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トランプ大統領に「一発逆転戦略」はあるのか

5月20日(土)10時00分配信 東洋経済オンライン

ロバート・ミュラー特別検察官。写真は2013年6月、米議会で撮影(写真:ロイター/Yuri Gripas)
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ロバート・ミュラー特別検察官。写真は2013年6月、米議会で撮影(写真:ロイター/Yuri Gripas)
 ドナルド・トランプ米大統領は、目下、ロシアに関係した2つの疑惑について、野党民主党や米メディアに激しく追及されている。

 1つは、昨年の米大統領選に絡んだトランプ陣営とロシア政府との癒着疑惑と、それを追及している連邦捜査局(FBI)に対する捜査妨害疑惑、もう1つは、トランプ大統領によるロシア外相への機密情報漏洩疑惑だ。

 この2つの疑惑追及でトランプ大統領は、以前にも増して窮地に立たされている。とはいっても、どんな逆境にも強靭でしたたかなトランプ氏のことだ。そんな窮地にもひるむことなく、退勢挽回のチャンスを虎視眈々と狙っている。

■ミュラー特別検察官は弾劾追及まで行くか

 5月17日、そのロシア絡みの第1の疑惑を捜査するFBIを監督する特別検察官に、ロバート・ミュラー氏が任命された、と米司法省が発表した。

 ミュラー氏は元FBI長官であり、つい最近、解任されたジェームズ・コミー氏の前任者である。ブッシュ・ジュニア元大統領、バラク・オバマ前大統領時代にFBI長官として実績を積んだ。コミー氏はミュラー氏の部下だった。

 ミュラー特別検察官の任命について、米議会では、共和党、民主党とも、もろ手を挙げて賛成している。FBI長官としての実績があり、公正な判断をする法律家としての評価が定まっているからだ。

「第2のウォーターゲート」となるのか?

 トランプ政権に批判的な米メディアや民主党議員の間では、大統領を罷免する弾劾論も出始めている。ミュラー特別検察官の追及がどこまで行くか。「第2のウォーターゲート」「ロシアゲート」という大統領弾劾追及まで行くのか。

 現段階では、捜査対象はロシア政府とトランプ陣営のスタッフがどう関与したか、ということであり、トランプ氏は捜査対象にはなっていない。その点では、弾劾が確実だったので、自ら辞任を選んだリチャード・ニクソン元大統領や、首の皮一枚でしのいだビル・クリントン元大統領のときの、過去の弾劾事案とは違う。トランプ大統領の関与は間接的であり、ダメージは軽いといえる。ただ、トランプ大統領にとって、政治的プレッシャーが大きいことは間違いない。

■議会の追及からは逃れられる可能性

 もう1つ、ロシア絡みの第2の疑惑について、議会が調査、追及を始めようとしていたのは、トランプ大統領がロシアのセルゲイ・ラブロフ外相との会談で、イスラム過激派組織「イスラム国」(ISIS)について、機密情報を同盟国の許可を得ずに漏洩したという疑惑だ。

 ニューヨークタイムズ紙によると、その機密情報はイスラエルが米国に提供したものだという。イスラエル情報当局は米メディアに対して、情報提供国と調整せずに情報共有することは、極めて不適切として、トランプ氏の行動に激しい怒りを表しているというのだ。

 米議会は、このトランプ氏の漏洩疑惑の調査に乗り出そうとしていた。トランプ政権はその疑惑を全面的に否定し、その証拠もないと主張している。ただ、メディアがいろいろ報じている疑惑問題を議会としても放置できない。議会には調査権限がある。

 ところが、今回、ミュラー特別検察官が任命されたことによって事情が変わった。ロシア政府との癒着疑惑やロシア外相への機密漏洩疑惑について、政治的には、独立機関である特別検察官のミュラー氏の肩越しに調査がしにくくなりだした。

 つまり、ミュラー氏が直接相手にするのは「トランプ陣営のスタッフたち」であり、ミュラー氏が特別検察官に選ばれる前に比べると、皮肉なことに、ISIS絡みの機密漏洩疑惑で「トランプ氏自身」を狙っていた議会の調査、追及は弱くなる可能性が出てきた。トランプ大統領にとっては、ひと安心といったところだ。

北朝鮮カードで大逆転のチャンス

 とはいえ、トランプ大統領がかなり深刻な窮地に追い込まれていることは間違いない。その窮地を脱するために、トランプ大統領の脳裏をかすめているに違いない鮮烈な記憶は、ほかでもない、4月6~7日の米中首脳会談最中に決断したシリアへの攻撃だ。それは中国の習近平国家主席への強烈なメッセージとなった。

 すなわち、北朝鮮の核放棄への圧力に狙いを定めた、シリア空軍基地へのミサイル攻撃という軍事力行使は、アメリカ国内でも評価され、トランプ政権への支持率は高まった。同時に、北朝鮮の暴発によって引き起こされるかもしれない、米軍の先制攻撃の可能性も高まった。

 この北朝鮮カードは、トランプ大統領にとって、ピンチを脱する大逆転のチャンスになる可能性がある。場合によっては2020年の再選を目指すこともできるかもしれない。

 これまで北朝鮮問題は中国の習主席を仲介として取り組んできた。ところが、ロシア絡みの問題が出てきて、このまま中国に肩入れしたままではらちが明かない。中国だけでなく、ロシアとの協力で北朝鮮に立ち向かう。

 トランプ大統領自身が直面している窮地を脱し、しかも、米議会を黙らせ、押さえ付けることができるような離れ業とはいったい何か。おそらく、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を仲介として、北朝鮮の金正恩労働党委員長とトップ会談を実現させることではないか。

■トランプ大統領の「ウルトラC」戦略

 トランプ大統領は昨年の選挙戦中から、金正恩委員長との直談判したいようなことを何度も言っていた。「ハンバーガーを食べながらおしゃべりしてもいい」とか、「金委員長がアメリカに来るなら受け入れる」とか。

 大統領に就任してからも、最近では4月30日の米CBSテレビの番組で、金委員長のことを「なかなかの切れ者」と持ち上げてみたり、5月1日には、「適切な状況下で会えれば、光栄だ」と語った、とBBCが伝えている。

 その適切な状況下とは、どういう状況か。ベストな状況とは、北朝鮮が中国ないしロシアの仲介によって、核・ミサイル開発を凍結するなど、大きな譲歩を決断するような状況だろう。その意向を金委員長がトランプ大統領とのトップ会談で示せることができれば、それこそトランプ氏にとってベストシナリオだ。

もし米朝首脳会談が実現すると?

 もしロシアのプーチン大統領の仲介で米朝首脳会談が実現すれば、いまトランプ大統領を窮地に追い込んでいる、ロシア絡みの2つの疑惑など吹っ飛んでしまう。米議会ももはや文句をつけられない。

 「手がクリーンでなければ、相手に文句はつけられない」という言葉が、アメリカ法にはある。北朝鮮問題を放置して、何もしなかった歴代の大統領はもちろん米議会も、手はクリーンではない。そんな議会に、トランプ氏を責める権利はない。

■米議会はトランプ氏に何の文句もつけられない

 アメリカ法は、コモン法(慣習法)と衡平法の2つで成り立っている。前述の言葉は、後者の衡平法の概念からきている。その考え方は、バランスがよく取れた裁定である。いわば「大岡裁き」のような、情理を尽くした名判決といえるだろう。

 アメリカ国内では、衡平法は裁判官の法ともいわれる。トランプ大統領が敬愛する姉のマリアン・トランプ連邦控訴(高等裁判所)裁判官は、もちろんそのことを熟知しており、常日頃、弟のトランプ氏にアドバイスしているに違いない。その成果が実っているともいえよう。

 そんなバランスの取れた名裁きの条件が整えられれば、米議会はトランプ氏に何の文句もつけられない。トランプ氏が、ロシアの仲介で、最も厄介な北朝鮮の核開発停止に一定のメドをつけることに成功すれば、その可能性は十分ある。

 それどころか、トランプ氏は議会を黙らせることもできるようになる。さらに2020年の再選の可能性も出てくる。それはまさにトランプ大統領の「ウルトラC」戦略だ。
湯浅 卓

最終更新:5月21日(日)0時08分

東洋経済オンライン

 

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