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反対派も下手に批判できなくなった遺伝子組み換え

研究機関の圃場はいまだ厳重警戒中

9月21日(水)6時10分配信 JBpress

茨城県つくば市にある農研機構の敷地内で栽培される遺伝子組換え米(2016年8月23日、筆者撮影)
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茨城県つくば市にある農研機構の敷地内で栽培される遺伝子組換え米(2016年8月23日、筆者撮影)


厳戒態勢の遺伝子組み換え米圃場

 農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)という国立研究開発法人があります。茨城県つくば市に、世界中の種を収集保管するジーンバンクという同法人の施設があり、その近くで遺伝子組み換えのコメが栽培されています(冒頭の写真)。植えられているのは「スギ花粉ポリベプチド含有米」(スギ花粉症緩和米)で、スギ花粉症患者の症状の緩和や、その予備軍の発症予防を目的として開発されています。

 申し込めば誰でも見学できますが、初めてここを訪れた方は、その警備の厳重さに驚かれるでしょう。水田に張られているネットは鳥害防止のためでしょうが、鳥以上に人の侵入を対象とした警備が行われています。

 水田の周囲は金網が張られ、外灯や監視カメラも設置されています。侵入者がいたら、すぐに警備員が飛んできます。これが国立の機関でなかったら、網の上に高圧電流を流したワイヤや鉄条網が張られていてもおかしくないでしょう。

 なぜここまで厳重な警備をするのか。過去に試験栽培されていた遺伝組み換え作物を反対運動団体が刈り取ってしまうという事件があったからです。

 遺伝子組み換え作物が日本で話題になったのは、除草剤をかけても枯れない大豆や、害虫の食害を防ぐため虫が食べると死ぬトウモロコシなどが紹介された1996年あたりからです。その頃から、栽培されている遺伝組み換え作物を無断で刈り取るなど、反対運動団体の運動が活発になりました。今もネットを検索すれば、反遺伝子組み換え作物を謳う団体や個人のwebページはいくらでも見つかります。

 ところが、遺伝子組み換え作物を危険だとする主張はいくらでも見つかりますが、たいていは先に挙げた除草剤耐性や農薬的な機能をもつ遺伝子組み換え作物と、主にそうした作物を開発したモンサント社が批判対象となっており、その他の遺伝子組み換え作物の栽培を危険だとする主張はあまりみかけません。

イメージ偏重の裏に隠された多様なメリット

 そうなる理由は、多くの人にメリットをもたらす遺伝子組み換え作物を下手に批判すれば逆に叩かれる可能性が高いからでしょう。

 遺伝子組み換え作物は、除草剤耐性や農薬的な機能を有する作物だけを開発しているわけではありません。むしろモンサントが作る、農薬が関係するような作物は少数派です。

 遺伝子組み換え作物の目的と事例を挙げてみますと、これまでに

・除草剤耐性作物(ダイズ、トウモロコシなど)・害虫耐性作物(トウモロコシ、ワタ)・ウイルス耐性作物(パパイヤ)などがすでに実用化されているほか、開発中のものとして、

・環境耐性(干ばつ耐性小麦、乾燥耐性トウモロコシ、塩害、寒冷などに耐性を持つ作物)・超多収作物の開発(従来の倍以上収穫できるイネなど)・栄養補填(ゴールデンライスなど特定地域で不足する栄養の付加など)・食べるワクチン(冒頭のスギ花粉症緩和米)・低アレルゲン作物・ファイトレメディエーション(放射性セシウムやカドミウムな土壌中の有害物質を吸収する植物) と、多岐にわたります(参照:「知っておきたいこと~遺伝子組換え作物・食品~」くらしとバイオプラザ21 )。

 また、植物に限らず、微生物や培養細胞に遺伝子組み換え技術を用いることで、抗がん剤・抗ウイルス剤として用いられるインターフェロンや、糖尿病の治療に用いるインシュリンなどの医薬品成分が大量生産されています。最近では、蛍光色のシルクや機能性のあるシルクを作る蚕など新産業の育成に向けた研究開発も行われています。

 遺伝子組み換え技術が用いられ、実用化されて市場に出た商品の多くは、目立った批判を受けていません。要するに、遺伝子組み換え反対論者が声高々に攻撃するのは、一般市民にも使用に不安を持たれ、嫌われる要素のある農薬関連の遺伝子組み換え作物だけなのです。しかし、その嫌われている遺伝子組み換え作物は、実は減農薬や無農薬栽培を進める方向で開発が進んでいることは、あまり知られていないようです。

なぜ減農薬・無農薬につながるのか

 まず、除草剤耐性のある作物をあげてみましょう。モンサント社が「ラウンドアップフリー」と銘打って販売する除草剤耐性のある大豆は、モンサントの看板商品であるグリホサート系除草剤(商品名「ラウンドアップ」)をかけても枯れない特徴を持っています。

 グリホサートという除草剤成分は植物だけが持つアミノ酸生成の代謝経路を塞ぐことでほぼ全ての草を枯らせてしまう特徴を持っています。こうした除草剤を非選択性除草剤と言いますが、こうした全ての植物を枯らす除草剤を作物が植えられている場所で使う場合は、作物にかからないよう注意して散布しなければなりません。人が作物と雑草を識別し、雑草のみに除草剤がかかるように散布するので大規模になればなるほど仕事が大変になります。

 しかしここに、グリホサートを散布しても枯れない大豆ができたらどうなるでしょうか?  作物に除草剤がかからないように注意しながら散布する必要がないので、農薬散布の仕事が単純化できて機械による散布も容易になります。そうなると仕事が楽になるだけでなく、大規模化も容易になり、面積あたり使用する除草剤の量も結果として減るのです。

 もっとも、何年か使っていると農薬耐性のついた害虫同様に除草剤に耐性のある雑草も出てきて一部では逆に散布量が増えたところもあるようですが、そうしたケースは遺伝子組み換えでない大豆を栽培していない場合でも同様ですから、基本的には減農薬だと考えて間違いないでしょう。

 また害虫耐性を持つ遺伝子組み換え作物は、殺虫剤を不要にします。そのため殺虫剤散布の手間とお金が節約できます。さらに従来の農薬散布では難しい害虫駆除も容易にできるようになります。

 たとえばイネ科の作物につくアワノメイガは、幼虫が作物の茎に入って食害して作物を枯らせますが、茎の中に入っているため、幼虫のいるところまで農薬が届きません。しかし植物体のなかに最初から殺虫成分が入っておれば、幼虫は植物体を食害しながら潜り込む前に駆除されてしまうのです。

 この2つの遺伝子組み換え作物の開発の方向は全く違っており、前者は除草剤成分の影響を受けない(もしくは分解する)機能を、後者は農薬成分を保有しています。安全性が確保される理由も違います。

人体への影響は?

 ラウンドアップをかけて枯れない大豆は、ラウンドアップの影響を受けない微生物の遺伝子を導入して作られます。ラウンドアッブが残留しますが、ラウンドアップ自体の人体への毒性はそもそも低いのです。どれくらい低いのかと言うと、食塩より低いのです。

 食塩のLD50(半数致死量:急性毒性の指標、一度に摂取すると半数の人が死ぬ量)は体重1kgあたり3000mg(3g)ですが、ラウンドアップは5000mg(5g)です。我々は作物に残留しているラウンドアッブよりはるかに大量の食塩を毎日摂取しています。わずかなラウンドアップの摂取を恐れるのは、チワワに噛まれるのを恐れて、チワワより大型の犬に噛まれるのを恐れないようなものです。

 アワノメイガなど特定の害虫に殺虫作用を示す害虫抵抗性のトウモロコシは、「Bt」と呼ばれる毒素を保有しています。Btはバチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)という土壌細菌の名前に由来します。害虫抵抗性のトウモロコシはこのBt遺伝子をトウモロコシに導入したものです。

 Btトウモロコシや、農薬として散布したBT剤を昆虫が食べると、Bt毒素は昆虫のアルカリ性消化液で活性化され、腸の組織を破壊します。その結果、昆虫は麻痺、摂食停止、衰弱し、死に至ります。

 このBt毒素は、殺虫スペクトル(殺す虫の種類の範囲)がやたらと狭く、蝶や蛾のような特定の昆虫にしか働きません。消化管の中がアルカリ性でない昆虫や胃液が酸性の哺乳類では毒性を現さないためです。もちろん、人間にも無害です。(参照:「消化管に作用する結晶毒素(BT剤)」農薬工業会)

 ここまで読んで、こんな疑問をもたれる読者がおられるでしょう。

「そうは言っても、これまでなかった得体のしれないモノを食べるのは不安だ」

「農薬を連想させる遺伝子組み換え作物が安全なのは分かった。しかし人間の安全性だけに着目するのは片手落ちではないか?  遺伝子組み換え作物が環境や生態系に悪影響を及ぼすことはないのか」

 次回はこうした疑問にお答えしましょう。
筆者:有坪 民雄

最終更新:9月21日(水)6時10分

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