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この機会に「VIX」への理解を深めておこう

2月21日(水)16時01分配信 会社四季報オンライン

(撮影:尾形文繁)
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(撮影:尾形文繁)
 VIX指数。この記事をご覧頂いている読者の中には、2月前半の世界的な株安局面でこの指数を頻繁に目にした方が多かったと思う。市況解説に駆り出された専門家のすべてがVIXに触れたと言っても過言ではないだろう。

 ただ一方で、首を傾げざるを得ないような、生煮えの解説も度々耳にした。「VIXが低下しないと投資家心理は落ち着かない」といった類の話である。過ぎ去ったことではあるが、今後のためにもVIXへの理解を深めておくことは重要だろう。

 VIXとは「S&P500指数を対象としたオプションの、現在価格に近い(near the money)上下4本のコール・プット(したがって合計8本)の当限及び翌限のインプライド・ボラティリティの加重平均値」である。

 オプションの理論値は行使価格、満期までの時間(ターム・プレミアム)そして予想される変動率=ボラティリティの3つで弾き出せる。この研究でノーベル経済学賞を受賞した二人の名前を採って「ブラック・ショールズ・モデル」と称されている。

 行使価格とタームは所与のものだが、この先どれだけ株価が変動する可能性があるのかは誰にも分からない。したがって、ボラティリティは各々が推計値を入力して理論値を得て、それと実際のコール、プットの価格を比較して売買するというのが、原始的な姿である。

 逆に、コール・プットの市場価格から、所与である行使価格とタームという二つの要素を除外すれば、市場参加者のボラティリティの予想値が抽出できる。これがインプライド・ボラティリティ(IV)であり、VIXとはオプションの現在値から逆算される予想変動率なのである。

 株取引の経験があれば、全体相場の上げ下げは、相対的に下げの方が急だということは実感できるはずだ。これは万国共通で、株価が急騰しそうだとしてIVが急上昇することは皆無に近く、更なる急落を警戒してIVが急騰するというケースがほとんどだ。それ故、VIXは恐怖指数などと呼ばれたりする。
 いずれにせよ、投資家心理が落ち着けばVIXは低下するのであって、VIXが低下したから投資家心理が落ち着くというわけではないのだ。

 また、VIXの水準感が分からないという方も多いのではないだろうか。「VIXが20だ、30だ」などと言われても、それで市場参加者の総意がどうなっているのかを理解するのは難しい。

 簡便な方法を一つだけ紹介したい。主要国・市場の年間立ち合い日数は概ね21日×12カ月で252日間。これの平方根は約16ということになる。この16でVIXの絶対値を割ると、例えばVIXが32であれば2という値が出てくる。この2は、「明日のS&P500の変動が上下2%以内に68%の確率で収まる」と市場参加者が予想しているということをざっくりと示唆している。前述のように株価は下げ足の方が速い。この例で言えば、VIXが32である時、市場は2%程度のS&P500の下げに怯えているということになる。
 
 2月6日にVIXは瞬間的に50.30と、50を超えた。50を超えたのはチャイナショックと称される15年8月24日の53.29以来である。この時期、S&P500指数は5月21日高値から8月25日安値にかけて12.3%下落。一方、日経平均は6月24日高値から9月29日安値にかけて18.8%の下落となった。

 当時と今年の2月前半の急落場面を比較して共通しているのは、「リスク・パリティ」という戦略の存在だ。これは各資産のボラティリティに応じて投資配分を弾力的に変更するというもので、ボラティリティが上昇した株式の配分を減らし、安全資産のウエイトを上げるというものだ。チャイナショックの時は米国長期債が買われ、米国10年国債利回りは15年8月前半の2.2%台から8月24日には2.0%へと急低下した。

 では、今年の急落時はどうだったか。S&P500指数は1月26日高値から2月8日安値にかけて10.1%下落。日経平均は1月23日高値から2月14日安値にかけて12.3%下落となった。そして、リスク・パリティ戦略が作動したにもかかわらず、米長期金利が上昇したのがこの2月の特徴の一つである。米国10年国債利回りは1月下旬の2.6%台から2.9%程度へと水準を切り上げ現在も高原状態が続いている。これはチャイナショック以外の、例えば16年年初の「逆オイルショック」、同年6月の「ブレグジットショック」などの調整局面とも異なっている点だ。

 そして最大の相違点は、15年8月24日も米国では種々のサーキットブレーカーが発動して30分間に渡ってVIXの算出が不能になるなど大混乱したが、VIX絡みの商品の破綻といった現象は起きなかった。しかし、この2月6日にはCBOE(シカゴ・オプション取引所)に上場していた2つのETNが、毀損額が所定の限度を超えたとして取引停止となり、発行体とCBOEの判断によって繰り上げ償還されることとなった。償還と言えば聞こえは良いが、要は壊滅したということである。
 2本のVIX絡みのETNがショート(空売り)していた額はおよそ20万枚、CBOEのVIXの売り建て玉の3分の1にも及んでいたようだ。元来は純粋なインプライド・ボラティリティに過ぎなかったVIXであったが、CBOEはVIX先物を組成して09年から取引を開始した。ヘッジの有力な手段であることは間違いないが、17年の歴史的な安定相場の下でVIXのショートは安定的に儲かるという極度の楽観に傾いてしまった投資家が少なくなかったということなのだろう。
 
 株式市場の尻尾に過ぎなかったVIXが胴体である株式市場を振り回すという、初めてのケースであった。そういう意味では「VIXが低下しないと投資家心理は落ち着かない」という解説は、今回に関しては正鵠を射ているということになる。

 2月前半の世界的な株価急落が真正のリスクオフではなかったことは、米長期金利の上昇という現象からも窺える。ボラティリティの安定と低金利の併存はまだまだ続くという慢心が膨れ上がり、限界点を超えて自壊作用を引き起こしてしまったということではないか。

 下げトレンドが終了したか否かを測る尺度の一つに「半値戻し」というものがあるのは良く知られている。下げ分の半分程度も戻せないようでは早晩安値を再び割り込む可能性が高く、半値戻しを達成できれば当面の安値を付けた可能性が高いといった考え方だ。

 この1月から2月にかけてのS&P500の下げの半値戻し水準は2726.93で、2月15日には2731.20とあっさり超えてしまった。チャイナショックの際には32営業日かかったし、2ケタ以上の下落率となった過去の局面でこれだけ早い半値戻し達成は記憶にない。

 87年10月19日、NYダウは一日で22.6%下落した。ブラックマンデーの余波を受けて日本株も連れ安を余儀なくされたが、88年2月に当時の大蔵大臣が「特金・ファンドトラストの決算処理の弾力化」という方針を打ち出したことで日本株は主要国の中で最も早く最高値を更新した。投資の世界では、頓挫しかけた慢心が再び勢いを取り戻すと、慢心の度合は一段と強くなる傾向にある。日本株は89年年末の最高値に向けて高騰を続けた。

 「ファンダメンタルズの方向性に変わりはなく、金利は上がって当然だ」と折り合いをつけて米国株が再び高値を窺い、それほどの時間を置かずに最高値更新という事態にでも至れば、慢心は陶酔に変わる可能性が高い。当面は流れについて行くべきなのかもしれない。

 せがわ・つよし●新日本証券(現みずほ証券)に入社後、株式投信の運用業務、情報部門、自己売買部門のマネージャーなどを歴任。さくら証券にエクイティ部部長として勤務後、2001年4月に新光証券(現みずほ証券)にストラテジストとして入社。独立後は経済番組のコメンテーターとして活躍し、現在は瀬川投資研究所代表。市場関係者への丹念な取材や緻密なデータ分析に基づいた独自の相場解説で人気。 

※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
瀬川 剛

最終更新:2月23日(金)10時46分

会社四季報オンライン

 

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