ここから本文です

「内部留保はけしからん」との批判は正しい? 企業の現金貯め込みの実情

10月18日(水)8時10分配信 THE PAGE

写真はイメージ、提供:アフロ
拡大写真
写真はイメージ、提供:アフロ
 ここ数年、企業の内部留保に課税するとの案が取り沙汰されていますが、企業が保有する現預金が過去最大となるなかで、再びそうした議論が過熱してきました。稼ぎだした利益を、給料や設備投資や配当に回さず、ただ溜め込んでいるならば、課税というある種のペナルティーを設けることで、少しでも世の中におカネが出回るようにしようという狙いがあります。

「内部留保」の定義とは?

企業が保有する現預金
拡大写真
企業が保有する現預金
 一見すると狙いそのものは良さそうですが、実のところ内部留保に課税というのはとても奇妙な話なのです。にもかかわらず、こうした「内部留保課税」という言葉が飛び交っているのはその意味を誤解している人が相当数存在することを浮き彫りにしています。効果の有無を検討する前に、先ずは基本的な「用語」を確認する必要がありそうです。

 まず「内部留保」という言葉に正式な定義は存在しません。そのうえで敢えて定義するならば、企業がこれまで積み上げてきた利益のうち、配当などで社外流出しなかった分の合計額です。つまり黒字企業が、ある期に稼いだ利益を全額配当に回さなかった場合、残った利益の部分が「内部留保」であり、またこれを蓄積したものも同じく「内部留保」と称されています。ここで言及した内部留保は貸借対照表の「利益剰余金」(厳密には資本剰余金等も内包していることが多い)を指しているのですが、世間一般では、内部留保と表現した方が馴染みやすいためか、この言葉が一般的になっています。要するに内部留保とは利益剰余金の通称のような位置づけです。

 ここで「日本企業の内部留保は約400兆円で過去最大。これ以上、内部留保を積上げるのはけしからん。もっと給料や設備投資や配当に回すべき」という批判を冷静に考えてみましょう。くどいですが、ここで言う内部留保とは利益剰余金のことです。すると、おかしなことに気づくはずです。内部留保を積み上げることは、利益を計上することと同義ですから、それを否定するのは極端な話「赤字経営をしなさい」と言っていることに等しくなります。

 おそらく、そうした発言をしている人が本来意図していたのは「現金を溜め込むのではなく、もっと積極的に設備投資や賃金や配当に回しさない」といった趣旨の指摘だと思われます。つまり「内部留保」と「現金」を混同しているわけです。社会的に影響力がある人の中にも「内部留保=現金」と誤解している(と思われる)方が相当数存在していますから注意が必要です。利益剰余金は帳簿上に計上されている純資産(の一種)で、それは企業が今の時点で保有している現金の額とは根本的に異なります。極端な例として、利益剰余金が豊富にあっても手持ち現金が0円ということだってあり得るわけです。

 では次に「企業が現金を貯め込むのはけしからん」と正しく批判を展開したとしましょう。ですが、ここで一つ確認しておきたいことは「そもそも企業が本当に現金を貯め込んでいるのか?」という根本的な部分です。確かに法人企業統計で企業の保有現金を確認すると、直近の値は約200兆円と2008年から50%程度も増加し、過去最高を更新していますが、この表面的な数値をもって「貯め込んでいる」と言って良いのでしょうか?

現金以外にも過去最高を更新している項目とは?

企業の有する有形固定資産と株式
拡大写真
企業の有する有形固定資産と株式
 ここでもうひとつ認識しておきたいのは、現金以外にも過去最高を更新している項目が存在するということです。貸借対照表に目を向けると、工場・機械などが計上される「有形固定資産」がさほど増えていない一方で、果敢な海外企業の買収や海外現地法人の設立を映じて「株式」が著しく増加し、過去最高となっています。要するに日本企業は国内での設備投資はさほど増やしていないものの、一方で海外企業の買収や設立に資金を投じてきたわけです。また、損益計算書項目に目を向ければ、企業の利益額や売上高経常利益率が過去最高です。企業の現金が増えるのは「好業績の結果」であるとの見方もできます。日本企業が闇雲に現金を積み上げているとは言い切れないのではないでしょうか?
現預金(総資産に占める割合)
拡大写真
現預金(総資産に占める割合)
 最後に「総資産に占める現預金の割合」に目を向けると、一般的な批判とは裏腹に企業が保有する現金は総資産見合いでしか増えていないことがわかります。企業の保有する現金の表面的な残高が注目の的になっていますが、総資産との割合でみれば「内部留保課税」が話題となる遥か昔の90年代よりも低い水準にあります。「使うあてがない現金を貯め込んでいる」という指摘が本当に正しいなら、総資産に占める割合が上昇しているのが自然だと思いますが、そうなっていないのは“それなりに現金が有効活用されている”ことを物語っています。「内部留保」と「保有現金」が過去最高という表面的な事実をもって、「現金が貯め込まれている」と批判することに違和感を覚えます。

(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)

※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 

最終更新:10月23日(月)5時52分

THE PAGE

 

【あわせて読みたい】

このカテゴリの前後のニュース

不動産投資コラム(楽待)

ヘッドライン