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「違法民泊」淘汰で簡易宿所はブームとなるか?

2月21日(水)20時00分配信 不動産投資の楽待

(写真:不動産投資の楽待)
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(写真:不動産投資の楽待)
今年6月の新法施行を控え、何かと話題が尽きない民泊業界。一方、新法以降は営業日数を制限する「180日ルール」が課される(特区を除く)ほか、自治体独自の条例で運営が制限され、思うように収益を上げられない可能性も高い。そうした中、手堅くインバウンド需要の恩恵を受けられる業態として「簡易宿所」(簡宿)の営業許可取得に注目する投資家もいる。

簡易宿所は、旅館業法における業態の1つ。ほかの業態としてホテル・旅館などがあるが、1つの部屋を多人数で共用する点が簡易宿所の特徴だ。旅館業法に則ったいわば「正攻法」だが、旅館業は融資が付きにくく、アパマン経営とは異なるノウハウも求められるため、なかなか手を出しづらいのが実情だろう。

それでも、高いハードルを越えてオープンにこぎつけた例もある。今回は、そうした投資家の奮闘の日々を通じ、宿泊施設運営のリアルを追っていきたい。

■拡大する「簡宿」へのコンバージョン

近年、簡易宿所の数は増加の一途を辿っている。ここ数年はその傾向が特に顕著だ。厚生労働省によると、例年500~800件程度の増加であった簡易宿所の施設数が、2016年度は前年から2390件増加、30000件に迫る勢いを見せている。

増加の背景の1つとして考えられるのが、今年6月に施行される民泊新法の影響だ。今年1月、観光庁が違法民泊(旅館業法の許可を得ていない民泊施設)をサイトから削除するよう、民泊仲介業者に要請したことや、無許可営業の罰金が3万円から最大100万円に引き上げられたことなどから、今後はこうした違法民泊施設の淘汰が進むとみられている。

その点、簡易宿所は旅館業法に基づく正式な宿泊施設であり、予約サイト経由での集客も可能。今後は違法民泊の受け皿になるとの見方が広まっているのだ。

こうした動きを見据え、大手不動産業者やベンチャー企業がオフィスビルなどを簡易宿所にコンバージョンする動きが出ている。IoTデバイスの活用で「スマートホステル」のコンセプトを打ち出した「&AND HOSTEL」もその1つだ。

同施設は、受付時に貸し出したスマートフォンや部屋内にあるAIスピーカーで、鍵の開閉や照明の点灯、エアコンのオン/オフなどが行える体験型宿泊施設。今年1月にオープンを迎えた東京・秋葉原の店舗では、築33年、S造4階建てのオフィスビルを改装して簡易宿所にコンバージョンしたという。これまで福岡、浅草北、上野、秋葉原、神田に5店舗を展開し、80~90%超の平均稼働率を維持している。

■前提条件はクリアできるか?

インバウンドを中心とした新たな需要を合法的に取り込める点は大きな魅力だが、簡易宿所へのコンバージョンで安定した収益を上げることは容易ではない。第一に、宿泊施設である以上、立地の良さが前提条件になる。

前出の「&AND HOSTEL」のプロデュースを手掛けるand factoryの石田育男氏は「宿泊施設運営の成功には何よりも立地が重要」と強調する。

「都市部のターミナル駅から徒歩5分圏内、また道路付けがよいことは最低条件でしょう。また稼働率を高めるためには訪日外国人旅行客の取り込みが何より重要で、海外のOTA(Online Travel Agent=オンライン上で取引を行う旅行会社)の攻略も必要です。IoTを活用した宿泊体験の提供は、これらを前提とした更なる付加価値という位置付けです」

さらに旅館業法や消防法、建築基準法といった法への適合に加え、保健所からの許可も得る必要がある。一般的なリフォーム・リノベーションとは異なり、法適合を前提とした改装工事が求められるという特徴もある。

それでも、さまざまな障壁を乗り越えて宿泊施設運営をスタートさせた投資家もいる。以降ではその実例をいくつか紹介していこう。

■内装リフォームとコンバージョンは「別物」

[CASE1 オフィスビルからのコンバージョン]
現在7棟56室の物件を所有する兵庫県在住の投資家・えべっちゃん氏は、昨年、築44年の4階建てRC造オフィスビルを1400万円で購入し、簡易宿所にコンバージョンした実績を持つ。1階に店舗、2階には受付を兼ねるカフェ、3階と4階は簡易宿所を取得してゲストハウスを運営している。

市内のターミナル駅から徒歩5分と立地面の条件はクリアしていたが、初めての経験ということもあり、さまざまなリスクを想定して物件価格と同額のコンバージョン予算を準備した。それでも想定外の出費が重なり、結果的に100万円以上の予算オーバーが生じたという。

「まず苦労したのは施工業者の選定でした。簡易宿所として営業するには保健所の許可が必要になります。宿泊者の安全を守るために防火の規定をクリアしなければならないのですが、この場合、どのような材料でどのような施工が必要なのかといった特殊なノウハウが必要になります」

内装リフォームの実績が豊富な業者でも、コンバージョンの経験がなければ見積もりが安全側に寄ってしまい、オーナー側の採算が合わなくなってしまう。工事費が合わなければ当然、事業としてスタートすることができない。この物件では結局、店舗運営の経験が豊富な大家仲間の紹介で、ようやく予算に合う業者を探すことができたが、それでも当初の予定より2カ月余計に時間を取られ、想定を超える費用がかかってしまったという。

■インフラと備品もコストアップの要因に

オフィス系物件からコンバージョンする場合、インフラの仕様が異なる点にも注意が必要だ。一般的にオフィスビルで使われているガスや水道は細く、宿泊施設では容量が不足する可能性が高い。もし購入後に容量不足に気づいた場合、最悪のケースでは前面道路を割ってガスや水道を引き直さなければならなくなる。

「今回の物件は、ガスの容量が足りない恐れがありました。幸い1階のオフィスは電気温水器を使用していたためどうにか調整できましたが、プロパンを置くスペースもなかったので、危うくコストが大幅アップするところでした」(えべっちゃん氏)

また宿泊施設ならではの備品にもコストがかかる。代表的なのが「ベッド」だ。旅館業法における簡易宿所は「多人数で共用する施設」であり、保健所の許可に基づいて二段ベッドを設置できる。ところがこの二段ベッドにも保健所から厳しい指導が入るとえべっちゃん氏は話す。

「布団を敷いた状態で、ベッド下段の上面からベッド上段の底面まで1m以上取ることが求められます。既製品のベッドではこうした制限に適合できないので、オリジナルで制作するしかありません。幸い、この物件では同じエリアで簡易宿所を計画中の大家仲間がおり、共同でベッドを制作することができました。費用は輸送費や倉庫管理費を含め、16台で110万円程度です」

保健所が定める条件下でベッドを2段にするとなれば天井高は最低でも2.4m必要だという。既存物件の天井高を上げることは困難であるため、こうした条件を事前に知らなければ二段ベッドが設置できず、レンタブル比にも大きな影響が生じることになる。

紆余曲折を経てオープンにこぎつけた今回の物件。2か月が経過した現在の稼働率は約40%で、1棟の利回りは18%程度だという。話を聞く限り簡易宿所の営業はかなり難易度が高い印象を受ける。

「オフィスビルのコンバージョンには、好立地が生かせていない物件を再生する喜びを味わえるという魅力があります。一方、純粋に収益だけを考えた場合、時間や費用がかかり、リスクも通常よりずっと高い。正直なところ、あまり一般の投資家さんにはオススメできないというのが本音です」(えべっちゃん氏)

もし挑戦するなら、リスクを見据えて資金的な余裕を持つことはもちろん、旅館業の経験をもつ大家仲間や簡易宿所に詳しい建築士など、チームを組むことが欠かせないと言えそうだ。

■たらい回しで東奔西走

[CASE2 アパートからのコンバージョン]
兵庫県でリノベーション物件専門の不動産会社を営み、自らも不動産投資を実践している古田佳奈美氏は、所有する2棟の物件を簡易宿所にコンバージョンして運営している。

1棟目は競売で落札したオーナーチェンジ物件で、1995年7年築の2階建て軽量鉄骨造アパートだ。もともとはアパートのままリノベーションすることを考えていたが、購入後すぐに耐震性能の不足が発覚しリノベーションを断念、耐震補強を余儀なくされたことがきっかけでコンバージョンを決意した。

「耐震補強のために一度スケルトンの状態にする必要がありましたので、結局入居者さんには退去していただきました。全空になれば間取りを大胆に変更して計画を一から練り直すこともできます。せっかくスケルトンにするなら、何か新しいことをやってみようと考えたんです」(古田氏)

立地はターミナル駅から徒歩5分と申し分ない。古田氏はゲストハウスとして利用できるよう、簡易宿所の営業許可を取得することを決めた。それでも「営業許可を得るまでの道のりは険しかった」と古田氏は振り返る。特に苦労したのは、保健所と役所の間でたらい回しにされたことだ。

「この物件には検査済証がありませんでしたが、今回、ゲストハウス部分の床面積は100平方メートル以下でしたので、建築基準法が定める『用途変更』には当たりません。したがって役所への確認は不要なはずでした。このことは、事前に保健所にも確認していたんです」

ところが後日、保健所が前言を撤回。「検査済証がないのなら役所の建築安全課に許可を得るように」と態度を硬化させたという。結局、本来不要なはずの建築安全課と消防への確認を強いられ、計画に大きな遅れが生じてしまった。

「地域的にゲストハウスなど簡易宿泊所許可取得が非常に厳しいエリアであり、保健所よりもとにかく消防の検査が厳しかったです。今回のように用途変更に当たらないケースでは本来不要な自動火災報知設備のほか、各部屋には避難はしごの設置が求められ、検査の際に追加で排煙窓を設けるように言われ、さらには天井裏の界壁など、用途変更が不要な建物ではありえないような追加設備を入れなければなりませんでした」

当然、これらは追加工事となり、建物自体は当初2016年10月には完成していたものの、再度追加の工事をかけて簡易宿所許可を貰えたのは7か月後の2017年5月の事だった。

「追加工事分の融資を受けるとなると、それは『事業計画変更』となってしまいます。やむなく追加工事分は全額現金で支払いました。追加工事をしなければ許可を取得できなかったわけですから、資金に余裕がなければ計画自体が頓挫してしまっていたでしょう」

このように、自治体によって営業許可のハードルは異なることが少なくない点は覚えておく必要がある。

■食品工場をゲストハウスに再生

[CASE3 『用途変更』を伴うコンバージョン]
古田氏が2棟目に手掛けたのは、廃業が決まった食品工場をゲストハウスに再生するという計画だ。物件は昭和55年築のS造3階建てで、延べ床面積は340平方メートル。1棟目に比べスケールがアップしており、建築基準法上の「用途変更」に該当するため障壁も高い案件であったが、物件は神戸の中華街「南京町」の中にあり立地は抜群。観光客も多いエリアで、集客の不安もなかった。

古田氏は当初、建て替えも検討していたというが、繁華街の中にあるため日中は前面道路が使えず、工事車両が入れない。また元の工場オーナーが「どうにか少しでも残してほしい」と考えていたこともあり、コンバージョンすることを決めた。

とはいえ前述の通り、宿泊施設として使われる部分の床面積が100平方メートルを超えることから、難易度は1棟目よりも格段に高い。建築基準法の「用途変更」に該当するため、非常に厳しい消防法の制約を受けることになるのだ。

「消防の面での課題は山積みでした。例えば『階段の幅』では特に苦労しました。宿泊施設では利用者が安全に避難できるよう、一定の階段幅が必要になるのですが、もともと工場でしたので幅が足りません。そこで、鉄骨の階段の一部を現場で溶接することで幅を広げました」(古田氏)

そのほかにも、防火基準に合わせて既存のサッシをすべて交換するなど、大規模な工事が求められた。法に適合させるため、こうしたさまざまなリフォーム工事が生じる点はコンバージョンの大きな難関だ。

「当初、2017年6月のオープン予定で計画を組んでいましたが、用途変更に伴う構造計算、役所協議などに非常に時間がかかり、オープンできたのは4カ月後の2017年10月でした。融資に関しては新築工事などと同じで、事業資金として手形貸付で受けていたこともあり、長期切替えの時期を延ばしてもらう事ができました」

古田氏は「簡易宿所をやるなら、新築の方がよっぽど楽」だという。しかし、中にはどうしても新築を建てるのが難しい地域もある。「その街が好きで、その街の繁栄を願って投資する気持ちが無ければ建物コンバーションはお勧めできません」(古田氏)

簡易宿所などの宿泊施設では金融機関からの融資も受けづらい点もネックとなる。古田氏の場合、過去に全空の物件を1棟まるごとリノベーションして満室にしてきた実績などがあり、フルローンでの融資を引くことができたというが「そうした実績がない投資家さんの場合、いかに周到な事業計画を準備しても融資は難しいのでは」と古田氏は言う。

その後無事にオープンを迎え、運営も順調だというこの物件。ただ、週末の稼働率は高い一方、平日は思うように集客できないこともあるという。連日観光客であふれる好立地にあってもなお、こうした課題がつきまとう。コンバージョンそのものに加え、開業後の運営が重要になると言える。

ここまで見てきたとおり、コンバージョンによる簡易宿所営業への参入にはとてつもなく高い壁がある。ただしその分競合も少なく、この壁さえ超えられれば優秀な収益物件となる可能性も秘めているのも事実だ。

今回取材した2人の投資家はいずれも、簡易宿所の運営には独特の魅力があると語ってくれた。眠っていた物件を再生させることには大きな意義があるし、宿泊サイトに書き込まれた利用者の口コミはモチベーションを高めてくれる。

宿泊施設の運営には、こうした収益性を超えたところにやりがいを感じられるかどうか、また周りの人たちを巻き込み、新たな業態へのチャレンジを楽しむことができるかどうかが重要だと言えそうだ。
不動産投資の楽待 編集部

最終更新:2月21日(水)20時00分

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