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日産NOTE e-POWERが変えた未来 復活する? 2つのエンジン技術

2月4日(日)19時40分配信 THE PAGE

[画像]日産NOTE e-POWERはエンジンが駆動を受け持たず、発電専用となっている。これが当初考えられていたより大きなインパクトを自動車産業に与えようとしている
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[画像]日産NOTE e-POWERはエンジンが駆動を受け持たず、発電専用となっている。これが当初考えられていたより大きなインパクトを自動車産業に与えようとしている
 自動車業界は100年に一度の大変革が訪れていると言う。GoogleやApple、Amazonなど、新しい業態のプレイヤーが自動車産業への参入を始めつつある今、自動車産業はどうなって行くのだろうか?

 ハードウェアとしては電気自動車とハイブリッドなどの電動化があり、知能化としては自動運転やコネクティッドがあり、サービスとしてはカーシェアなどを始めとするMaaS(Mobility-as-a-Service)がある。(モータージャーナリスト・池田直渡)

「全部これ一つ」ではない多様な未来

 一時ほどの勢いはないものの、巷では内燃機関を一切使わないバッテリー電気自動車(BEV)が世界を席巻し、運転は自動化、そしてクルマは個人が所有しなくなる。そんな未来が囁かれている。

 だが現実はそんなに簡単ではない。全てのクルマを純電気自動車(BEV)にするだけの発電設備はまだ世界には存在しないし、全てをBEVにするだけの量のバッテリーは全世界のバッテリーメーカーが総力を結集しても生産できない。自動運転を成立させるには法律や保険、社会制度を一新しなくてはならない。MaaSにしても都市部はともかく過疎地でビジネスが成立するとは思えない。

 まずは単一未来という考えを止めるべきだ。「全部これ一つ」と考えるのは単純で分かりやすいが、現実はそうならない。内燃機関だってガソリンとディーゼルが混在してそれぞれ最適な場面で使われている。

 BEV化はゆっくりと進むが、まだ時間がかかる。その間をどうするのか? 世界のコンセンサスは脱炭素であり、それが正しいことになっている。「準備ができていないから今まで通り」と言うわけにはいかない。

 しかし一方で気候サイクルとして地球は今寒冷化に向かっているという。人類にとって、寒冷化と温室効果ガスの綱引きがプラスに働くのかマイナスに働くのかは実は分からない。分からないけれど、CO2は地球を温暖化させる働きがあることだけははっきりしている。しかしそこから先、人類の活動によるCO2が実際の気温上昇にどの程度影響しているのか、例えばエルニーニョ現象のようなもの、あるいは火山活動による温室効果ガスの発生の影響と峻別して、経済活動由来の温室効果ガスの影響が大きいのかどうかは何とも言えないのである。さりながら今われわれは常識として脱炭素に尽力することが責任ある姿だとされている。

変わりゆく「ハイブリッド」の主流

[画像]直列3気筒とモーターを横並びに置いたレイアウトは、本来高速側でエンジン駆動を行うつもりのレイアウトだったのではないか?
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[画像]直列3気筒とモーターを横並びに置いたレイアウトは、本来高速側でエンジン駆動を行うつもりのレイアウトだったのではないか?
 さて、そんな中で、最も現実的なシステムはやはりハイブリッドである。ただし、どうやらハイブリッドのトレンドが変わりつつある。これまでトヨタが主導してきた「エンジンを発電にも走行用動力にも使う」方式は今後徐々に減って行くだろう。

 モーターの長所・短所はかなり分かりやすい。低速でトロトロ走ったり、停止状態から走り始めるにはエンジンよりずっと良い。しかし高速走行は苦手だ、例えば連続運転でモーターが加熱しすぎると磁力が落ちてしまう。それも一時的にではなく永久に。もちろんモーターを分解してマグネットを再度磁化すれば話は別だが、そんな修理は現実的ではないからモーターの交換になる。バッテリーの方も大電力を一気に引き出すと極端に効率が悪くなる。そんなわけでEVは高速走行が苦手なのだ。

 日産のNOTE e-POWERは、エンジンとモーターを横並びで搭載している。これはおそらく高速ではエンジンと駆動系を直結にして、モーターの苦手とする領域を回避するためのレイアウトだったと思う。都合の良いことにエンジンは高速が得意なのだ。

 しかし、現実にNOTE e-POWERはエンジンを純粋に発電だけで使う形で出てきた。Bセグメントカーの果たす役割として高速道路を時速160キロで走る様な役割は担わないと踏んだのだろう。何より日本という状況を想定すれば、そんな速度は使わない。

「ロータリー」と「水平対向」の新時代

 かくしてNOTE e-POWERは「シリーズハイブリッド」という新たな可能性を証明してみせ、ハイブリッドの新時代を切り拓いたのである。

 NOTE e-POWERの何が未来を変えたのかと言えば、生産台数の多い小型車では、高速は無視しうると言う考え方である。そう割り切れるならエンジンはモーターと隣り合わせに置く必要がない。電気的につながってさえいれば、モーターはどこにあっても良いのである。

 余談だが、こうしたシリーズハイブリッドが主流になり、それでしのぎながらインフラやバッテリーの新技術が開発されれば、長期的には電力問題も徐々に解決し、バッテリーの容量あたりコストが下がって容量を大きくできる。そうなればシリーズ型ハイブリッドは、バッテリーに予充電可能なプラグインハイブリッド機能を持つだろうし、最終的には全てバッテリーのみの純電気自動車へ変わっていくだろう。だがそれは社会やインフラや技術の進歩を待つ長い取り組みだ。だからひとまずは、シリーズハイブリッドということになりそうだ。
[画像]マツダが開発した1ローター330ccユニットはなんとスペアタイヤのスペースに収まる。左がレンジエクステンダー用、右のRX-8用と比べるとサイズ感がおおよそ掴めるだろう
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[画像]マツダが開発した1ローター330ccユニットはなんとスペアタイヤのスペースに収まる。左がレンジエクステンダー用、右のRX-8用と比べるとサイズ感がおおよそ掴めるだろう
 それはトヨタ自動車の友山茂樹副社長がCES2018で行なった質疑応答で裏付けされた。友山副社長は、マツダが開発したロータリーエンジンによるレンジエクステンダーを指して「非常に可能性がある」と発言したのだ。

 マツダのレンジエクステンダーは1ローターのロータリーエンジンで非常にコンパクトだ。マツダは「スペアタイヤのスペースに収納できる」と言う。さらにエンジンに求められる特性も変わる。駆動用に使わないとすれば、低速から高速まで満遍なく性能を発揮する必要はない。定格出力を出し、その回転数でだけ低燃費で低排出ガスで低振動ならそれで良い。エンジン設計が格段に楽になる。

 こうしたコンパクトな定格運転型エンジンをシリーズハイブリッドに用いれば、スペースや重量配分なども含めた総合的性能でNOTE e-POWERを超える可能性は十分にある。駆動用エンジンと違って発電動力エンジンはコンパクトさこそが求められるのである。
[画像]スバルの水平対向はオイルパンの高さをゼロとした時、重量物は低く構築されているが、泣き所は排気系。排気系がエンジンを押し上げる結果、クランクセンター(一番大きい黒いプーリーの軸)はあまり低くできていない
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[画像]スバルの水平対向はオイルパンの高さをゼロとした時、重量物は低く構築されているが、泣き所は排気系。排気系がエンジンを押し上げる結果、クランクセンター(一番大きい黒いプーリーの軸)はあまり低くできていない
 とすると、トヨタアライアンスにはもう一つ面白い技術を持つ会社がある。スバルである。スバルはご存知のように現状全てのエンジンが水平対向4気筒である。これを2気筒にしたらすこぶるコンパクトなエンジンが出来上がる。

 現状の水平対向エンジンは長期的に存続が難しい。全生産車の低燃費が求められる企業平均燃費(CAFE規制)をクリアすることが難しいのだ。全域での環境性能と出力性能を両立しようとすれば、吸排気系に可変システムなど複雑な仕組みがいる。ヘッドが2つあれば当然それは全部2セット、競合他社の倍必要だ。当然コストが上がる。また水平対向は構造的にどうしても排気量あたりの表面積が増えるから、熱損失が大きい。さらにエンジンを低くマウントしようとすれば、路面と排気管が干渉するので、排気管を急角度に曲げなくてはならない。

 発電用の水平対向2気筒ならこれらのほとんどが解決する。定格で回す、つまり幅広い回転域の性能はいらないので可変システムがいらない。表面積については夏季は従来通り損失になるが、ヒーターを使う季節になれば条件が変わってくる。純EVに近づくほど、ヒーターに排熱が利用できなくなり、エアコンで暖房しなくてはならなくなる。これが燃費を悪化させるのだ。しかし水平対向2気筒をフロントに置けば、エンジンを熱源として利用できる。さらに言えば、その温風は寒冷地のバッテリー保温にも使えるだろう。トータルで見た時に熱損失以上の利得がある可能性がある。

 排気管については2気筒であれば、隣の気筒が邪魔しないので、何も下方排気にする必要はない、そのまま後方に排気管を伸ばせば済む。当然吸気は前方からだ。4気筒では不可能だった低重心ユニットに仕上がる可能性が高い。

 さらに、これをディーゼル化するともっと良いことがある。定速で回すと過渡域の排気ガス性能で苦労しないし、何より振動の多いディーゼルは水平対向にすれば、相互のシリンダーの振動がちょうど逆位相になって打ち消し合うから、バランサーを入れる必要がない。何よりピストンエンジンで普通の並列2気筒を作ろうとすると振動が厳しいのだ。そこに対する適性が高い水平対向エンジンは、シリーズハイブリッドに求められるコンパクト性の観点でとても優れた素質を持っているのだ。そしてスバルは欧州向けに水平対向4気筒のディーゼルを持っている。唯一の心配は冷間始動時の排ガスだけだ。逆に言えば、そこさえなんとかできれば、暗中模索状態のスバルの次世代ユニットが成立する可能性が高いのだ。
 ここ数年、スバルはエンジンを水平対向4気筒に統一し、このエンジンが排ガス規制や燃費規制をクリアできない時が来たら、次世代を電気とにらんでいた節があるが、どうもその読み自体は外してしまった。まだ20年や30年は何らかの形でエンジンが必要であることが分かった今、スバルに残された選択肢は、エンジンをトヨタアライアンスの他社から買ってくるか、水平対向のメリットを上手く活かして水平対向2気筒ディーゼルの発電専用エンジンを開発するしかないと筆者は思っている。

 このユニットをフロントに積んで、モーター駆動のAWDやFRを作ったら面白いではないか? スバルならではのユニークなユニットになるのは間違いない。

 NOTE e-POWERが指し示した未来によって、ロータリーと水平対向という消えゆく運命のエンジン技術が復活するかもしれない。
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■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:2月9日(金)5時54分

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