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<2017年クルマ業界>現実離れしたパリ協定、総EV化は本当に地球を救う?

12月31日(日)19時40分配信 THE PAGE

[写真]今年の夏、フランスは2040年までにガソリン車販売を禁止する方針を打ち出した(ロイター/アフロ)
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[写真]今年の夏、フランスは2040年までにガソリン車販売を禁止する方針を打ち出した(ロイター/アフロ)
 今年の夏、フランスが2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止することを発表したことは、世界に波紋を広げました。英国も同様の方針を掲げ、中国もこれに追随する方針を示しています。これらは2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」を背景に、電気自動車の普及を目指す動きです。

 しかし、モータージャーナリストの池田直渡氏は、これは本当に現実的な話なのかと疑問を投げかけます。池田氏に寄稿してもらいました。
              ◇
 2017年の自動車業界を振り返ると、2つの流れがあったように思う。

 一つ目は、「パリ協定」をにらんで世界各国がエネルギー政策の長期ビジョンを打ち出したこと。と言えば聞こえが良いが、実質的には欧州各国を筆頭に、中国や米国、インドまでが参加したマウントポジションの奪い合いであり、ハッタリのカマし合いだったと思う。

 そもそもの原点であるパリ協定がおかしい。中身を精査してみよう。

パリ協定の「不都合な真実」

 パリ協定の第2条第1項(a)では「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2度高い水準を十分に下回るものに抑える」とし、さらなる努力目標として1.5度を目標に掲げている。

 その対応方法について各国独自に検討策定することになっているのは、先進国のみに一律的な努力目標を設定し、地球全体での二酸化炭素(CO2)削減に効果が薄かった京都議定書の方式を改め、国連加盟193か国すべてに適用しようという意図である。しかし、これでは敢えて低い設定を通した国はフリーライドのし放題ではないかという声もある。真面目な日本には不利な方式だ。

 新聞報道によれば、マクロン仏大統領は「プランB(代替案)はない。地球Bはないからだ」「目標を下げるような再交渉はしない」と非常に明快なメッセージを発信している。とかくグダグダになりやすいこうした環境規制を一刀両断してみせた。大変わかりやすく、溜飲の下がる向きもいるだろう。

 さて、パリ協定では「中期」と「長期」の2種類の削減目標が設定されている。中期のゴールは2030年まで。これはわが国の経産省のレポートを見ても、相当以上に厳しいながら国民全てが耐え難きを耐えればやれないこともない。

 問題は2050年の長期目標である。経済産業省の行った試算によれば、2050年までにそれだけの温室効果ガスを削減しようとすれば、2013年の排出量から80%削減というとんでもない数値となる。2013年のわが国のCO2排出量は約14億トンだから、約3.6億トンまで削減せよということになる。最新技術の完全普及どころか、まだ萌芽すらない未来技術に期待せざるを得ないプランである。太陽光だ、風力だ、水素だという補助金漬けでやっと商業化が成立するかどうかの技術を全て採算ベースで実現した上で、まだ見ぬ新技術にその補助金予算をぶち込んで、画期的な技術が生まれて来ないと達成できない。

 我が身に置き換えて見ればすぐわかるだろう。仮に政府が、身の回りの家電品を個人負担ゼロで最新の省エネモデルに入れ替えてくれたとして、あなたは来月から電気使用量を1/5に落とせるだろうか? つまりこの目標値だと、節約をせよということではなく、経済活動を止めろと言っているに等しい。

 考えてもみて欲しい。産業革命が起こった18世紀中頃の地球人口は8億人に過ぎなかった。現在はほぼ10倍の75億人。これを人口比ではなく総量で均等に規制するということは、つまりわれわれは一人頭、江戸時代のエネルギー消費の1/10で生きろと言われているのである。電車もクルマも飛行機も建設機械も全部止めるしかない。どうしても優先的に回さざるを得ない食料生産と医療へのエネルギー供給を考えれば、家庭の電力など1/10どころかゼロにしなくてはならないだろう。経産省は「2、3の産業を選択して生き残らせ、それ以外を止めるしかない」と試算している。

 それに対する救済措置は、気温1.5度度ないしは2度分の猶予だ。では科学的に例えば1.5度分の化石エネルギー消費はこれくらいということが明確に示されているのかと言えば、それも合理性の不確かなシミュレーションでしかない。そもそも温室効果ガスと地球温暖化の関連性自体がまだ仮説の領域なのだから。

世界が総EV化したら電力が足りない

 もし2050年の目標を確かな方法で必達しようと考えるなら2つの策を実行する必要がある。まず来年から世界中の国々が国家の総力を挙げて原発を量産する。そうやって化石燃料の消費に見合うだけの電力を賄って化石燃料の使用を中止する。あわせて人口抑制策をとって出生率が2.0を超えたら罰則税をかける。そこまでやれば可能かもしれない。しかしフランスは現在電力の75%をまかなっている原発を2030年までに50%に引き下げると言い、出生率を懸命に引き上げている。全部逆だ。

 物事には可能な目標と不可能な目標がある。そもそも持続的社会を実現するための温暖化防止ではなかったのか? 「パリ協定 for 2050」は、どう考えても全人類に対するブラック規制である。スタートラインたるパリ協定がこの様に曖昧な論拠しか持たず、脆弱な理論に対して規制目標だけ厳しければ、それを支持した各国の環境省は当然、現実的でない規制を進めることになる。

 EU各国の環境団体の息がかかった左派系政治家が、またぞろ出来もしない理想主義を振りかざして無茶を言っているようにしか筆者には見えない。
 さて、現実を見ずに理想だけ語ってもどうにもならない。だから現実側からアプローチする人がいる。冒頭に記したもう一つの流れである。

 それは自動車メーカーが主体になって進めるハイブリッドの戦略活用だ。前述のように、現在地球上で稼働しているクルマを全部電気自動車(EV)にしようと思えば、どうあがいても発電が追いつかない。原発の大量生産と、電力網の全面的容量拡大が必須になる。そして充電ニーズが特定時間帯に集中しない様に、個人の生活サイクルも変えなければならない。「9時~5時」で仕事から同じ時間に帰って来て、一斉に充電なんてことになればピークの電力消費はとんでもないことになるからだ。しかも再生可能エネルギーで24時間365日安定的にエネルギーを供給出来る仕組みが、世界のエネルギー需要を満たれば良いが、そんな技術的見通しは現在ない。

 そして唯一の出口である原発の量産は政治的に難しい。はっきり言えばできないことだ。だとすれば、生温かろうがなんだろうが、人類が継続可能な低炭素社会を実現するためには、化石燃料エンジンを効率化する以外に見通せる確実な方法はない。

「エンジンのみ」から「全車ハイブリッド車」へ

 自動車業界で言えば、一刻も早く「エンジンのみ」のクルマを止めて、全車ハイブリッドにすることだ。それは何もプリウスのようなストロングハイブリッドである必要はない。むしろ台数の多い軽自動車やコンパクトカーのエネルギー効率を引き上げることが急務になるだろう。これらのクルマにはコスト制約があるので、現在12ボルトのバッテリー電圧を48ボルトに引き上げて、マイルドハイブリッド化するのが現実的だ。これだけで15%程度はエネルギー効率が上がるはずである。こっちのプランなら新車の全台数の効率を上げられる。それで足りなければ段階的に非電動車を禁止にしていく手もある。ちなみに統計によっては、48ボルトマイルドハイブリッドは電動車に入れられてないケースもあり、まちまちだ。

 実は夏以降、欧州メーカーが言っている「電動化」とはこうしたモーター付加型のクルマのことであって、少なくとも2030年までに関しては、化石燃料を一切燃やさないとは言っていない。つまりここ15~20年を前提にすれば「電動化=EV」は間違った認識だ。現実的には「電動化≒ハイブリッド」であり、ごく限られた数のEVがこれに加わる。

 世界的に見て飛び抜けているノルウェイの電動化比率は50%。このうちEVだけで見ると20%である。それでも他国と比較すれば驚異的な数字なので政策はどうなっているかと見れば、巨額の補助金によってEVの方が内燃機関モデルより安い。にも関わらず20%である。航続距離・充電時間。充電インフラという3つのネガに対する内燃機関の魅力の高さが伺える。

 ちなみに電動化(つまりエンジン+モーター)シェアで見ると、日本は世界第2位で約30%。3位以降は10%以下。世間がEV先進国だと思っているドイツやフランスのEV比率を見ると0.1~0.2%と、イメージと乖離した絶望的な数字になる。むしろ、数字を虚心に見れば、ハイブリッドを普及させた日本こそが電動化先進国である。

もう一つ立ちはだかるバッテリー供給問題

[写真]EV開発などで連携を強化したトヨタとマツダ(ロイター/アフロ)
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[写真]EV開発などで連携を強化したトヨタとマツダ(ロイター/アフロ)
 メーカーで見たらどうなるかと言えば、言うまでもなくトップはトヨタで、欧州でも日本でも全生産台数の内電動車が約50%。2016年の世界の電動車市場の320万台のうち140万台が実にトヨタ製でシェアは約44%となる。そういう実績のあるトヨタの見通しは次の通りだ。

・2025年ごろまでに販売する全車種に電動グレードを配備。
・2030年ごろまでに新車販売の半分を電動車にする。
・2030年までに10%以上をエンジンレス車にする

 この計画に立ちふさがるのがバッテリーの供給である。仮に新車の20%~30%がEVになった時、誰がそれを供給できるのか、バッテリーは設備産業であり、生産にクリーンな環境が求められるので、メインテナンスにも莫大な費用が掛かる。その上、莫大な投資をした後で技術フェイズが変わることは十分にありうる。例えばリチウムイオン電池に大投資をして回収しきらない内に全個体電池になったらどうなるのか? そういう現実的な面を全部置き去りにしてEVと騒いでも意味がない。電力総量とバッテリーが足りない。それを解決しないとEVは前には進めないのだ。

 高性能なバッテリーは単体で作れない。クルマがどう電気を使うのか、つまり電池に対する要求特性を明らかにすると共に、バッテリー側の制約条件は何なのかを定義していかないとバッテリーの性能は上がって行かない。だからトヨタとマツダ、デンソーが立ち上げたEV開発会社(EV.C.A.スピリット)では、そのバッテリーとクルマ相互の要素整理を行おうとしている。

 2017年を振り返った時、理想と現実をすり合わせ、未来に向けた新技術が具体的にローンチした年ということになるだろう。絵空事を声高に叫んでも何も解決しない。地に足を付けた地道な努力によってのみ未来は拓かれるのである。
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■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:1月7日(日)5時49分

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