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航空管制官はキャパオーバーに? 増える航空機にどう対策するか

11月26日(日)16時30分配信 THE PAGE

[写真]東京国際空港(羽田)管制塔では飛行場管制が行われている。奥の旧管制塔では羽田、成田エリア統合した一体管制が行われている
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[写真]東京国際空港(羽田)管制塔では飛行場管制が行われている。奥の旧管制塔では羽田、成田エリア統合した一体管制が行われている
 24日夜、札幌の航空管制で無線トラブルが起き、飛行機の発着が一時できなくなる事態になりました。このように航空管制は航空機の運航に不可欠なものです。

 いま航空管制能力のオーバーキャパシティが懸念されています。2016年までの15年間で日本の管制が取り扱う航空機の延べ数が約1.5倍と増加しているからです。そしてそれを担う管制官の育成も急がれています。航空ジャーナリストの藤石金彌氏に寄稿してもらいました。

■「便名」間違えでニアミス招く

 旅客機、軍用機、ヘリコプターがめまぐるしく飛び交う大空で、最先端のハイテクを駆使して的確な状況判断をし、飛行を安全・迅速にコントロールする航空管制官。一体どんな状況の下で、どんな仕事が行われているのだろうか。
[写真]航空管制官の管制卓(出典:国土交通省航空局)
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[写真]航空管制官の管制卓(出典:国土交通省航空局)
「……焼津近辺にて当社DC10とのニアミス発生致しました。大変危険な状況でした。高度差200フィート(60メートル)あったかなかったかくらいです……」

 2001年1月31日、静岡県焼津市上空で発生したボーイング747とDC10のニアミス(日本航空機駿河湾上空ニアミス事故)で、乗員・乗客計677人が生死の狭間から脱した直後のB-747のパイロットの交信だ。

「2人のパイロットと2人の管制官(訓練生と教官)の計4人に、全体の状況の把握がうまく行われていなかった。異常接近警報(CNF)が点灯して両方の機がすれ違うまでの約1分間に、管制官2人が便名を間違え、958便(DC10)のキャプテンへの衝突回避指示が2度伝わらず、管制官には両機にTCAS (空中衝突防止装置)が作動していることを知ることができなかった」(国土交通省・事故調査委員会の中間報告)

 音声で便名を間違えたヒューマンエラーで始まったこのトラブルは、音声伝達は「言い間違い」「聞き間違い」を起こしやすいことを示している。単位時間当たりの情報交換にも限度がある。

 管制官のミスは大事故と隣り合わせ。とても大きな責任を背負う重要な仕事だ。

■旗から無線、レーダーへ

 20世紀の初め、航空が始まった頃は航空機の構造や航法が未熟だった。地上や空中で衝突事故、墜落事故が多発し命がけで冒険飛行に挑戦した「飛行機野郎」たちには多くの犠牲者が出た。

 時代が進むにつれ、航空機に次々と改良が加えられ大型化した。乗客輸送が始まると、飛行に安全性、効率と定時制が求められ空の交通整理をする「航空管制」が行われるようになった。
[画像]フラッグマン
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[画像]フラッグマン
 「フラッグマン」と呼ばれた係員が、滑走の可否を「Go(進行)」、「Hold(止まれ)」と旗で知らせた。これが航空管制官の始まりで、信号用の旗、メモ帳、昼食、水をパラソルつきカートに積んで、飛行機の滑走開始場所に常駐し、「風向き」を知らせていた。

 無線が実用化すると、見晴らしのよい場所に設けられた「管制塔」で滑走路上の飛行機と無線電話を使った管制が始まった。レーダーが登場すると、飛行機は動く点として表示され、航空管制側と飛行機側で周囲の飛行機や地形が視覚でモニターできるようになり、安全と効率が格段に進歩を遂げた。

■大空の“コンダクター”

 航空管制の目的は、安全で秩序ある飛行にある。これがないと、空や飛行場で飛行機同士がニアミスしたり、衝突したりしかねない。航空管制官は、パイロットに離陸や着陸の順序、飛行の方法、時間の「通信」「航法」「監視」に基づいて指示を出したり、要求の承認をしたりする。
[画像]空港から離陸するまでの航空管制官とパイロットの交信(出典:『航空管制「超入門」』=SBクリエイティブ)
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[画像]空港から離陸するまでの航空管制官とパイロットの交信(出典:『航空管制「超入門」』=SBクリエイティブ)
 日本の空には、目に見えない航空路という空の高速道路が張り巡らされている。航空路とは、航空機が航行する空中の通路として国土交通相が指定するもので、幅は原則として18キロ、ないし14キロ。多くの航空機が安全・最適に飛べるよう全体を「流れ」として捉え、それを調整する航空交通流管理(ATFM)が行われている。

 空港の管制塔で行われている飛行場管制業務には、「管制承認伝達」(クリアランス・デリバリー)、「地上管制」(グランド・コントロール)、「飛行場管制」(タワー・コントロール)の3つがある。航空機や関係車両に対し、それぞれチーム15人の管制官が指示を送っている。

 「飛行場管制」を行う管制官は、直前に離陸した飛行機の後方乱気流の影響を受けないよう、間隔を確認して離陸許可(離陸クリアランス)を出し、それを受けてパイロットは離陸を開始する。離陸すると、ターミナルレーダー管制所の出域管制官に引き継がれ、目的地別に最も適したルートで誘導され、航空路管制(ACC)を受ける。

 空港周辺の空域を除き、航空路を飛行する航空機には航空交通管制部が飛行経路、高度の指示等の管制を行う。4つの飛行情報区ごとに航空交通管制部《札幌(札幌市)、東京(所沢市)、福岡(福岡市)、那覇(那覇市)》が設けられ、細分化されたセクターごとに3人の管制官が担当している。

 目的となる空港が近づくと、航空路を飛行してきた着陸機はターミナルレーダー管制所の「進入管制官」の指示下に入る。進入管制官は到着機の順番付けをして、安全間隔を保ち1本の着陸ルートに乗せて、所定の高度にまで降下すると、ローカルコントロール席の「タワー管制官」に引き継がれる。

 タワー管制官は着陸許可(クリアランス)を出し、ILS(計器着陸システム)に乗った航空機を誘導・監視して着陸させる。着陸機は滑走路を出ると、「グランドコントロール管制官」が誘導路から空港ビルの到着スポットまでを誘導する。こうして1サイクルの飛行は終了する。

■次世代化で進むニアミス対策

[画像]Flight rader24(出典:flghtrader.com)
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[画像]Flight rader24(出典:flghtrader.com)
 LCC(格安航空会社)の就航拡大などを受けて、日本の航空路は混雑している。2017年版の交通政策白書は「2025年頃には国内空域の現行の管制処理能力を超過すると見込まれている」としており、空の安全を担う航空管制官の育成が急務となっている。次のような人的対策と、テクノロジーによる航空安全対策も進められている。

 冒頭のニアミスのようなトラブルを防ぐため、管制官とパイロット間でのデータ通信(CPDLC)が稼働し始めている。これは、航空管制全般で係わるすべての部分で保有しているデータ・状況の共有を進め、総合的な飛行を達成するための次世代航空管制システムの一環だ。

 ミス根絶や危機脱出のためのヒューマンエラー対策は、航空管制に当たる各現場でTRM (Team Resource Management)が盛んに取り組まれている。

 TRMとは、安全と効率を向上させる訓練で、それまで効果が上がったコクピット内の乗員に対するCRM(Crew Resource Management)に範をとり開発されたもの。ユーロコントロール(欧州航空航法安全機構)が開発したグループ討議や新しいグリッド理論による集団討議方式「チームワークの改善プログラム」だ。

■航空衛星に情報デジタル化も

 ビザの緩和や免税制度の拡充、航空ネットの拡大などによって、訪日外国人の数は2倍(約2000万人)、旅行消費額は3倍の約3.5兆円になった。さらに、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年には、それぞれ4000万人・8兆円まで増やす新しい目標が掲げられている。(「明日の日本を支える観光ビジョン」2016年3月)

 こうした流れに沿って、首都圏の空港機能強化、関西・中部・新千歳・福岡・那覇空港の機能強化、地方空港のゲートウェイ機能の強化(海外LCCの就航促進)、複数空港の1体管理の推進などが進んでいる。
[画像]次世代航空管制(ICAO)
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[画像]次世代航空管制(ICAO)
 急ピッチで進んでいるのが、「CNS/ATM」(※1)構想だ。最新のIT技術、デジタル技術、衛星システムを取り入れた「次世代航空管制」で、パイロットが世界のあらゆる場所で飛行時間、飛行ルート、飛行高度を自由に安全に飛行できるように、「通信」「航法」「監視」を整備する構想だ。

 「通信」は、航空機と地上がGPS(衛星利用測位システム)や、MTSAT(衛星通信)システムで結ばれ、データ通信への移行が進むことで、リアルタイムでデータがやり取りされている。あらかじめ組み込まれた通信プロトコルを通じたCPDLC(管制官パイロット間データ通信)で、通信時間の短縮と信頼性が高まってきた。

 「監視」では、GPSとMTSATによる自動従属監視ADS(自動位置情報伝送・監視機能)が活躍。日本の空域すべての飛行をカバーするレーダー画面上で、定時で地上に送られてくる位置データなどを活用し、行われている。これは、洋上航空交通管制とフライトレコーダーの代わりに、事故直前のADSデータによる航空事故の原因調査にも応用されている。

■「上下分離」空域再編で効率化

[写真]航空管制官からの「テイクオフクリアランス(離陸許可)」を待つ離陸機(羽田)
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[写真]航空管制官からの「テイクオフクリアランス(離陸許可)」を待つ離陸機(羽田)
 航空路は空のハイウエーに例えられるが、実際は高高度空域(高度10キロ以上の高高度巡航帯)が、上昇・降下する航空機や空港周辺の混雑などで輻輳(ふくそう)している。

 日本の全空域を、高高度空域と、東日本、西日本の2つの低高度空域(上昇、降下、低高度飛行帯)の計3つに分離すれば、処理機数の増加、効率向上が図れ、高高度と洋上空域の一体運用で、上空通過機、国際便の運航効率向上も見込まれる。国土交通省航空局は2025年3月までにこの再編を目指している。

 既に、ユーロコントールでは空域の上下分離や統合などの再編が行われ、オランダにあるマーストリヒト高高度管制センターが、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、ドイツ北西部で高高度の管制を行い、処理機数の増加や運航効率の向上を達成している。
           ◇
 国土交通省航空局は、現段階では大幅な管制官の増員は考えていないようだ。上記のような空域の再編や機械化を中心に対応していく方針だ。機械化については極限まで進んできていて、地上も機上もお互いが視覚でとらえられるところまで来ているのだ。

(※1)…CNS/ATM=ATM:航空交通管理:Air Traffic Management/通信(Commnucation)、航法(Navigation)、監視(Surveillance)
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■藤石金彌(ふじいし・きんや) 航空ジャーナリスト。音の出る雑誌『月刊朝日ソノラマ』を経て、月刊『安全』『労働衛生』編集長。編集総括:『航空実用事典』(朝日新聞社)、著書『コクピットクライシス』『スカイクライシス』(主婦の友社)、『安全・快適エアラインはこれだ』(朝日新聞出版)、『航空管制「超」入門』(SBクリエイティブ)。元交通政策審議会航空分科会委員

最終更新:11月30日(木)5時50分

THE PAGE

 

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