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日本のエンジンはまだまだ進化する 将来のクルマの電動化支える3つの技術

1月4日(木)17時00分配信 THE PAGE

[画像]トヨタがカムリでデビューさせた最新のハイブリッドユニット。エンジンの排気量は2487cc。速く静かで燃費も良い。最大熱効率41%を実現させながらそのフィールは立派
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[画像]トヨタがカムリでデビューさせた最新のハイブリッドユニット。エンジンの排気量は2487cc。速く静かで燃費も良い。最大熱効率41%を実現させながらそのフィールは立派
 電気自動車(EV)をめぐって、日本の自動車メーカーの出遅れを指摘する声があります。表面的にはネガティブな状況に見えるかもしれませんが、しかし、今後のクルマ業界のスタンダードになり得るいくつもの先進的な技術を日本メーカーは開発しています。モータージャーナリストの池田直渡氏が3つの技術を紹介します。

「日本のガラパゴス化」は見立て違い

 経済系のライターの人がここのところ念仏のように繰り返しているのは「電気自動車になれば部品点数が1/3になって、新規参入がたやすくなる。コモディティ化によって既存の自動車メーカーは苦境に立たされる」という話。ついでに「サプライチェーンが壊れることを恐れてエンジンに固執した日本はガラパゴス化する」と付け加えられることもある。

 これは家電において垂直統合型ビジネスが水平分業的ビジネスにとって代わった話を一般化した単純な論法だ。そもそも垂直統合が「旧」で水平分業が「新」という単純化がおかしい。その伝で行くと、新幹線も運行システムと車両技術を無関係に開発した方が良いことになる。要するに先例を無秩序に他のケースに当てはめているだけのことだ。

 残念ながら5年後に世界のEVのシェアが10%(約1000万台)を越えている確率は0%だろう。未解決の問題が山積しており、そういう現実を丁寧に見ずして、机の上だけで考えても意味がない。
[図]マツダが2007年に予測したクルマの動力機関の推移予想。8年経過した今、その予測通りの推移になっている。2035年においてもエンジンは8割のクルマに搭載される
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[図]マツダが2007年に予測したクルマの動力機関の推移予想。8年経過した今、その予測通りの推移になっている。2035年においてもエンジンは8割のクルマに搭載される
 日産リーフのような純粋な電気自動車をバッテリー電気自動車(BEV)と呼ぶ。BEVに求められるバッテリーの容量はハイブリッド(HV)の10倍は超える。そういう大容量のEV用電池を1000万台分作れるメーカーはない。1社で、ということではなく、バッテリーメーカーの総計をしてもそれだけの生産量は確保できないのだ。

 生産設備だけでなく、希土類や希金属などの原料も足りない。ここしばらく中国で希土類の採掘が加速していたのは環境を無視した採掘方法で構わず掘っていたからで、無理がたたって環境が悪化し、今やそんな方法では採掘できない。その上、肝心のエネルギー源たるインフラ電力が足りない。

 バッテリーをどこのメーカーがどの程度供給できるのか。そしてそのバッテリー生産を支える原材料の確保と廃棄時のリサイクルをどうするのか? さらにEVが夜間のほぼ同じ時間に集中的に充電を始めた時、膨大な電力をどうやって発電し、どうやって送電するのか? その現実的な話に対する合理的な説明を見たことがない。現実を無視した無責任な理想論に過ぎない。

 確かに、世の中の方向性は緩やかにEVに向かっていくだろうが、おそらく2030年時点でもBEVの比率をグローバルで10%に乗せるのは相当難しい。2040年でも1/3には届くとは考えにくい。

 もちろん、例え5%でも他社にシェアを食われたら痛手である。だから自動車メーカー各社はその時代に備えてはいるが、この手の話のそもそもの見立てがここ10年レベルでの「内燃機関の終了→EV全盛」という話だから苦笑せざるを得ない。内燃機関の滅亡をゴールとするならば、最速でもこれから50年くらいかけて緩やかに進んでいく話だ。

●トヨタ・カムリの「高効率エンジンとハイブリッドシステム」

 そんな空想は置いておいて、現実を担うのはハイブリッドだ。いままでコンベンショナルな動力はガソリンエンジンだったが、これからはそれがハイブリッドになるだろう。そして、今後はクルマのあちこちに貼られていた「ハイブリッド」のエンブレムが消える。ハイブリッドであることは特別なことではなくなるからだ。

 その時、最も重要な技術は何かと言えば、意外だがエンジンの熱効率向上だ。ハイブリッドは減速時のエネルギーを回生することでエネルギー効率を上げている。モーターを駆動する電力は、そもそもエンジンで燃料のエネルギーを駆動力に変換し、走行中減速時にそれを回生しているわけだから、元を正せばエネルギーを作っているのはエンジンなのだ。だから車両全体のエネルギー効率を上げようと思えば、エンジンの熱効率改善こそがキーになるのは至極当然のことである。
[画像]トヨタがセダンの復権を賭けて開発したカムリ。トヨタは昨年からハイブリッドを「燃費命」セッティングからドライバビリティ向上へと徐々に寄せてきたが、このカムリはひとつの完成形と見て良いだろう
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[画像]トヨタがセダンの復権を賭けて開発したカムリ。トヨタは昨年からハイブリッドを「燃費命」セッティングからドライバビリティ向上へと徐々に寄せてきたが、このカムリはひとつの完成形と見て良いだろう
 トヨタでは、新型カムリの熱効率を最大で41%まで向上させた。これにハイブリッドシステムを組み合わせてエネルギー回生を行えば、最大値なら「50%」を超える数値を出せるだろう。ほんの少し前まで内燃機関の熱効率は「30%」と言われていた。ちなみに50%の熱効率なら石炭火力発電の熱効率を完全に超え、石油火力発電に迫る効率だ。敵わないのは液化天然ガス(LNG)火力と再生可能エネルギーだけ。

 ついにそこまで来たかと思っていたら、限られた状況ではあるが、WEC(FIA世界耐久選手権)を戦うトヨタの「TS050」は回生込みなら、すでに55%に近づいており、今後の目標は60%に置いていると言う。もし本当に60%を達成するようになれば、火力発電所の効率を超えることになる。

 常識で考えれば、再生可能エネルギーやLNG火力発電の運用でCO2を抑えたら、効率が最下位の石炭火力を減らすのが順当だ。石炭火力を放置したまま、より効率の高い内燃機関を減らそうとする意味が分からない。あるメーカーの人が「18%の金利の借金を放っておいて、先に9%金利の借金を返す人はいない」と言っていたがまさにその通りで、本当にCO2を減らしたいなら、高効率発電で得られた電力で徹底的に石炭火力を減らすことが早道だ。EV化で電力需要を増やして、その結果石炭火力の稼働率を上げるのはやることがあべこべだ。

●マツダの新世代高効率エンジン「SKYACTIV-X」

[画像]マツダが世界に先駆けて開発を成功させた「予混合圧縮着火エンジン」SKYACTIV-X。
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[画像]マツダが世界に先駆けて開発を成功させた「予混合圧縮着火エンジン」SKYACTIV-X。
 さて、自動車エネルギーの「電気vs.石油」という戦いにおいて、カムリが記録した41%と言う数字も素晴らしいが、2017年には、もう1つ注目に値する技術が発表された。それはマツダの「SKYACTIV-X」だ。この技術の話をするには旧来のエンジンの問題点を説明しなくてはならない。

 まずはガソリンエンジンだ。ガソリンエンジンは混合気にプラグで着火し、その火が燃焼室全体に燃え広がる仕組みだ。燃焼がリレー式に行われるので、途中に混合気の薄いエリアがあるとバトンが伝わらす、そこで消えてしまう。不完全燃焼を起こさないためには常に燃焼室全体を理論空燃比「14.7:1」に保たねばならず、燃料を薄くしてケチケチと燃やすことが難しい。さらに、気体には圧縮すると温度が上昇する特性があるため、圧縮比を上げようとすると燃料が温度依存でフライング着火してしまい、最悪エンジンを壊してしまう。だから圧縮比が上げられない。

 ディーゼルエンジンはその点で有利だ、ディーゼルの特徴は、まず空気だけで圧縮するところにある。当然温度が上がるが、この時点では燃料を混ぜてないので燃える心配はない。心配がなければ圧縮比を高めることができる。そして空気が圧縮されて十分に温度が上がったところに燃料を噴霧する。その結果、混合気の燃え方はリレー方式ではなく、全員が一斉にスタートする同時多発型になる。料理でいう「フランベ」の様なものだ。温度を要因として燃料が燃えるので火炎のリレーは必要なく、空燃比が薄くてもちゃんと燃える。少量の燃料をガソリンエンジンより高圧縮比で安定して燃やせることが、ガソリンエンジンよりディーゼルが熱効率の良い大きな理由である。

 しかし、こちらはこちらで別の問題がある。高温の空気に燃料を噴霧したら、燃料が空気に触れた途端に発火する。トータルで最適な空燃比でも、燃料噴射ノズルの側では燃料が濃くなり煤(すす)が出る。反対にノズルから遠い部分では、燃料もないのに高温になる。そうなると比較的安定している窒素がやむなく酸素と化合して窒素酸化物(NOx)になってしまう。要するに原理的に燃料と空気が混ざる時間が足りない。だからディーゼルは素養として煤とNOxの両面で排気ガスが汚くなる。
[図]通常の火花点火はスパークで着火した火を延焼させるシステムだが、予混合圧縮着火では圧力による気体の温度上昇で気体全体を一気に燃やす
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[図]通常の火花点火はスパークで着火した火を延焼させるシステムだが、予混合圧縮着火では圧力による気体の温度上昇で気体全体を一気に燃やす
 つまり、ガソリンではノッキングが邪魔して空燃比を薄くできず、ノッキングが怖くて圧縮比が上げられない。ディーゼルでは燃料がよく混ざらないうちに燃焼が始まって、煤とNOxを発生する。だったら、あらかじめ燃料と空気を混ぜた「混合気」の状態で圧縮して熱で着火させれば良い──と考えた人がいた。この方式を予混合圧縮着火(HCCI)と呼ぶ。しかしHCCIは“茨の道”だった。理想的な状態ではHCCIで燃えるのだが、スイートスポットをちょっと外れると上手く燃えない。低回転では熱が足りず、高回転では反応時間不足で燃えない。中間域で負荷が高まると、燃料が増えて燃焼が暴走してしまう。
[図]素養としては大きなポテンシャルを持つHCCIだが、全領域を圧縮着火で燃やすことはできない。そのため火花点火と圧縮着火を常時切り替えなくてはならない。この難問をクリアできず多くのメーカーが開発を中止した
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[図]素養としては大きなポテンシャルを持つHCCIだが、全領域を圧縮着火で燃やすことはできない。そのため火花点火と圧縮着火を常時切り替えなくてはならない。この難問をクリアできず多くのメーカーが開発を中止した
 マツダではこれを解決するために、予混合した混合気をピストンで自己着火直前まで圧縮し、最後のひと押し分はプラグで着火した燃焼ガスの圧力を利用することにした。燃焼ガスが膨張する力を利用して自己着火する圧力まで圧縮するのだ。高圧縮かつ薄い混合気を、排ガスの心配なしで燃やすことに成功した。

 2019年に登場するこのSKYACTIV-Xは、今までのエンジンとは違うレベルの熱効率を達成するかもしれない。

●スズキの「決定版変速機」

[画像]スズキがAGSと呼ぶオートメーテッドマニュアルトランスミッション。通常のM/Tの操作をロボットに代行させるシステムだ
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[画像]スズキがAGSと呼ぶオートメーテッドマニュアルトランスミッション。通常のM/Tの操作をロボットに代行させるシステムだ
 クルマの効率はエンジンだけでは決まらない。エンジンがつくり出した動力を効率良く伝える変速機もまた、これから求められる技術である。スズキはソリオとスイフト・ハイブリッドに「オートギヤシフト」(AGS)という新技術を投入した。

 現在小型車に搭載されるトランスミッションは、一般的に5つの方式がある。昔ながらのマニュアルトランスミッション(M/T)。M/Tに電動アクチュエーターを付け、本来人間が操作していたクラッチとシフトフォーク(人間が操作する場合はシフトノブ)をロボット操作するオートメーテッド・マニュアルトランスミッション(AMT)。発進装置にトルクコンバータを使い、変速には遊星ギヤを使うトルコンステップ・オートマチックトランスミッション(トルコンステップAT)。有効径を可変にした2つで1対のプーリーを用いて、ベルトで駆動するコンティニューアスリー・バリアブル・トランスミッション(CVT)。そして奇数段と偶数段にそれぞれ別のギヤセットを用いて、2つのクラッチでそれを使い分けるデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)だ。

 それぞれに美点と欠点がある。ちょっと整理しよう。

・M/Tは安価で頑丈で効率が良くメインテナンス性も高いが自動で変速してくれない。
・AMTは安価で頑丈で効率が良くメインテナンス性も高いが加速時の変速ショックが大きい。
・トルコンステップATは、高コストで耐久性に若干難があり、効率はそこそこ良いがメインテナンスが難しい。
・CVTはコストが高く、効率は場面を選び、高速巡航が苦手。
・DCTは高価で複雑。効率こそ良いが、メインテナンスに問題がある。

ということで、仕向地の要求性能によって、これらの中から使い分けざるを得なかった。新興国ではメインテナンス性に難があるものや、コストの高いものは受け入れられないし、先進国では動作に洗練が求められるからだ。しかしスズキのAGSを使ったハイブリッドシステムによって、この地図が変わった。

 スズキは低コストが求められる新興国向けの車両ではM/Tを装備する。新興国で求められるイージー・ドライブニーズには、AMTを装備する。多少変速ショックが大きくても価格優先のマーケットだからだ。そして変速マナーにうるさい先進国では、AMTにハイブリッドシステムを組み合わせて、変速ショックを取り除く。
スズキは、AGSにモーターを組み合わせることで画期的なトランスミッションを開発した。安価で頑丈、高効率でメインテナンス性に優れる
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スズキは、AGSにモーターを組み合わせることで画期的なトランスミッションを開発した。安価で頑丈、高効率でメインテナンス性に優れる
 実はこのシステム、全て安価で丈夫で効率が良くメインテナンス性が高いM/Tをベースにしたコンポーネンツシステムになっている。

 それを成立させたのは、まさにコロンブスの卵のようなアイデアだ。一般にハイブリッドはトルクを断続するクラッチのエンジン側にモーターが付いているので、クラッチを切るとエンジンとモーターがどちらもタイヤに動力が伝えられない。これではトルク抜けのケアはできない。そのためには少なくともクラッチより下流にモーターを据え付けなくてはならない。クラッチを切ってエンジントルクがタイヤに伝わらない間、モーターがクラッチより下流のタイヤ側にあれば駆動力を補うことができる。
[画像]モーターは減速機を介してデフにトルクを流す。変速時にクラッチを切ってもモーターが動力を流すことができ、変速ショックを消すことができる
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[画像]モーターは減速機を介してデフにトルクを流す。変速時にクラッチを切ってもモーターが動力を流すことができ、変速ショックを消すことができる
 「エンジン→クラッチ→トランスミッション→デフ」と並ぶパワートレーンの最下流にモーターを取り付けた。しかもモーターの回転数を最適化させるためにチェーン&スプロケット式の減速機を備える。モータートルクの増大を図るのみならず、システムの横幅の増大を防ぐことも狙ってコンパクトなシステムに仕上げている。

 このシステムは、従来の小型車用変速機の「帯に短かき襷に長し」を解決する優れた変速機を内包したハイブリッドシステムであり、中期的には小型車のスタンダードになって行くだろう。

 日本は電動化に出遅れたなどという巷間の流説に惑わされではいけない。電動化とは「モーターオンリー」を指す言葉ではない。何らかの電動駆動システムを備えたものは全て「電動化」の枠組みに入っている。そして販売台数で見る限り、当面の主役は、もう明白にハイブリッドである。何も日本のメーカーだけが言っているのではなく、ベンツもBMWもフォルクスワーゲングループもボルボも全く同じ定義だし、ハイブリッドが商品の中心になる。

 ここに挙げた3つの技術は、少なくともこれから10年、クルマの電動化を支えて行くに違いない日本の技術である。日本は全く遅れていないし、ガラパゴス化もしていないのだ。
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■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:1月11日(木)5時55分

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