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トランプ「支持率最低」政権の深刻すぎる前途

7月18日(火)5時00分配信 東洋経済オンライン

トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア(右)がロシア疑惑の渦中の人に(写真:ロイター/アフロ)
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トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア(右)がロシア疑惑の渦中の人に(写真:ロイター/アフロ)
 7月14日、全国知事会の会議がロードアイランド州プロビデンスで開催された。その会議で奇妙な状況が観察された。会議の議長を務めたバージニア州のテリー・マコーリフ知事は「2020年の大統領選挙で誰が候補になるのか大きなトピックスだったが、民主党の知事からも、共和党の知事からもトランプ大統領の名前は一度も出てこなかった。誰一人、トランプ大統領について語ろうとしなかった」と、会議の印象を述べている。大統領に就任して半年、既にトランプ大統領は“レームダック化”しているようだ。
 そうした状況を反映して世論調査で厳しい結果がでている。ABCニュースとワシントン・ポストの共同調査(7月10日~13日に実施)でトランプ大統領の支持率は36%、不支持率58%という結果が出た。大統領就任後6カ月の時点でこの支持率は、戦後歴代大統領で最低である。トランプ大統領は同調査に対して16日のツイッターで「この時点で(支持率が)40%程度は悪くはない。大統領選挙中のABCとワシントン・ポストの調査は最も不正確だった」と反論している。
■大統領のツイッターは支持層のウケを狙うだけ

 トランプ大統領はIT時代の申し子のような大統領である。『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューに答えて、トランプ大統領は「ツイッターがなければ自分は大統領にはなれなかっただろう」と語っていた。トランプ大統領はメディアを通さず、ツイッターによって国民に直接情報を提供している。

 トランプ大統領のツイッターの最大の特徴は、偽の情報や誤った情報を平気で発信し、敵を攻撃し、気に入らない相手に対して誹謗中傷を加えることだ。そのことを批判されても反省の色を見せない。なぜならトランプ大統領は自分の支持層向けに、支持者が喜ぶような情報を発信しているからである。
 ウェブ調査会社Survey Monkeyの世論調査では、共和党支持者の90%がトランプ大統領はツイッターを続けるべきだと答えている。その理由として「信頼がおける」を挙げているが、次に「面白い」という理由を挙げている。多くのトランプ大統領の支持層は、トランプ大統領がリベラル派の人々やメディアをやり込めるのを見て、喝采しているのである。

 ジャーナリストのスーザン・チラは『ニューヨーク・タイムズ』(6月29日)の記事「誰がトランプのツイッターを好むのか、その理由は何か」と題する記事を寄稿している。そこで「トランプ大統領を支持する頑固な保守主義者たちは、(トランプ大統領がツイッターで)社会的、政治的規範を破ることで社会にショックを与えるのを楽しんでいる。彼らは人々を侮辱することで大喜びしている。トランプ大統領はこうした支持層にアピールしているのである。そうした大統領の行動は、意図的であれ、衝動的であれ、自分の支持層を対象としたもので、それ以上でない」と書いている。
 トランプ大統領は景気回復と失業率低下という好条件で出発した。ジョージ・W・ブッシュ大統領は就任直後にITバブル崩壊に見舞われ、連続テロ事件で衝撃を受けた。バラク・オバマ大統領もリーマンショック後の戦後最大の不況への対応を迫られ、就任後1か月で7870億ドルの史上最高額の景気対策を共和党の反対を押し切って実現した。そして経営危機に直面していたGMを救済しなければならなかった。

 トランプ大統領には差し迫った課題はない。しかし、世論の見方は厳しい。ABCとワシントン・ポストの世論調査では、「トランプ政権の政策は進捗しているかどうか」という質問に対して、「進捗している」と答えたのは38%、「進捗していない」との回答が55%だった。
 確かにトランプ大統領の具体的な成果は乏しい。大統領に就任して半年が経とうとしているが目立った成果は見られない。ホワイトハウスは4月25日に「トランプ大統領の100日間における歴史的成果」と題する声明を発表している。しかし、そこで指摘されている成果は、相次いで「大統領令」を発令することでオバマ政権の成果を覆したというものである。“後ろ向きの成果”はあるが、自らが掲げた政治課題の達成は遅々として進んでいない。この半年間にトランプ大統領は何をしたのだろうか。
■公約のほとんどは議会に阻まれて実現化せず

 選挙公約でオバマケアの廃棄を最大の課題に掲げたが、当初案は共和党右派の抵抗により下院での採決の見通しさえつかず、撤回せざるを得なかった。修正して再度法案を提出したが、現在に至るまで議会で法案が成立する見通しは立っていない。

 メキシコとの間に壁を建設する案は、「大統領令」で実施を命じたが、議会は建設費の予算計上を認めず、最終的に建設がどうなるかは不明である。最近、トランプ大統領は、壁にソーラーパネルを取り付け、電力を販売することで経費を賄うという奇策を提言している。建築コストをメキシコ政府に支払わせるというトランプ大統領の主張は、メキシコ政府に拒否されたままだからだ。
 もう一つの主要政策のインフラ投資でも目立った進捗を見せていない。トランプ政権の最初のインフラ投資計画は航空管制システムの民営化であるが、議会の共和党議員の十分な支持を得る見通しは立っていない。共和党が過半数を占める下院でも、法案成立に必要な支持を確保できない状況が続いている。共和党議員は、地方の道路や橋梁の修復が急務なときに、なぜ最初に航空管制システムの民営化なのか、と疑問を呈している。航空管制システムの民営化以外、具体的なインフラ投資計画は明らかになっていない。
 公約のひとつである減税もまだ成案はない。民生費削減、軍事費増加を柱とする来年度予算案も、民主党の反対もあり、簡単に議会で成立するとは思われない。増収要因と考えられていた国境調整税は既に消えてしまっている。トランプ大統領は財政赤字の縮小を目標に掲げているが、議会予算局の大統領の予算案に基づく財政赤字の試算では、2016年の5850億ドルから2017年は6930億ドルに拡大、2018年度は5980億ドルに減るが、2019年度には再び増加に転じ6890億ドルの財政赤字を計上することになる。
 通商政策でもトランプ大統領が目指す世界は見えてこない。

 トランプ大統領はアメリカが戦後作り上げてきた多角的な貿易の枠組みを崩そうとしている。大統領令で多角的自由貿易協定から離脱し、二国間交渉に軸足を移すことを明らかにしている。だが、その先の通商政策が見えてこない。

 トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を実現するためには通商協定の見直しが不可欠であると考えている。就任直後、大統領令でTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を決めた。だが、NAFTA(北米自由貿易協定)からの離脱には進まず、トランプ大統領は5月18日に議会に対して“再交渉”通告を行った。通告後90日を経過してカナダとメキシコとの再交渉を始めることができる。再交渉が始まっても、ライトハイザーUSTR(通商交渉代表部)代表は、協定を廃棄するのではなく、改善することになると発言、当初のトランプ大統領の厳しい主張から大きく後退している。
 またトランプ大統領はロイター記者との会見で「米韓自由貿易協定」に触れていた。7月12日にUSTR(米通商代表部)は韓国政府に同協定の再交渉を通告した。ライトハイザーUSTR代表は、30日以内に協議を始め、再交渉の議題を検討する意向を明らかにしている。ただ、韓国政府は、協議に応じるが、それが協定の再交渉の開始を意味するわけではないと慎重な立場を取っている。これも先行きは不透明である。

■通商政策は対中国でふらつき、周辺諸国に余波
 7月13日、トランプ大統領は記者会見で「鉄鋼輸入は大きな問題だ。鉄鋼のダンピングで国内の鉄鋼産業は破壊されている」とし、「それを防ぐには関税引き上げか輸入割り当てしかない。私は両方実施するつもりだ」と」と語っている。鉄鋼輸入で問題となるのが、中国からの輸入である。こうした保護主義的な動きは中国からの反発を招くのは必至である。中国に輸出している国内の企業や産業団体からは、中国の報復を懸念し、中国製品に対する関税引き上げや輸入割り当ての導入に反対する声が出ており、トランプ大統領に嘆願書を送っている。
 中国からの輸入品の関税を引き上げると主張する一方で、中国を為替相場操作国に指定するという選挙公約は既に破棄されている。明確な対中国通商政策は見えてこない。同時にドイツや日本などの対米貿易黒字を批判し、その解消を要求している。その手段として二国間協定を推し進めるとしているが、これも簡単には実行に移せないだろう。

 トランプ大統領の外交・安全保障政策の迷走はさらに深刻である。

 外交政策は行き当たりばったりの感を否めない。選挙中にはNATO(北大西洋条約機構)は時代遅れであると、トランプ大統領はNATO解体を主張していた。だが、現在ではトランプ大統領はNATOの歴史的役割を評価すると語っている。
 選挙公約では、海外への軍事的コミットメントを減らすと主張していたが、思い付きのようにシリアにミサイル攻撃を仕掛け、さらにアフガニスタンへの増派を決めている。対北朝鮮政策は中国政府に丸投げし、北朝鮮に圧力をかけるために派遣したはずの空母は、実は演習の一環だったと理由を付けて、既に日本海から引き揚げている。対中国外交の道筋も見えてこない。

■政策立案に専門家が関わっていない

 一体何が問題なのだろうか。
 それは、政策がトランプ大統領の“思い付き”やホワイトハウスの大統領側近によって決められていることだ。ホワイトハウスのスタッフで依然として影響力を持つのは極右のスティーブン・バノン首席戦略官やスティーブン・ミラー補佐官である。

 驚くべきことに、閣僚の最初の全体会議が開催されたのは6月12日である。その会議で閣僚たちはトランプ大統領礼賛に終始した。トランプ政権最大の問題は、経済、通商、外交、安全保障の分野の政策を立案する優れたスタッフがいないことだ。政策立案に携わっている著名な学者や専門家の名前を聞いたことがない。そもそも、3000~4000名と言われる各省の政治任命人事の多くが決まっていない。優秀な人材は、トランプ政権に参画することで経歴に傷が付くのを恐れている。優秀な専門家がいないため、政策がふらつき、具体的な方針が打ち出せないのである。
 7月12日、民主党のブラッド・シャーマン下院議員(カリフォルニア州選出)が、トランプ大統領の司法妨害を理由に下院に「弾劾告発書」を提出した。正式な「弾劾告発書」が提出されたのは、これが最初である。大統領の弾劾は司法委員会が弾劾調査を行うかどうかを決議し、公聴会などの検証を経て、下院本会議の過半数の賛成で訴追される。その後、上院で裁判が行われることになる。ホワイトハウスのサンダース副報道官は、下院で共和党が過半数を占めていることから、「弾劾告発書の提出はまったく馬鹿げたことで、政治ゲームに過ぎない」と、一笑に付している。
 民主党内にも、「弾劾告発書」を提出するのは時期尚早であるとの意見が強い。民主党の下院院内総務のペロシ議員は、当面、ロシアゲートに関しては弾劾を求めるよりは下院で独立調査委員会を設立することを優先すべきだと主張している。ただ、民主党下院議員の中にはマクシーン・ウォーターズ議員、アル・グリーン議員、ジャッキー・スペイアー議員のように「弾劾告発書」を提出してはいないが、公然とトランプ大統領の弾劾を主張している人たちがいる。
 こうした民主党内の思惑に対して、シャーマン議員は「権力の乱用、司法妨害から我が国を守る長い闘いの始まりであり、勝ち目のない賭けだが、共和党がトランプ大統領を追放する法的な手段を確立するものだ」と、自らの意図を説明している。

 米国憲法第2章第4条には、大統領は「反逆罪、収賄罪、その他の重大な罪(high crime)、または軽罪(misdemeanors)につき弾劾の訴求をうける」と規定されている。現在、主に「司法妨害」を理由にトランプ大統領の弾劾を求められている。だが憲法の規定では「軽罪」でも弾劾訴追をする理由になりうる。
■ロシアゲートは重しであり続ける

 その意味で注目されるのは、現在、司法省のロバート・ミュラー特別検察官が行っているトランプ大統領の捜査の行方である。最近、トランプ大統領の長男が、電子メールで「ロシア政府は大統領選挙でトランプ陣営を支援しており、クリントン候補にマイナスになる情報を提供する」と持ちかけられ、ロシア人弁護士と会っていたことが明らかになった。単にロシア政府の大統領選挙介入問題だけでなく、トランプ大統領とその家族のロシアビジネスなども捜査の対象になるだろう。
 2016年12月に民主党議員5名が、トランプ大統領、ペンス副大統領、トランプ一家が公職に対し利益相反となる事業から撤退することを要求する法案を提出している。これは憲法第1章第9条第8項の「報酬条項」に基づくものである。同条項は、公職にあるものは「他の国から、いかなる種類の贈与、俸給、官職、または称号を受けてはならない」と規定している。この条項をめぐってはトランプ大統領に対する訴訟も起こされている。捜査の進展次第では、この条項に違反する事実が明らかになってくる可能性もある。
 有権者のトランプ離れだけでなく、共和党離れも既に始まっている。ギャラップ調査では、トランプ政権が誕生した2017年1月には共和党支持は28%、民主党支持が25%、無党派が44%だったが、6月になると共和党支持は2ポイント減の26%、無党派も同様に42%に減ったが、民主党支持は5ポイント上昇して30%となっている。民主党に風が吹き始めたが、その影響が共和党地盤のオクラホマ州の連邦下院の補欠選挙に表れた。7月11日に行われた同州の2選挙区の選挙で民主党が勝利を収めた。今年に入ってから行われた補欠選挙で民主党は4議席を増やしている。
 トランプ大統領の支持率の低下が続くと、来年の中間選挙で共和党の候補者は苦戦を強いられるだろう。もしトランプ候補で戦えないという雰囲気が出てくれば、トランプ大統領の求心力は一気に低下する可能性がある。弾劾を巡る動向がどうなるかは不透明だが、短期間で決着が付く問題ではない。トランプ大統領は常に弾劾の脅威に晒されながら政権運営をしていかなければならない。もし多くの共和党議員がトランプ大統領を見捨てれば、下院での大統領弾劾の動きが加速するかもしれない。
中岡 望 :東洋英和女学院大学客員教授

最終更新:7月19日(水)20時41分

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