ここから本文です

HEROZの初値新記録は何を示唆しているのか

4月26日(木)13時31分配信 会社四季報オンライン

HEROZの創業者である林隆弘CEO(左)と高橋知裕COO(右)(撮影:今井康一)
拡大写真
HEROZの創業者である林隆弘CEO(左)と高橋知裕COO(右)(撮影:今井康一)
 また一つ、感慨深い新記録が現実のものとなった。

 4月20日、マザーズ市場に上場したHEROZ(4382)は買いが殺到して値が付かず、上場3日目の24日に4万9000円の初値を付けた。公募・売り出し価格の4500円に対しての上昇率は988.8%。これは1999年10月1日のエムティーアイ(9438、JASDAQ上場)の809.1%を超え、現行でのIPO制度の下での新記録となった。この記録は未来永劫破られないのではと想像していただけに驚きを禁じ得ない。

 1998年10月12日、アメリカのヘッジファンドLTCMの破綻懸念を背景とした世界的な株価暴落が続く中、深刻な信用不安の連鎖という独自要因にも苦吟していたわが国では、与野党が歩み寄り「金融早期安定化法案」が可決・合意された。詳細は省くが、同法案の中には貸し渋り対策として「中小企業金融安定化特別保証制度」というものが含まれていた。これは、ざっくり言えば、中小企業の経営者が申し出れば1年間5000万円(配偶者にも同額)を限度に低利融資するという制度である。

 貸し渋り対策という主眼とは裏腹に、株価暴落の下で萌芽しつつあったIT・.com(ドットコム)バブルが1999年に膨張するにつれて、利にさとい経営者の多くが1年間の信用取引の原資とばかりに融資された資金を株式に振り向けた。その対象となったのがIT関連と称される銘柄群やIPOである。東証1部の時価総額は98年9月末の245兆円から99年の年末の442兆円まで、1年3カ月という短期間で200兆円近く膨張した。いかに凄まじい高騰であったかがうかがえよう。

 99年の秋、1年という期限が迫ったとして上記のような銘柄が大幅な調整を余儀なくされた。日経平均株価は7月半ばの1万8500円台から9月下旬には1万7000円を割り込んだ。新興市場の下げがよりキツかったことは言うまでもない。特別保証制度の終了を警戒していた市場に政府が示した回答は、「貸付額の総枠を拡大」したうえに「延長」する、というものだった。

 太平洋の向こう側、アメリカでは「Y2K(西暦2000年という数値をコンピューターが認識できず誤作動するのではないかという懸念)」への対応として米連邦準備理事会(FRB)は流動性の供給という対策を採った。日米共に「買うから上がる、上がるから買う」という流れに拍車が掛かったのである。そうした状況の下で記録されたのが「809.1%」だった。筆者の驚きがご理解いただけるだろう。
 HEROZの新記録は何を示唆しているのだろうか。さまざまな解釈ができるだろうが、筆者はAI(人工知能)に対する恐怖が社会全体に蔓延しており、その裏返しとしての期待感が発露したものではないかと考えている。そして、単純ではあるが、やはりカネはあるところにはあると示しているようにも思えるのである。

■ 1998年の「NTTドコモ」上場で感じたこと

 昔話ばかりで恐縮だが、上記のように悲観が市場を覆っていた98年の10月9日(この日に日経平均は1万2879円というバブル崩壊後の安値を付けた)、NTTドコモ(9437)のブックビルディングが終了し週明けの12日に公募・売り出し価格は390万円と決まった。総額2兆1255億円というIPOとしては過去最大の資金吸収を危ぶむ声もあったが、上場日である10月22日の初値は460万円と順調な滑り出しとなった(終値は465万円)。

 この時、ディーリング部門に身を置いていた筆者はあらためて日本という国・市場の懐の深さ、底力を見せつけられたような気がした。カネはあるところにはあるなあ、と。

 日経平均やTOPIXの動きで振り返るとこれまでのところ今年4月の日本株は想像以上に堅調だった。日米首脳会談を無事通過したことや、23日に米財務省が、対ロシア追加制裁の対象となっているルサールからアルミなどの供給を受けている米国企業に対し制裁対応期限を6月5日から10月23日へと先送りしたことで、米中貿易摩擦も警戒されているほど深刻なものにはならないのではないか、との安堵感が広がったことが大きく影響したように思う。

 24日に米建機大手キャタピラー(CAT)は好調な第1四半期(2018年1~3月)決算を発表しながら、CEOがこの四半期が今年のピークになるとの認識を示したことで急落し、米国株全体に売りが広がり日本株も影響を余儀なくされているが、CEOの発言には貿易戦争は回避して欲しいとの含意があるのではないか。その点を市場が理解すれば米国株が売られ続けるとは考えにくい。

 同社が1年前に決算を発表した時点におけるS&P500の予想PERは17.7倍で益回りは5.64%、10年国債利回り2.334%との差であるリスクプレミアム(RP)は3.31%程度であった。24日時点では予想PERは16.5倍=益回り6.06%、3.000%と4年半ぶりに大台を超えた10年国債とのRPは3.06%で、昨年同時期より割安とは言えないものの、今後法人税減税の効果が見込まれることを考えれば許容できるバリュエーションといえるだろう。ちなみに、NYダウ、S&P500が最高値を付けた1月26日時点でのRPは2.62%だった。

 他方、日本企業の決算発表は27日ごろから本格化し、大型連休明けの5月第2週に佳境を迎える。決算待ちの展開が続きそうだが、少子高齢化という構造問題を背景に先行き不安が拭えないわが国において、ブレークスルーを感じさせる技術・ノウハウを持つ企業を渇望する資金が半端な量ではないことも確認されたように思う。

 つぶやきに振り回される展開はしばらく続くだろうが、企業人の声が為政者に届くことを信じれば、下げたら買いの姿勢で臨むべきではないかと考えている。 

 せがわ・つよし●新日本証券(現みずほ証券)に入社後、株式投信の運用業務、情報部門、自己売買部門のマネージャーなどを歴任。さくら証券にエクイティ部部長として勤務後、2001年4月に新光証券(現みずほ証券)にストラテジストとして入社。独立後は経済番組のコメンテーターとして活躍し、現在は瀬川投資研究所代表。市場関係者への丹念な取材や緻密なデータ分析に基づいた独自の相場解説で人気。 

※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
瀬川 剛

最終更新:4月26日(木)13時31分

会社四季報オンライン

 

【あわせて読みたい】

Yahoo!ファイナンス 特集

注目のニュースキーワード

平均年収ランキング

ヘッドライン