ボードが、書店1号店として出店したのが始まりだ。広告代理店が運営する店とあって、一般新刊書に加えて写真やデザイン、建築、美術関連など、アートやサブカルチャーのニーズに応えた書籍が充実していることで知られていた。

ほかにないラインナップでサブカル文化を下支え

青山ブックセンター六本木店の前にある立て看板
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青山ブックセンター六本木店の前にある立て看板
 閉店を間近に控えた青山ブックセンター六本木店に別れを告げるべく、あらためて訪れてみることにした。

 東京メトロ・日比谷線六本木駅を出てすぐ、六本木通りに面した店舗は、これまでと変わらず、多くの来店者を迎えて賑わっていた。店の入り口には「検索でたどりつかない、本とアイデアを。」の立て看板。この店にぴったりのキャッチフレーズだ。

 店に入ってすぐ目につくところには、新刊ながらもほかの書店では最前面に飾られることのないアート系の書籍が並べられている。

 絵本や文学、デザイン、建築などの棚を見ながら奥へ進むと、この店の顔ともいえる写真集や美術のコーナーがある。誰かマニアックな趣味人の書斎の中に迷い込んだよう。最近ではあまり作られなくなった、片手では持てないような大判の豪華写真集や、ここで出会うまで名も知らなかった海外の美術館のコレクション本などが、手に取ってくれる人を静かに待っている。

 閉店を前に、今は一部商品、特に他書店にはないようなラインナップの多くが70%オフになっている。本店との統合を前に、在庫処分をする形なのだろうが、この書店での最後の出会いを求めて貴重な写真集などを手に取る客が多い。

 一般の書店に比べて、棚差しされた書籍より、表紙を見せた陳列が多いように見える。表紙そのものがデザイン性に富んでいたりして、見栄えがするためもあるだろうが、それだけの理由ではなさそうだ。どの書籍も同じくらい愛おしい、どの書籍もできるだけ人の目に触れてもらいたい、出会うべき人ときちんと出会わせてあげたい。そんな思いが伝わってくる。

 慌ただしい六本木の通りにありながら、ここでは時間がゆったり流れている。本が好きな人、特別な本と出会いたい人が、じっくりと書籍に埋もれて時を過ごすからだ。写真集をいくつもいくつも取り出しては眺めている人、文学を読みふける人、真剣な表情で美術のデッサン書とにらめっこする人……。

 目的をもってここに来る人も、吸い込まれるようにここにたどり着いた人も、ここに来るとみな、この空間をどう楽しむか最初からわかっていたかのように振舞うのだから不思議だ。

閉店を惜しむ声、続々

青山ブックセンター六本木店で買い求めた本数冊。お気に入りの1冊に必ず出会える書店だった
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青山ブックセンター六本木店で買い求めた本数冊。お気に入りの1冊に必ず出会える書店だった
 六本木店の閉店を惜しむ声は後を絶たない。店内にはこの書店に助けられたという作家や、ヒントを与えてもらったという作家、いつもたくさん自書を置いてくれてありがとうと謝意を伝える作家、いかにこの書店を愛していたかを熱弁する作家の色紙がいくつも展示されている。

 この店舗に足しげく通ったという人たちの声を集めてみた。

 「青山ブックセンター六本木店には、数限りなく立ち寄ってきました」と語るのは、作家の戸矢学さんだ。深夜開いていた貴重な店だったこともあり、編集者として雑誌の編集をしていた頃には、夜の資料探しにタクシーを飛ばして駆けつけたことが数え切れないほどあったという。

 「もう30年くらい前のことですが、写真家のアラーキーさん(荒木経惟)のミニ特集を、荒木さんの弟子だった方(私の友人の弟さんでした)に急遽まとめてもらうことになったのですが、手元に資料がまったくなくてね。困ったときのブックセンターということで、タクシー飛ばして行きました。するとさすがにあるある!  写真集の棚は普段ほとんど見ないのですが、ほぼ絶版の貴重な初期の写真集から、発禁同然で店頭から撤去されたはずのものまで、目に付いたものは全部購入したら、ひとかかえにもなりました。バブル期だったので予算も潤沢でしたし。ちなみにその企画は、雑誌の性格に合わないということでボツになりましたが。なので、購入した写真集はすべて私が引き取りました」

 その時に購入したアラーキーの貴重な写真集が、今も自宅の書棚に何冊か残っていると、戸矢さんは懐かしそうにいう。 

 「青山ブックセンター六本木店は会社(平凡社)が東横線の沿線にあった頃、中目黒乗り換えの日比谷線から出て、帰り道、毎晩のように立ち寄っていました」

 元平凡社編集者で、民俗学など日本の心性史に関する著書の多い文筆家の畑中章宏さんの言葉だ。当時、写真集の編集をしていたため、六本木店に立ち寄っては売り上げランキングを気にしたり、自分が手がけた写真集をより目立つ陳列場所に変えてもらったりした思い出があるという。

 写真家でブロンズ新社の奥田高文さんにとっても、六本木店は通い慣れた場所だ。

 「ABC(青山ブックセンター)閉店も時代の流れですね。東京に出てから、二度目の引越しをしたのが麻布十番温泉の前のマンションでしたので、草履がけでWAVE、ABCへ行けたのが一番の思い出ですね」

 当時はサブカルも含め、書籍に勢いがあったこともあり、カメラマンとしてこの店に通うことで文化を支えている意識も強かったのではないかと、当時の自身の姿も併せて懐かしく振り返る。

 日本画家の北村さゆりさんにとっても、六本木店は特別な場所だったそうだ。

 「豪華な大型の美術書なんかが充実していますよね。あそこに行けばそういう貴重で高価な本を手に取ってじっくり見ることができました。棚と棚の間を歩いているだけでインスピレーションをもらえたり、何かしら得るものがいつもある本屋さんでしたね」

 一方、跡見学園女子大学文学部教授の副島善道さんにとっての青山ブックセンター六本木店は、おしゃれな町のシンボルだったようだ。

 「六本木ということで、町のムードと共にあった書店というイメージです。僕にとってあの店での購買ジャンルは小説系(ちょっと純文学寄り)でした。六本木と言えばアマンド(喫茶店)前。ここで誰かと待ち合わせする時に、手に持ってる本が漫画じゃちょっとカッコ悪い。というわけで事前にABCに立ち寄って読書して、本を買って待ち合わせ場所に、という利用の仕方が多かったです。どちらかというと娯楽系の使い方でしたね」

 大手出版社で多数のベストセラーを手掛けてきた編集者の今井康裕さんにとっても、六本木店は六本木を象徴する書店だったという。

 「洗練された人が行く書店というイメージ。自分も学生時代から頑張って足を運ぶようにしていましたね。普段行く書店とは並べられている本の種類も違ったりして、行くだけで勉強になる本屋でした」

 十人十色の思い出話であるが、みな一様に、一時代を築いた青山ブックセンター六本木店に対する一種の敬意を抱いている様子が窺える。
いつものパンダが、閉店目前の6月21日には安田登さん主催の特別人形劇の案内をしていた
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いつものパンダが、閉店目前の6月21日には安田登さん主催の特別人形劇の案内をしていた
 6月25日最終日を数日後に控えた6月21日夜、六本木店の店内で人形劇が開催された。能楽師の安田登さんがかねてからシュメール語と能楽を組み合わせて公演してきた人形劇『イナンナの冥界下り』だ。店舗の広さからこれまであまりイベントなどは行ってこなかった六本木店だったが、閉店を前に、安田さんからの申し出で実現した。

 夜の帳が下りる頃、六本木の書店で繰り広げられた幻想的な人形劇。これもまた、青山ブックセンター六本木店への愛情表現のひとつだった。

(取材・文・撮影:平松温子)

<青山ブックセンター六本木店の沿革>

六本木に1号店を置きながら「青山ブックセンター」の名を冠していたのは、設立当初、青山を愛していたある従業員に由来する。本店の青山店は創業からかなり遅れての悲願の出店だったといわれる
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六本木に1号店を置きながら「青山ブックセンター」の名を冠していたのは、設立当初、青山を愛していたある従業員に由来する。本店の青山店は創業からかなり遅れての悲願の出店だったといわれる
 1980年広告代理店の株式会社ボードが、書店1号店として出店。1984年には広尾店、1992年には新宿店をオープン。全盛期には東京、神奈川に7店舗を有するチェーン展開をしたが、1991年に突如始まったバブルの崩壊による不況のあおりが直撃。加えて、競争激化に対抗すべく店舗拡張をはかるも財務状況は厳しさを増していった。2004年に取次会社の破産により、突然、全店舗が閉店。2カ月後にはグループ会社によって民事再生の申し立て後に再建。地方への新規出店などで一度は盛り返しを見せた。

 ところが、2008年に当時の親会社・日本洋書販売が破産。再び民事再生法による再生手続きが取られることになった。救済の名乗りを上げたのが、新古書チェーンのBOOK OFFだった。一部店舗は他店に譲渡されたり、看板の付け替えをおこなったが、青山ブックセンターの名を残す店舗は青山の本店と六本木店の2店のみとなった。

 それから10年。今回、1号店の六本木店はついに完全閉店、青山本店と統合する運びとなっている。他にない個性的な書店、名店と謳われた六本木店の閉店は、出版業界全体の低迷と、インターネット書店の隆盛という店舗型書店苦難の時代の荒波から身を守るための、苦渋の決断だったことだろう。

最終更新:6月26日(火)5時40分

THE PAGE

 

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