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米通商政策-二国間交渉重視の姿勢を明確化も、依然として通商政策の不透明感が強い

4月21日(金)20時10分配信 ZUU online

米通商政策-二国間交渉重視の姿勢を明確化も、依然として通商政策の不透明感が強い(写真=Thinkstock/GettyImages)
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米通商政策-二国間交渉重視の姿勢を明確化も、依然として通商政策の不透明感が強い(写真=Thinkstock/GettyImages)
■要旨

1.トランプ大統領は、選挙期間中から保護主義的な通商政策を主張していたことから、世界的な保護主義政策の広がりを懸念する声が強まった。通商政策が選挙の主要な争点となった背景は、米国の貿易赤字が長期間持続しているほか、米国民の間にも中国を中心に製造業雇用が奪われているとの不満がある。

2.トランプ政権発足後、閣僚人事で保護主義的な政策を主張する閣僚が任命されたほか、3月初に発表された通商政策課題報告書では、多国間通商交渉の枠組みである世界貿易機関(WTO)を軽視し、超大国である米国の国益をより反映させ易い二国間交渉を重視する米国の姿勢が鮮明となった。

3.もっとも、政権発足から3ヵ月が経過したものの、通商政策で中心的な役割を果たす米通商代表部(USTR)で通商代表が未承認となっているほか、政権スタッフの任用は大幅に遅れており、通商政策の立案能力には疑問符が付いている。実際、先日の日米経済対話でも、具体的な政策に踏み込むことが出来なかったことが示されている。

4.一方、対中国政策では、為替操作国認定が見送られたほか、NAFTAの見直しについてもトーンダウンしており、これらの通商政策では選挙公約からの軌道修正もみられる。このため、トランプ政権の通商政策は、当初懸念された貿易戦争の可能性は、現状では低下しているものの、通商政策の政策立案はこれから本格化するため、今後の動向には依然として不透明感が強い。

■はじめに

トランプ大統領は、選挙期間中から中国の為替操作国認定や、中国、メキシコの輸入品に対する大幅な関税率引き上げなどを掲げてきたほか、TPPからの離脱やNAFTAの見直しなど、多国間交渉ではなく、二国間FTAなどの二国間交渉を重視する姿勢を示してきた。このため、選挙期間中から米国発で保護主義的な通商政策が世界全体に拡がることへの懸念が高まっていた。

昨年の大統領選挙で通商政策が争点化した背景には、米国の貿易赤字が長期間持続している中、中国の不公正な貿易慣行などにより、製造業を中心に雇用が喪失されたとの国民感情が一部で高まってきたことが挙げられる。実際、自由貿易協定に米国民の懐疑的な見方が強まっており、トランプ大統領だけでなく、民主党の大統領候補であったヒラリー・クリントン氏までもTPPに反対せざるを得なくなった。このため、以前に比べて通商政策への関心は高くなっていると言えよう。

一方、トランプ政権発足後、保護主義的な政策を主張する閣僚を登用したほか、公約通りにTPPの離脱を決定したものの、通商政策運営は円滑に進んでいるとは言えない。政権スタッフの不足などから、4月18日に行われた第一回日米経済対話では、具体的な政策に踏み込むことが出来なかったことが示されており、同政権の政策立案能力には疑問符が付いている。さらに、中国やNAFTAに対する政策スタンスに変化がみられるなど、通商政策の一部方針転換がみられていることも、政策の予見可能性を低下させている。

本稿では、通商政策が米国内で注目される背景について説明した後、これまでのトランプ政権の通商政策について整理するほか、今後の見通しについても解説している。結論から言えば、政策公約で掲げられていた多国間交渉から、日米FTAを軸とした二国間交渉に軸足を移すことが想定される一方、特定国の輸入品に高関税を課すことで引き起こされる世界的な貿易戦争は回避できそうということだ。ただし、通商政策の政策立案はこれから本格化するため、今後の通商政策の動向は依然として不透明感が強い。

■通商政策が米国で注目される背景

◆貿易赤字:70年代半ば以降、赤字基調で推移

財・サービスを合わせた米国の貿易収支は、70年台半ばまでは、ほぼ収支が均衡していたものの、その後は貿易赤字が増加に転じ、そのまま赤字基調が持続している。とくに、08年の金融危機前は、財収支赤字の増加を背景に、赤字額は5,000億ドル超(GDP比5%台)の水準まで増加していた。

もっとも、トランプ大統領は貿易赤字増加の要因として、オバマ政権時代の通商政策を痛烈に批判しているが、金融危機前後の変動を除けば、顕著な赤字増加はみられておらず、サービス収支黒字額の増加もあって、貿易赤字(GDP比)は足元3%を割れる水準で安定していたことが分かる。

◆対中国貿易赤字の拡大:製造業雇用喪失懸念と不公正取引慣行の指摘

貿易収支を主要国別にみると、対中国赤字の拡大が顕著となっており、貿易赤字全体に占めるシェアは00年代前半の2割台から16年は6割を超えている。ちなみに、対日本ではほぼ横這いの状況となっており、シェアも1割程度に留まっている。

一方、対中国赤字の急激な増加は、01年に中国がWTOに加盟したことが大きいとみられている。また、工業製品などを中心に中国からの輸入急増によって、米国の製造業雇用が喪失したとの問題提起もされている。マサチューセッツ工科大学経済学部教授のデビッド・オーター氏らの分析(*1)によれば、99年から11年にかけて中国からの輸入品増加によって、直接競合する分野で56万人の米製造業雇用が喪失したほか、関連産業まで含めた製造業雇用の喪失は98.5万人に上ると試算されている。この期間に減少した米製造業雇用が580万人であったことを考慮すると、その影響の大きさが分かる。トランプ政権は、この見方を支持しており、中国からの輸入急増が米製造業雇用を減少させたと主張している。

もっとも、中国からの輸入品増加が製造業雇用を脅かしたとの評価については、懐疑的な見方も強い。実際、米製造業雇用の減少に反して、足元の製造業生産は史上最高水準で推移しているため、米製造業の省力化などの生産性向上が、雇用喪失に影響している可能性が指摘されている。

このように、対中貿易と製造業雇用の関係については議論の余地があるものの、対中国貿易における不公正な貿易慣行に対する米政府の不満は大きい。米国が不公正な貿易慣行に対してWTOに提訴している相手先をみると、95年のWTO発足から直近(4月20日)までで、中国向けが21件と最も多くなっており、全体の2割弱を占めている。

実際、昨年の大統領・議会選挙では、共和党のみでなく、民主党も通商政策の政策公約として、中国の不公正な貿易慣行の是正を盛り込んでおり、与野党を問わず米政府の問題意識が大きいと言えよう。

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(*1)“The China Shock: Learning from Labor Market Adjustment to Large Changes in Trade”(16年2月), David H. Auor, David Dorn, Gordon H. Hansen
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◆米国民世論:自由貿易に対する支持が低下

元々、民主、共和党ともに通商政策について、自由貿易を否定するスタンスではない。しかしながら、米国民の間で自由貿易協定、とくに多国間協定では米国が条件面で不利な条件を飲まされているとの声も大きくなっており、無視出来なくなっている。

ピュー・リサーチセンターが、選挙前の16年8月に実施した世論調査では、TPPを評価するとの回答が37%と評価しない(39%)を下回っているほか、より一般的な自由貿易協定についても、評価するとの割合が45%と評価しないとする割合(47%)を下回っている。

このため、トランプ政権が目指す多国間協定の見直しは、米国民からは一定の支持が得られるだろう。

■トランプ政権の通商政策動向

◆閣僚人事:政権スタッフ登用の遅れ、各組織の役割分担なども流動的

トランプ政権の閣僚人事では、16年9月に重商主義的な考え方を色濃く反映したレポート(*2)を発表していた投資家のウィルバー・ロス氏が商務長官に、同じく共著者でカリフォルニア大学経済学部教授のピーター・ナヴァロ氏が新設された国家通商会議(NTC)の委員長に起用された。一方、通商政策で中心的な役割を果たす米通商代表部(USTR)の人事では、鉄鋼業界に近く、これまで中国に対して強硬な通商政策を採用するよう主張してきた弁護士のロバート・ライトハイザー氏の、通商代表としての議会承認が未だ得られていない。

さらに、閣僚以下のポストについても任用が遅れている。商務省で議会承認が必要な21のポストの内、4月20時点で承認されているのはロス長官のみで、副長官が承認待ち、次官、次官補ともに各1名が指名されたに過ぎず、残り17のポストでは指名すらされていない状況となっている。USTRでも3名の次席代表が指名すらされておらず、政権スタッフの不足が深刻である。

また、新設されたNTCについては、通商政策立案におけるロス長官と、ナヴァロ委員長の役割分担について明確となっておらず、NTCにどのような機能を担わせるのか、流動的となっているようだ。さらに、国家経済会議(NEC)委員長で、自由貿易支持とされるゲーリー・コーン氏の発言力が高まっているとの報道もあり、通商政策の立案過程で誰が主導権を握るのか依然として不透明感が強い。

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(*2)“Scoring the Trump Economic Plan: Trade, Regulatory, & Energy Policy Impacts” (16年9月29日)https://assets.donaldjtrump.com/Trump_Economic_Plan.pdf
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◆通商政策課題報告書:米国益優先、二国間交渉重視の姿勢を明記

通商政策課題報告書は、USTRが毎年3月1日までに議会に提出することが義務付けられている公文書で、通商政策の方針が示される。公文書で初めてトランプ政権の通商政策が示された今回の報告書(*3)では、米国の国益優先と多国間交渉から二国間交渉に重点を移す方針が明確に示された。

同報告書では、通商政策の基本方針として、「全ての米国人とって、より自由で、より公正な手段による貿易の拡大」が掲げられており、貿易拡大によって、米国の高成長や、雇用増加、製造業基盤の強化を目指すとするなど、国益優先の姿勢が鮮明にされている。また、通商交渉手続きでは安全保障面も含めた超大国としての米国の立場を反映させて、有利な条件を引き出し易いとみられる二国間交渉を重視する姿勢が示された。

さらに、同報告書では通商政策の4つの優先課題として、「通商政策における国家主権の優先」、「米国通商法令の厳正な施行」、「市場開放のためのレバレッジの活用」、「新たな、より良い通商協定の協議」が示された。これら優先課題で注目されるのは、紛争解決の過程で、WTOが米国に不利な裁定をした場合に、米国がWTOに従わず、米国内法を優先させる可能性を示唆したことだ。2月の当レポート(*4)で取り上げた国境調整税(BAT)や、トランプ政権が掲げる保護主義的な通商政策では、WTOから提訴される可能が高いとみられているが、米国がWTOの裁定に対してどのような対応を行うか注目される。

一方、米通商政策の重点が多国間交渉から二国間交渉にシフトすることについては、経済学者や企業から批判が大きい。製造業などでは国際的にサプライチェーンが発達しており、複数国を跨いで部品や半製品が取引される現状では、二国間通商協定次第ではサプライチェーンを大幅に見直す必要が生じるとされる。さらに、通商協定の議会審議が遅れる可能性も指摘されている。通商協定の締結に向けた議会審議は、非常に煩雑であり、それぞれの国毎に審議する必要が生じることは、他国間協議に比べて、議会の審議負荷を増加させ、議会審議が滞ることが懸念されている。

このため、実際に二国間の通商協定を策定する過程で、様々な問題が発生する可能性が高く、トランプ政権が目指す二国間交渉がスムーズに進展するか予断を許さない。

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(*3)“2017 Trade Policy Agenda and 2016 Annual Report”(2017年3月1日), USTR
https://ustr.gov/sites/default/files/files/reports/2017/AnnualReport/AnnualReport2017.pdf
(*4)Weeklyエコノミストレター「法人税制議論が本格化―注目される国境調整税(BAT)の行方」(2017年2月20日)http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55098?site=nli
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◆日米経済対話:日米FTAに対する米国の強い意欲を示唆

麻生副総理と、ペンス副大統領の間で行われた日米経済対話では、会談後に共同プレスリリースが発表された。プレスリリースでは、政策の3つの柱として、「貿易及び投資のルール/課題に関する共通整理」、「経済及び構造政策分野における協力」、「分野別協力」の項目が示された。同経済対話では、米政策スタッフの不足による準備不足から、具体的な政策議論に踏み込まなかったことが報じられている。

しかしながら、プレスリリースをみると、貿易ルールの中で「高い貿易及び投資に関する基準についての二国間枠組み」と明記されたことが注目される。これらの表現は、前述の通商政策課題報告書と平仄が合っており、米政府が日米FTAを推進していく強い姿勢を示したものと解釈できる。また、北朝鮮リスクが顕在化する中、安全保障問題を盾に、日本に対して自国に有利な二国間協定を締結できると、トランプ政権が判断している可能性が考えられる。ピーターソン国際経済研究所で2月に行われた通商政策に関するシンポジウム(*5)では、財務次官補や同研究所の所長を歴任したフレッド・バーグステン氏が、トランプ政権は安全保障問題を梃子に米国に有利な条件で日米FTAを先ず締結し、それをテンプレートにして、他国との二国間協定を批准していくだろうとの見通しを示していた。これまでのトランプ政権の動きは、概ねバーグステン氏の見立てに沿った動きにみえる。

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(*5)“Release of US Trade Policy Options in the Pacific Basein ; Bigger is Better”(17年2月16日)
https://piie.com/events/release-us-trade-policy-options-pacific-basin-bigger-better
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(4) その他:対中政策、NAFTA見直し議論など、政策公約からの見直しも

トランプ政権発足以降の通商政策には、一部軌道修正の動きもみられる。対中政策では、就任初日に中国を為替操作国認定するとの方針を覆し、4月14日に発表された半期為替報告書(*6)でも、為替操作国認定を見送った。さらに、中国の輸入品に対して45%の関税をかけるとの公約についても、実施する動きはみられていない。4月6~7日の米中首脳会議では、貿易に関する「100日計画」を策定することで両国は合意しており、その内容が注目される。もっとも、北朝鮮絡みの地政学的リスクも顕在化しており、政権発足当時に想定されていたより対中政策は穏やかなもの落ち着く可能性が高いとみられる。

さらに、NAFTAについても選挙期間中に「全くの災害」と表現していたが、カナダ、メキシコとの見直し交渉で、トランプ政権が大幅な変更を求めない意向を示したと報じられており、NATFAの見直しについても、政策公約からの軌道修正がみられている。

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(*6)“Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States”(17年4月14日)
https://www.treasury.gov/resource-center/international/exchange-rate-policies/Documents/2017-04-14-Spring-2017-FX-Report-FINAL.PDF
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■今後の見通し

トランプ大統領は、3月31日に貿易赤字の原因となる貿易上の不正行為を特定するための大統領令に署名しており、90日以内に調査結果が報告されることになった。今回の調査では、どの程度の貿易赤字が、詐欺や不適切な行為によるものであるかを判断するため、国、商品ごとに調査することが決められた。調査結果次第では、特定の国や商品に対して具体的な対抗措置が取られる契機となるため、注目される。

これまでみたように、トランプ政権の通商政策は国益を優先し、多国間交渉から二国間交渉を重視する姿勢を明確にしており、安全保障問題で米国の存在が重要な日本は、他国のテンプレートとなるように、米国に有利な日米FTAを締結させられる可能性が高いとみられる。

一方、対中戦略やNAFTAの見直しでは、選挙公約からは軟化がみられており、貿易戦争という最悪のシナリオは回避できそうだ。

もっとも、他の主要な政策と同様、政権スタッフの不足などから通商政策の立案が遅れており、政策議論は深まっていない。このため、今後の通商政策の動向は、安全保障問題なども複雑に絡み予断を許さない状況が持続しそうだ。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

最終更新:4月21日(金)20時10分

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