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一触即発状態にある「バルカン半島」の危うさ

4月15日(土)11時00分配信 東洋経済オンライン

ボスニアでは、新たな紛争勃発に不安を抱く人が少なくない(写真:にいちゃん / PIXTA)
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ボスニアでは、新たな紛争勃発に不安を抱く人が少なくない(写真:にいちゃん / PIXTA)
 欧州連合(EU)首脳が突如、バルカン半島の新たな現実に目覚めた。3月のEU首脳会議で、同地域の安定に向け一段の政治的関与が必要だと強調したのだ。これは、影響力を拡大しつつあるロシアに対抗するためでもある。だが、バルカン半島の地政学リスクに驚いてはいけない。そもそも、約1世紀前にオスマン帝国が崩壊してから、複雑な民族、文化状況を抱えた同地域は繰り返し紛争の火種となってきた。

 ユーゴスラビアはそうした政治的矛盾に対処すべく創り出された国家的枠組みだったが、その歴史を彩ったのは絶え間ない戦乱だった。同国は1990年初頭に崩壊、クロアチアからコソボへと至る紛争の10年へと突入する。憎しみに満ちた7つの国境に安定をもたらすには、新たな枠組みが必要となり、その役割を担うことになったのがEUである。

■排外主義の勢い取り戻したバルカン半島

 2003年にギリシャのテッサロニキで開かれたEU首脳会議において、旧ユーゴに当たる西バルカン諸国をEUに取り込むことが約束された。重要な公約ではあるが、実現も難しかった。バルカン情勢が一応の落ち着きを見せると、EU首脳はそれで和平が達成されたと見なし、以来、EUのバルカン政策は「現状維持」に据え置かれた。

 ジャン・クロード・ユンケル氏は2014年に欧州委員会委員長に任命されると現状維持を確認、5年間に及ぶ自身の任期中にEU加盟国を増やすつもりはないと断言した。だが、政治的にはこのようなことを口にすべきではなかった。改革と統合を導く希望の光が途絶え、バルカン半島では予想どおり排外主義が勢いを取り戻した。その間、EUは身内の債務問題に掛かりっきりだった。

紛争を阻止するために欧州はどうすべきか

 私はボスニア紛争後にバルカン諸国で長く時間を過ごした。旧ユーゴへのEU特使、ボスニア紛争を終結させたデイトン和平会議の共同議長、ボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表、そしてバルカン諸国における国連事務総長特別代表としてだ。

 昨年、私的にボスニアを再訪したときのことだ。現地の方から「また戦争になりますか」との質問を受けた。「まさか」と、最初は受け流していたが、5回も別の人から同じことを聞かれて、不安になってきた。

 当時とは状況が違うから、1990年代のような紛争が再び起きることはないだろう。だが、歴史が教えるように、個人の愚行によって火の手が上がり、手がつけられなくなることがある。かつてサラエボでは、ガヴリロ・プリンツィプという1人の青年がオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公を暗殺し、第1次世界大戦の引き金を引いた。

 今日のバルカン半島は一触即発の状態に近づいており、新たに火花が散れば、炎が燃え上がりかねない。ひょっとすると、今度はマケドニアの首都スコピエが発火点となるかもしれない。

■紛争を防ぐために欧州がすべきこと

 では、どうすべきか。欧州にできることは、ただ1つ、欧州統合のプロセスを加速しつつ、紛争を阻止する力があることを見せつけることだ。バルカン半島に欧州連合戦闘群を配置し軍事演習を行うことで、EUには行動する意志と手段があることを示さねばならない。これによって、EUの軍事力が口先だけの張り子の虎ではないという強力なメッセージを送ることができるだろう。

 EUのさらなる拡大も不可欠だ。バルカン地区のうちEU加盟国となっているのはスロベニアとクロアチアのみで、残りが欧州に加入するまでには当然、時間がかかる。だが、これらの国が加盟条件を満たせるように改革を加速することはできる。

 たとえば、アルメニア、アゼルバイジャンなどとの連合協定・東方パートナーシップにならい、バルカン半島パートナーシップを創出すべきだ。同地域への政治的関与も強める必要がある。今も続いている小規模な国境紛争を仲裁し、情勢悪化を防ぐことが、その出発点となろう。
カール・ビルト

最終更新:4月15日(土)11時00分

東洋経済オンライン

 

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