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現代の名車になる? マツダの次世代占う「CX-5」の出来

3月23日(木)12時30分配信 THE PAGE

 先月発売されたマツダのSUV(スポーツタイプ多目的車)新型CX-5。モータージャーナリストの池田直渡氏は、現代の名車になる可能性があるクルマだと評します。何がどのように変わったのでしょうか。
[写真]マツダ第6世代の集大成であり、次世代への橋渡しとなる重大なモデル新型CX-5
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[写真]マツダ第6世代の集大成であり、次世代への橋渡しとなる重大なモデル新型CX-5
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 マツダがここ数年、すっかりイメージチェンジを果たしたと思っているのは筆者だけではあるまい。「魂動」デザインを採用した2012年の初代CX-5以来、マツダは矢継ぎ早に商品を投入して、デミオ、CX-3、アクセラ、CX-5、アテンザ、ロードスターという新世代ラインナップを完成させた。これらをマツダは第6世代商品群と呼ぶ。

「第6世代」とは何だったのか?

 リーマンショックが起きた時、その震源地であった米国のメーカーが負った手傷は他国メーカーより大きかった。急激に財政が悪化したフォードは、財政再建のためやむを得ず傘下のブランドを売却した。その結果、前触れも無くフォードからのユニット供給を受けられなくなったマツダは、全ラインナップを一斉に自社開発しなければならない羽目に陥った。エンジンひとつ取っても下は1リッター級から上は3リッター級まで様々なユニットが必要だ。

 第6世代の商品群を見渡して見ればわかるが、マツダの規模でこれらのクルマを全部一斉に新規に作り起こすのは簡単な話ではない。だが、グローバルマーケットを睨めばこのラインナップのクルマは一台も無くせない。デミオを止めれば欧州やアジア・マーケットの販売店の死活問題になるし、アテンザを止めれば北米マーケットが崩壊する。
[写真]「鼓動」デザインを全面に押し出し、統一されたイメージでラインナップを展開したマツダ「第6世代」商品群(Natsuki Sakai/アフロ)
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[写真]「鼓動」デザインを全面に押し出し、統一されたイメージでラインナップを展開したマツダ「第6世代」商品群(Natsuki Sakai/アフロ)
 しかも人も資金も決して豊かではない。座して死を待つ訳にはいかないし、どの車種も止められない。その中で、手持ちのリソースで可能な戦略をマツダは必死で考え、実現可能なプランを作り上げた。それは「数を競わない」ということだ。かつてマツダの人が卑下して言った言葉だが「ウチの全車種を合計してもカローラに敵わない」。そんな考え方はしたことがなかったが、そう言われてみればそうだ。トヨタは成績の良い月なら、1車種で国内月販3万台越えとかの途方もない数を売ることもある。

 その中でマツダというブランドを何とか生き残らせていこうと思えば、マツダ全車種に統一的なイメージを持たせるしかない。そうしなければ埋没してしまうのだ。だからマツダは「魂動デザイン」で全商品を括り、ブランドの埋没を防いだのだ。

 そういう考え方に基づけば、万人に受ける無難なデザインはあり得ない。嫌いな人には嫌われても良いが、好きな人が惚れ込む商品を作る。そう決めたのだ。マツダはそれを「2%に好かれるクルマ」と言う。グローバルに年間約1億台のクルマが売れている現状で、2%なら200万台。現状で約150万台のマツダにとって、それは諦めでも何でもなく、十分な高望みの数字だ。だから商品の個性を尖らせる方向にシフトした。そうした特性を持たせつつ、コンピュータ・シミュレーションとコモンアーキテクチャー(モジュール設計)によって、徹底的に省力化と高性能化を追求して商品を作り上げた。コモンアーキテクチャーについてはあらためて書くことがあると思うが、それは決死の綱渡りだった。

「第7世代」につながるいくつかの改良

[写真]旧型に不足していた高級感を盛り込むことに留意した新型のインテリア
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[写真]旧型に不足していた高級感を盛り込むことに留意した新型のインテリア
 そうした決意と幸運によって、第6世代商品群は着実という以上の成功を収めた。しかしビジネスに終わりはない。次を作り出さなくてはならない。ぐるっと回って2巡目のトップバッターとなったのは当然CX-5である。

 新型CX-5は、マツダの継続的成長を支えられるだけの個性的で魅力的な商品になっているのだろうか? 2%の人が拍手喝采する様なクルマの出来になっていなければ、ここまでの好調が無に帰する可能性がある。

 マツダは新型CX-5を「6.5世代」と呼ぶ。それは第6世代の集大成であり、まもなく始まる第7世代の方向 を指し示すブリッジの役割を果たすクルマだろう。

 マツダが言う「Zoom Zoom」とは走る歓びの追求である。第6世代の集大成として、新型CX-5でマツダが手を入れたのは、クルマの反応をよりリニアにすることだった。

《エンジンの初期レスポンス》

 いくつか挙げてみよう。まずはエンジンの初期レスポンスを改良した。国内の主力となる2.2ディーゼルはターボユニットだ。ターボは理論上、どんなに頑張ってもターボラグを完全に消すことはできない。それは、アクセルを踏んでから排気が増え、その排気によってタービンが加速され、そこで初めて過給が始まるからだ。

 人間の感知能力は意外にも高いので、1/100秒程度の遅れも、違和感として検知する。大昔の何秒も遅れてからドッカーンと来るターボではなくても、意のままにならない感じは必ず感じる。スマホのアイコンをタップして「あれっ? 反応しているのかな?」と感じるのはまさにこれだ。そのためにスマホはユーザーの操作に対してタップ音を鳴らしたり、振動でフィードバックを行ったりして安心感を与える工夫をしている。

 マツダがやったのもこれと同じ改良だ。SKYACTIV-D 2.2の改良にあたって、エンジニアは、「アクセルを踏んだら、まず早急にトルクを増やすこと」を考えた。これができていないと、アクセルを踏んだのに、まだ加速しない感じたドライバーはと更に踏み増し、遅れて来た加速がオーバーシュートして運転がぎくしゃくする。あるいはそうと気取れないほどの遅れであっても、踏んだ時に予想外にパワーが出るような気がして運転に気疲れしてしまう。

 遅れを出来るだけ感じさせないためには、過給が効く前に、まずエンジンそのものができるだけ多くの空気を吸い込んでトルクを増やす必要がある。そのために吸気系を見直して、ドライバーの加速要求への初期反応を可能な限り早くした。初期反応で空気を多く取り入れれば、ターボもより早く過給を始める。もちろんターボの反応遅れはゼロにはならないが、可能な限りそれを縮める改良である。

《ステアリング》

 ステアリングの考え方も同じだ。ハンドルからタイヤまで多くの部品で接続されているステアリング系は、その部品の剛性と接続の精度によって、初期のガタが生じる。それを消そうとした。一番大きいのはステアリングラックのマウントだ。現代のクルマのほとんどが採用するラック&ピニオンのステアリング機構は、ステアリング軸に直結したピニオンギヤと、シャシー側にマウントされた洗濯板のようなラックギヤユニットによって作動する。しかしタイヤ側に路面の不整から入力があった時、その不快な振動がハンドルに伝わると快適性が損なわれる。それを防止するために、ラックギヤは一般にゴムでフローティングマウントされている。

 マツダはこれをボルトで剛結した。ステアリング操作に関しては、明らかに精度が向上して、より微細な操作がダイレクトにタイヤに伝わるのだが、当然引き替えに不快な振動も伝わってしまう。それをどう遮断したのか?

 マツダはまず路面情報などをドライバーが感知する上で必要な情報のフィードバックと不快な振動を周波数で分離した。不要な振動を伝えないようにラックギヤの締結ボルトの位置や、サブフレームの形状をコンピューターで解析して、不要な周波数での共振を防いだ。これによってハンドル系の剛性感や精度感を高めながら、振動を遮断することに成功した。

 もう一つはGベクタリングコントロール(GVC)の成果だ。GVCは舵角に対するクルマの向きの変わり方をモニターしながら、十分に前輪のグリップが出ていないと判断すると、5/100秒単位でエンジン出力を抑制し、減速によって前輪への荷重を増やす。

 この減速は微細過ぎてドライバーには全く検知できないが、それでも前輪が発生する横力は変わる。これによってまるでシャシー性能が上がったように、クルマが意図通りに動く。それは何もタイヤがスキール音を立てるような領域ではなく、時速20キロ程度でも体感できる。ただしその違いは、筆者がGVCのオン/オフスイッチが付いた車両で効果を比較したので分かるだけで、最初からGVCが付いたクルマでは、GVCの働きを車両の運動性能と切り分けて感知することはほとんどの人にはできないと思う。

新・旧で違うコーナリング時の振る舞い

[写真]マツダがアクティブドライビング・ディスプレイと呼ぶ、フロントウィンドー映写型の情報モニター。速度やナビなどが表示される
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[写真]マツダがアクティブドライビング・ディスプレイと呼ぶ、フロントウィンドー映写型の情報モニター。速度やナビなどが表示される
 新旧のCX-5に乗って比べて見た結果、面白いことがあった。コーナリング中、路面がうねって、外側前輪が抜重(重量を抜くこと。荷重の反対)するような状況での振る舞いが新旧でハッキリ違ったのだ。

 この時の現象を時間軸で見ると、まずは前輪がきちんと仕事をしていて、横力が発生している。うねりで抜重すると、タイヤの垂直荷重が抜けて横力が減る。うねりの底に達するとタイヤの垂直荷重が増えて、横力が増える。つまり曲がっていて突然、アンダーステア(曲がりにくい挙動)が発生し、その後オーバーステア(曲がりすぎる挙動)に切り替わる。読んでいると怖そうに感じるかもしれないが、実は物理的には荷重が変わればそういう現象が起きるのは当然で、クルマにとって自然なことだ。旧型CX-5の振る舞いは原則通りそうなっていた。

 しかしGVCを搭載した新型では、この反応は明らかに軽減されていた。うねりを下っても横力があまり減らず、うねりの底に着いても急に鼻先が引っ張られない。アンダーステアとオーバーステアの変化が穏やかになっている。そうするために、タイヤの垂直荷重が抜けた時エンジン出力を絞って減速によってタイヤを密着させ、底に着いて垂直荷重が増えた時エンジン出力を上げて、前輪の横力を減らしている。もちろんこれ以外にもショックアブソーバーの減衰特性や、前述のステアリング系の剛性向上なども影響しているだろうが、うねりを越えた時にドライバーが身構える感じが明らかに減っている。

“黄金期ベンツ”並みの直進安定性

 もっと驚いたのは、きれいな路面での直進安定性だ。これはもう異次元と言っても良い。分かる人にしか分からないだろうが、かつて黄金期にあったW124型ベンツのような、ずっしりとしていてデッドではない直進性が備わっていた。クルマ好きの間で「あんなクルマはもう出て来ない」と言われていた、あの真っ直ぐ走っているだけで充足し、幸福になるような直進性が、新型CX-5にはあった。

 念のために書いておくが、当時のW124型ベンツは安くても700万円を越えるクルマだった。それが安ければ250万円、一番高くても350万円で今買える。もちろん何もかもベンツと同じわけではない。しかしW124型ベンツの魅力の内で、あの直進安定性は明らかに看板メニューの一つだった。新型CX-5は現代の名車になり得ると言ったら言い過ぎだろうか。
[写真]後席居住性の向上を目指し、大幅に改善されたリヤシート
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[写真]後席居住性の向上を目指し、大幅に改善されたリヤシート
 さて、話の角度は少し変わる。現在CX-5はマツダの売上の40%を叩き出す稼ぎ頭であり、北米販売の主力車種であり、欧州や新興国の富裕層マーケットにも訴求できる。かつ日本でも稼いでいる。リソースが限られたマツダの場合、重要ではない車種は一台も作っていないと言うか、重要ではない車種を作る余力はない。だから全て重要なのだが、それでもCX-5の重要性は頭一つ抜け出ている。

 初代が成功しただけに、今回も何としても成功させなくてはならない。なので、初代オーナーの声を拾い上げて、可能な限り対策を行った。最も典型的なのはリヤシートの居住性だ。リヤシートの性能を向上させ、音の侵入への対策を徹底した。元々独立したトランクを持たないCX-5のようなボディ形状の場合、サスペンションの取り付け部を経由して様々な音が入ってくるのは宿命である。そこで内張の内側の空間を使って音を減衰させる音響特性を持つ空間を設け、トランク部の床の気密性を見直した。さらにトノカバーもリヤシートとの隙間をカバーする新形状にし、それでも侵入した音を消すために天井に従来より吸音性の高い部材を投入した。
[写真]ぶつからないブレーキや死角モニターなど安全確保のための支援ツールもアップデート。追尾型クルーズコントロールの作動領域も広がった
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[写真]ぶつからないブレーキや死角モニターなど安全確保のための支援ツールもアップデート。追尾型クルーズコントロールの作動領域も広がった
 マツダはZoom-Zoomと銘打ち、走る歓びをテーマとしてきたが、今回から「運転者だけでなく同乗者にも走る歓び」を訴求し始めている。それが後部座席の居住性改善の大きな理由である。

 さて、全体としての所感である。CX-5は旧型も良いクルマだったはずだが、新型の性能は相当に良くなった。商品力も高い。運転しやすく、そのせいでクルマが小さく感じる。旧型にあって新型にないものは、純朴素朴で可愛げのあった所だ。新型は都会っぽくなり、シュッとした二枚目系になった。そういうキャラクターの面を除いて、純粋に性能を比べたら圧倒的と言う他ない。この仕事をしているととても珍しいことだが、試乗を終えた時、CX-5が欲しくなった。
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■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:3月25日(土)5時42分

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