ここから本文です

「トヨタはEV開発で出遅れ」は本当か? マツダとの新会社で見据える戦略

10月31日(火)13時00分配信 THE PAGE

[写真]今年8月の緊急記者会見で協業の発表に臨むトヨタの豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
拡大写真
[写真]今年8月の緊急記者会見で協業の発表に臨むトヨタの豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
 米国や欧州、そして中国でも自動車の電気自動車(EV)シフトへ向けた規制が相次いでいます。そうした中で、「内燃機関エンジンはもう終わるではないか」「トヨタがEV対応で出遅れている」とする言説がメディアを賑わせています。しかし、それらの見方は本当に正しいのでしょうか。マツダやデンソーと立ち上げた新会社でどう対応しようとしているのか。EVをめぐる世界の自動車業界とトヨタの戦略について、モータージャーナリストの池田直渡氏に寄稿してもらいました。

内燃機関エンジンのクルマはもうゼロになる?

[模式図]新たに発足したEV C.A.Spirit株式会社。社長を務めるのはマツダとの提携を進めてきたトヨタの寺師茂樹副社長。エンジニアリングを担当するのはマツダの藤原清志専務。力の入り方がよく分かる
拡大写真
[模式図]新たに発足したEV C.A.Spirit株式会社。社長を務めるのはマツダとの提携を進めてきたトヨタの寺師茂樹副社長。エンジニアリングを担当するのはマツダの藤原清志専務。力の入り方がよく分かる
 先月、トヨタとマツダとデンソーが出資する「EV C.A.Spirit株式会社」の発足が発表された。その名の通り、電気自動車(EV)の開発を目的とした会社だ。資本金はトヨタが90%、マツダとデンソーがそれぞれ5%ずつとなっている。

 巷間の噂では「トヨタはEV開発に出遅れた」という声が多い。今夏、欧州各国から一斉に伝えられた「内燃機関販売中止」の中長期プランに引きずられて、今すぐにでも「EV全盛=内燃機関没落時代」がやってくるというイメージになっているが、それは相当に早合点な理解で、クルマそのものもインフラもすぐにEV全盛を迎えられる状況にはない。実は欧州メーカーの実情は日本から見るような絵柄にはなっていないからだ。

 日経新聞の誤報によってボルボは2020年から全てがEVになるかのように伝えられたが、現実は「内燃機関オンリーのクルマの生産中止」であり、ボルボ自身の説明によれば、生産台数の8割はエンジンが搭載された48Vマイルドハイブリッドである。この他にストロングハイブリッドもラインナップに加わることを考えれば実際のEVの比率は頑張っても5%くらいが上限だろう。多くの方にとって、想像した数値との乖離はかなり大きいはずだ。

 もちろん、今後ゆるやかにEV化やハイブリッド化は進行して行くだろう。EV化が起こらないということではなく、そのペースについて大きな誤解があるのだ。現実には2030年時点でEVが主流になるとはとても考えられない。何より注目されているほどにEVは引っ張りだこでは売れない。

 世界のトップを走るノルウェーでさえEVのシェアは2.7%。新車に限れば23.3%だが、ユーザーの半数は「次はEVを買わない」とする調査結果も報道されている。水力発電がほとんどで電力単価が安く、元々エンジンオイル凍結防止用にガレージに230Vコンセントが必ず装備されているという面でも、諸条件が世界と乖離しているノルウェーですらこれが実情である。

 もちろん欧州のその他の国ではそれより低い。ドイツの実情は0.11%(新車登録の0.7%)それも車両価格の7.7%の補助金を付けての話である。だから未来永劫EVは普及しないなどとは言わないが、補助金なしで内燃機関とイーブンに比較検討される状態にはほど遠いのは数値が示す現実だ。

石炭火力発電よりもCO2排出が少ない内燃機関

 売れる売れないだけで考えると当分はEVの爆発的普及は考えられないのだが、浮世の事情はもっと複雑だ。地球温暖化防止のために、内燃機関の生産を抑制しようというポリティカルな流れがあり、世界各国でEV販売台数比率の法的義務づけが始まっているのだ。

 エネルギーの話のややこしいところだが、いわゆる市場原理に則って話が進められない。安い石油エネルギーは供給側にも需要側にもメリットがあるが、需給の外部に不利益を与える場合がある。いわゆる「ピグー税」の言う外部不経済である。安くて性能は良いが、公害を発生するとすれば、その対策を国が税で実施しなくてはならなくなる。だったらその分は税として生産側に乗せるべきであるという考え方をピグー税と呼ぶ。だからピグー税的考え方に則れば、EVは一見正しく見える。

 しかしながら、話はもう一度ひっくり返る。技術の向上により、すでに内燃機関は石炭火力発電に比べてCO2排出量が少ない。あるいは石油発電との比較ですら、もう少しで同等というレベルまで来ている。今のところ勝ち目がない相手は天然ガス(CNG)発電だけで、CNGだけは内燃機関より文句なしに効率が良い。

 とすれば、ノルウェーのような特殊な発電事情の国を別にすれば、太陽光や風力で発電したエネルギーで、最初に何を減らすべきか? それは誰が考えたってCO2排出量の多い石炭火力発電なのだ。本当にCO2排出量を減らすことが目的ならば、最も効率の悪い石炭火力発電の全廃後、初めて内燃機関の話になるべきである。

現実を無視してEV増を目指す政治的な流れ

 と、ここまでが本質論だ。だが残念ながら本質論と現実は違う。法律があるからだ。アメリカを例に採れば、2018年、法律によって指定された自動車メーカーは全販売台数のうち、4.5%のEVを売らなければ、巨額のクレジット(実質的な罰金)購入を迫られる。一応4.5%のうち2.5%まではプラグインハイブリッド(PHV)でもカウントされるが、残る2%はEVまたは燃料電池車でなくてはならない。しかもこの比率は毎年更新され、最終的には2025年に22%(うちPHV6.0%まで)まで上がり、到底達成困難な数字となる。

 2025年にマーケットのEV需要が各社の22%相当の合計分あればいいが、現状からの予想ではそうはならないだろう。この規制の考え方は統制経済とか計画経済の類いであって、自由経済の原則を大きく外している。それでもルールだからメーカーはクレジットと言う名の巨額の罰金を避けるために、EVの叩き売りをしてでも予定台数を販売しなくてはならない。言い方を変えれば、EVなんて欲しくもない消費者に買ってもらわなくてはならないのだ。現在のように政治的に減税や補助金をジャブジャブ流し込んで、消費者メリットを作ってくれれば良いが、果たして22%という数字になった時そんな政策が続けられるだろうか?

 政府のインセンティブが付けられなくなった時、おそらくEVの利益率はグッと下がる。EV開発は新たなブルーオーシャンを目指す戦いではなく、押しつけられたババを出来るだけ少ない傷でかわす“強制イベント”なのだ。これはアメリカの「ZEV規制」でも中国の「NEV規制」でも変わらない。本質論に戻って言えば、ほとんどが石炭火力発電の中国で、自動車をEV化したら、CO2排出量は増加するのだが、法律の上ではEVはゼロ・エミッションなのだから仕方ない。

 ということで、日本の自動車メーカーはEV開発の強制イベント真っ最中である。現状では地域によって、求められるクルマのサイズも性能も異なる。売れない&儲からないクルマを多品種開発しなくてはならない。そういう流れが見えていたからトヨタもホンダもEVの販売を先送りにしてきたのだが、世界ナンバー1マーケットの中国とナンバー2マーケットのアメリカで相次いで規制が発表され、さらに期待のマーケットであるインドでも規制が検討されていることから、重い腰を上げざるを得なくなったわけだ。儲かる構造になるまで待っているわけにはいかなくなったのだ。

“秘密兵器”でローコスト・高品質・多品種目指す

 一度整理しよう。現時点では、EVは多品種小量の製品を展開しなくてはならず、しかも儲からない。しかし一方、長期で見れば、徐々にインフラが整備され、2050年くらいにはEVは主力商品になっていく可能性がある。それにどう対応すべきかということだ。
[混流生産]一括企画、MBD、混流生産は今やマツダのお家芸。連続して同じ製品を作らない。エンジンもシャシーもディーラーで売れた順に流れてくる。多品種少量生産のためのソリューションだ
拡大写真
[混流生産]一括企画、MBD、混流生産は今やマツダのお家芸。連続して同じ製品を作らない。エンジンもシャシーもディーラーで売れた順に流れてくる。多品種少量生産のためのソリューションだ
 ここでトヨタが凄いと思うのは、手に入れたばかりの秘密兵器を一気に実戦投入してきたことだ。その秘密兵器とは提携したマツダの「一括企画」と「モデルベース・デベロップメント(MBD)」である。すでに述べたように多品種少量かつローコストが求められ、しかも世界中の自動車メーカーから出てくるEVの中で性能的に競争優位を確保しなくてはならない。かなりの難問だが、マツダはフォード傘下から外れた時、エンジンもシャシーも全部一斉に新規開発しなければならない厳しい局面を迎え、それを乗り越えるために「一括企画」「モデルベース開発(MBD)」「混流生産」という3つの戦略を立案し、見事それを成功させたことで現在の復活がある。

 トヨタはその開発手法を求めて、マツダに最恵国待遇を与えてまで提携したのだ。株式の持ち合いを認めた前例などトヨタ史上になかった。まさに三顧の礼だが、流石はトヨタ、難局を迎えているEVにすぐさまその開発手法を導入し、新会社を設立した。

 エンジンに比べて小型で振動の少ないモーターは、自動車のパッケージを根本的に変えるだろう。人の座り方にまで影響を与える可能性がある。そういうレベルでの根本的なレイアウトの再検討を行ったEVはまだない。フォルクスワーゲンのe-ゴルフあたりはまだガソリン車のシャシーにモーターを乗せただけで、真の意味でEVとしてデザインされていない。

 トヨタ・アライアンスの新しいEVは、専用設計シャシーになる。つまりEVならではの新しいパッケージを作ってくる可能性が高い。特にマツダの一括企画に期待がかかる。

 マツダのリリースによれば「軽自動車から乗用車、SUV、小型トラックまでの幅広い車種群をスコープとし」とある。カウントしてみると、国内とインド/ASEAN向けの軽自動車(Aセグメント)、グローバルカーとなるBセグメントとCセグメント、北米向けのDセグメントとEセグメントの5サイズとなり、常識的に考えればBセグからDセグまではセダン/ハッチバックとSUV。EセグはSUVのみという展開になるだろう。小型トラックのみが何を指すのかはっきりしない。恐らくは2019年にリリースを始め、21年ごろまでにこれら9車種を一気に展開するのではないか? トヨタの現在のラインナップでは2018年からすでにクレジットが発生する。のんびりと展開を待っていられる状態ではないのだ。

 マツダは第6世代商品群の8車種をゼロベースで5年間で展開した。トヨタとデンソー、ダイハツのバックアップがあれば2年の短縮は可能だろうと筆者は踏んでいる。

 一括企画ではこれらの車種を全部リストアップし、それぞれの仕向け地で必要な条件を予め条件に入れて基礎実験を始める。軽からEセグSUVまでの全てを、固定(共通化)する部分と変動(個別化)する部分に分けて設計を行い、MBDのシミュレーションによって、一気に完成に近いところまで持っていく。それによって仕向け地毎のキャリブレーション(較正)の手間がほとんどなくなる。短期間に安価に、良い製品を多品種作り出すという意味で、最先端にある方法だ。

 ZEV法やNEV法の嵐の中で、必要な台数を販売するためのローコスト、高品質、多品種を一気に満たす手法である。しかも、今後のアライアンスの舵取りいかんによっては、グループ全社のグローバル販売網で売ることができる。ライバル各社が一台ずつスクラッチで設計して、コツコツ売っていたら、採算性が合うはずがない。

 今回の取り組みは電気自動車時代の前哨戦で、圧倒的に有利な勢力図を書き上げる可能性がある。それが本当かどうかはあと5年程度でハッキリしてくるはずだ。
--------------------------------
■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:11月5日(日)5時49分

THE PAGE

 

【あわせて読みたい】

このカテゴリの前後のニュース

不動産投資コラム(楽待)

ヘッドライン