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日本農業の舵切り替わった──種子法廃止は民間参入促進? それとも外圧?

1月16日(火)14時10分配信 THE PAGE

「種子法(主要農作物種子法)」廃止で何が変わるのか、を追う連載。2回目は国の狙いと方向性を整理します。種子法廃止と引き換えに国が促そうとする「農業の競争力強化」とは。その先に広がる「農」の未来とはどんなものなのでしょうか。

「規制改革」会議からのスピード決定

種子法を担当する農林水産省が入る霞が関の庁舎
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種子法を担当する農林水産省が入る霞が関の庁舎
種子法の廃止は、この法律そのものの議論から始まったわけではありません。

2016年9月から開かれた内閣府の規制改革推進会議「農業ワーキング・グループ」。ここで「世界に通用する農業」を発展させるために、牛乳・乳製品の生産や流通に関する規制改革とともに、「生産資材価格」が高止まりしている仕組みを見直すべきだという方針が示されました。

ここで言う「生産資材」には肥料、農薬、農業機械や段ボールなどと並んで「種子」も含まれています。9月の2回目の会議資料には、それらと対応する法規制がリストアップされ、種子法を「民間企業が種子産業に参入しにくい」障壁だと指摘。そして10月の第4回会議で、以下のように明記した資料が出てきます。

「戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する」

この資料には「総合的なTPP関連政策大綱に基づく『生産者の所得向上につながる生産資材価格形成の仕組みの見直し』及び『生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立』に向けた施策の具体化の方向」というタイトルが付いていました。

時はアメリカ大統領選挙の約1カ月前。まだドナルド・トランプ大統領は誕生しておらず、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定は米国の加盟を前提に発効の手続きが進んでいたというタイミングです。

この後、会議はトントン拍子に進むと同時に、11月には政府が決定した「農業競争力強化プログラム」にも種子法廃止の方針が盛り込まれました。年が明けて2017年2月には「主要農作物種子法を廃止する法律案」の国会提出が閣議決定、3月から衆議院の農林水産委員会に付託され、約5時間の審議を経て衆議院を通過、参議院でも5時間の審議と2時間の参考人質疑を経て、4月11日に参議院本会議で可決、成立しました。

最初のワーキング・グループで議題に上ってから、約7カ月。65年の歴史を持つ法律はあっさりと廃止が決まり、2018年4月をもって役割を完全に終えることになったのです。

「外圧」は否定する農水省

2017年12月のシンポジウムで農水省担当者が示した資料の一部。種子法廃止で民間参入を促し、ニーズの多い業務用の米の生産を増やす狙い
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2017年12月のシンポジウムで農水省担当者が示した資料の一部。種子法廃止で民間参入を促し、ニーズの多い業務用の米の生産を増やす狙い
「正直、最初はほとんど関心を持たれていないと思っていました」

廃止決定の過程を知る農水省職員は、こう明かします。法の当事者である都道府県からは特に意見聴取をしていなかったため反応は薄く、マスコミも「関心はない」ものだと感じていたそうです。

しかし、波紋は徐々に広がり、専門家や市民団体の中からも反発の声が上がり始めました。その主張や立場には幅がありますが、前述のようにTPPとの関連で米国を中心とする多国籍バイオ企業の意向が反映しているとの見方が浮上。メディアでも「種子法廃止の裏に米政府と多国籍企業の影」「外国企業による“種子支配”」などとセンセーショナルに報じられるようになりました。

これに対して、「外圧ではない」と言い切るのは、農林水産省政策統括官穀物課の堺田輝也課長です。

2017年12月に都内で開かれたNPO法人主催のシンポジウムに登壇した堺田課長は、多国籍企業などの影響を否定した上で、次のような点を強調しました。

「例えば米について、産地や都道府県は高価格帯中心の一般家庭用の米、つまり『ブランド米』を生産する意向が強い。一方で買い手は『中食』や『外食』が増えて低価格帯中心の、業務用などにも対応した米を求めており、ここに『ミスマッチ』が生じている。民間はニーズの先を見ているから、価格はほどほどだけれど、収量の上がる米をもっと多くつくりたい。しかし、種子法によって都道府県と民間企業の競争条件が対等になっていなかった」

そこで種子法をなくし、種子生産に民間企業の参入を促すのが国の狙いの一つだというのです。

ここで想定される民間企業とは「国内か国外かは問わない」。ただし、「外資が参入する動きはない」と農水省は見ています。もしあったとして、その取り組みが適正かどうかは「国益にかなっているかどうか」で判断するそうです。

では、その「国益」とは何でしょうか。ここで関係するのが「農業競争力強化支援法」。種子法廃止と同時に成立したこの法律は、日本の農業が将来にわたり発展していくために必要な「良質かつ低廉な農業資材の供給」と「農産物流通の合理化」を実現するため、国の責任や施策を定めるものだとしています。

つまり、国は種子法と入れ替わりに新たな法律をつくり、日本の農業が向く舵も大きく切り替えたのです。

都道府県は「知見」の提供促される

種子法廃止に先立ち、2017年8月に施行された新たな農業競争力強化支援法では、都道府県に以下のような役割が求められました。

「民間事業者が行う技術開発や新品種の育成などの促進」
「種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進」

つまり民間との連携はもちろん、これまで都道府県がつちかってきたノウハウやデータも積極的に提供するべきだというのです。

なぜ、こうした政策が出てきたのでしょうか。

堺田課長は「今までも民間企業と都道府県や独立行政法人との共同研究開発はあった。しかし、その連携は不十分で、せっかく開発した新品種もなかなか普及していない。これからは種子法の廃止で義務付けがなくなり、“自由”になった都道府県と民間との連携が加速し、多様なニーズに応える品種開発ができるだろう」と説明します。

稲、麦、大豆の品種開発に関する都道府県の予算は、種子法廃止後も従来通り地方交付税で確保。種子の品質基準は、これまで主要農作物をカバーしていなかった種苗法の中に位置付けることで担保するなどの措置で「種子の安定供給はしっかりできる」とも。

しかし、まだ不安が解消されたとは言えません。シンポジウムで「農水省の言い分は希望的観測が多い。種子法の廃止で日本の米、麦、大豆はやはり守られなくなる」と真っ向から反対論を唱えたのは、元農水大臣で弁護士の山田正彦氏です。もともと“身内”だった山田氏がなぜ反発や危機感をあらわにするのか。次回はその主張に耳を傾けてみましょう。

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■関口威人(せきぐち・たけと) 1973年、横浜市生まれ。中日新聞記者を経て2008年からフリー。環境や防災、地域経済などのテーマで雑誌やウェブに寄稿、名古屋で環境専門フリーペーパー「Risa(リサ)」の編集長も務める。本サイトでは「Newzdrive」の屋号で執筆

最終更新:10月2日(火)16時13分

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