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自動車の「内燃機関」に未来はあるのか? 2017年クルマ業界展望

1月3日(火)16時00分配信 THE PAGE

[画像]クラシックなエンジンのイメージ(アフロ)
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[画像]クラシックなエンジンのイメージ(アフロ)
 ひと昔前、自動車のエンジンといえば、レシプロエンジンが主流でした。シリンダー内でピストンが往復運動することで力を生み出す内燃機関の一つです。それが、近ごろは環境対策として、ガソリンエンジンなどから出る排気ガスへの規制が強まっていることから、モーターで駆動する電気自動車(EV)や燃料電池車などの「エコカー」が次々と登場しています。時代の流れの中で、肩身が狭くなる一方にも感じる内燃機関。もう終わりゆく技術なのでしょうか。モーター・ジャーナリストの池田直渡氏に寄稿してもらいました。
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 新年そうそうに硬いテーマだが、年の初めだからこそしっかり考えておきたいテーマでもある。この地球上では毎年毎年新車が約1億台販売される。これが後20年後には1.5倍になりそうだ。新たな5000万台は、中国の非富裕層マーケット、インド、ASEANで売られる。

 クルマの台数が1.5倍になるとしたら、そしてクルマによる環境負荷をせめて現状キープにとどめたいとしたら、計算上、クルマの環境性能を上げて、環境負荷を3割軽減しなくてはならない。

エコは美しい話ではない

 エコカーと聞くと「つまらないクルマ」だとか「夢がない」と切り捨てる人が見受けられるが、エコなんて無視して排ガスをどかどか出すクルマをみんなで満喫していれば、遠くない未来にクルマは法的に全面禁止ということになってしまう。絶滅を覚悟してのやりたい放題。それはあまりにも諦めが良すぎる。

 筆者などはことクルマに関する限り欲深いので、死ぬまでクルマを楽しんでいたい。だからこそ環境技術が進歩することを歓迎するのだ。

 そもそも論で言えば、ホモサピエンスは異常繁殖してしまった。地球環境を中心に考えれば、人類が1/10くらいに減ることが一番良いし、文明を全て喪失してエネルギー消費ゼロ社会にした方が良い。しかしわれわれは人類の一員なので、そんな風に「地球」を主役には考えられない。「環境に悪いのは分かっているけれど、人類はどうかこのまま生き延びさせていただきたい」と祈らざるを得ない。「神の見えざる手」は万能だが、所詮は「神」なので人類の都合なんて考えてはくれない。人類どころか地球そのものだって、不適格と見れば退場させる調整要素のひとつでしかない。だから神の見えざる手ではなく、人間がなんとかしなくてはいけないのだ。

 飾りのない言葉で言えば、われわれは地球の環境を人類に都合良く、できるだけ長くしゃぶり尽くすためにこそエコを考えるのであって、それは正義や美談でやるのではない。全くもって美しい話ではなく、エコとは人類のエゴそのものである。我々はもっともっと悪だくみをしてとことん長く地球環境をしゃぶり尽くす知恵を出さなくてはならないのだ。偉くも何ともない生き残りの手段である。

EVと燃料電池車の課題

[画像]従来のニッケル水素バッテリーの2倍のエネルギー密度を持つリチウムイオン電池だが、一方で扱いがデリケートな側面もあり、無理な構造にすれば発火や爆発の危険もある
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[画像]従来のニッケル水素バッテリーの2倍のエネルギー密度を持つリチウムイオン電池だが、一方で扱いがデリケートな側面もあり、無理な構造にすれば発火や爆発の危険もある
 さて、では内燃機関の未来はどうなるのだろうか? 当然その疑問の裏側にはポスト内燃機関がある。現状で見る限り、それは燃料電池や電気自動車だろう。どちらも電気をエネルギーにしてモーターで駆動するから、対立構造としては「化石燃料vs.電気」ということになる(とりあえず電気がどういう方法で発電されたかは置いておく)。燃料電池も電気自動車も電気でモーターを駆動するという意味において動力は同じだが、電気の得かたが違う。燃料電池は一般に水素の化学反応による発電システムをクルマに搭載して走り、電気自動車はインフラ電力をバッテリーに蓄積して走る。

 しかしバッテリーに致命的な欠点がある。エネルギー密度が低いのだ。エネルギー密度とは同じ重量あたりどれだけのエネルギー量かという意味で、エネルギー密度が低いと長い航続距離を走るためにとんでもない重量のバッテリーが必要になる。そうやって重量の委細構わずバッテリーを大量に積んだのがテスラで、「いや流石にそれは移動体として理性に欠けるでしょう」と、航続距離の方を諦めたのが日産リーフである。例えて言えば、テスラは毎日の通勤に旅行用の大型トランクを使っている状態。リーフは逆に旅行であろうがブリーフケースを使う状態だ。エネルギー密度が低いとこういう問題が起きる。

 それもこれも充電に時間がかかるからで、例えリーフのような容量の小さなバッテリーであっても、充電が短時間でできれば問題は解決するが、現実には充電時間は最低30分は必要で、充電の利便性の面ではとても給油と同程度とは言えない。環境性能の面からも移動途中で行う急速充電はエネルギー効率が悪く、エネルギーを無駄にする。つまり電気自動車をエコに使おうと思えば、自宅で緩速充電して、出発したら継ぎ足し充電せずにその航続距離で使うのが理想形である。しかも充電インフラはこれでも日本が世界で最も進んでいる。世界一でもまだまだ十分とは言えない。色々と道半ばなのだ。「バッテリーが進化して解決できる」という声はずっとあるが、期待に対して歩みは遅い。

 バッテリーではなかなか解決しないこの問題は、水素発電システムを使い、水素を圧縮して搭載すれば解決できる。水素の充填はガソリンにさほど遅れを取らない程度には早い。燃料補充の実用度ではほぼ合格だ。ほぼと言うのは、何しろ高圧ガスなので、補充員の装備はゴーグルに手袋とF1のピットクルーの様にものものしく、ドライバーは車両から離れて枠線の中で待機するように言われる。トヨタMIRAIが搭載する水素の圧力は700気圧(70MPa)であり、法令の定める高圧ガス保安法の基準=1MPaの70倍にも達する危険物である。首都高などのトンネル部に進入禁止となる規制の更に70倍の高圧ガスである。車両の搭載時だけでなく、水素ステーションへの輸送も含めてまだまだ課題が多い。

 さらに水素スタンドの普及は日本ですらまだまだ着手したばかりで、グローバルにみればないに等しいではなく、皆無である。普及までにはまだまだ時間がかかる。

シリーズ型ハイブリッドと内燃機関の可能性

[画像]日産としては三十数年ぶりに車名別ランキングの一位を奪取したのはノートに搭載されたe-POWERユニットのおかげである
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[画像]日産としては三十数年ぶりに車名別ランキングの一位を奪取したのはノートに搭載されたe-POWERユニットのおかげである
 ということで、インフラと補充時間の両面でまだまだ化石燃料の優位は続く。日産ノートe-POWERのブレークでハイブリッドが再注目されている。これはなかなか面白い。e-POWERの特徴は、モーター駆動のメリットを享受しつつ、充電という問題を解決した点。それに加えて加速と減速をほぼアクセルだけで行えるワンペダルドライブの魅力もある。
[画像]エンジンの力とモーターの力を合わせて動力として使うプリウスタイプのハイブリッドと違い、エンジンは常に発電だけを担当し、駆動は100%モーターでおこなうのがe-POWERのシステムだ
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[画像]エンジンの力とモーターの力を合わせて動力として使うプリウスタイプのハイブリッドと違い、エンジンは常に発電だけを担当し、駆動は100%モーターでおこなうのがe-POWERのシステムだ
 e-POWERは「発電専用エンジン」を搭載して電力を確保し、駆動はモーターのみで行う。自動車の動力源としてモーターは大変優れた特徴を持っている。速度ゼロから駆動力を発揮できること、論理的にその時の駆動力が最大になることの2点だ。内燃機関の場合、止まった状態から力を出すことができないが、モーターはそこで大きなトルクを発生できる。停止から動き出す時に明らかに軽快だ。そして、回転数が上がるに連れて徐々にトルクが落ちて行くので、ドライバーが予測しやすい。内燃機関の場合、トルクの出方がリニアにはならない。それがドラマチックであることは認めるが、機械としては欠点であり、その魅力は欠点の美化であることも忘れてはならない。
 さて、最初の話に戻れば、今後20年で最も伸びるマーケットは新興国マーケットだ。仮にどんなに燃料電池が進歩しても、あるいは電気自動車のバッテリーが進歩しても、新興国にそれらのインフラを整備するには時間が足りない。さらに修理や整備の問題もある。技術や環境、設備の整っていない国でも修理や整備が出来ることは極めて重要なのだ。

 しかも初期投資が高額では普及は難しい。新興国マーケットで買われるのは現状70万円前後のクルマであり、今後の経済発展を見込んでも、当面は100万円ラインの攻防になるはずだ。ということに鑑みると、安価なクルマの環境性能を向上させなければ、われわれは地球環境を末永くしゃぶり尽くせなくなる。それは困るのだ。

 そういう意味では、スズキとダイハツが持っているエコカー技術こそ人類全体の希望である。小型車は、いや小型車こそが地球を救うのだ。
[画像]インドでちゃくちゃくと最新ユニット生産の足固めを行ったスズキは、今や数車種をインドで生産して日本へ輸入している。写真はそのうちの一台イグニス
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[画像]インドでちゃくちゃくと最新ユニット生産の足固めを行ったスズキは、今や数車種をインドで生産して日本へ輸入している。写真はそのうちの一台イグニス
 スズキはインドにスズキ100%子会社のエンジン製造会社を立ち上げ、直噴エンジンとマイルドハイブリッドを備えたクルマを現地生産し始めた。これは驚愕すべき話で、従来、インドでは最先端技術を盛り込んだクルマを作ることは不可能だった。それはサプライヤーの技術レベルの問題で、一昔前までは、同じばね定数を持つばねを作ることすら出来なかったのだ。

 すでにスズキはイグニスやバレーノと言ったクルマをインドで生産し、日本へ輸出し始めている。インドはアジア、アフリカ、ヨーロッパのどこへ輸出するにしても地の利があり、かつ現在の所労働コストが安い。労働運動が盛んなのはマイナスだが、今この瞬間の比較で言えば中国よりメリットは多い。

 スズキがインドの星なら、ダイハツはマレーシアを拠点にASEANの星だと言って良い。インドは12億人。ASEANは6.5億人の人口がある。ASEANは域内経済での非課税措置がとられているから、マレーシアを拠点とすることの意義は大きい。
[写真]昨年8月1日に完全子会社化されたダイハツ。写真は2月の完全子会社化の記者会見に臨むトヨタの豊田章男社長とダイハツの三井正則社長
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[写真]昨年8月1日に完全子会社化されたダイハツ。写真は2月の完全子会社化の記者会見に臨むトヨタの豊田章男社長とダイハツの三井正則社長
 この年明けからトヨタはダイハツを中心とした新興国小型車カンパニーを設立し、新興国マーケット戦略を強化する。トヨタはすでに2016年4月から会社を7分割するカンパニー制をスタートさせており、新たに新興国小型車カンパニーが追加されることになる。これによりダイハツは世界一であるトヨタの小型車部門を一手に任されることになる。それは世界ナンバー1小型車メーカーになるということである。すでにトヨタのTNGAに続く、小型車専用のDNGAの開発がアナウンスされており、小型車のコモンアーキテクチャー化が進むことがはっきりしてきた。

 スズキとダイハツは小型車のエコ性能を向こう20年以内に3割向上させなくてはならない。車両とすればおそらくリッターカークラスが中心になることを考えれば、ディーゼルは効率的に難しいし、排ガス面でもディーゼルは優秀とは言えない。となれば、世界を救う自動車用の推進システムの本命はやはりガソリンエンジンと、その効率を安価に補完するマイルドハイブリッドシステムということになるはずだ。
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■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:10月3日(水)13時42分

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